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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

133【交換ついでに合同演習編38】訓練一日目:ロールケーキ解禁

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【パラディン大佐隊・会議室】

エリゴール
「おい、〝レフト〟はまだ作戦会議終わってないのか? 〝ライト〟はもうお開きになったぞ」

フィリップス
「あっ、〝ライト〟のスパイが!」

十二班長・ザボエス
「隠せ隠せ! 明日は〝敵〟だ!」

エリゴール
「そんなつまらないことはしねえよ。楽しみがなくなる」

フィリップス
「訓練を楽しみって……やっぱりか」

エリゴール
「〝レフト〟ももう作戦は立て終わったのか?」

フィリップス
「まあ、おおまかにはな。問題は実行できるかどうかだけだ」

十二班長・ザボエス
「そこがいちばんの問題だな」

エリゴール
「また十二班を〝盾〟にするのか?」

十二班長・ザボエス
「何でわかったっ!?」

エリゴール
「他に有効な使い道がない」

十二班長・ザボエス
「畜生! 悔しい! でも反論できねえ!」

一班長・ハワード
「十二班長……」

エリゴール
「こっちは〝椅子〟組が二班いるのか。……なあ、〝椅子〟組。今日の訓練で、どうして〝椅子〟組は負けたと思う?」

十二班長・ザボエス
「おまえらが後ろから一斉掃射したからだろ」

フィリップス
「うっ、まだちょっとだけ残ってた良心が!」

一班長・ハワード
「まだ残ってたのか。俺はもうなくしたぞ」

フィリップス
「おとっつぁん! 俺より悪に!?」

エリゴール
「じゃあ、何で一斉掃射されることになった?」

十二班長・ザボエス
「それは……こっちが苦戦してる隙をついて一班が……」

エリゴール
「なら、何で苦戦することになった?」

十二班長・ザボエス
「何で……」

エリゴール
「おまえらが〝ロールケーキ〟を甘く見すぎてたからだよ」

フィリップス
「ロールケーキ?」

十二班長・ザボエス
「それ、ロノウェがさっきも昨日も言ってたな。いったい何のことだ?」

エリゴール
「……護衛隊形の別称だ。俺が勝手につけた」

エリゴール以外
「えっ?」

エリゴール
「きっかけは、Aチームが『連合』役やったときの隊形の名前を大佐に訊かれたことだ。ないって答えたら、大佐がBチームのは〝ショートケーキ〟と勝手に命名したって言うから、それならケーキでそろえてやろうかと、軽い気持ちで〝ロールケーキ〟って言っちまった。言ってからものすごく後悔したから、ロノウェにだけ〝ショートケーキ〟と一緒に話して、今まで口止めしといた」

フィリップス
「Bチームの〝ショートケーキ〟……」

十二班長・ザボエス
「確かあのときは、移動隊形半隊三段重ねが四隊・横一列……」

エリゴール
「あれが大佐には、二段重ねのショートケーキが尖ったほうを前にして、猛スピードで飛んでくるように見えたそうだ」

フィリップス
「……なるほど。二段重ねだ」

一班長・ハワード
「まずそこに同意するのか」

十二班長・ザボエス
「そんな面白い話、何でロノウェだけにしたんだよ?」

エリゴール
「おまえはAチームだっただろ。でも、改めて考えてみると、護衛隊形はロールケーキでたとえたほうがわかりやすい。そう思い直して今日から解禁することにした」

フィリップス
「護衛隊形がロールケーキ……」

エリゴール
「今ここにロールケーキがあればいいんだが、たとえば〝ファイアー・ウォール〟はロールケーキの一切れが横一列に並んでる状態だ。それが縦一列になると護衛がとる隊列。今日の〝椅子〟組はそれに突っこまれてあっぷあっぷしてた」

五班長・ロング
「じゃあ、今日のうちは、ロールケーキの端っこ……?」

エリゴール
「Aチームで〝盾〟やってたときの十二班もな」

二班長・キャンベル
「Bチームはロールケーキに負けたんですか!?」

エリゴール
「ああ、Bチームは三班いたのか。……そのとおりだ」

八班長・ブロック
「ロールケーキのほうが値段が高いから!?」

フィリップス
「いや、高級なショートケーキ四個なら、ロールケーキ一本分以上するんじゃないか?」

一班長・ハワード
「値段の問題じゃない」

十二班長・ザボエス
「なら、今日の〝椅子〟組は、どうしてたら〝ロールケーキ〟に勝てたんだ?」

エリゴール
「一班がいなかったとしたら、七班と十二班はわざと〝ロールケーキ〟がギリギリ通れる空間を作って挟撃。他の班は〝ロールケーキ〟を囲いこむように隊列を変える。十班・十一班はもう少し前から配置を変えとくべきだった。〝ロールケーキ〟のスポンジから撃たれて思うように動けなくされる前に」

十班長・ヒールド
「でも、下手に間をあけて、もし撃ちもらしたら……」

エリゴール
「〝椅子〟の脚一本壊して追いかけていけばいい。……まあ、本当にこうしてたら勝てたって保証はどこにもないけどな」

十二班長・ザボエス
「……もう一回、今日と同じ訓練したい!」

エリゴール
「やらせねえよ、十二班。明日の対抗戦で勝て」

十二班長・ザボエス
「おまえが〝ライト〟にいたら勝てるわけねえだろ!」

エリゴール
「何で? 最初からそう思いこんでたら、勝てるものでも勝てなくなるぞ。あと、俺らの目標はあくまで実戦で勝つことだからな。訓練で勝つのは単なる過程だ」

フィリップス
「はっ、目標を見失いそうになってた」

一班長・ハワード
「実戦で勝っても〝飴ちゃん〟もらえないからな」

エリゴール
「じゃあ、〝おとっつぁん〟、フィリップス副長。明日の俺は直接三班に行くから、後はよろしく」

一班長・ハワード
「うっ……出来のいいほうの〝息子〟が〝敵〟になってしまう!」

フィリップス
「どさくさにまぎれて失礼なこと言ってるな」

エリゴール
「おまえらも早く帰って休めよ。お先に失礼。お疲れー」

二班長・八班長・十班長
「お疲れ様でしたー」

 エリゴール、退室。

一班長・ハワード
「……フィリップス」

フィリップス
「わかってる」

 フィリップス、上着から携帯電話を取り出す。

「……あ、俺だ。今、うちの待機室にロールケーキないか? できれば切れてない状態のがいい。……何、バースデーケーキならある? それじゃ駄目だ。必要なのはあくまでロールケーキなんだ」

二班長・キャンベル
「フィリップス副長……? 一班長……?」

一班長・ハワード
「……見たいんだ。今すぐどうしてもロールケーキが! 切って並べて〝ファイアー・ウォール〟を作りたい! それが見られないことには今夜は眠れない!」

五班長・ロング
「一班……やっぱり壊れてる……!」

八班長・ブロック
「一班長! うちの班にロールケーキがあるそうです!」

フィリップス
「〝無旋回〟! いつのまに!」

一班長・ハワード
「何!? じゃあ、今すぐここに届けさせろ! ナイフとラップつきで!」

八班長・ブロック
「飲み物もつけますか! 腹減ったから夜食にしましょう!」

一班長・ハワード
「気が利いてるぞ〝無旋回〟! 俺はコーヒーで!」

二班長・キャンベル
「あ、俺、紅茶」

一班長・ハワード
「砂糖とミルクもつけてくれ」

五班長・ロング
「え、ロールケーキ食うのに?」

フィリップス
「くそ! 〝無旋回〟に先を越された! ……探せ! これだけ人数がいるんだ! 必ずどっかの待機室にはあるはずだ!」

五班長・ロング
「帰りたいが帰れない……俺も今日の俺たちを見てみたい!」

十班長・ヒールド
「十二班長……十二班長はどうしますか……?」

十二班長・ザボエス
「俺か? 俺はこの壊れた連中を見ていたい」

十班長・ヒールド
「こんなふうに壊れられないから、俺は〝飴ちゃん〟もらえないんでしょうか……」

十二班長・ザボエス
「ああ、そうかもしれねえな……十一班はあんな馬鹿して、〝飴ちゃん〟三個ゲットしたもんな……」

十班長・ヒールド
「くっ……馬鹿になりたい……!」

十二班長・ザボエス
「いや、〝飴ちゃん〟でそこまで思いつめなくても……」
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