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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

119【交換ついでに合同演習編24】訓練一日目:椅子は六脚

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【パラディン大佐隊・第八班第一号ブリッジ】

エリゴール
『では、余興が終わったところで最後の訓練に入る。〝椅子〟組は、いま七班がいるスタート地点に戻って配置順に並べ。……おっと、今までうっかり忘れてたが、〝椅子〟組も最後は砲撃隊形になるから、〝椅子〟からすばやく砲撃隊形になれるようにしとけよ』

副長・ウィルスン
「あの熱戦を〝余興〟……」

八班長・ブロック
「でも、実際やってたことは、確かに〝余興〟かもしれない」

ウィルスン
「〝うっかり忘れてた〟って、故意に忘れてたんじゃないのか?」

ブロック
「いや、昨日の班長会議でもそう言ってたけど……そこまで指導するのはもう面倒くさくなったんだろう」

ウィルスン
「まあ〝椅子〟から砲撃隊形になるのはそれほど難しくはないよな。ただ、どれだけすばやく移行できるかが問題なだけで」

ブロック
「そう、そこが唯一最大の問題だ」

 ***

【パラディン大佐隊・第九班第一号ブリッジ】

エリゴール
『これから三十分間、作戦タイムをとる。〝椅子〟組はどうやって俺たち〝連合〟を迎撃するか、よく打ち合わせしとけ。……間違っても〝全艦殲滅〟はされるなよ』

副長
「ひーっ!」

九班長・ビショップ
「あの声は狙ってる。絶対狙ってる」

副長
「でも、打ち合わせって……やっぱり〝先生〟に相談か?」

ビショップ
「あの〝先生〟はちょっと……というか、かなり相談しにくい……」

副長
「ああ、元四班長がもう一人いてくれれば!」

ビショップ
「……とりあえず、元チームメイトの十二班のほうに相談してみるか」

 ***

【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】

フィリップス
「元四班長、『連合』役の作戦ってどうするんだ?」

エリゴール
「まあ、行儀よく並んで〝椅子〟組を砲撃するだけのことだが……その前に三班と〝無旋回〟がコールタン大佐隊に遅れずについていけるようにする」

フィリップス
「元四班長……まるで嫁入り直前になってからあわてて娘に行儀を仕込もうとしている母親のようだ……」

エリゴール
「フィリップス副長、うまい! 〝飴ちゃん〟一個!」

フィリップス
「え、こんなことで一個くれるのか? ……元四班長の〝飴ちゃん〟進呈基準はよくわからないな」

エリゴール
「特に基準はない。ただ、狙ってやってる奴にはなるべくやらないようにしてる」

フィリップス
「……なるほど」

エリゴール
「〝椅子〟組は六班。こっちも六班。数の上では互角だが、こっちは『連合』役として必ず〝椅子〟組を砲撃しなけりゃならないっていう縛りがある。本当は後ろに回りこんで思いっきり砲撃してやりたいんだが」

ハワード
「元四班長……」

エリゴール
「……班長。まずはうちの後ろに五班、護衛隊形をとったまま、班番順に並ばせてくれ。そのまま反転して、いつも『連合』の右翼がたむろってる距離まで移動し、また反転する。この軍艦ふねはいったん一班から離れて、その様子を外から観察する。特に三班と〝無旋回〟を要チェックだ。今のところ日取りが決まってるのはその二班だけだからな」

ハワード
「わかった。いま指示する」

フィリップス
「とりあえず、護衛隊形で移動する練習か」

エリゴール
「ああ。あのAチームを再結成できるんなら、こんな面倒なことはしなくて済むんだがな。今度は十二班を先頭にして突っこめばいい」

フィリップス
「どっちにしろ、〝盾〟にされるんだな、十二班」

ハワード
「元四班長、五班全部に連絡した」

エリゴール
「じゃあ、今度はうちの副班長艦に少しずつ速度を上げて移動するように指示してくれ。俺たちはさりげなくここから抜け出そう」

フィリップス
「……これを見越して、あえて〝魚〟で護衛隊形作らせたのか?」

エリゴール
「フィリップス副長、〝飴ちゃん〟一個」

フィリップス
「おお、今日は気前がいいな」

ハワード
「フィリップス……おまえ一人でもう……!」

フィリップス
「いいからおとっつぁんは元四班長に言われた仕事してきなよ。それがおとっつぁんが今しなきゃならない仕事だよ」

 ***

【パラディン大佐隊・第十一班第一号ブリッジ】

ロノウェ
「おい、レラージュ。……作戦タイムだぞ?」

レラージュ
「はい。ですから今、作戦を考えています」

ロノウェ
「……他の班と打ち合わせしなくていいのか?」

レラージュ
「打ち合わせることといったら、どのタイミングでスタートダッシュして〝椅子〟になるかくらいですから、今は作戦を考えることを優先しています」

ロノウェ
「作戦って……エリゴールはこないだの出撃前の訓練のときみたいに攻めてくるんじゃねえのか?」

レラージュ
「あのときは十二班十隻だけでしたが、今回は六十隻です。それに、あのときの十二班は砲撃していませんでした。今回とは状況が違います」

ロノウェ
「三班はノーカウントか。まあ、大佐の前まで来られなかったからしょうがねえか」

レラージュ
「あのときの十二班は、大佐の動く的になるために、あえて何の創意工夫もしませんでした。でも、元四班長は十二班のように優しくありません。本気で俺らの〝全艦殲滅〟も考えていると思います」

ロノウェ
「それは別に俺らが憎いわけじゃなくて、俺らを鍛えようとしてるだけだろ」

レラージュ
「そうなんでしょうが……時々、元四班長の嘲笑が聞こえるような気がします」

ロノウェ
「気のせいだって言ってやりてえけど言えねえな……ザボエスの言うとおり、あいつだけは敵に回したくねえ……」

レラージュ
「でも、今日の元四班長は俺らの〝敵〟です。……俺はもう〝ロールケーキ〟には負けたくありません」

ロノウェ
「っ……おまえ……よく笑わないでいられるな……」

レラージュ
「あのとき笑い尽くしたので、今はもう大丈夫です」

ロノウェ
「そうか……俺はまだ駄目だ……実は〝判定員〟もまともに見られなかった……」

レラージュ
「元四班長の言うとおりなら、今日はその〝ロールケーキ〟が、こちらに断面を見せて突っこんできます」

ロノウェ
「……本物のロールケーキで想像するだけでも、なぜかこええな」

レラージュ
「普通に考えれば、先頭は一班で、最後尾は三班でしょう。でも、今の一班は〝移動しながら合体〟するほど普通じゃありませんから、素直に先頭にいるとは考えにくい。もしかしたら、一班だけ別行動をとるかもしれません」

ロノウェ
「別行動?」

レラージュ
「今日の『連合』役の中で、唯一自由に動けるのが一班です。あとの五班は一班に命令されたとおりのことしかできません。つまり、一班――正確には元四班長が乗艦している班長艦さえ真っ先に潰してしまえば、今日の『連合』は本物と同様、烏合の衆です。しかし、元四班長も一班の班長艦が真っ先に狙われるだろうとわかっているはず。……いろいろ考えてみましたが、結局自分は作戦を立てるのは苦手だということがよくわかりました」

ロノウェ
「レラージュ……」

通信士
「班長! 十二班長から通信です! でも、その……副長を指名してるんですが……」

ロノウェ
「馬鹿の俺じゃ話にならないからだろ。レラージュ、出てやれ」

レラージュ
「出たくありませんけど、今回は仕方ないですね。……我慢して出ます」

ロノウェ
「それほど嫌か」

レラージュ
「お待たせしました。レラージュです。〝砲撃隊〟のほうの意見はまとまりましたか?」

ザボエス
『……さすが、こういう方面には強いよな。ああ、〝砲撃隊〟は〝護衛隊〟に〝よーい、ドン!〟を言ってもらいてえそうだ』

レラージュ
「責任を負いたくないのか、自分をわきまえているのか。〝砲撃隊〟らしい結論ですね」

ザボエス
『まあ、そう言ってやるな。こっちにいる〝砲撃隊〟の班長は、全員、前班長がドレイク大佐隊に転属になってから班長になってる。まだ班長経験が浅いんだ』

レラージュ
「なるほど。六班長のノリの軽さが理解できました。……〝よーい、ドン!〟は十二班長が言ってください。そのほうが〝砲撃隊〟は従いやすいでしょう。変形方法は〝最初から椅子〟で。元四班長のいる一班は絶対まともには攻めてこないと思いますが、一班以外は『連合』のように普通に来るでしょう。たぶん、中央に」

ザボエス
『ってことは、うちは直撃だな。でも、そっちはエリゴールに何されるかわからねえな』

レラージュ
「はい。本当にわかりません。一班を見かけたら、まず真っ先に班長艦を潰すように〝砲撃隊〟にも言ってください」

ザボエス
『言ってはみるが、俺らが潰せるところにいるかね、あいつらが』

レラージュ
「俺もそう思いますが、元四班長のすることに予測は立てられないので、一応」

ザボエス
『そりゃそうだ。とりあえず、先頭にはいねえだろうなあ。突っこむ場所さえ指定しとけば、三班以外はどこだってできる』

レラージュ
「確かに。さすが十二班長。無駄に年食ってるだけありますね」

ザボエス
『絶対、まともには褒めてくれねえよな、おまえはよ』

レラージュ
「とにかく、一班以外を殲滅することを優先しましょう。一班はもう手に負えません」

ザボエス
『おいおい、エリゴールに〝恥をかかせつづけて〟やるんじゃなかったのか?』

レラージュ
「あの頃の俺は若かったですね……」

ザボエス
『おまえの一日は何年分だ』

 ***

【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】

エリゴール
「やれやれ。並び順替えるだけで一苦労だな」

フィリップス
「特に三班。これじゃ嫁には出せない……!」

エリゴール
「明日一日で、どれだけどうにかできるかな。せめてコールタン大佐隊に置き去りにされないようにはしたいんだが」

フィリップス
「あ、そういや元四班長。明日は本当に三班の班長艦に乗るつもりなのか?」

エリゴール
「ああ、そのつもりだけど?」

フィリップス
「……何か、今からすっごい不安。明日もこんな訓練するんだよな?」

エリゴール
「ああ。でも、〝ファイアー・ウォール〟の訓練はしないぞ。大佐の前でもう五回戦やったからな」

フィリップス
「じゃあ、明日は?」

エリゴール
「それは明日のお楽しみだ」

フィリップス
「それが俺たちには怖いんだよ。今まで三班は〝貧乏くじ〟だったが、明日だけは〝当たりくじ〟」

ハワード
「当たるかな……俺、くじ運悪いからな……」

フィリップス
「おとっつぁん、不吉なことを!」

エリゴール
「とにかく、今はこの訓練に集中だ。特にうちは〝予行演習〟も兼ねてるからな」

フィリップス
「元四班長も大佐みたいに〝詐欺〟が大好きだな……」

エリゴール
「ああ。詐欺。姑息。卑怯。みんな大好きだ」

ハワード
「開き直ってるのか? 自棄やけになってるのか?」

フィリップス
「さあ。でも、元四班長のそのダーティ・スピリッツのおかげで、Bチームにも勝てた」

ハワード
「ああ……こんな相手と戦ってたら、そりゃ俺たちは負けるよな」

フィリップス
「〝護衛隊〟に勝つことを決意した翌日に、元四班長に異動してきてもらえてよかったな。俺たち、まるで無駄な努力をするところだった」

ハワード
「まったくだ」

エリゴール
「……そろそろ作戦タイム終了だな。作戦タイム終了だけ宣言して、後はこっちの都合で出撃するぞ。本物の『連合』は『帝国』の都合なんか考えちゃくれないからな」

フィリップス
「わー、懐かしー。初めて〝護衛隊〟と演習したときがそうだったなー」

ハワード
「味方だと、その卑怯さがとても心強い」

エリゴール
「これは卑怯じゃないだろ。〝今から攻撃しにいきます〟って知らせてくれる敵がどこにいる」

フィリップス
「訓練でも実戦前提で考えるところが元四班長の基本なんだな」

ハワード
「俺たちはそのつもりでそれができていなかった。本当にためになる」

 ***

【〝飴ちゃん〟ゲット数ランキング】

一位 六班(十一個)
二位 九班(八個)
三位 八班(五個)
四位 一班(四個)←(二個+二個)
五位 五班(一個)・七班(一個)
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