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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

27【リハビリついでに演習編07】パラディン大佐親衛隊的作戦変更

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【パラディン大佐隊・第十一班第一号待機室】

ロノウェ
「『じゃ、作戦はまた君たちで考えておいてね』。――大佐は笑顔で俺たちに丸投げしていった」

エリゴール
「俺には演習のことなんて一言も言わなかったぞ……」

ザボエス
「おまえとは、演習以外のことを話したかったんだろ。……たぶん」

エリゴール
「一昨日演習したばかりで、また演習か……まあ、明日の演習の本当の目的は、俺らのリハビリなんだろうが」

ロノウェ
「何?」

エリゴール
「一昨日、演習が終わった後、大佐が一班長に映像通信入れたときに言っていた。俺らに元ウェーバー大佐隊の相手させたのは、半分は〝足止め〟で、もう半分は俺らの〝リハビリ〟だったとさ」

ロノウェ
「そんな……俺らの作戦上は〝足止め〟オンリーだったろ?」

ザボエス
「丸投げしといて、勝手に目的追加するか。……でも、パラディン大佐だからいい」

エリゴール
「本気で入れ替えするには、やっぱりおまえらのブランクにまだ不安があるんだろ。……〝全艦殲滅〟されたからな」

ロノウェ
「貴様ぁ……自分は大佐の軍艦ふねに乗ってたからすっかり他人事だなぁ……あの艦数差で元ウェーバー大佐隊が殲滅されるはずねえだろうが!」

エリゴール
「ああ、そのとおりだ。でも、俺を乗せたがったのはおまえらのほうだろ。俺は出撃以外であの軍艦ふねには乗りたくなかった!」

ヴァッサゴ
「まあまあ。そのおかげで〝リハビリ〟のこともわかったんだし」

ザボエス
「じゃあ、今回の元ウェーバー大佐隊は、完全に俺らのダシに使われたわけか?」

エリゴール
「さすがに〝完全に〟ではないだろうが……俺らは〝確実に〟元ウェーバー大佐隊の発憤材料にはされてるな」

ヴァッサゴ
「綺麗な顔して、考えることは鬼畜……」

ロノウェ
「だから、俺らにだけ差し入れくれたのか?」

レラージュ
「それなら鬼畜じゃないでしょう」

ロノウェ
「アメとムチ?」

ヴァッサゴ
「まさに調教……むしろ、そのほうが質が悪い……」

ザボエス
「まあこの際、大佐の真の狙いは置いといて、明日の演習の作戦はどうする? 今度は正攻法で行って〝全艦殲滅〟されるか?」

エリゴール
「……俺はそれでもいいけどな」

ロノウェ
「嫌だぁ! それは悔しい!」

エリゴール
「同数以上ならともかく、こっちは護衛艦二十一隻だぞ? 一昨日の演習だって、奇襲みたいなもんだったから、大佐の〈オートクレール〉は突破できたんだ」

ザボエス
「せめて、大佐の軍艦ふねだけは落とされたくねえやな」

エリゴール
「……一昨日の演習や、今回の大佐の発言から推測するに、元ウェーバー大佐隊はできるだけ『連合』を真似て攻撃してくる。ただ、向こうも俺らと同じく艦数不足だ。本来ならあそこは七〇〇隻もいるからな」

ザボエス
「うちは五分の一で、向こうは七分の一か。それだけ聞くと、うちのほうが有利に思えてくるな」

ヴァッサゴ
「実際の艦数言ったら、がっかりするけどな」

エリゴール
「元ウェーバー大佐隊があくまで〝撤退〟にこだわるんなら、おそらく、ドレイク大佐が最短で旗艦を落とした時間が経過するまで撤退はしない。でも、元ウェーバー大佐隊とまともにやりあったら、うちはきっとその時間内に〝全艦殲滅〟させられる」

ザボエス
「だろうな。……ちなみに、時間は約五十分。いったいどこまで更新するつもりなんだろうな、ドレイク大佐」

エリゴール
「俺はたぶん、一桁台をめざしてると思うぜ。……五十分か。その間、どうやって元ウェーバー大佐隊を〝前に押し戻す〟か」

ロノウェ
「え? 今回、それをやるのか?」

エリゴール
「やらなきゃこっちがやられちまうだろうが。……あー、やっぱり今回も〝詐欺〟か。大佐はきっと大喜びするだろうけどな」

ロノウェ
「はあ?」

エリゴール
「先に言っとくが、俺はもう大佐の軍艦ふねには乗らねえからな。乗らなきゃならねえ理由はまったくねえ!」

ヴァッサゴ
「いや……おまえはそう思ってても、大佐は思ってないんじゃ……」

ザボエス
「まあ、今回は俺らも強要はしねえが……大佐への作戦説明は、やっぱりおまえがしにいけよ。俺らじゃ想定外の質問されたら答えられねえ」

エリゴール
「おまえらも、少しは考える努力をしろよ」

ロノウェ
「そんなの時間の無駄無駄無駄。元ウェーバー大佐隊が凡人なら、俺らは凡人以下だ」

エリゴール
「少しは賢くなってるな」

ロノウェ
「……早く凡人になりてえ」

 ***

【パラディン大佐隊・執務室】

パラディン
「え……君は十一班の軍艦ふねに乗るのかい?」

エリゴール
「はい。自分の所属は十一班ですので」

パラディン
「で、でも、一昨日は私の軍艦ふねに乗ってくれたじゃないか!」

エリゴール
「説明係が必要かと思ったのですが、実際に乗せていただいて、それはまったく無用だということがよくわかりました。あのときは無理を言って申し訳ありませんでした」

パラディン
「無用だなんて……やっぱり君は必要だよ! 私の軍艦ふねに乗るべきだよ!」

エリゴール
「では、自分はいったい何のために必要なのですか? 作戦上のことでしたら、この計画書と通信だけで充分事足りると思うのですが?」

パラディン
「……参加しない」

エリゴール
「はい?」

パラディン
「君が私の軍艦ふねに乗ってくれないんなら、私は今回の演習には参加しないっ!」

エリゴール
「……では、大佐が参加しなくても済むように、作戦を考え直してきます」

パラディン
「ええっ! なぜそこで私の軍艦ふねに乗ろうとは考え直さないんだい!?」

エリゴール
「大佐が納得のいく理由を答えてくださらないので」

パラディン
「……君の意見をリアルタイムで聞きたいからだ」

エリゴール
「自分の?」

パラディン
「君たち元マクスウェル大佐隊員は、元ウェーバー大佐隊員や私とは違った物の見方をする。私にはそれがとてもいい刺激になっているんだ。君はうちにいる元マクスウェル大佐隊員の代表みたいなものだろう? 私が話したことは君を通して彼らに伝わっているし、彼らが君に話したことも私に伝わっていると思う。だからその……」

エリゴール
「わかりました。そういうことでしたら、乗艦させていただきます」

パラディン
「……え?」

エリゴール
「ただし、実戦時には十一班の軍艦ふねに乗艦いたします。……意見を述べている段階ではすでにないと思いますので」

パラディン
「え、まあ……それはそうだね」

エリゴール
「それでは班に戻ります。失礼いたします」

パラディン
「あ、ああ……」

 エリゴール、退室。
 パラディンは執務机に突っ伏す。
 
パラディン
「駄目かと思った……!」

モルトヴァン
「私も駄目かと思いましたが……今回はもっともらしい理由をよくでっち上げられましたね」

パラディン
「失敬な。まったくのでっち上げというわけでもない。だから何とか答えられたんじゃないか」

モルトヴァン
「まあ、エリゴール中佐もそう思ったから、作戦を考え直すのを考え直してくれたんでしょうが……それにしても、元マクスウェル大佐隊員には伝わっていることが、どうしてエリゴール中佐にはいっこうに伝わらないんでしょうね……」

パラディン
「ああ……それは私も本当に不思議に思っているよ……」

 ***

【パラディン大佐隊・第十一班第一号待機室】

ロノウェ
「やっぱり、大佐の軍艦ふねに乗ることになったか……」

エリゴール
「やっぱりって何だよ。俺の意見云々はともかく、大佐が何を考えてるか探る機会にはなると思い直したんだよ。あと、今からまた作戦考え直すのが面倒になった」

ロノウェ
「スパイ動機かよ。大佐もひでえが、おまえも大概ひでえな」

エリゴール
「……こういうことができる俺だから、さっさと退役したかったんだよ」

ヴァッサゴ
「エリゴール……」

エリゴール
「まったく……こんな調子じゃ、いつになったら退役できるんだかわかりゃしねえ」

 エリゴール、退室。
 班員たち、安堵する(ゲアプは不在)。

ロノウェ
「……やさぐれてるな」

ザボエス
「やっぱり、ヴァラクがいきなり〝大佐〟になっちまったのがショックだったんじゃねえか? 大佐の露骨すぎる好意もうぜえだけなんだろ」

ヴァッサゴ
「でも、なぜだろう……この状況を面白がっている自分が心の中にいる……」

ザボエス
「安心しろ。たぶん、ここにいるほとんどがそうだ」

ロノウェ
「俺らも悪魔だな……」
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