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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

307【予定は未定編07】実質一択

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【パラディン大佐隊・ミーティング室】

 一班から十二班まで、班長は全員そろっている。今回はレラージュもいる。
 エリゴールは、フィリップスとザボエスの間にいて、座らずに立っている。
 三班の席には、班長代行(非公式)として副班長・クラインが座っている。

フィリップス
「そうか、その手があったか! さすが〝大佐〟にまで登りつめた〝大悪魔〟! やっぱり俺たちは〝凡人〟だった!」

一班長・ハワード
「でも、左翼の前衛と後衛を入れ替えるなんて、ドレイク大佐が殿下に頼まなきゃ、絶対不可能だろ!」

フィリップス
「くそう! やっぱりドレイク大佐頼みか!」

一班長・ハワード
「〝凡人〟は他力本願!」

十二班長・ザボエス
「……なあ。それ、本当にヴァラクが考えたのか?」

エリゴール
「間違いない。ドレイク大佐はそんなつまらない嘘はつかない。第一、そんな嘘をついて、あの人にどんなメリットがある?」

十二班長・ザボエス
「それはそうだが……」

十一班長・ロノウェ
「しかし、何で今回のチョコはいつもの〝飴ちゃん〟みたいに、おまえが投げ渡さないんだ? 缶回して取ってくより、そっちのほうがずっと早いだろ」

エリゴール
「俺が触れたら価値がなくなる」

フィリップス
「ええっ!? じゃあ、パラディン大佐の〝飴ちゃん〟に価値はなかったのっ!?」

一班長・ハワード
「元四班長! それほどドレイク大佐を尊敬してるのか!」

エリゴール
「だが、残念ながらその中には、コールタン大佐の副官に触れられたチョコも交ざっている。……本当に残念だ」

二班長・キャンベル
「本気で残念がってる!?」

フィリップス
「元四班長、ちょっとおかしくない!?」

三班長代行・クライン
(元四班長……?)

七班長・カットナー
「コールタン大佐の副官? ……どんな副官ですか?」

エリゴール
「軍服より高校の制服が似合いそうな副官」

九班長・ビショップ
「高校の制服!? ど、どんな!?」

エリゴール
「……ブレザーだな。上着を脱いだら少し大きめの白いセーター。袖が長くて指先しか見えない」

カットナー・ビショップ
「萌ーえーッ!」

七班長・カットナー
「むしろ、その副官が触ったチョコのほうが欲しい!」

九班長・ビショップ
「くそー、指紋鑑定できればなー!」

フィリップス
「〝凡人〟で〝変態〟! ますます救いがない!」

十一班長・ロノウェ
「エリゴール……おまえも悪乗りするなよ……」

エリゴール
「俺は俺の思ったことを率直に述べたまでだ」

十一班長・ロノウェ
「嘘だろ。おまえ、絶対面白がってるだろ」

十二班長・ザボエス
「真顔で言うから、あいつら騙されるんだよな。……でも、本当か?」

エリゴール
「本当だ。溶けかけのバニラのソフトクリームを舌先で舐めてたら似合うだろう」

十二班長・ザボエス
「くそう! 悔しいが萌えだ! 特に舌先!」

 そのとき、エリゴールの手元にクッキー缶が戻ってくる。

エリゴール
「……ずいぶん余ってるな。一人二個ずつ取れと言ったはずだが」

七班長・カットナー
「俺たちは一個で充分です! 残りは全部レラージュ副長に!」

エリゴール
「何?」

九班長・ビショップ
「徳用チョコ好きなんでしょ? どうぞ遠慮なく召し上がってください!」

レラージュ
「……本当にいいんでしょうか?」

フィリップス
「うん。変態どもがああ言ってるから、遠慮なく食べてあげて。そのチョコたちもあんな変態どもでなく、君に食べられたいと思ってると思うよ」

レラージュ
「そうですか。……元四班長は?」

エリゴール
「俺は自分の分はもう取った。……確実にドレイク大佐が触れたのをな!」

フィリップス
「ひいいっ! 元四班長が〝砲撃隊〟化してるっ!」

一班長・ハワード
「でも、よく考えてみたら、元四班長は一応うちの班員だから、〝砲撃隊〟のほうの一員なんだよな」

四班長・ワンドレイ
「そういやそうだった。それ以前に、大佐代行だと」

五班長・ロング
「もうとっくの昔に代行超えてるけどな」

レラージュ
「それでは遠慮なくいただきます。…………おいしいです」

七班長・カットナー
「やっぱり、レラージュ副長がチョコ食べてるの見てるほうが萌えだぜ!」

十班長・ヒールド
「え……溶けかけのバニラのソフトクリームもいい……」

フィリップス
「元四班長! 本題を! 早く本題を!」

エリゴール
「え? ああ……どうする?」

一班長・ハワード
「元四班長! 省略しすぎだ!」

エリゴール
「概略はさっき話しただろ。今度の出撃では、うちは前衛。その次も前衛かは未定。後衛のアルスター大佐隊は、もしかしたら〝元アルスター大佐隊〟になってるかもしれないが、そのときには、あそこの一班長を隊長代行に任命。いずれにしろ、うちの選択は二つに一つ。A・前衛にいたアルスター大佐隊と同じことをする。B・前回の出撃のときと同じことをする。どちらか選べ」

四班長・ワンドレイ
「選べって……選んでいいのか?」

エリゴール
「パラディン大佐は〝元ウェーバー大佐隊〟の選択に従うと言った。〝元マクスウェル大佐隊〟の俺たちも同じだ。ドレイク大佐は、あんたたちに〝復讐〟の機会を与えるためだけに、左翼の入替を殿下に頼んでくれた。……アルスター大佐隊に『連合』を〝押し戻す〟ことはできないが、〝押しやる〟ことはできる」

六班長・ラムレイ
「うーん……できたら、やっぱり〝押し戻〟したかったけどなあ……」

八班長・ブロック
「〝『連合』の撤退命令待ち〟っていう、他力本願の極みしか思いつけなかったもんなあ……実は今でも、他に方法があるんじゃないかと思ってるんだけど……やっぱないか」

エリゴール
「一班長。あんたは?」

一班長・ハワード
「そうだな。うちがまだ〝元ウェーバー大佐隊〟だったら、Aを選択してたかもしれないが……今はもう〝砲撃隊〟だからな」

エリゴール
「〝復讐〟したくはないのか?」

一班長・ハワード
「それはしたいが、アルスター大佐と同じことをしない〝復讐〟の仕方だってあるだろう」

エリゴール
「確かにな。じゃあ、多数決とるか?」

一班長・ハワード
「必要ない。……元四班長。殿下に左翼の入替を頼んだのはドレイク大佐でも、そのドレイク大佐にそうしてくれるように言ったのはあんただろう?」

エリゴール
「…………」

一班長・ハワード
「ありがとう。本当にありがとう。あんたや〝護衛隊〟は、パラディン大佐を守るためにここに来たんだろうが、俺たちは心からあんたたちに感謝してる。あんたたちが来てくれたから、俺たちは今こうして馬鹿もやってられる。ちょっと……いや、かなり馬鹿になりすぎた気もするが……」

エリゴール・ロノウェ・ザボエス・レラージュ
「…………」

一班長・ハワード
「正直言って、ウェーバーよりもアルスター大佐のほうが、俺にはずっときつかった。最初はまともな大佐だと思ってた分、〝第二分隊〟にされた後の失望感もでかくてな。ダーナ大佐隊に残りたいと言った班長たちは賢かったとしみじみ思ったよ。アルスター大佐が指揮官になる前に、ドレイク大佐隊に転属させてもらったところもな」

ハワード以外
「…………」

一班長・ハワード
「パラディン大佐が指揮官になって、俺たちはようやく救われた。でも、落ち着いてからふと思った。アルスター大佐隊員も、俺たちと同じことを考えてるんじゃないかと。この艦隊の中で、あいつらだけが配置も人も変わらなかったのに、動きは悪くなっていく一方だ」

エリゴール
「……今日、ドレイク大佐が言っていた。〝部下に罪はない。部下を生かすも殺すも指揮官しだいだ〟」

一班長・ハワード
「なるほどな。そういう指揮官だから、あの隊はあれほど強いんだな。……ドレイク大佐も指揮官に苦しめられたことがあるのかな」

エリゴール
「きっとな。だから、部下の痛みがわかるんだろう。アルスター大佐も知らないはずはないと思うが、もうその痛みを忘れてしまったのか、それとも、あえてその痛みを自分の部下にも味わわせているのか。軍隊ではそれが当然だという信念を持って」

一班長・ハワード
「信念か。それなら、容易には変えられないな。ドレイク大佐の〝部下を生かすも殺すも指揮官しだい〟っていうのも信念だろうしな」

エリゴール
「だが、成果を伴わない信念は信念じゃない。……盲信だ」

一班長・ハワード
「そうだな。ここでは結果がすべてだ。俺たちの仕事は〝この艦隊が敗北しないために〟戦うこと。それなら選択肢は一つだけだ。そうだろ? 〝砲撃隊〟」

〝砲撃隊〟の班長たちとフィリップス
「うぃーす」

一班長・ハワード
「というわけで、元四班長。俺たちはBを選択する。アルスター大佐がいるかどうかはわからないが、左翼の前衛はこうするんだっていうのを、奴らに見せつけてやりたい」

エリゴール
「本当に、それでいいのか?」

一班長・ハワード
「Aを選んで、あんたたちに失望されたくないよ。今までさんざん失望させられてきたからな」

 エリゴール、珍しく楽しげに笑う。

エリゴール
「今のあんたたちなら、絶対Bを選ぶと思ってたよ」

フィリップス
「だったら、最初から訊くなよ」

エリゴール
「まあ一応な。大佐に訊けって言われたから。そういや〝ドレイク大佐の心遣いをチョコと共によく噛みしめてもらってくれ〟って言ってたぞ。〝たとえ徳用チョコでもうまさは格別だろう〟」

レラージュ
「味は他の徳用チョコと特に変わりません」

十一班長・ロノウェ
「レラージュ、水差すなよ。つーか、もうそんなに食ったのか。食いすぎだろ」

一班長・ハワード
「ドレイク大佐か……今さらだが、どうしてあの人がここまでうちに気を遣ってくれるのかね? 自分の隊にうちの元隊員が六人もいるからか?」

エリゴール
「……自分なりの〝贖罪〟だと言っていた」

フィリップス
「ドレイク大佐が? 何で?」

エリゴール
「ウェーバーの命令で、あんたたちの隊に戦死者が出たことを気に病んでいた。〝止めようと思えば止められた〟と」

フィリップス
「あれは全然あの人のせいじゃないだろ。無人艦動かしてるのは〈フラガラック〉だ」

エリゴール
「〝殿下がああするだろうとわかっていながら、ウェーバーに何も言わなかった〟。……そう言っていた。止めていれば〝殿下に無駄な血を流させずに済んだ〟」

一班長・ハワード
「……それでも、あれはあの人のせいじゃない」

エリゴール
「俺もそうは言ったが、あの人はそう思いこんでいるらしい。アルスター大佐を早急に〝退場〟させようとしたのも、第二のウェーバーになることを恐れてのようだ。〝ウェーバー大佐隊のような悲劇はもう二度と繰り返したくないんだよ〟と言っていた」

四班長・ワンドレイ
「ああ……そりゃあ、あのスミスが丸くなるわけだ……」

五班長・ロング
「いるとこにはいるんだな、そんな指揮官が」

四班長・ワンドレイ
「いや、別にパラディン大佐に不満があるわけじゃないけどな。美形だし」

レラージュ
「……ちょっとおいしく感じてきました」

十一班長・ロノウェ
「現金だな、おい」

エリゴール
「だから、ドレイク大佐も絶対失望させるわけにはいかない。一班長、ドレイク大佐も言ってたぞ。――『君たちのやるべきことは一つ。〝この艦隊が敗北しないために〟全力を尽くせ』」

一班長・ハワード
「そう言われてたんなら、最初からそう言っといてくれよ」

エリゴール
「それじゃ意味ないだろ。俺はあくまであんたたちの意志で選択してもらいたかったんだ。……一班長。アルスター大佐は出撃してくると思うか?」

一班長・ハワード
「うちとしてはぜひ出撃してもらいたいがね。俺には何とも言えないな。あの人はもう、まだ一五〇隻だけ指揮してた頃のあの人じゃなくなった」

エリゴール
「〝大なり小なり人は変わる〟か……」

一班長・ハワード
「いつでもいいほうに変われたらいいんだがな」

エリゴール
「そうだな。本当に。……というわけで、明日、また演習をする」

エリゴール以外
「やっぱり!」

一班長・ハワード
「前衛専門のか?」

エリゴール
「いや。俺たちはやり方を変えない」

フィリップス
「ええ? アルスター大佐隊は後衛になるんだろ? いいのか?」

エリゴール
「いいんだ。〝十一班組〟より前に出てきたら、今度こそ〝栄転〟になる」

フィリップス
「狙ってるな、それ」

エリゴール
「三班と四班は〝留守番〟だが、演習には参加しろ」

三班長代行・クライン
「うちはどんな形で参加を?」

エリゴール
「とりあえず、『連合』役」

クライン・ワンドレイ
「ひい!」

十二班長・ザボエス
「三班、今度は最後まで生き残れよ」

エリゴール
「あと、演習中は、俺は三班の副班長艦に乗る」

三班長代行・クライン
「元四班長……!」

十二班長・ザボエス
「意地でも最後まで生き残るな、三班」

十一班長・ロノウェ
「それじゃ俺らがヤベえだろ」
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