56 / 349
砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)
42【悪魔の居場所編07】パラディン大佐争奪戦・終了
しおりを挟む
【パラディン大佐隊・旗艦〈オートクレール〉ブリッジ】
パラディン
「これは困ったね。結局、どの班も私の軍艦を三十分間守りきることができなかった」
エリゴール
「嬉しそうに言わないでください。いったいどうするおつもりですか? まさか、もう一度対戦しろとでも?」
パラディン
「いくら私でもそんな酷なことは言わないよ。やはりここは守りきれた時間を重視すべきだろうね。そうすると〝十七分五十八秒〟の一班ということになる」
エリゴール
「……本当にそれでよろしいんですか?」
パラディン
「実戦では無人艦も出る。……私の軍艦が撃たれることはないだろう」
エリゴール
「……大佐殿。最後に一度だけ、我々にも機会を与えてくださいませんか?」
パラディン
「え?」
エリゴール
「今度はこの軍艦を三十分間守りきる側として、我々に〝訓練〟をさせてください」
パラディン
「エリゴール中佐……」
エリゴール
「そして、もし三十分間守りきることができたら、次の実戦に我々も参加させてください。……大佐殿の護衛のために」
パラディン
「……君の気持ちはとても嬉しいが、今回はもう入れ替えはしないと宣言してしまった。それに、私の護衛のために二班も……」
エリゴール
「いえ、一班のみで結構です。真の目的は大佐殿の護衛ですが、もちろん攻撃もいたします。この〝訓練〟をやりとげてみせれば、元ウェーバー大佐隊も文句は言えないでしょう。いや、言える資格などない!」
パラディン
「……わかったよ。君がそこまで言うのなら、元ウェーバー大佐隊に打診してみよう。元ウェーバー大佐隊のどの班と再戦したいのかね?」
エリゴール
「愚問ですよ、大佐殿。……パラディン大佐隊所属第一班。それ以外ありえません」
パラディン
「わかってはいたが、一応確認してみた。たぶん、一班長は喜んで応じるだろう。それで、君らはどちらの班で迎え撃つつもりかね?」
エリゴール
「その前に、通信を一つ入れさせていただいてもよろしいでしょうか?」
パラディン
「通信?」
エリゴール
「実際に戦うのは自分ではなくその班ですので、そこの班長に事情を説明しなければなりません。まずないでしょうが、彼が拒めば、もう一方の班に要請します」
パラディン
「それもそうだね。じゃあ、ここで……」
エリゴール
「あ、いえ、大佐殿の前では話しにくいので、あちらで通信をしたいのですが」
パラディン
「えー……何で?」
エリゴール
「我々の会話は、大佐殿には大変お聞き苦しいと思いますので」
パラディン
「そんなことはないと思うが……まあ、好きにしたまえ」
エリゴール
「ありがとうございます」
***
モルトヴァン
「エリゴール中佐が怒った……」
副長
「え? 今まで怒った姿を見せたことはないんですか?」
モルトヴァン
「まったくないことはありませんが、あんなふうに怒鳴ったのは初めて見ました」
副長
「元ウェーバー大佐隊の不甲斐なさに怒り心頭に発した……というところでしょうか?」
モルトヴァン
「おそらく。大佐はずっと護衛をしていましたから、エリゴール中佐は心配でならないのでしょう。おまけに、元ウェーバー大佐隊があんな調子では」
副長
「元ウェーバー大佐隊の肩を持つつもりはありませんが、勝手が違ったのだと思いますよ。実戦では十隻対十隻で戦うことなどまず考えられません」
モルトヴァン
「だからですよ」
副長
「え?」
モルトヴァン
「あの〝訓練〟は元ウェーバー大佐隊に圧倒的に不利です。大佐のことを第一に考えるのなら、この軍艦を護衛しながら撤退するべきでした。しかし、〝訓練〟という言葉に惑わされたのか、元ウェーバー大佐隊はその選択をしなかった。かつてウェーバー大佐の護衛をしていたはずの一班でさえもです。エリゴール中佐はそこにいちばん怒りと不安を覚えたのだと思います」
副長
「……そういえば、彼らは大佐の護衛をするために、転属してついてきたのでしたね」
モルトヴァン
「はい。そのために、エリゴール中佐は今まで元ウェーバー大佐隊と対立することを避けてきましたが、さすがに今回は腹に据えかねたのでしょう。……この隊に大佐を任せることはできないと」
副長
「しかし、撤退したとしても、護衛をする必要がなくなった一班相手に、三十分間この軍艦を守りきることができるでしょうか?」
モルトヴァン
「……これは私の勘にしかすぎませんが、エリゴール中佐はたぶん――」
***
エリゴール
「恐れ入ります。十一班の班長艦につないでいただけますか?」
通信士
「映像通信でよろしいですか?」
エリゴール
「いや、別に音声だけでも……ま、いいか。映像通信でお願いします」
通信士
「了解しました」
ロノウェ
『……何だ、おまえか。びっくりした。もう〝訓練〟は終わりだろ? 何かあったのか?』
エリゴール
「おい、上司」
ロノウェ
『何だ、部下』
エリゴール
「これからあと三十分間、追加で〝訓練〟できる余力はあるか? ただし、今度は俺らの班が大佐殿を守って一班と戦う。三十分間守り抜ければ、次の実戦、元ウェーバー大佐隊と一緒に俺らの班だけ出撃できる。もちろん、大佐殿の護衛としてだ」
ロノウェ
『でかしたぞ、部下! 余力? ありあまってるよ! 五班分の戦闘時間、全部足しても一時間にならねえ!』
エリゴール
「そのかわり、二つ条件を守ってもらう。それを聞いてからやるかどうか決めてくれ」
ロノウェ
『もったいつけるな。何だよ?』
エリゴール
「一つ。大佐殿の軍艦の位置は、班長艦の後ろだ。常に班長艦の後ろについて移動していただくよう、あとで大佐殿にお願いしておく。二つ。三十分間、絶対に撤退はするな。その場で大佐殿の軍艦を守りきれ」
ロノウェ
『……つまり、三班が五分も続けられなかったことを、三十分間俺らにやれってことだな?』
エリゴール
「そのとおりだ。おまえ、本当に賢くなったな」
ロノウェ
『部下が上司に何て口ききやがる。……おもしれえ。あの一班とまたやれるのか。今度は逆の立場で。……いいぜ、やる。元マクスウェル大佐隊代表として』
エリゴール
「ありがとよ、馬鹿上司。おまえなら絶対そう答えると思った。……場所と開始時刻は決まったら伝える。それまで〝副長脳〟使って作戦練ってろ」
ロノウェ
『余計なお世話だ!』
パラディン
「……ふうん。君は普段、そんなふうに話すんだ」
エリゴール
「た、大佐殿! どうしてここに!?」
パラディン
「艦長席から歩いてきたからだよ。……一班長には私が通信を入れておいた。彼もあの負け方は非常に不本意だったんだろうねえ。むしろ、再戦の機会を得られて嬉しそうだった。私も君らの戦い方を見た一班長がどういう作戦をとるのか、とても楽しみだよ」
エリゴール
「……大佐殿。自分のわがままを叶えてくださり、ありがとうございます」
パラディン
「礼には及ばないよ。しかし、さっきの会話を聞いてから聞くと、本当に他人行儀に感じるね」
エリゴール
「……他人ですし。上官ですし」
パラディン
「うわああん!」
エリゴール
「大佐殿。嘘泣きをする前に、場所と開始時刻を決めてください。次の行動がとれません」
***
副長
「副官殿。あなたの勘が当たりましたね」
モルトヴァン
「何となく、エリゴール中佐ならそう言い出しそうな気がしました」
副長
「一班以外の班が採用して負けつづけた策をあえてとる。……もしそれで勝てたとしたら、元ウェーバー大佐隊にとってこれ以上の屈辱はないでしょう。しかし、エリゴール中佐に勝算はあるのでしょうか?」
モルトヴァン
「あるから申し出たのでしょうが……正直、私にはとてもあるとは思えません……」
パラディン
「これは困ったね。結局、どの班も私の軍艦を三十分間守りきることができなかった」
エリゴール
「嬉しそうに言わないでください。いったいどうするおつもりですか? まさか、もう一度対戦しろとでも?」
パラディン
「いくら私でもそんな酷なことは言わないよ。やはりここは守りきれた時間を重視すべきだろうね。そうすると〝十七分五十八秒〟の一班ということになる」
エリゴール
「……本当にそれでよろしいんですか?」
パラディン
「実戦では無人艦も出る。……私の軍艦が撃たれることはないだろう」
エリゴール
「……大佐殿。最後に一度だけ、我々にも機会を与えてくださいませんか?」
パラディン
「え?」
エリゴール
「今度はこの軍艦を三十分間守りきる側として、我々に〝訓練〟をさせてください」
パラディン
「エリゴール中佐……」
エリゴール
「そして、もし三十分間守りきることができたら、次の実戦に我々も参加させてください。……大佐殿の護衛のために」
パラディン
「……君の気持ちはとても嬉しいが、今回はもう入れ替えはしないと宣言してしまった。それに、私の護衛のために二班も……」
エリゴール
「いえ、一班のみで結構です。真の目的は大佐殿の護衛ですが、もちろん攻撃もいたします。この〝訓練〟をやりとげてみせれば、元ウェーバー大佐隊も文句は言えないでしょう。いや、言える資格などない!」
パラディン
「……わかったよ。君がそこまで言うのなら、元ウェーバー大佐隊に打診してみよう。元ウェーバー大佐隊のどの班と再戦したいのかね?」
エリゴール
「愚問ですよ、大佐殿。……パラディン大佐隊所属第一班。それ以外ありえません」
パラディン
「わかってはいたが、一応確認してみた。たぶん、一班長は喜んで応じるだろう。それで、君らはどちらの班で迎え撃つつもりかね?」
エリゴール
「その前に、通信を一つ入れさせていただいてもよろしいでしょうか?」
パラディン
「通信?」
エリゴール
「実際に戦うのは自分ではなくその班ですので、そこの班長に事情を説明しなければなりません。まずないでしょうが、彼が拒めば、もう一方の班に要請します」
パラディン
「それもそうだね。じゃあ、ここで……」
エリゴール
「あ、いえ、大佐殿の前では話しにくいので、あちらで通信をしたいのですが」
パラディン
「えー……何で?」
エリゴール
「我々の会話は、大佐殿には大変お聞き苦しいと思いますので」
パラディン
「そんなことはないと思うが……まあ、好きにしたまえ」
エリゴール
「ありがとうございます」
***
モルトヴァン
「エリゴール中佐が怒った……」
副長
「え? 今まで怒った姿を見せたことはないんですか?」
モルトヴァン
「まったくないことはありませんが、あんなふうに怒鳴ったのは初めて見ました」
副長
「元ウェーバー大佐隊の不甲斐なさに怒り心頭に発した……というところでしょうか?」
モルトヴァン
「おそらく。大佐はずっと護衛をしていましたから、エリゴール中佐は心配でならないのでしょう。おまけに、元ウェーバー大佐隊があんな調子では」
副長
「元ウェーバー大佐隊の肩を持つつもりはありませんが、勝手が違ったのだと思いますよ。実戦では十隻対十隻で戦うことなどまず考えられません」
モルトヴァン
「だからですよ」
副長
「え?」
モルトヴァン
「あの〝訓練〟は元ウェーバー大佐隊に圧倒的に不利です。大佐のことを第一に考えるのなら、この軍艦を護衛しながら撤退するべきでした。しかし、〝訓練〟という言葉に惑わされたのか、元ウェーバー大佐隊はその選択をしなかった。かつてウェーバー大佐の護衛をしていたはずの一班でさえもです。エリゴール中佐はそこにいちばん怒りと不安を覚えたのだと思います」
副長
「……そういえば、彼らは大佐の護衛をするために、転属してついてきたのでしたね」
モルトヴァン
「はい。そのために、エリゴール中佐は今まで元ウェーバー大佐隊と対立することを避けてきましたが、さすがに今回は腹に据えかねたのでしょう。……この隊に大佐を任せることはできないと」
副長
「しかし、撤退したとしても、護衛をする必要がなくなった一班相手に、三十分間この軍艦を守りきることができるでしょうか?」
モルトヴァン
「……これは私の勘にしかすぎませんが、エリゴール中佐はたぶん――」
***
エリゴール
「恐れ入ります。十一班の班長艦につないでいただけますか?」
通信士
「映像通信でよろしいですか?」
エリゴール
「いや、別に音声だけでも……ま、いいか。映像通信でお願いします」
通信士
「了解しました」
ロノウェ
『……何だ、おまえか。びっくりした。もう〝訓練〟は終わりだろ? 何かあったのか?』
エリゴール
「おい、上司」
ロノウェ
『何だ、部下』
エリゴール
「これからあと三十分間、追加で〝訓練〟できる余力はあるか? ただし、今度は俺らの班が大佐殿を守って一班と戦う。三十分間守り抜ければ、次の実戦、元ウェーバー大佐隊と一緒に俺らの班だけ出撃できる。もちろん、大佐殿の護衛としてだ」
ロノウェ
『でかしたぞ、部下! 余力? ありあまってるよ! 五班分の戦闘時間、全部足しても一時間にならねえ!』
エリゴール
「そのかわり、二つ条件を守ってもらう。それを聞いてからやるかどうか決めてくれ」
ロノウェ
『もったいつけるな。何だよ?』
エリゴール
「一つ。大佐殿の軍艦の位置は、班長艦の後ろだ。常に班長艦の後ろについて移動していただくよう、あとで大佐殿にお願いしておく。二つ。三十分間、絶対に撤退はするな。その場で大佐殿の軍艦を守りきれ」
ロノウェ
『……つまり、三班が五分も続けられなかったことを、三十分間俺らにやれってことだな?』
エリゴール
「そのとおりだ。おまえ、本当に賢くなったな」
ロノウェ
『部下が上司に何て口ききやがる。……おもしれえ。あの一班とまたやれるのか。今度は逆の立場で。……いいぜ、やる。元マクスウェル大佐隊代表として』
エリゴール
「ありがとよ、馬鹿上司。おまえなら絶対そう答えると思った。……場所と開始時刻は決まったら伝える。それまで〝副長脳〟使って作戦練ってろ」
ロノウェ
『余計なお世話だ!』
パラディン
「……ふうん。君は普段、そんなふうに話すんだ」
エリゴール
「た、大佐殿! どうしてここに!?」
パラディン
「艦長席から歩いてきたからだよ。……一班長には私が通信を入れておいた。彼もあの負け方は非常に不本意だったんだろうねえ。むしろ、再戦の機会を得られて嬉しそうだった。私も君らの戦い方を見た一班長がどういう作戦をとるのか、とても楽しみだよ」
エリゴール
「……大佐殿。自分のわがままを叶えてくださり、ありがとうございます」
パラディン
「礼には及ばないよ。しかし、さっきの会話を聞いてから聞くと、本当に他人行儀に感じるね」
エリゴール
「……他人ですし。上官ですし」
パラディン
「うわああん!」
エリゴール
「大佐殿。嘘泣きをする前に、場所と開始時刻を決めてください。次の行動がとれません」
***
副長
「副官殿。あなたの勘が当たりましたね」
モルトヴァン
「何となく、エリゴール中佐ならそう言い出しそうな気がしました」
副長
「一班以外の班が採用して負けつづけた策をあえてとる。……もしそれで勝てたとしたら、元ウェーバー大佐隊にとってこれ以上の屈辱はないでしょう。しかし、エリゴール中佐に勝算はあるのでしょうか?」
モルトヴァン
「あるから申し出たのでしょうが……正直、私にはとてもあるとは思えません……」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
62
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる