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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

270【挨拶回りの前後編22】一班の場合

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【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】

ハワード
「普通にやれば〝留守番〟は回避できるはずなのに、どうしてこんなに緊張するんだ……」

フィリップス
「それはもう、今日は元四班長がこのに乗ってないからだろ。実戦のとき以外で元四班長がいなかったのって……ああ、そうだ。ペナルティで一日だけ三班長やったときだ」

ハワード
「やっぱり三班か!」

フィリップス
「でも、俺たち、三班どうにかしてくれってさんざん言ってきたし……」

パラディン
『みんなー! お待たせー! 〝留守番〟決定戦、始めるよー!』

ハワード
「……元四班長は乗っていないはずなのに、なぜか大佐がハイテンション」

フィリップス
「今回は音声だけだからわかんないけど、酒でも飲んでんのかな」

ハワード
「まさかそんな。……赤ワインとか似合いそうだな」

パラディン
『メールにも書いたけど、今回は班番順にタイムを計るよ! まず、移動隊形で発進、移動しながら〝魚〟になって第一チェックポイントを通過! さらに、第二チェックポイントで〝ファイアー・ウォール〟になって三秒静止! それから、艦首を右に九十度回頭、そのままスタート地点に戻って終了! これを二回繰り返して、悪いほうのタイムをその班のタイムとします! 本当は実戦時と同じ距離でやりたかったけど、それじゃ今日中に終わらないから、大幅に短縮しました!』

ハワード
「確かに、実戦と同じ距離にしたら、うちのタイム計るだけで一日終わるな」

フィリップス
「それなら、十二班同時にスタートしたら?」

ハワード
「たぶん、接触事故起こすな」

パラディン
『タイム計測と審査は〈オートクレール〉がします! 各所に無人偵察機を飛ばしてるから、不正をしたらすぐにバレるよ!』

フィリップス
「そうか! 無人偵察機のカメラを使うのか!」

ハワード
「そうだよな……〈オートクレール〉が二十四回も伴走したりはしないよな……」

フィリップス
「六班ならやりかねないけど、さすがに今日は無理そうだな」

ハワード
「と思うが……順番待ちをしているふりをして撮るかもしれん」

フィリップス
「……本当にそれやったら、〈オートクレール〉に邪魔だと撃たれそうだ」

ハワード
「一応、注意しとくか?」

フィリップス
「いや、六班もそこまで馬鹿じゃないだろ。……馬鹿じゃないよな?」

パラディン
『なお、計測中の映像は、君たちのにもリアルタイムで配信するよ!』

ハワード
「六班。……助かったな」

フィリップス
「うちも助かったけど……大佐の意図は何なんだ?」

ハワード
「……やっぱり、六班に邪魔されたくなかったんじゃないのか?」

パラディン
『それでは、計測に入ります! 一班、スタート地点に速やかに移動! 準備ができたら私に連絡!』

フィリップス
「元四班長並みにサクサク進行するな、大佐」

ハワード
「……元四班長、実は〈オートクレール〉に乗ってるんじゃないか?」

フィリップス
「いや、それはないだろ。三班の班長艦に元四班長が乗っていなかったら、三班は確実に最下位だ」

ハワード
「それもそうだな。……しかし、うちが最初って、いちばん不利じゃないか?」

フィリップス
「仕方ないよ。うちは一班だから。でも、コースの下見くらいはさせてほしかった……」

操縦士
「……班長。スタート地点に到着しました」

ハワード
「そうか。じゃあ、大佐に連絡するか。……スタートの合図は大佐がするのか?」

フィリップス
「連絡したついでに訊いてみたら?」

ハワード
「何となく、訊きづらい……」

フィリップス
「こういうときこそ、元四班長がいれば……!」

ハワード
「俺はずっといてほしい。……通信士。〈オートクレール〉とつないでくれ」

通信士
「りょ、了解……」

 ***

【パラディン大佐隊・第六班第一号ブリッジ】

六班長・ラムレイ
「今回はどうやって撮影しようかと悩んでたが、大佐が中継車用意してくれてて助かったな!」

副長
「中継車……ま、いいか」

クルーA
「班長! 録画準備OKです!」

ラムレイ
「よし! 一班のタイムだけは意地でも越える!」

副長
「ん? 三班じゃないのか?」

ラムレイ
「三班はついでだ。目標はあくまで一班!」

クルーB
「十一班は……」

クルーC
「言うなよ。あそこは〝越えられない壁〟なんだ」

副長
「というか……〝越えてはならない壁〟」

 ***

【パラディン大佐隊・第三班第一号ブリッジ】

副長・ホフマン
「班長。このコースだったら、一班はどれくらいのタイムを出しそうですか?」

エリゴール
「うーん。順調に行けば五分くらいか」

エリゴール以外
「五分!?」

エリゴール
「ああ。実戦のときの速度で、それくらいのタイムになるように距離を設定したからな。……大佐が」

ホフマン
「……そうですか。それと、チェックポイントでは具体的に何をチェックするんでしょう? メールには書かれていなかったと思うんですが……」

エリゴール
「ちゃんと形になっているかどうかだな。とりあえずはタイムを優先するが、万が一同タイムになった場合、そこで差をつける」

ホフマン
「その判定は大佐がするんですよね?」

エリゴール
「もちろん。ただ、全艦に映像を配信するなら、大佐の判定眼も問われるな」

ホフマン
「それは確かに」

パラディン
『それでは、一班の計測、開始します! 五、四、三、二、一、ゴー!』

ホフマン
「……まさか、大佐がじきじきにスタートの号令をかけるとは思いませんでした」

エリゴール
「暇なんだろ」

ホフマン
「確かに、今日の大佐は、基本的に見ているだけですね……」

 ***

【パラディン大佐隊・第八班第一号ブリッジ】

八班長・ブロック
「さすが一班! やっぱり速い!」

副長・ウィルスン
「そりゃ速いだろ。〝横縦ぐるり〟も〝移動しながら縦〟も、一班はエキスパートだ」

ブロック
「うーん。第一チェックポイントでは、完全に〝魚〟になってないといけないんだな」

ウィルスン
「しかし、誰がカメラの切り替えしてるんだ? プロ並みにうまいぞ」

ブロック
「うまいならいいだろ。……第二チェックポイントで〝開き〟! やっぱり速い! 美しい!」

ウィルスン
「美しい……まあ、よくそろってはいるよな……」

ブロック
「あとは〝縦走り〟か。……やっぱり速い! 今なら十二班と張るかもしれない!」

ウィルスン
「一班大好きだけど、そういうのは冷静に評価するよな」

ブロック
「一班、ゴール! 一番走者、お疲れ様でした!」

ウィルスン
「拍手するなよ……スポーツ観戦か」

ブロック
「オペレータ! うちで計ったタイムは?」

オペレータ
「班長艦がスタートラインを割った時点で終了と仮定するなら、五分十一秒〇二ですね」

ブロック
「そうか。……一班で五分以上かかるのか」

ウィルスン
「正式なタイムは、それよりもっと遅くなりそうだな。〈オートクレール〉方式で」

パラディン
『一班、お疲れ様! さすが〝一班組〟のトップだね! 速いのはもちろん、形も美しかった! タイムは……五分十一秒〇四!』

ウィルスン
「……今回はほぼ同じだった」

ブロック
「今回は、開始だけははっきりしてるからだろ。……よし! メモリカードに落として永久保存だ!」

ウィルスン
「保存する前に、一班のコース取りとか解析しろよ。……〝一班組〟、入りたいんだろ?」

 ***

【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】

ハワード
「一応、お褒めの言葉はいただけたな……」

フィリップス
「そうだな……俺には嫌味にしか聞こえなかったけどな……」

ハワード
「とにかく、現時点でのベストは尽くした! 二巡目ではさらにベストを尽くす!」

フィリップス
「もう、三班より上とか下とか関係ないな」

ハワード
「ああ。ないな。あとはもう、四班が最下位になるのを祈るばかりだ」

 ***

【パラディン大佐隊・第三班第一号ブリッジ】

副長・ホフマン
「本当に五分だった……!」

エリゴール
「一班なら、五分は切れると思っていたんだがな」

ホフマン
「え」

エリゴール
「とにかく、一班レベルでも五分以上かかるコースだってことはわかっただろ。次の二班で凡人の下レベルがわかる」

ホフマン
「班長……さすがにそれは……」
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