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Jitoh-08:全集タイ!(あるいは、線上の/メリーGOラウンダー)
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「……」
穏やかな週末のレクリエーションを和やかに楽しもうというような雰囲気は、この場にはもはや無かった。
あるのは当事者にもよくは分からねえ、決闘の雰囲気だけだった。促されるまま、スローイングボックスのひとつに付く。縦長長方形の場に面して左側から一、二と六までの長方形の区画……どこでも好きな所に入れと言われ、中央寄りの方が何となくどの角度にも対応できそうで良いんじゃと思われたので、俺は左から三番目の所に立って場を見渡してみる。実際に目にしてみると、V字のジャックボールラインはこちらに向かってくぼんでいるからか、その向こうのセイフティゾーン(と呼ぶのかは知らんが)に的球を転がすのはそう難しくはなさそうだ。逆にそれより手前側だと本当に目の前って感じで、確かにそれだと勝負にならなさそうだとも実感できた。さて。
<的球の投擲は『赤』のキサマだ。その後の第一投は赤、青、緑の順でまず全員が投擲するものとする。それからは的球に『最も近くない』球の競技者が投擲をしていくというかたちになる。問題無いか?>
まあ「三つ巴」がイレギュラーであろうから、そのようなルールに切り替えたんだろう。それについては妥当と思われたし、その事で野郎に優位があるとも思えなかったので承諾した。それよりも「赤」……俺がジャックボールを投げるってわけか。一発勝負でそれを譲られたってことはやはり舐められてはいるのだろう。もしくは余裕を見せつけてやろうっていう魂胆かも知れねえが。
ちなみに野郎は俺の右隣の「四」についていてそれは定跡通りなのかも知れないと同じく中央寄りを選んだ俺は少し安心したものの、相方に至ってはは右端のボックス「六」を何故か選択しておったわけで何か策があるのかもだが、そんなに離れたら俺との意思疎通が疎遠になるだろうが阿保かJJ……いや、もしかしたら本当に把握してないのか? エビノ氏がカラんでからはそれまでも希薄だった俺との相棒感がさらに霧散していくようであり。ひょっとしたらしなくても俺の事も「敵」と見なしていない保証はどこにもないな本当にこいつはェ……
まあ端から初体験のこの競技で、初対面の時からあまり関係性の変わっていない俺らが共同戦線なんか張れるなんざ思ってねえ。「勝つための方策」を一応先ほど共有はしたものの、それにしたって使える「場面」が来るかどうかも分からねえ限定的なものであるし、それがうまくハマる可能性も薄いだろう。であればそれまでは各々が最善を目指した方がいいのかも知れねえ。
<じゃあ始めてくれ。審判はエビノ氏が務める>
野郎の妙に落ち着いた感じが癪であるが、それよりも未だ不本意顔を保ったままながら、場内に天使が車椅子を滑らかに操りつつ入ってくれた事の方が大きい。自然と向き合うかたちになって勝手に少し意識してしまうものの、視線を合わせてみたら慌てて外された。だがそこがいい……
ままならない思考のまま……まあそれは数日前のジトーの俺への第一声から今この場に至るまで脈々と続いているのかもだが、それほどの盛り上がりも無く、すっという感じでこの「試合」は始まったのであった。
「3」のスローイングボックスの内側に立ち、掌の上で白い球の感覚感触を確かめている。握った感じ硬球より一回り大きいくらいで意外と持ち重りはあるものの、五角形の合皮が縫い合わされたそれはほどよく柔らかで手にはしっかり馴染む。が、これを転がした時にどのような挙動を示すかは未知数だ。無理にでも練習させろとか訴えておいた方が良かったか……
いや集中だ。一投一投に。事前練習で薄まっていない分、今の俺にはここいちばんのエネルギーが溜まっているはずと、そう思おう。それに初心者幸運も重ね乗っけて、俺は今日、全てを掴む……ッ!!
やっぱり自分のメンタルテンションにままならなさを抱いたままだったが、各々が最善、そう決めたら決めたでそう行くしかない。差し当たっては的球の設置場所だ。正直どこに置くことが自分にとって有利かも分かっていないこの状況……近くにしたら野郎に精密に狙われるかも、かといって遠くだと俺らがまともに狙えないかも……
分からん。であれば間を取って真ん中で様子を見るか。場の中央付近には十字の形をしたちょうどいい目印もある事だし。うっすら齧った知識によるとその十字は例えば的球が場の外に出てしまった場合に再設置される場所とのことだ。そう言や「的も動かせる」のが特徴だった。であれば初期位置はそれほど気にすることは無いのか。それより何より何度も言うが練習する間も与えられなかったわけで、これが本当の初投擲だ。どんくらい転がるのか、それを体感しておいた方がいいはずだぜ、ミディアムな力で。
「……」
投擲フォームもよく分からなかったので、腰を直角くらいにまで曲げ、同じく少し曲げた膝に左掌を突いて姿勢を固定してみる。ボールを持った右手は肩から重力に任せ力を入れずに垂らす。ボールの描く前後の振り子軌道を確認、とりあえずはボウリングのように転がしてみるぜ。軌道上に右脚が被っていたので、少し窮屈で攣りそうだったが踵を上げ左ひざ横に右膝を添えるようにして固定する。
気持ち弱め、でいく。的球が近すぎな所に配置されたとしても、その後手球で「押し弾く」ことは可能なはずだ。だがその逆は無理。ならば修正が効くように……
「……!!」
「十字」のちょい手前で止まるよう、柔らかめに投擲だッ……!!
が、気合いを込めた第一投は、
「!!」
予想以上にそれはそれは滑らかに転がり続け、十字を大きくオーバーした結構な離れの場所にてようやくその挙動を止めたのだが。
早くも不利に落とし込まれたような嫌な空気が、俺の肺奥に無造作に送り込まれてくるようであり。
……やべえ、のかな。いや勝負はこれからだぜ……ッ!!
穏やかな週末のレクリエーションを和やかに楽しもうというような雰囲気は、この場にはもはや無かった。
あるのは当事者にもよくは分からねえ、決闘の雰囲気だけだった。促されるまま、スローイングボックスのひとつに付く。縦長長方形の場に面して左側から一、二と六までの長方形の区画……どこでも好きな所に入れと言われ、中央寄りの方が何となくどの角度にも対応できそうで良いんじゃと思われたので、俺は左から三番目の所に立って場を見渡してみる。実際に目にしてみると、V字のジャックボールラインはこちらに向かってくぼんでいるからか、その向こうのセイフティゾーン(と呼ぶのかは知らんが)に的球を転がすのはそう難しくはなさそうだ。逆にそれより手前側だと本当に目の前って感じで、確かにそれだと勝負にならなさそうだとも実感できた。さて。
<的球の投擲は『赤』のキサマだ。その後の第一投は赤、青、緑の順でまず全員が投擲するものとする。それからは的球に『最も近くない』球の競技者が投擲をしていくというかたちになる。問題無いか?>
まあ「三つ巴」がイレギュラーであろうから、そのようなルールに切り替えたんだろう。それについては妥当と思われたし、その事で野郎に優位があるとも思えなかったので承諾した。それよりも「赤」……俺がジャックボールを投げるってわけか。一発勝負でそれを譲られたってことはやはり舐められてはいるのだろう。もしくは余裕を見せつけてやろうっていう魂胆かも知れねえが。
ちなみに野郎は俺の右隣の「四」についていてそれは定跡通りなのかも知れないと同じく中央寄りを選んだ俺は少し安心したものの、相方に至ってはは右端のボックス「六」を何故か選択しておったわけで何か策があるのかもだが、そんなに離れたら俺との意思疎通が疎遠になるだろうが阿保かJJ……いや、もしかしたら本当に把握してないのか? エビノ氏がカラんでからはそれまでも希薄だった俺との相棒感がさらに霧散していくようであり。ひょっとしたらしなくても俺の事も「敵」と見なしていない保証はどこにもないな本当にこいつはェ……
まあ端から初体験のこの競技で、初対面の時からあまり関係性の変わっていない俺らが共同戦線なんか張れるなんざ思ってねえ。「勝つための方策」を一応先ほど共有はしたものの、それにしたって使える「場面」が来るかどうかも分からねえ限定的なものであるし、それがうまくハマる可能性も薄いだろう。であればそれまでは各々が最善を目指した方がいいのかも知れねえ。
<じゃあ始めてくれ。審判はエビノ氏が務める>
野郎の妙に落ち着いた感じが癪であるが、それよりも未だ不本意顔を保ったままながら、場内に天使が車椅子を滑らかに操りつつ入ってくれた事の方が大きい。自然と向き合うかたちになって勝手に少し意識してしまうものの、視線を合わせてみたら慌てて外された。だがそこがいい……
ままならない思考のまま……まあそれは数日前のジトーの俺への第一声から今この場に至るまで脈々と続いているのかもだが、それほどの盛り上がりも無く、すっという感じでこの「試合」は始まったのであった。
「3」のスローイングボックスの内側に立ち、掌の上で白い球の感覚感触を確かめている。握った感じ硬球より一回り大きいくらいで意外と持ち重りはあるものの、五角形の合皮が縫い合わされたそれはほどよく柔らかで手にはしっかり馴染む。が、これを転がした時にどのような挙動を示すかは未知数だ。無理にでも練習させろとか訴えておいた方が良かったか……
いや集中だ。一投一投に。事前練習で薄まっていない分、今の俺にはここいちばんのエネルギーが溜まっているはずと、そう思おう。それに初心者幸運も重ね乗っけて、俺は今日、全てを掴む……ッ!!
やっぱり自分のメンタルテンションにままならなさを抱いたままだったが、各々が最善、そう決めたら決めたでそう行くしかない。差し当たっては的球の設置場所だ。正直どこに置くことが自分にとって有利かも分かっていないこの状況……近くにしたら野郎に精密に狙われるかも、かといって遠くだと俺らがまともに狙えないかも……
分からん。であれば間を取って真ん中で様子を見るか。場の中央付近には十字の形をしたちょうどいい目印もある事だし。うっすら齧った知識によるとその十字は例えば的球が場の外に出てしまった場合に再設置される場所とのことだ。そう言や「的も動かせる」のが特徴だった。であれば初期位置はそれほど気にすることは無いのか。それより何より何度も言うが練習する間も与えられなかったわけで、これが本当の初投擲だ。どんくらい転がるのか、それを体感しておいた方がいいはずだぜ、ミディアムな力で。
「……」
投擲フォームもよく分からなかったので、腰を直角くらいにまで曲げ、同じく少し曲げた膝に左掌を突いて姿勢を固定してみる。ボールを持った右手は肩から重力に任せ力を入れずに垂らす。ボールの描く前後の振り子軌道を確認、とりあえずはボウリングのように転がしてみるぜ。軌道上に右脚が被っていたので、少し窮屈で攣りそうだったが踵を上げ左ひざ横に右膝を添えるようにして固定する。
気持ち弱め、でいく。的球が近すぎな所に配置されたとしても、その後手球で「押し弾く」ことは可能なはずだ。だがその逆は無理。ならば修正が効くように……
「……!!」
「十字」のちょい手前で止まるよう、柔らかめに投擲だッ……!!
が、気合いを込めた第一投は、
「!!」
予想以上にそれはそれは滑らかに転がり続け、十字を大きくオーバーした結構な離れの場所にてようやくその挙動を止めたのだが。
早くも不利に落とし込まれたような嫌な空気が、俺の肺奥に無造作に送り込まれてくるようであり。
……やべえ、のかな。いや勝負はこれからだぜ……ッ!!
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