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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)
44【悪魔の居場所編09】副長じゃない
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【パラディン大佐隊・旗艦〈オートクレール〉ブリッジ】
パラディン
「やっぱり、君らの軍艦に囲まれていたほうが落ち着くね。気分的に」
エリゴール
「……自分はやはり、十一班の軍艦に移るべきだと思うのですが」
パラディン
「君の指示がなければ、十一班は動けないのかい?」
エリゴール
「そんなことはありませんが……自分が今この軍艦にいるのはフェアではない気がします」
パラディン
「大丈夫。訓練中は君がここで何を言っても、十一班長の軍艦の後ろについて動く以上のことはさせないよ。私も不正行為はしたくないからね」
エリゴール
「はあ……しかし、訓練中は自分は黙っていることにします」
パラディン
「ええ! 駄目だよ! 何かしゃべってよ! 寂しくてたまらないよ!」
エリゴール
「……副官殿を……」
パラディン
「君じゃなきゃ駄目だよ! できたらさっきみたいな普段着言葉でしゃべってよ!」
エリゴール
「……上官にあのような言葉遣いはできません」
パラディン
「じょ、上官だと思わないで……」
エリゴール
「大佐殿は上官です」
パラディン
「上官差別だ……」
エリゴール
「意味がわかりません」
副長
「あんなに大佐の身は案じてくれるのに、なぜ大佐本人にはあれほどつれないんでしょう……」
パラディン
「〝それはそれ、これはこれ〟なんでしょう。エリゴール中佐の最終目的は、大佐を元の護衛に戻して、自分の退役願を受理してもらうことですから」
副長
「乱暴に言ってしまうと、大佐さえ無事なら、あとはどうでもいいと思っているということですか?」
モルトヴァン
「一応、大佐を上官として扱う気持ちはあるようです」
副長
「あれで?」
モルトヴァン
「あの状態の大佐に下手に優しい言葉をかけたりしたら、ますます暴走していくだけです。エリゴール中佐の対応は適切だと思います」
副長
「暴走……」
モルトヴァン
「大佐を暴走させているのはエリゴール中佐ですが、その暴走を適当なところで食い止めているのもエリゴール中佐なんです。……恨めしいやら有り難いやら……」
副長
「エリゴール中佐は今、心の中で、大佐のことをどう思っているんでしょうね……」
モルトヴァン
「さあ……たぶん、〝うざい上官〟と思っているのはないでしょうか……」
***
【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】
フィリップ
「やっぱり〝凡人隊形〟で来たな」
ハワード
「あれは〝移動隊形〟だろ。何でも〝凡人〟をくっつけるな」
フィリップス
「そのほうがわかりやすいだろ。〈オートクレール〉の位置も〝凡人〟だ。ここまではあんたの読みどおりだったな、〝親衛隊長〟希望」
ハワード
「だが、ここから先はほとんど読めん。おそらく、向こうはもう俺たちが十二班の〝囲いこみ〟で来るのは予測しているだろうが、あれの対抗策は上段と下段がそれぞれ左右に〝頭〟を向けて対応することくらいしかない。しかし、それをすると、班長艦の後ろの〈オートクレール〉の守りががら空きになる。それでうちは十二班にやられまくった」
フィリップス
「一応、読んでるんじゃないか」
ハワード
「この程度、読みのうちにも入らない。いったいどうする気だ、十一班」
フィリップス
「たぶん、今回も凡人には思いつかないことをするんだろうな……」
ハワード
「やる前から諦めるな、副長」
フィリップス
「いやもう、今となっては、今度は奴らがどんな策をとるのか、見るのが楽しみになってきた。もし仮に、これであの十一班が勝ったとしたら、十二班より十一班のほうが〝強い〟ということになるな」
ハワード
「それは一概には言えんだろ。十二班だって、十一班が相手なら、俺たちのときとは違う策をとるんじゃないのか?」
フィリップス
「フッ……凡人には凡人用で充分か……」
ハワード
「当然だろ。そして、凡人は凡人にできることを精一杯やるしかない。……三十分以内に〝全艦殲滅〟される前に〈オートクレール〉を撃つ」
フィリップス
「親衛隊相手にそれができたら、もう凡人じゃないな」
***
【パラディン大佐隊・第十一班第一号ブリッジ】
ロノウェ
「最初から二隊に分けてくるかと思ったが……」
レラージュ
「それじゃ作戦がバレバレになるからでしょう」
ロノウェ
「どうせもうバレバレじゃねえか。……十二班と同じ手で来る気だろ?」
レラージュ
「それでも一応わからないようにしておきたいんじゃないですか?」
ロノウェ
「無駄だなあ。分けときゃその分、早く移動できるのに」
レラージュ
「班長にもわかることが、どうして一班長にはわからないんでしょうね」
ロノウェ
「俺よりプライド高えからじゃねえのか?」
レラージュ
「班長……頭のよくなる薬でも服用してるんですか?」
ロノウェ
「何だよそりゃ。さっきエリゴールにも言われたが、俺が賢くなっちゃいけねえのか?」
レラージュ
「馬鹿じゃない班長なんか班長じゃない……」
ロノウェ
「副長のおまえは負担が減っていいだろ」
レラージュ
「……三十分以内に終了されたら、俺、副長やめます」
ロノウェ
「え? やっぱり俺は馬鹿だってことだから、おまえがやめるのは変じゃねえか?」
レラージュ
「やっぱり馬鹿じゃなくなってる……ゼロ・アワーです」
ロノウェ
「大事なことを付け足しみてえに言うなよ」
***
【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】
フィリップス
「やっぱり見透かされてたな。上下同時に左右旋回……にしても、はええ!」
ハワード
「おまけに、旋回しながら隊形変えて砲撃もしてやがる……最後列の二隻は班長艦の盾、第二列は……反転?」
フィリップス
「副班長隊のほうは、隊形は砲撃隊形だが、最終列が反転してる……ってことはつまり?」
ハワード
「左も右も、結局五隻ずつ俺たちを攻撃してることになる。しかも、班長艦と副班長艦は〈オートクレール〉を前後に挟んで守ってる。とんでもない変形隊形……あれでどうしてぶつからない?」
フィリップス
「それはもう……親衛隊マジック?」
ハワード
「オペレータ! 残存戦力は!」
オペレータ
「うちは六隻! 十一班は……十隻です……」
フィリップス
「……嘘だろ?」
ハワード
「俺たちの側だけ攻撃位置を左にずらせ。隊形が崩れて〈オートクレール〉を撃つ隙ができるかもしれん」
クルーA
「了解!」
ハワード
「……駄目か! まるでいくつも目がある怪物みたいだ……」
オペレータ
「班長! 残存戦力、うちは五隻、十一班は九隻になりました!」
フィリップス
「一隻は落とせたのか。……その一隻、訓練終わったら仕置きされるな」
ハワード
「時間は!」
オペレータ
「十三分四十三秒経過しました!」
フィリップス
「あと約十六分か……」
ハワード
「あいつらの集中力が切れるのを待つか、いちかばちかで強行突破するか……」
フィリップス
「集中力か……こっちが先に切れそうだな」
ハワード
「こっちが完璧に有利なはずなのにな……あんな隊形、どうやって思いついたんだ?」
フィリップス
「……きっと、大佐を守ることしか考えなかったんだろうな……」
ハワード
「え?」
フィリップス
「うちも班長艦と副班長艦で〈オートクレール〉の両脇を固めたが、あの隊形には妄執を感じる」
ハワード
「……そうか、俺たちに足りないものは、大佐への愛だったのか!」
フィリップス
「いや……否定はしないが、もっと他に足りないものがあるんじゃないか?」
オペレータ
「今、十五分経過しました! 残存戦力変化なし!」
ハワード
「……膠着状態になったな」
フィリップス
「二十九分五十九秒でも、〈オートクレール〉を撃てれば俺たちの勝ちになるが……このままいくと、俺たちの記録は破られるかもな」
ハワード
「記録?」
フィリップス
「〝十七分五十八秒〟」
ハワード
「ああ……凡人としてはどうするかね。それを突破される前に動くか?」
フィリップス
「……狙うとしたら副班長艦のほうだな。〈オートクレール〉は班長艦の尻に頭を向けている。後ろからじゃ〈オートクレール〉も避けきれないだろ」
ハワード
「え、〈オートクレール〉が自発的に避けるのありか?」
フィリップス
「俺たちのときにはしてくれなかったが、今回はしそうな気がする」
ハワード
「ずるい……」
フィリップス
「でも、うちの副班長隊はもう二隻しか残っていない。二隻で中央突破。……できるかな?」
ハワード
「厄介だな。こうして悩んでる間にも、時間はどんどん過ぎていく。潜りこんで下から〈オートクレール〉を撃とうとしても、向こうもそれを察知して、俺たちを行かせないようにする」
フィリップス
「……大佐はきっと、こういうのを期待してたんだよな……」
ハワード
「ご期待に添えず、申し訳ありませんでした……!」
オペレータ
「班長! うちの残存戦力、四隻になりました! 十一班は九隻のままです!」
フィリップス
「やっぱり、うちの集中力のほうが先に切れ出した」
ハワード
「艦数も約半分だからな。……経過時間は?」
オペレータ
「十八分〇三秒です!」
フィリップス
「とうとう記録も破られたな」
ハワード
「なら、もういいか。……通信士。他の三隻に連絡しろ。今から十一班の副班長艦、班長艦を集中的に攻撃しろと。俺たちはその間に〈オートクレール〉を横から撃ちにいく」
通信士
「……了解」
ハワード
「ああ、ついでに一言。……〝後は頼む〟」
フィリップス
「〝頼む〟って……班長艦にできなかったことをか? それでできちまったら、俺たちの立場がないだろ」
ハワード
「できる者ができればいい。……前から思ってたが、俺は本当に班長の器じゃないな。最近しみじみそう思うようになった」
フィリップス
「班長……」
ハワード
「フィリップス。おまえ、班長やるか?」
フィリップス
「こんな割りの悪い役職、俺はごめんだね」
ハワード
「……頭のいい奴はみんなそう言う」
***
【パラディン大佐隊・第十一班第一号ブリッジ】
オペレータ
「班長! 一班の班長艦が右舷に回りこんできました!」
ロノウェ
「やっと来るか。遅えなあ。もっと艦数あるときに来りゃあいいのに」
レラージュ
「班長……俺の知らない間に、脳の入れ替え手術しましたか?」
ロノウェ
「誰の脳とだよ」
***
【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】
ハワード
「今だ! てー……何?」
フィリップス
「訓練だからかねえ……〈オートクレール〉庇って被弾しやがった……」
オペレータ
「班長! 上から……!」
被弾。ブリッジに警告音が鳴り響く。
ハワード
「……また今日もこれを聞かされる羽目になったか……」
フィリップス
「まあ、今日は大佐にさんざん聞かせちまったからな。警告音の一回や二回、俺たちも聞いて当然だ」
オペレータ
「班長……今……」
ハワード
「……全滅か?」
オペレータ
「はい……十一班の残存戦力は七隻……経過時間は二十三分十二秒でした……」
フィリップス
「あと残り約七分……あいつら何して過ごすのかな……」
ハワード
「さあ……って、また変形?」
フィリップス
「……元の〝凡人隊形〟に戻った……」
ハワード
「まだそれを言うか」
***
【パラディン大佐隊・旗艦〈オートクレール〉ブリッジ】
パラディン
「君たち、本当にすごいね! あんな隊形、初めて見た! 元マクスウェル大佐隊なら、どの班でもできるのかい?」
エリゴール
「いえ、今のところ、この十一班だけだと思います。あの隊形を考案したのは、班長艦の副長でしょうから」
パラディン
「副長? 副班長ではなく?」
エリゴール
「十一班では、副班長ではなく、十一班長の副長がナンバー2です」
パラディン
「それはもう副長ではないのでは……副班長どころか班長クラス……」
エリゴール
「自分もそう思いますが、あの副長は班長艦の副長以外したがりませんので。十一班長もあの副長がいるから班長でいられているようなものですし」
パラディン
「……これ以上、彼らについては訊かないほうがいいのかな?」
エリゴール
「できれば」
パラディン
「……うらやましい」
エリゴール
「今のは聞かなかったことにします」
***
【パラディン大佐隊・第十一班第一号ブリッジ】
ロノウェ
「よっしゃー! 三十分以内に〝全艦殲滅〟! 完璧だぜ!」
レラージュ
「……でも、三隻、退場させられました……」
ロノウェ
「いや、一隻は〈オートクレール〉庇ってだし、あとの二隻も……」
レラージュ
「それでも退場させられたのは事実です。しかも、時間もかかりすぎ! あれほど〝十七分五十八秒〟未満で〝全艦殲滅〟しろと言ったのに!」
ロノウェ
「だから、その時間は関係ねえだろ。初めてとった隊形で、一班相手に〝全艦殲滅〟で勝てたんだから、それでもういいじゃねえか」
レラージュ
「班長、性格も変わった!」
ロノウェ
「おまえのほうが変わりすぎだよ!」
クルーA
「いったいいつまでこの痴話喧嘩もどきを聞いてなくちゃならないんだ……」
クルーB
「たぶん、三十分経過するまでじゃないか?」
クルーA
「あと何分だ?」
クルーB
「うわー……まだ五分もある……」
クルーA
「もっと粘れよ、一班! それでも一班か!」
クルーB
「でも、下手に粘られたら粘られたで、さらにレラージュの怒りが……」
クルーA
「何か……班長のほうが副長みたいだな」
クルーB
「今さらだろ」
ゲアプ
(〝痴話喧嘩もどき〟、ありがとうございます! どんな労いの言葉よりも尊いです!)
パラディン
「やっぱり、君らの軍艦に囲まれていたほうが落ち着くね。気分的に」
エリゴール
「……自分はやはり、十一班の軍艦に移るべきだと思うのですが」
パラディン
「君の指示がなければ、十一班は動けないのかい?」
エリゴール
「そんなことはありませんが……自分が今この軍艦にいるのはフェアではない気がします」
パラディン
「大丈夫。訓練中は君がここで何を言っても、十一班長の軍艦の後ろについて動く以上のことはさせないよ。私も不正行為はしたくないからね」
エリゴール
「はあ……しかし、訓練中は自分は黙っていることにします」
パラディン
「ええ! 駄目だよ! 何かしゃべってよ! 寂しくてたまらないよ!」
エリゴール
「……副官殿を……」
パラディン
「君じゃなきゃ駄目だよ! できたらさっきみたいな普段着言葉でしゃべってよ!」
エリゴール
「……上官にあのような言葉遣いはできません」
パラディン
「じょ、上官だと思わないで……」
エリゴール
「大佐殿は上官です」
パラディン
「上官差別だ……」
エリゴール
「意味がわかりません」
副長
「あんなに大佐の身は案じてくれるのに、なぜ大佐本人にはあれほどつれないんでしょう……」
パラディン
「〝それはそれ、これはこれ〟なんでしょう。エリゴール中佐の最終目的は、大佐を元の護衛に戻して、自分の退役願を受理してもらうことですから」
副長
「乱暴に言ってしまうと、大佐さえ無事なら、あとはどうでもいいと思っているということですか?」
モルトヴァン
「一応、大佐を上官として扱う気持ちはあるようです」
副長
「あれで?」
モルトヴァン
「あの状態の大佐に下手に優しい言葉をかけたりしたら、ますます暴走していくだけです。エリゴール中佐の対応は適切だと思います」
副長
「暴走……」
モルトヴァン
「大佐を暴走させているのはエリゴール中佐ですが、その暴走を適当なところで食い止めているのもエリゴール中佐なんです。……恨めしいやら有り難いやら……」
副長
「エリゴール中佐は今、心の中で、大佐のことをどう思っているんでしょうね……」
モルトヴァン
「さあ……たぶん、〝うざい上官〟と思っているのはないでしょうか……」
***
【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】
フィリップ
「やっぱり〝凡人隊形〟で来たな」
ハワード
「あれは〝移動隊形〟だろ。何でも〝凡人〟をくっつけるな」
フィリップス
「そのほうがわかりやすいだろ。〈オートクレール〉の位置も〝凡人〟だ。ここまではあんたの読みどおりだったな、〝親衛隊長〟希望」
ハワード
「だが、ここから先はほとんど読めん。おそらく、向こうはもう俺たちが十二班の〝囲いこみ〟で来るのは予測しているだろうが、あれの対抗策は上段と下段がそれぞれ左右に〝頭〟を向けて対応することくらいしかない。しかし、それをすると、班長艦の後ろの〈オートクレール〉の守りががら空きになる。それでうちは十二班にやられまくった」
フィリップス
「一応、読んでるんじゃないか」
ハワード
「この程度、読みのうちにも入らない。いったいどうする気だ、十一班」
フィリップス
「たぶん、今回も凡人には思いつかないことをするんだろうな……」
ハワード
「やる前から諦めるな、副長」
フィリップス
「いやもう、今となっては、今度は奴らがどんな策をとるのか、見るのが楽しみになってきた。もし仮に、これであの十一班が勝ったとしたら、十二班より十一班のほうが〝強い〟ということになるな」
ハワード
「それは一概には言えんだろ。十二班だって、十一班が相手なら、俺たちのときとは違う策をとるんじゃないのか?」
フィリップス
「フッ……凡人には凡人用で充分か……」
ハワード
「当然だろ。そして、凡人は凡人にできることを精一杯やるしかない。……三十分以内に〝全艦殲滅〟される前に〈オートクレール〉を撃つ」
フィリップス
「親衛隊相手にそれができたら、もう凡人じゃないな」
***
【パラディン大佐隊・第十一班第一号ブリッジ】
ロノウェ
「最初から二隊に分けてくるかと思ったが……」
レラージュ
「それじゃ作戦がバレバレになるからでしょう」
ロノウェ
「どうせもうバレバレじゃねえか。……十二班と同じ手で来る気だろ?」
レラージュ
「それでも一応わからないようにしておきたいんじゃないですか?」
ロノウェ
「無駄だなあ。分けときゃその分、早く移動できるのに」
レラージュ
「班長にもわかることが、どうして一班長にはわからないんでしょうね」
ロノウェ
「俺よりプライド高えからじゃねえのか?」
レラージュ
「班長……頭のよくなる薬でも服用してるんですか?」
ロノウェ
「何だよそりゃ。さっきエリゴールにも言われたが、俺が賢くなっちゃいけねえのか?」
レラージュ
「馬鹿じゃない班長なんか班長じゃない……」
ロノウェ
「副長のおまえは負担が減っていいだろ」
レラージュ
「……三十分以内に終了されたら、俺、副長やめます」
ロノウェ
「え? やっぱり俺は馬鹿だってことだから、おまえがやめるのは変じゃねえか?」
レラージュ
「やっぱり馬鹿じゃなくなってる……ゼロ・アワーです」
ロノウェ
「大事なことを付け足しみてえに言うなよ」
***
【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】
フィリップス
「やっぱり見透かされてたな。上下同時に左右旋回……にしても、はええ!」
ハワード
「おまけに、旋回しながら隊形変えて砲撃もしてやがる……最後列の二隻は班長艦の盾、第二列は……反転?」
フィリップス
「副班長隊のほうは、隊形は砲撃隊形だが、最終列が反転してる……ってことはつまり?」
ハワード
「左も右も、結局五隻ずつ俺たちを攻撃してることになる。しかも、班長艦と副班長艦は〈オートクレール〉を前後に挟んで守ってる。とんでもない変形隊形……あれでどうしてぶつからない?」
フィリップス
「それはもう……親衛隊マジック?」
ハワード
「オペレータ! 残存戦力は!」
オペレータ
「うちは六隻! 十一班は……十隻です……」
フィリップス
「……嘘だろ?」
ハワード
「俺たちの側だけ攻撃位置を左にずらせ。隊形が崩れて〈オートクレール〉を撃つ隙ができるかもしれん」
クルーA
「了解!」
ハワード
「……駄目か! まるでいくつも目がある怪物みたいだ……」
オペレータ
「班長! 残存戦力、うちは五隻、十一班は九隻になりました!」
フィリップス
「一隻は落とせたのか。……その一隻、訓練終わったら仕置きされるな」
ハワード
「時間は!」
オペレータ
「十三分四十三秒経過しました!」
フィリップス
「あと約十六分か……」
ハワード
「あいつらの集中力が切れるのを待つか、いちかばちかで強行突破するか……」
フィリップス
「集中力か……こっちが先に切れそうだな」
ハワード
「こっちが完璧に有利なはずなのにな……あんな隊形、どうやって思いついたんだ?」
フィリップス
「……きっと、大佐を守ることしか考えなかったんだろうな……」
ハワード
「え?」
フィリップス
「うちも班長艦と副班長艦で〈オートクレール〉の両脇を固めたが、あの隊形には妄執を感じる」
ハワード
「……そうか、俺たちに足りないものは、大佐への愛だったのか!」
フィリップス
「いや……否定はしないが、もっと他に足りないものがあるんじゃないか?」
オペレータ
「今、十五分経過しました! 残存戦力変化なし!」
ハワード
「……膠着状態になったな」
フィリップス
「二十九分五十九秒でも、〈オートクレール〉を撃てれば俺たちの勝ちになるが……このままいくと、俺たちの記録は破られるかもな」
ハワード
「記録?」
フィリップス
「〝十七分五十八秒〟」
ハワード
「ああ……凡人としてはどうするかね。それを突破される前に動くか?」
フィリップス
「……狙うとしたら副班長艦のほうだな。〈オートクレール〉は班長艦の尻に頭を向けている。後ろからじゃ〈オートクレール〉も避けきれないだろ」
ハワード
「え、〈オートクレール〉が自発的に避けるのありか?」
フィリップス
「俺たちのときにはしてくれなかったが、今回はしそうな気がする」
ハワード
「ずるい……」
フィリップス
「でも、うちの副班長隊はもう二隻しか残っていない。二隻で中央突破。……できるかな?」
ハワード
「厄介だな。こうして悩んでる間にも、時間はどんどん過ぎていく。潜りこんで下から〈オートクレール〉を撃とうとしても、向こうもそれを察知して、俺たちを行かせないようにする」
フィリップス
「……大佐はきっと、こういうのを期待してたんだよな……」
ハワード
「ご期待に添えず、申し訳ありませんでした……!」
オペレータ
「班長! うちの残存戦力、四隻になりました! 十一班は九隻のままです!」
フィリップス
「やっぱり、うちの集中力のほうが先に切れ出した」
ハワード
「艦数も約半分だからな。……経過時間は?」
オペレータ
「十八分〇三秒です!」
フィリップス
「とうとう記録も破られたな」
ハワード
「なら、もういいか。……通信士。他の三隻に連絡しろ。今から十一班の副班長艦、班長艦を集中的に攻撃しろと。俺たちはその間に〈オートクレール〉を横から撃ちにいく」
通信士
「……了解」
ハワード
「ああ、ついでに一言。……〝後は頼む〟」
フィリップス
「〝頼む〟って……班長艦にできなかったことをか? それでできちまったら、俺たちの立場がないだろ」
ハワード
「できる者ができればいい。……前から思ってたが、俺は本当に班長の器じゃないな。最近しみじみそう思うようになった」
フィリップス
「班長……」
ハワード
「フィリップス。おまえ、班長やるか?」
フィリップス
「こんな割りの悪い役職、俺はごめんだね」
ハワード
「……頭のいい奴はみんなそう言う」
***
【パラディン大佐隊・第十一班第一号ブリッジ】
オペレータ
「班長! 一班の班長艦が右舷に回りこんできました!」
ロノウェ
「やっと来るか。遅えなあ。もっと艦数あるときに来りゃあいいのに」
レラージュ
「班長……俺の知らない間に、脳の入れ替え手術しましたか?」
ロノウェ
「誰の脳とだよ」
***
【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】
ハワード
「今だ! てー……何?」
フィリップス
「訓練だからかねえ……〈オートクレール〉庇って被弾しやがった……」
オペレータ
「班長! 上から……!」
被弾。ブリッジに警告音が鳴り響く。
ハワード
「……また今日もこれを聞かされる羽目になったか……」
フィリップス
「まあ、今日は大佐にさんざん聞かせちまったからな。警告音の一回や二回、俺たちも聞いて当然だ」
オペレータ
「班長……今……」
ハワード
「……全滅か?」
オペレータ
「はい……十一班の残存戦力は七隻……経過時間は二十三分十二秒でした……」
フィリップス
「あと残り約七分……あいつら何して過ごすのかな……」
ハワード
「さあ……って、また変形?」
フィリップス
「……元の〝凡人隊形〟に戻った……」
ハワード
「まだそれを言うか」
***
【パラディン大佐隊・旗艦〈オートクレール〉ブリッジ】
パラディン
「君たち、本当にすごいね! あんな隊形、初めて見た! 元マクスウェル大佐隊なら、どの班でもできるのかい?」
エリゴール
「いえ、今のところ、この十一班だけだと思います。あの隊形を考案したのは、班長艦の副長でしょうから」
パラディン
「副長? 副班長ではなく?」
エリゴール
「十一班では、副班長ではなく、十一班長の副長がナンバー2です」
パラディン
「それはもう副長ではないのでは……副班長どころか班長クラス……」
エリゴール
「自分もそう思いますが、あの副長は班長艦の副長以外したがりませんので。十一班長もあの副長がいるから班長でいられているようなものですし」
パラディン
「……これ以上、彼らについては訊かないほうがいいのかな?」
エリゴール
「できれば」
パラディン
「……うらやましい」
エリゴール
「今のは聞かなかったことにします」
***
【パラディン大佐隊・第十一班第一号ブリッジ】
ロノウェ
「よっしゃー! 三十分以内に〝全艦殲滅〟! 完璧だぜ!」
レラージュ
「……でも、三隻、退場させられました……」
ロノウェ
「いや、一隻は〈オートクレール〉庇ってだし、あとの二隻も……」
レラージュ
「それでも退場させられたのは事実です。しかも、時間もかかりすぎ! あれほど〝十七分五十八秒〟未満で〝全艦殲滅〟しろと言ったのに!」
ロノウェ
「だから、その時間は関係ねえだろ。初めてとった隊形で、一班相手に〝全艦殲滅〟で勝てたんだから、それでもういいじゃねえか」
レラージュ
「班長、性格も変わった!」
ロノウェ
「おまえのほうが変わりすぎだよ!」
クルーA
「いったいいつまでこの痴話喧嘩もどきを聞いてなくちゃならないんだ……」
クルーB
「たぶん、三十分経過するまでじゃないか?」
クルーA
「あと何分だ?」
クルーB
「うわー……まだ五分もある……」
クルーA
「もっと粘れよ、一班! それでも一班か!」
クルーB
「でも、下手に粘られたら粘られたで、さらにレラージュの怒りが……」
クルーA
「何か……班長のほうが副長みたいだな」
クルーB
「今さらだろ」
ゲアプ
(〝痴話喧嘩もどき〟、ありがとうございます! どんな労いの言葉よりも尊いです!)
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これは、一つの海の物語。魂の邂逅、そして美しくも残酷な恋の物語。
※名無しの龍は愛されたい読了後推奨
※BLですが、性描写はなしです
※魚型魔物×孤独な魔族
※死ネタ含む

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。


ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
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