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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

310【予定は未定編10】試験があったら八十点

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 【パラディン大佐隊・第一班第一号待機室】

フィリップス
「リモートで作戦説明か。確かに、時間の節約にはなるな」

ハワード
「しかし、味気ない……」

エリゴール
「作戦説明に娯楽性を求めるな」

フィリップス
「でも、今回は作戦説明っていうより、明日の演習説明だったよな? うちと〝十一班組〟を同数にするんだろうなとは思ってたけど、まさかこんなふうにするとは」

ハワード
「そうだな。うちの組が、うち・二班・五班・十班・八班。〝十一班組〟が、十一班・六班・七班・九班・十二班。……どうして十班をうちに強制異動させたんだ? 元四班長」

フィリップス
「そうそう。あと、何で五班と〝無旋回〟の間に十班なのか」

エリゴール
「今回は〝十一班組〟の後ろにアルスター大佐隊がいるからな。臨機応変に動けそうな班だけを残した」

フィリップス
「ということは、元四班長の中で十班は臨機応変に動けない班なんだね……」

ハワード
「あのタイムトライアルの結果を踏まえると、反論はしにくいな……」

フィリップス
「じゃあ、五班と〝無旋回〟の間に十班を入れたのも……?」

エリゴール
「ああ。〝無旋回〟のほうが臨機応変に動ける」

フィリップス
「断言!」

ハワード
「でも、言われてみれば、あの合同演習で〝無旋回〟は最後まで生き残ってたな」

フィリップス
「あれは四班がボケてたからだと思うけど、確かに、一度も砲撃しないであそこまで逃げきったのはすごいな」

エリゴール
「まあ、あくまで仮決定だ。明日の演習の結果しだいで、並び替えや組み替えもする」

フィリップス
「『連合』役は、三班と四班がするんだよね?」

エリゴール
「ああ。できればコールタン大佐隊にさせたかったがな。さすがに明日は無理だろ」

フィリップス
「それは無理だね。というか、当分無理だと思うよ」

ハワード
「この前は、三班と十二班が『連合』役をしたんだったな。……三班は二度目か」

フィリップス
「でも、今回は元四班長が副班長艦に乗る予定だよ……」

ハワード
「それだ。どうして班長艦ではなく副班長艦なんだ?」

エリゴール
「班長艦には班長代行がいるだろ。俺がいたら邪魔になる」

フィリップス
「副班長艦ならいいの?」

エリゴール
「副班長艦の副長とはまだ会ったことがないからな。副班長に適してるかどうか、現場で見てくる」

フィリップス
「こっわ!」

ハワード
「しかし、元四班長に見てもらえるなら安心だ!」

フィリップス
「副班長艦の副長は、そんな理由で元四班長が来るとは思ってないだろうな……」

エリゴール
「あと、あそこに班長艦の操縦士を異動させたから圧をかけてくる」

フィリップス
「圧はかけなくてもいいんじゃないかな……」

ハワード
「そういやこの演習、被弾しても退場アウトにはならないんだったな」

フィリップス
「そうだった! それで十二班はコールタン大佐隊と軍艦交換させられる羽目に!」

エリゴール
「十二班は砲撃はしなかったからな。……うちは撃つ」

ハワード・フィリップス
「撃つ!?」

エリゴール
「『連合』なら撃つだろ」

フィリップス
「相変わらず、真顔で言うな」

ハワード
「まあ、撃たれるとしたら〝十一班組〟だな。……まさか、十二班狙いか?」

エリゴール
「班では狙わない。突破できそうなところを狙う。……〝一班組〟も例外じゃないぞ?」

ハワード・フィリップス
「ひい!」

 ***

フィリップス
「しかし、元四班長。ドレイク大佐のセリフ、よくあれだけ覚えてたな」

エリゴール
「ああ、あれか。実は録音していた」

フィリップス
「録音!? 許可取ったのか!?」

エリゴール
「もちろん無許可だ」

フィリップス
「堂々と言うなよ。嫌いな言葉は〝正々堂々〟のくせに」

エリゴール
「大佐の執務室を出てから車の中で、何度も何度も繰り返し聞いた。あと少しで全部暗記できそうだ」

フィリップス
「暗記してどうするんだ? 試験ないだろ?」

エリゴール
「もしあったら、百点満点で八十点くらいはとれそうな気がする」

フィリップス
「それ何試験!? ドレイクマニア試験!?」

ハワード
「録音したのは何のためだ? 〝保険〟か?」

エリゴール
「いや。単なる〝メモ〟のつもりだった。でも、自分の記憶力に自信が持てなかったという意味では〝保険〟と言えるかもな」

ハワード
「……ドレイク大佐はどんな男だった?」

エリゴール
「そうだな。一言で言うと、悪魔のような男だった」

ハワード・フィリップス
「悪魔!?」

エリゴール
「一見、愛想のいい中年男だ。ヴァラクを〝生き別れの弟〟と呼んでるそうで、確かに似ているところもある。だが、ヴァラクよりもっと恐ろしい。少し話をしただけで、気づいたときにはもう取りこまれてる」

フィリップス
「ひいっ! そんなに恐ろしい人だったのかっ!? 元四班長の話を聞いて、すっかりいい人だと思ってたのにっ!」

エリゴール
「まあ、〝いい悪魔〟ではあるな。自分の目的のために必要だったら助けてくれる。俺も言葉でかなり救ってもらった」

ハワード
「自分の目的……」

エリゴール
「今のところ、それは〝この艦隊を敗北させないこと〟らしい。そのへんの人間よりよっぽど崇高だろ」

フィリップス
「それはまあ、そうだけど……ああ、じゃあ、元四班長がすっきりした顔で帰ってきたのって、そのせいだったんだな」

エリゴール
「え?」

フィリップス
「いや、ここを出る前は動揺しまくってたけど、帰ってきたときにはすっかり落ち着いてたからさ。何話してきたんだか知らないけど、まあ、とりあえずはよかったなと」

エリゴール
「……そんなに顔に出てたか?」

フィリップス
「出てた。思いっきり出てた」

ハワード
「ああ。あんなに動揺してるあんたを見たのは、あれが初めてだった」

エリゴール
「そうか。……なら、俺は〝悪魔〟じゃないな。よかった」

フィリップス
「いや、元四班長も充分〝悪魔〟だと思うけど。……なあ。その録音、いま持ってるのか?」

エリゴール
「ああ。でも、聞かせないぞ」

フィリップス
「何でだよ!」

エリゴール
「機密情報だ」

フィリップス
「機密情報!?」

エリゴール
「パラディン大佐にも録音してたことは話してない。この先、報告する気もない」

フィリップス
「くそ! ケチ!」

ハワード
「まあ、そう言うな。……聞かれたくないんだろ」

フィリップス
「……ああ、そうか。よっぽどすごいこと言われたんだな。でも、あんたが気にしてた元部下のことは何も言われなかっただろ?」

エリゴール
「あ、ああ……何でわかった?」

フィリップス
「わかったっていうか、痛みのわかる〝いい悪魔〟が、人の傷口えぐったりはしないだろ」

エリゴール
「…………」

フィリップス
「あー、でも、ドレイク大佐の声は聞いてみたかったな。これから先、聞ける機会あるかな」

ハワード
「たぶん、あるだろ」

フィリップス
「そうかあ?」

エリゴール
「……参考までに。こんな声だ」

 エリゴール、上着のポケットから録音装置を取り出して操作する。

ドレイク(録音)
『パラディン大佐のところへは次の出撃の後にまた遊びにいくよ。大佐に伝えといて。俺、うっすいコーヒーしか飲めませんって』

フィリップス
「……いい声だ」

ハワード
「でも、内容は軽いな」

エリゴール
「当たり障りのないところを再生してみた。この声で的確に人の急所を刺してくる」

フィリップス
「え!? えぐらないで刺す!?」

エリゴール
「でも、致命傷にはならないように刺す。……いつでもそうかはわからないけどな」

フィリップス
「……この〝うっすい〟って、どれくらいの薄さだろ……」

ハワード
「さあ……〝うっすい〟だから相当な薄さだろう。コーヒーだとわからないくらいか?」

エリゴール
「そこが気になるのか。このお気楽〝親子〟」

 ***

エリゴール
「ところで、〝無旋回〟のあれはもう見たのか?」

フィリップス
「いや、見ようとしたら元四班長が飛び出していっちゃったから、そのまま……」

エリゴール
「見ろよ。そして、感想と回答を早急に〝無旋回〟に伝えろよ」

フィリップス
「回答?」

エリゴール
「そもそも、第二の撮影班にするかどうか決めるために、〝無旋回〟に撮影させたんじゃなかったのか?」

フィリップス
「あ、そういやそうだった」

エリゴール
「フィリップス副長……俺より薄情だな」

フィリップス
「うわ! 元四班長に薄情と言われた! ショック!」

ハワード
「ショックも何も、言われて当然だろ……」
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