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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)
31【リハビリついでに演習編11】入替中止しました
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【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】
通信士
「班長……〈オートクレール〉から映像通信が入っています……」
ハワード
「今だけは顔を合わせたくないが……仕方ない。つないでくれ」
通信士
「了解……」
パラディン
『一班長、お疲れ様。今度こそ言ってもいいよ。〝詐欺〟だって』
ハワード
「〝詐欺〟ですか。……そうですね。大佐殿の存在自体がもう〝詐欺〟です」
パラディン、あざとく首をかしげて。
パラディン
『……〝ごめんね〟』
ハワード
「そ、それはまあ、騙されるほうが悪いので!」
パラディン
『そう言ってもらえると助かるよ。ところで一班長。演習終了直後に訊ねるのも何だが、例の具体案は出てきたかね?』
ハワード
「……いえ。昨日、作戦会議をしたときに出た、ドレイク大佐にいち早く『連合』の旗艦を落としてもらい、司令官代行に撤退命令を出させ、撤退する砲撃艦群をアルスター大佐隊のところまで追いこむという他力本願な案以外、今も出てきません」
パラディン
『そうそう。中でも〝司令官代行に撤退命令を出させ〟が最大のネックだ。私も必ずそれを出させる名案をいまだに思いつけずにいるよ』
ハワード
「……は?」
パラディン
『そういうわけだから、今回は入れ替えはなしだ。だが、考えることは続けよう。凡人同士、お互いに』
ハワード
「は、はい……」
パラディン
『それでは撤収だ。仲よく基地に帰って解散しよう』
ハワード
「え……あれでよかったのか……?」
フィリップス
「そうらしいな。でも〝今回は〟だ。何かあったらいつでも入れ替えしてやるぞと暗に言ってる」
ハワード
「……本当にそうなんだろうか」
フィリップス
「何が?」
ハワード
「大佐なら、絶対俺たちが思いつけないことを思いついていると思っていた」
フィリップス
「まあ……それは正直、俺も拍子抜けしたが……でも、よく考えてみろよ? 大佐がすべて本当のことを話してるって保証はどこにもない。あんた、自分で言ってただろ。大佐の存在自体が〝詐欺〟だって。裏読みすれば、今回は入れ替えは無理だと思ったから、あんたの回答に賛同しただけかもしれないんだ」
ハワード
「……恐ろしい」
フィリップス
「でも美形」
ハワード
「計算だってわかってるのに、あの笑顔が、あの笑顔が……!」
フィリップス
「あれは〝詐欺〟っていうより〝虚偽〟だよな……」
ハワード
「殿下……パラディン大佐をくださって、ありがとうございます!」
フィリップス
「あんたまで言うか」
***
【パラディン大佐隊・旗艦〈オートクレール〉ブリッジ】
パラディン
「うん、確かに丸めこめるね。ありがとう、エリゴール中佐!」
エリゴール
「……教えてはいけないことを教えてしまったような……」
パラディン
「え、何だい? もっと近くで言ってもらえないと聞こえないよ?」
エリゴール
「入れ替え中止の本当の理由は何ですか?」
パラディン
「それ、さっき言ってたのと全然違うじゃないか」
エリゴール
「本当は聞こえていたんですね、やっぱり」
パラディン
「入れ替え中止の理由かい? まあ、一言で言うなら、私が思っていた以上にレベルが違いすぎたってことかな。現状で入れ替えたら、隊のバランスが悪くなる」
エリゴール
「我々にはまだリハビリが必要ですか?」
パラディン
「いや、君たちはもう充分だ。むしろ、これ以上リハビリされたら、さらに元ウェーバー大佐隊との差が広がってしまう」
エリゴール
「は?」
パラディン
「これは結果論だし、君たちにとっては認めがたいことかもしれないが……元マクスウェル大佐隊は短期間でも護衛に回ってよかった。
元護衛のダーナ大佐隊が強いのは、護衛隊形をとれる下地があるからだ。七班長……いや、ヴァラク大佐の元マクスウェル大佐隊も、私とコールタン大佐の指揮下にいたことがあるから護衛隊形をとれる。ドレイク大佐隊は三隻だけだから隊形はほとんど意味がないが、それでも元マクスウェル大佐隊の六班長が護衛隊形を知っている。
つまり、現時点で護衛隊形をとれない砲撃は、うちの元ウェーバー大佐隊とアルスター大佐隊――左翼の砲撃だけなんだ。これが右翼に比べて左翼が〝弱い〟と言われる要因の一つになっているんじゃないかと私は思っているよ」
エリゴール
「……今まで考えたこともなかったです」
パラディン
「そうだね。私も今日の演習を見るまで、確信は持てずにいた。……いったいいつからあんなに変幻自在に隊形を変えられるようになっていたんだい?」
エリゴール
「大佐殿の隊に転属されてからですね。いざというとき、護衛隊形から砲撃隊形にすぐに移行できるように訓練しました。ですから、それは得意ですが、逆に砲撃隊形から護衛隊形に移行するのは少し苦手です。これからはそれもスムーズにできるようにしないといけませんね」
パラディン
「……私はそんな指示をした覚えはないが……」
エリゴール
「自主練です。自分たちは〝護衛の護衛〟でありたいと思っていましたので。やはり砲撃出身ですから、砲撃隊形がいちばんとりやすいんです……どうしました?」
パラディン
「いや、感動して涙が……本当に君たち、いい子たちばかりだねえ……厄介だなんて思ったりしてごめんね」
エリゴール
「それはそう思われても仕方がないと思いますが……やっぱり思われていたんですね」
パラディン
「今はそんなことは思っていないよ。君らは私の自慢の隊員たちだ。できることなら君らだけで隊を作りたいが、殿下の命令は〝元第二分隊〟の指揮だ。申し訳ないが、もうしばらく、彼らの刺激材料でいてくれないか?」
エリゴール
「了解いたしました」
パラディン
「ところで、エリゴール中佐。前回の演習のときにも訊いたが、今回の演習、もし君が一班長だったら、どう元ウェーバー大佐隊を動かしていた?」
エリゴール
「やはり、まず退役願を……」
パラディン
「それはなしで」
エリゴール
「それなら、今回は自分も一班長と同じ指揮をとっていたと思います」
パラディン
「意外だね」
エリゴール
「今回の演習の目的は〝勝つ〟ことではありませんから。もしそれにこだわるんでしたら、隊の半分は捨てて、この軍艦の警戒と対応に当たらせます。目的はわからなくても大佐殿が何かしでかすことだけは明確ですから。五十隻対二十隻なら、我々に〝全艦殲滅〟されることはなかったと思うのですが……」
パラディン
「……試してみようか?」
エリゴール
「そろそろ普通の演習・訓練をしてください」
パラディン
「普通じゃアルスター大佐隊に勝てないだろう」
エリゴール
「その目標もどうかと」
パラディン
「でも、これがいちばん元ウェーバー大佐隊をやる気にさせるからね。アルスター大佐隊の〝下働き〟からはもう卒業させてあげよう。私の〝栄転〟回避のために!」
エリゴール
「……大佐殿。自分は今までずっと疑問に思っていたのですが……なぜ殿下はマクスウェル大佐殿とウェーバー大佐殿をもっと早い時期に〝栄転〟にしなかったのでしょう?」
パラディン
「うん、その答えなら簡単だ。ドレイク大佐がいなかったからだ」
エリゴール
「はい?」
パラディン
「殿下は『連合』の侵攻を受けたとき、無人艦の大量導入に反対した幹部は容赦なく〝栄転〟にした。そうしたら、残った〝大佐〟の中にあの二人が紛れこんでしまった。とにかく殿下には余裕がなかったからね、有人艦の人事はこの際、後回しにすることにした。しかし、無人艦の遠隔操作がほぼ完璧にできるようになって、今度は有人艦の出来の悪さが目につきはじめた。そろそろ有人艦のほうをどうにかしなければと考えていたところで、あのドレイク大佐がうちに亡命してきた。彼の邪魔をしなかったら、ウェーバー大佐とマクスウェル大佐は〝栄転〟にならなかったかもしれないね」
エリゴール
「では、ドレイク大佐殿にとって、アルスター大佐殿は〝邪魔〟ではないわけですか」
パラディン
「うーん。今のところは、かな。そこが最年長者の老獪なところだ。でも、きっとドレイク大佐は、この艦隊のためにならないと思ったら、殿下にアルスター大佐を切らせる。我々はそれを少しでも早めるためにアルスター大佐隊に勝つ」
エリゴール
「何というか……この艦隊は殿下ではなくドレイク大佐殿のものになっていませんか?」
パラディン
「まあ、はっきり言ってそうだね。だが、彼がここに亡命してきてくれたおかげで、戦闘時間は著しく短縮され、無人艦の〝無駄遣い〟は減り、『連合』からドレイク大佐と〈ワイバーン〉が消えてくれた。特に最後のがいちばん大きい。彼が今でも『連合』にいたら、きっと何度でも生きて帰って、いつかはこの艦隊を撤退させていたよ」
エリゴール
「……見てみたかった気もしますね」
パラディン
「何をだい?」
エリゴール
「ドレイク大佐殿が有人艦三〇〇〇隻で、この艦隊を撤退させるところをです」
パラディン
「ああ、それは私もぜひ見てみたかったね。でも、ドレイク大佐はもう『帝国』の人になってしまったからね。……殿下は『連合』のように彼を逃がしたりはしないよ」
エリゴール
「……今、急にドレイク大佐殿に親近感を持ちました」
パラディン
「そうかい。私は最近、殿下に共感できるようになったよ」
副長
「本当に、放っておけば冷静さを取り戻すんですね」
モルトヴァン
「それでも、少しずつ取り戻せない箇所が増えてきていますが」
副長
「ああ、確かに口調と表情が、一班長相手のときとは全然違う……」
モルトヴァン
「元ウェーバー大佐隊員たちにはとても見せられません……」
副長
「元マクスウェル大佐隊員たちはいいんですか?」
モルトヴァン
「はい。〝賢くて気が利くいい子たち〟なので。……エリゴール中佐以外」
副長
「ええ?」
モルトヴァン
「おまけに、戦闘面でも〝いい子たち〟ですからね。……エリゴール中佐は、本当に自分なしでも元マクスウェル大佐隊が回るようにしているようです」
副長
「え、しかし、作戦はすべて彼が立てているんでしょう?」
モルトヴァン
「大佐に丸投げされるから仕方なくですよ。本当は大佐が自分で作戦を立てられることもエリゴール中佐はわかっているような気がします。彼としては、元マクスウェル大佐隊を大佐の命令に絶対服従するように〝調教〟して、大佐が護衛に戻ったときに自分が退役できればそれでいいんでしょう」
副長
「どうして……」
モルトヴァン
「それが、エリゴール中佐なりの大佐への〝恩返し〟なんでしょう。ああして大佐と話しているのも」
副長
「……エリゴール中佐にとって、七班長は〝悪魔〟というより〝神〟だったようですね」
モルトヴァン
「大佐が砲撃担当でいる間に、宗旨替えしてくれればいいのですが」
通信士
「班長……〈オートクレール〉から映像通信が入っています……」
ハワード
「今だけは顔を合わせたくないが……仕方ない。つないでくれ」
通信士
「了解……」
パラディン
『一班長、お疲れ様。今度こそ言ってもいいよ。〝詐欺〟だって』
ハワード
「〝詐欺〟ですか。……そうですね。大佐殿の存在自体がもう〝詐欺〟です」
パラディン、あざとく首をかしげて。
パラディン
『……〝ごめんね〟』
ハワード
「そ、それはまあ、騙されるほうが悪いので!」
パラディン
『そう言ってもらえると助かるよ。ところで一班長。演習終了直後に訊ねるのも何だが、例の具体案は出てきたかね?』
ハワード
「……いえ。昨日、作戦会議をしたときに出た、ドレイク大佐にいち早く『連合』の旗艦を落としてもらい、司令官代行に撤退命令を出させ、撤退する砲撃艦群をアルスター大佐隊のところまで追いこむという他力本願な案以外、今も出てきません」
パラディン
『そうそう。中でも〝司令官代行に撤退命令を出させ〟が最大のネックだ。私も必ずそれを出させる名案をいまだに思いつけずにいるよ』
ハワード
「……は?」
パラディン
『そういうわけだから、今回は入れ替えはなしだ。だが、考えることは続けよう。凡人同士、お互いに』
ハワード
「は、はい……」
パラディン
『それでは撤収だ。仲よく基地に帰って解散しよう』
ハワード
「え……あれでよかったのか……?」
フィリップス
「そうらしいな。でも〝今回は〟だ。何かあったらいつでも入れ替えしてやるぞと暗に言ってる」
ハワード
「……本当にそうなんだろうか」
フィリップス
「何が?」
ハワード
「大佐なら、絶対俺たちが思いつけないことを思いついていると思っていた」
フィリップス
「まあ……それは正直、俺も拍子抜けしたが……でも、よく考えてみろよ? 大佐がすべて本当のことを話してるって保証はどこにもない。あんた、自分で言ってただろ。大佐の存在自体が〝詐欺〟だって。裏読みすれば、今回は入れ替えは無理だと思ったから、あんたの回答に賛同しただけかもしれないんだ」
ハワード
「……恐ろしい」
フィリップス
「でも美形」
ハワード
「計算だってわかってるのに、あの笑顔が、あの笑顔が……!」
フィリップス
「あれは〝詐欺〟っていうより〝虚偽〟だよな……」
ハワード
「殿下……パラディン大佐をくださって、ありがとうございます!」
フィリップス
「あんたまで言うか」
***
【パラディン大佐隊・旗艦〈オートクレール〉ブリッジ】
パラディン
「うん、確かに丸めこめるね。ありがとう、エリゴール中佐!」
エリゴール
「……教えてはいけないことを教えてしまったような……」
パラディン
「え、何だい? もっと近くで言ってもらえないと聞こえないよ?」
エリゴール
「入れ替え中止の本当の理由は何ですか?」
パラディン
「それ、さっき言ってたのと全然違うじゃないか」
エリゴール
「本当は聞こえていたんですね、やっぱり」
パラディン
「入れ替え中止の理由かい? まあ、一言で言うなら、私が思っていた以上にレベルが違いすぎたってことかな。現状で入れ替えたら、隊のバランスが悪くなる」
エリゴール
「我々にはまだリハビリが必要ですか?」
パラディン
「いや、君たちはもう充分だ。むしろ、これ以上リハビリされたら、さらに元ウェーバー大佐隊との差が広がってしまう」
エリゴール
「は?」
パラディン
「これは結果論だし、君たちにとっては認めがたいことかもしれないが……元マクスウェル大佐隊は短期間でも護衛に回ってよかった。
元護衛のダーナ大佐隊が強いのは、護衛隊形をとれる下地があるからだ。七班長……いや、ヴァラク大佐の元マクスウェル大佐隊も、私とコールタン大佐の指揮下にいたことがあるから護衛隊形をとれる。ドレイク大佐隊は三隻だけだから隊形はほとんど意味がないが、それでも元マクスウェル大佐隊の六班長が護衛隊形を知っている。
つまり、現時点で護衛隊形をとれない砲撃は、うちの元ウェーバー大佐隊とアルスター大佐隊――左翼の砲撃だけなんだ。これが右翼に比べて左翼が〝弱い〟と言われる要因の一つになっているんじゃないかと私は思っているよ」
エリゴール
「……今まで考えたこともなかったです」
パラディン
「そうだね。私も今日の演習を見るまで、確信は持てずにいた。……いったいいつからあんなに変幻自在に隊形を変えられるようになっていたんだい?」
エリゴール
「大佐殿の隊に転属されてからですね。いざというとき、護衛隊形から砲撃隊形にすぐに移行できるように訓練しました。ですから、それは得意ですが、逆に砲撃隊形から護衛隊形に移行するのは少し苦手です。これからはそれもスムーズにできるようにしないといけませんね」
パラディン
「……私はそんな指示をした覚えはないが……」
エリゴール
「自主練です。自分たちは〝護衛の護衛〟でありたいと思っていましたので。やはり砲撃出身ですから、砲撃隊形がいちばんとりやすいんです……どうしました?」
パラディン
「いや、感動して涙が……本当に君たち、いい子たちばかりだねえ……厄介だなんて思ったりしてごめんね」
エリゴール
「それはそう思われても仕方がないと思いますが……やっぱり思われていたんですね」
パラディン
「今はそんなことは思っていないよ。君らは私の自慢の隊員たちだ。できることなら君らだけで隊を作りたいが、殿下の命令は〝元第二分隊〟の指揮だ。申し訳ないが、もうしばらく、彼らの刺激材料でいてくれないか?」
エリゴール
「了解いたしました」
パラディン
「ところで、エリゴール中佐。前回の演習のときにも訊いたが、今回の演習、もし君が一班長だったら、どう元ウェーバー大佐隊を動かしていた?」
エリゴール
「やはり、まず退役願を……」
パラディン
「それはなしで」
エリゴール
「それなら、今回は自分も一班長と同じ指揮をとっていたと思います」
パラディン
「意外だね」
エリゴール
「今回の演習の目的は〝勝つ〟ことではありませんから。もしそれにこだわるんでしたら、隊の半分は捨てて、この軍艦の警戒と対応に当たらせます。目的はわからなくても大佐殿が何かしでかすことだけは明確ですから。五十隻対二十隻なら、我々に〝全艦殲滅〟されることはなかったと思うのですが……」
パラディン
「……試してみようか?」
エリゴール
「そろそろ普通の演習・訓練をしてください」
パラディン
「普通じゃアルスター大佐隊に勝てないだろう」
エリゴール
「その目標もどうかと」
パラディン
「でも、これがいちばん元ウェーバー大佐隊をやる気にさせるからね。アルスター大佐隊の〝下働き〟からはもう卒業させてあげよう。私の〝栄転〟回避のために!」
エリゴール
「……大佐殿。自分は今までずっと疑問に思っていたのですが……なぜ殿下はマクスウェル大佐殿とウェーバー大佐殿をもっと早い時期に〝栄転〟にしなかったのでしょう?」
パラディン
「うん、その答えなら簡単だ。ドレイク大佐がいなかったからだ」
エリゴール
「はい?」
パラディン
「殿下は『連合』の侵攻を受けたとき、無人艦の大量導入に反対した幹部は容赦なく〝栄転〟にした。そうしたら、残った〝大佐〟の中にあの二人が紛れこんでしまった。とにかく殿下には余裕がなかったからね、有人艦の人事はこの際、後回しにすることにした。しかし、無人艦の遠隔操作がほぼ完璧にできるようになって、今度は有人艦の出来の悪さが目につきはじめた。そろそろ有人艦のほうをどうにかしなければと考えていたところで、あのドレイク大佐がうちに亡命してきた。彼の邪魔をしなかったら、ウェーバー大佐とマクスウェル大佐は〝栄転〟にならなかったかもしれないね」
エリゴール
「では、ドレイク大佐殿にとって、アルスター大佐殿は〝邪魔〟ではないわけですか」
パラディン
「うーん。今のところは、かな。そこが最年長者の老獪なところだ。でも、きっとドレイク大佐は、この艦隊のためにならないと思ったら、殿下にアルスター大佐を切らせる。我々はそれを少しでも早めるためにアルスター大佐隊に勝つ」
エリゴール
「何というか……この艦隊は殿下ではなくドレイク大佐殿のものになっていませんか?」
パラディン
「まあ、はっきり言ってそうだね。だが、彼がここに亡命してきてくれたおかげで、戦闘時間は著しく短縮され、無人艦の〝無駄遣い〟は減り、『連合』からドレイク大佐と〈ワイバーン〉が消えてくれた。特に最後のがいちばん大きい。彼が今でも『連合』にいたら、きっと何度でも生きて帰って、いつかはこの艦隊を撤退させていたよ」
エリゴール
「……見てみたかった気もしますね」
パラディン
「何をだい?」
エリゴール
「ドレイク大佐殿が有人艦三〇〇〇隻で、この艦隊を撤退させるところをです」
パラディン
「ああ、それは私もぜひ見てみたかったね。でも、ドレイク大佐はもう『帝国』の人になってしまったからね。……殿下は『連合』のように彼を逃がしたりはしないよ」
エリゴール
「……今、急にドレイク大佐殿に親近感を持ちました」
パラディン
「そうかい。私は最近、殿下に共感できるようになったよ」
副長
「本当に、放っておけば冷静さを取り戻すんですね」
モルトヴァン
「それでも、少しずつ取り戻せない箇所が増えてきていますが」
副長
「ああ、確かに口調と表情が、一班長相手のときとは全然違う……」
モルトヴァン
「元ウェーバー大佐隊員たちにはとても見せられません……」
副長
「元マクスウェル大佐隊員たちはいいんですか?」
モルトヴァン
「はい。〝賢くて気が利くいい子たち〟なので。……エリゴール中佐以外」
副長
「ええ?」
モルトヴァン
「おまけに、戦闘面でも〝いい子たち〟ですからね。……エリゴール中佐は、本当に自分なしでも元マクスウェル大佐隊が回るようにしているようです」
副長
「え、しかし、作戦はすべて彼が立てているんでしょう?」
モルトヴァン
「大佐に丸投げされるから仕方なくですよ。本当は大佐が自分で作戦を立てられることもエリゴール中佐はわかっているような気がします。彼としては、元マクスウェル大佐隊を大佐の命令に絶対服従するように〝調教〟して、大佐が護衛に戻ったときに自分が退役できればそれでいいんでしょう」
副長
「どうして……」
モルトヴァン
「それが、エリゴール中佐なりの大佐への〝恩返し〟なんでしょう。ああして大佐と話しているのも」
副長
「……エリゴール中佐にとって、七班長は〝悪魔〟というより〝神〟だったようですね」
モルトヴァン
「大佐が砲撃担当でいる間に、宗旨替えしてくれればいいのですが」
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