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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

298【挨拶回りの前後編50】メモリカード配布

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【パラディン大佐隊・ミーティング室】

エリゴール
「これで俺の用事は全部済んだが……まだ何かあるか?」

一班長・ハワード
「今日のタイムトライアルの内容には触れないんだな……」

エリゴール
「終わった直後に大佐が一斉通信で言ったのに、まだ四班長の傷口を抉りたいのか? 俺よりサドだな、一班長」

ハワード・ワンドレイ
「うがあ!」

フィリップス
「あ! タイムトライアルには関係ないけど大事なことが!」

エリゴール
「何だ?」

フィリップス
「〝レフト〟と六班に、〝横泳ぎ〟のメモリカードを配りたいです!」

エリゴール
「ああ、そういやそんなこと言ってたっけな。なら、フィリップス副長がメモリカードを滑らせて配れ」

フィリップス
「よっしゃ!」

エリゴールとフィリップ以外
(やっぱり、滑らせるのか……)

六班長・ラムレイ
「あ! 元四……臨時三班長! 俺にも配りたいものが!」

エリゴール
「何だ? 今日のタイムトライアルの映像なら必要ないぞ?」

六班長・ラムレイ
「いえ、そうではなく! せ……十一班に頼まれていた映像です!」

エリゴール
「ああ……何を頼まれていたかはすぐに思い出せないが、それならフィリップス副長が配り終えたら、レラージュにメモリカード滑らせて渡してやれ」

六班長・ラムレイ
「え……〝先生〟に?」

エリゴール
「頼んだのはレラージュだろ? だったら本人に渡してやれ」

六班長・ラムレイ
「は、はい……?」

十一班長・ロノウェ
「……レラージュ。代理で俺が取るか?」

レラージュ
「六班長だったら、正確に滑らせてくれると思うので結構です」

六班長・ラムレイ
「うっ! いまだかつてないプレッシャーが……!」

七班長・カットナー
「ラムレイを信用してるのか? それとも圧をかけてるだけなのか?」

八班長・ブロック
「どちらともつかないな。レラージュ副長だけに」

フィリップス
「じゃあ、〝レフト〟にメモリカード配るぞ! まずは二班!」

二班長・キャンベル
「は、はい!」

フィリップス
「もっと〝移動しながら縦〟練習しろよ! とりゃ!」

 フィリップス、キャンベルに向かってメモリカードを滑らせる。
 方向も力加減も完璧。

二班長・キャンベル
「ありがとうございます! もっと練習します!」

フィリップス
「ぜひそうしてくれ! 次! 五班!」

五班長・ロング
「おう。……できれば、〝飴ちゃん〟は無利子にしてくれ」

フィリップス
「それは確約できないな! とりゃ!」

 フィリップス、ロングに向かってメモリカードを滑らせる。
 ロングは何なく受け止めるが、表情は冴えない。

五班長・ロング
「まさか、トイチとか」

四班長・ワンドレイ
「いくら何でも、それは悪質すぎるだろ」

五班長・ロング
「今のフィリップスだったら、平気でやりそうで……」

四班長・ワンドレイ
「そのときにはハワード……にも止められないか」

五班長・ロング
「冗談ではなく、フィリップスに介護されてるからな」

フィリップス
「次は……順番的に六班か。……本当にいるの?」

六班長・ラムレイ
「はい! ものすごくいります!」

フィリップス
「そうか。何の役に立つのかわかんないけど、持ってけとりゃあ!」

 フィリップス、ラムレイに向かってメモリカードを滑らせる。
 嬉々としてメモリカードを受け止めるラムレイ。

六班長・ラムレイ
「ありがとうございます! 大事に見させていただきます!」

七班長・カットナー
「本当に、何でそんなに欲しかったんだ……」

八班長・ブロック
「さあ……ただ、自分たちもできるように、こっそり練習しそうな気はするな……」

フィリップス
「じゃあ次! 〝無旋回〟!」

八班長・ブロック
「はい! よろしくお願いします!」

フィリップス
「〝留守番〟脱出できてよかったな! とりゃ!」

 フィリップス、ブロックに向かってメモリカードを滑らせる。
 ブロックは感激して、受け取ったメモリカードを握りしめる。

八班長・ブロック
「フィリップス副長……ありがとうございます……!」

フィリップス
「いやいや、俺も楽しかったから! 欲を言えば、あれでコールタン大佐隊、撃ちたかったよな!」

一班長・ハワード
「俺はやっぱり無理だったと思うが……」

フィリップス
「やってみなくちゃわかんないからやりたかったのに、コールタン大佐がやれなくしたんだろ」

一班長・ハワード
「そんなはっきり」

八班長・ブロック
「フィリップス副長!」

フィリップス
「何だ?」

八班長・ブロック
「もらってばかりでは悪いので……これ、お返しです!」

 ブロック、受け取ったメモリカードとは別のメモリカードを滑らせて、フィリップスに渡す。

フィリップス
「これ……」

八班長・ブロック
「空のカードです。でも、もしかしたらデータが入っているかもしれませんから、使う前に確認してもらえますか?」

フィリップス
「あ、ああ……」

 エリゴール、腕組みをしたまま含み笑う。

エリゴール
「どうやって渡すのかと思っていたが、そう来たか」

三班副班長・クライン
「はい?」

エリゴール
「いや、何でもない」

 ハワード、小声でフィリップスに囁く。

一班長・ハワード
「なかなか洒落た渡し方してくるな」

フィリップス
「そうだな。元四班長が戻ってきたら一緒に確認しないと」

一班長・ハワード
「いや、その前におまえが確認しろよ」

フィリップス
「それはひとまず置いといて、次、十班!」

十班長・ヒールド
「は、はいっ!」

フィリップス
「……何か悩み事があったら、いつでも相談に乗るぞ? とりゃ!」

 フィリップス、ヒールドに向かってメモリカードを滑らせる。
 ヒールドは体でメモリカードを止める。

十班長・ヒールド
「あ……ありがとうございます……機会があったらお願いします……」

九班長・ビショップ
「はっきり、もっと練習しろって言ってやればいいのに」

八班長・ブロック
「練習すればするほど駄目になるタイプだってわかってるからじゃないか?」

九班長・ビショップ
「おまえがはっきり」

フィリップス
「で、最後に十二班か。……ほらよ」

 フィリップス、メモリカードを滑らせずに、ザボエスの手前に置く。

十二班長・ザボエス
「何で俺には滑らせてくれねえんだよ!」

フィリップス
「隣にいるのにどうやって?」

十二班長・ザボエス
「え? 力入れないで、こう……」

フィリップス
「とにかく、これで全部配れたな! もし万が一、〝ライト〟で欲しい奴がいたら、六班からコピーをもらえ! 以上!」

レラージュ
「うちは十二班からコピーさせてもらいましょうか」

十一班長・ロノウェ
「え? おまえ、あれが欲しいのか?」

レラージュ
「一班の編集レベルが知りたいです」

十一班長・ロノウェ
「趣旨が違う!」

十二班長・ザボエス
「おいおい。誰がコピーさせてやるって言った?」

レラージュ
「そうですか。じゃあ、フィリップス副長に直接おねだりします」

十二班長・ザボエス
「わかった。あとでデータ送る」

十一班長・ロノウェ
「チョロすぎんだろ、おまえ」

六班長・ラムレイ
「では、今度は俺の番ですね! 〝先生〟! 大変お待たせいたしました!」

 ラムレイ、立ち上がりながら、懐からラッピングされた封筒を取り出す。
 それを見て驚く周囲。

七班長・カットナー
「それ、中身はメモリカードなんだよな!?」

六班長・ラムレイ
「ああ! 合同演習前の訓練一日目、〝椅子〟レースの五回戦と決定戦の映像が入っている!」

エリゴール
「ああ、それか。言われてやっと思い出した」

フィリップス
「へえ。臨時三班長でもそういうことあるんだね」

エリゴール
「言われて思い出したが、あれは決定戦じゃなくて余興だった」

フィリップス
「そこまで思い出しちゃったか」

一班長・ハワード
「思い出せただけいいじゃないか。俺は言われてもさっぱりだ」

フィリップス
「そうだね。毎日いろんなことが起こってるからね。おとっつぁんの記憶容量、完全にオーバーしちゃってるよね」

大部分の班長たち
(ヤベ……俺も覚えてない……)

レラージュ
「そのラッピングは必要なかったと思いますが……」

六班長・ラムレイ
「いえ! 大変お待たせしてしまったので! 気持ちです!」

八班長・ブロック
「どんな気持ちだ……」

七班長・カットナー
「野暮は言うなよ。俺でもラッピングはする」

八班長・ブロック
「それ以前に、レラージュ副長はおまえに頼み事は絶対にしない」

レラージュ
「そうですか。それならそれでいいですが、それもやはり滑らせるんですか?」

六班長・ラムレイ
「臨時三班長!?」

エリゴール
「滑らせろ」

六班長・ラムレイ
「了解です! レラージュ副長! 申し訳ありませんが、ご了承ください!」

レラージュ
「臨時三班長の命令でしたら仕方ないですね。お願いします」

六班長・ラムレイ
「はい! よろしくご査収お願いします!」

 ラムレイ、ラッピングされた封筒をレラージュに向けて滑らせる。

七班長・カットナー
「さすがにあれは……滑ったぁ!?」

八班長・ブロック
「しかも、ちゃんとレラージュ副長の手元に届いている……!」

九班長・ビショップ
「もはや、神技……!」

 レラージュ、無表情に封筒を受け取り、ラムレイに顔を向ける。

レラージュ
「いろいろお手数をおかけしました。ありがとうございます」

七班長・カットナー
「レラージュ副長が礼を言った……!」

八班長・ブロック
「それは言うだろ。人として」

七班長・カットナー
「人じゃないと思ってた……!」

八班長・ブロック
「おまえのほうが人でなしだ」

六班長・ラムレイ
「いえいえ、ご満足いただけたら幸いです!」

 ラムレイ、満足げに笑って着席する。

エリゴール
「これで用事は全部済んだか?」

フィリップス・ラムレイ
「はい! 済みました!」

エリゴール
「じゃあ、今日はもう解散だな、一班長」

一班長・ハワード
「ここで俺に振るのか。……ああ。解散だ。みんな、お疲れさん」

ハワードとエリゴール以外の班長たち
「うぃーす」

一班長・ハワード
「……明日のことは明日考えよう」

フィリップス
「おとっつぁんが何かを先送りした」
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