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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)
67【異動編16】訓練二日目:五十八秒三二
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【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】
ハワード
「五十八秒二〇……六班が……十一班を越えたっ!」
フィリップス
「おおっ、やっぱり合体マニアは強いな!」
エリゴール
「……そういう問題か?」
フィリップス
「六班、おまえたちの勇姿は俺たちが撮っておいた! 編集はあえてしない! 自分たちでしろ!」
ハワード
「次は……三班……」
フィリップス
「……せめて、一分は越えないでほしいな」
ハワード
「ああ。せめてな」
フィリップス
「えーと、これで七班終わったな。これまでで十一班越えしたのが、六班、九班、十班の三班。……七班中三班。半分以下か。もうちょっと行けるかと思ったが……〝五十八秒三二〟の壁は意外と高いな」
ハワード
「三班には一分の壁も高かったな」
フィリップス
「まあ、それでも〝蝶〟やってたときに比べたら驚異的に短くなった。次は……その三班の師匠になる予定だった十二班か。……元四班長。ここは十一班並みに〝蝶〟ができるのか?」
エリゴール
「いや、できない」
フィリップス
「わ、即答だ」
エリゴール
「ただし、この〝できない〟は技術的にというより心理的にだ。下手に十一班を越えてしまったら、奴らは十一班長の副長にこれまで以上に敵視される」
ハワード
「……同じ元マクスウェル大佐隊だよな?」
エリゴール
「あの副長はそういう副長なんだ。俺にもなぜそこまで十二班をライバル視するのかわからん」
ハワード
「十二班は十二班で、その副長を恐れてるのか?」
エリゴール
「正確には十二班長たちがな。あの副長を怒らせると、十一班の第一号待機室に出入りできなくなる」
フィリップス
「その気持ち、すっごくよくわかる……」
ハワード
「こんな訓練で出入りできなくなるのは嫌だよな」
エリゴール
「こんな訓練って……」
フィリップス
「ごめんな、元四班長。うちの隊、ウェーバー、アルスターってジジイが続いたから、〝若くて美形〟にものすごく弱いんだ……」
エリゴール
「それは〝大佐〟のせいっていうより、あんたたちの隊にたまたま〝若くて美形〟がいなかったせいじゃないのか?」
クルーA
「うあああ! 元四班長が本当のこと、ズバッと言ったぁ!」
クルーB
「十一班から来た元四班長に、俺たちの気持ちなんかわかるもんかぁ!」
エリゴール
「……あんたら、意外と〝凡人集団〟じゃないな」
フィリップス
「元四班長。もうはっきり言ってくれていいぜ。〝変態集団〟って」
***
【パラディン大佐隊・第十二班第一号ブリッジ】
ヴァッサゴ
「元ウェーバー大佐隊は……というか、エリゴールは思いきった手を打ってきたな……」
ザボエス
「まあ、まともにやったら十一班には勝てねえからな。ああするしかねえだろ」
ヴァッサゴ
「三班は……エリゴールのあれでやっても、今んとこビリだな……」
ザボエス
「たぶん、三班はこのままワーストトップの座を守りきる」
ヴァッサゴ
「やっぱり、身につまされる……!」
ザボエス
「うちもエリゴールのあれをやったら、もしかしたら十一班に勝てるかもしれねえが……プライド云々以前に勝つわけにはいかねえ。下位四班に入らないように、十一班よりちびっとだけ悪いタイムを出すぞ」
ヴァッサゴ
「出すぞと言って出せるのか?」
ザボエス
「真剣にやって、やばいと思ったらこの軍艦揺らせばいい」
ヴァッサゴ
「何てずるがしこい……」
ザボエス
「仕方ねえだろ。まかり間違って十一班に勝ってみろ。その時点で俺たちに明日はねえ」
ヴァッサゴ
「俺たちは……どうしてこうもあの手の〝悪魔〟に弱いんだ……」
ザボエス
「元マクスウェル大佐隊だからだろ」
ヴァッサゴ
「……そうだったな。なら、しょうがないか」
***
【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】
ハワード
「十二班は十一班と同じく〝蝶〟で来た」
フィリップス
「三班、見てるか? あれがおまえらの師匠になるはずだった十二班だぞ」
ハワード
「……やっぱり速いな」
フィリップス
「三班を弟子にしなくて済んでよかったな、十二班」
パラディン
『十二班、お疲れ様。タイムは五十八秒四四。あとコンマ一三だった。惜しかったね』
フィリップス
「……このタイム、もし狙って出したんだとしたら、ある意味、十一班よりすごいな」
ハワード
「ああ、すごい。どうしても出禁にされたくないという執念を感じる」
フィリップス
「敵ながらあっぱれ」
エリゴール
「……そんなに〝若くて美形〟が欲しいのか? レラージュ副長より多少落ちるが、親衛隊から何人か適当なの見つくろって、こっちに異動させてきてやろうか?」
フィリップス
「元四班長……真顔で何てこと言い出すんだ。あいつらの目の色が変わった……!」
ハワード
「四班は何とか十一班越えしてくれた……」
エリゴール
「……まだ〝元四班長〟なんて呼ばれてるせいか、〝四班〟って言われると、無関係なのにギクッとする」
フィリップス
「俺はあんたのさっきの発言にギクッとした」
エリゴール
「……親衛隊はわりと若いの多いぞ。馬鹿も多いけどな」
クルーA
「ば、馬鹿でもいい!」
クルーB
「むしろ、そのほうが萌……」
フィリップス
「いいかげんにしろ! この変態どもが!」
エリゴール
「さすが副長。少なくともこの軍艦はあんたで持ってる。でも、進行方向が〝蛇〟じゃないな」
フィリップス
「……班長」
ハワード
「ああ。……実は昨日、あんたが帰ってから一班の会議室に艦長全員集めて、六班が撮ったあの映像を改めて見た。ちなみに、六班に撮影依頼してたのはうちの副班長だったが、それはともかく、そのとき全員一致で決めた。……今日、うちは十一班に負けてもいいから〝横縦ぐるり〟をやる」
エリゴール
「どうして……この班なら〝蝶〟でも十一班に勝てるかもしれないんだぞ? 何でここでまだ不完全なあれをやる?」
フィリップス
「まあ……一言で言うなら〝つまんないから〟」
エリゴール
「つまんない?」
ハワード
「大佐ももう〝蛇〟は見飽きただろう。このへんで、親衛隊とは違う〝蝶〟をお見せしようじゃないか」
エリゴール
「……馬鹿だな、あんたら」
ハワード
「凡人や変態よりいいさ」
エリゴール
「俺はあんたらを馬鹿に変えるために異動してきたわけじゃないんだが。でもまあ、これは訓練で実戦じゃない。馬鹿をやるなら今しかないな。……三班抜いて、ワースト一位に躍り出るぞ」
フィリップス
「よかったな、班長。これで念願の〝一番〟だ」
ハワード
「ほんとは親衛隊に勝ちたかったはずなのにな。……〝横縦ぐるり〟、始めるぞ!」
クルー全員
「了解!」
***
【パラディン大佐隊・旗艦〈オートクレール〉ブリッジ】
モルトヴァン
「お待ちかね、ようやく一班のご登場ですよ。さすがに一班は、十一班・十二班と同じ方法で護衛隊形を作るつもりらしいですね」
パラディン
「うん……だが、彼らとは向きが逆……え?」
モルトヴァン
「移動隊形が……立った!?」
パラディン
「立ったというか横倒しになったというか……そうか、少しでも早く砲撃を始めるためか」
モルトヴァン
「は?」
パラディン
「きっと……あれを考えたのもエリゴール中佐なんだろうね……もともと考えていたのか、それとも一班組のために新たに考え出したのかまではわからないけれど……」
モルトヴァン
「まるで……蝶が羽を広げているみたいですね……不謹慎かもしれませんが、美しい……」
パラディン
「もし今が実戦なら、あの片羽は砲撃を始めている」
モルトヴァン
「え?」
パラディン
「エリゴール中佐は本当によくわかっているね。早く砲撃を始めれば、その分早く戦闘も終わる。……彼は今、どこまで先を考えているのかな……」
モルトヴァン
「大佐……」
***
【パラディン大佐隊・第十一班第一号ブリッジ】
ロノウェ
「何だ、あの隊形……」
レラージュ
「護衛隊形です」
ロノウェ
「そりゃそうだが……今まで元ウェーバー大佐隊がやってきたのとは全然違うだろ」
レラージュ
「俺たちがやってきたのとも全然違いますけどね。……元四班長は自分がやりたかったことを元ウェーバー大佐隊で試してるみたいです」
ロノウェ
「まさか、あれもおまえ、知ってたのか?」
レラージュ
「アイデアは聞いたことあります。最後じゃなくて最初に起き上がったほうが、早く〝ファイアー・ウォール〟状態で砲撃始められるだろって」
ロノウェ
「おまえら……俺の知らない間に小難しい話してたんだな……」
レラージュ
「でも、元四班長は、俺には簡単な隊形しか具体的に話しませんでした。……自分が考えた隊形は、うちではなく、元ウェーバー大佐隊に残していくことにしたようです」
ロノウェ
「レラージュ……」
レラージュ
「正しい判断だと思います。元ウェーバー大佐隊なら十班そろってる。その気になれば一〇〇隻で〝ファイアー・ウォール〟もできるんです。……できても自慢にはならないと思いますけど」
ロノウェ
「……こっちから見てると、まるで閉じてた本を開いてるみてえだな」
レラージュ
「大佐はきっとまた名前を知りたがるでしょうけど、元四班長のことだから、名前なんかつけてないと思いますよ」
ロノウェ
「そういうとこもおまえと似てるよな」
レラージュ
「班長だったらあれ、何て名前つけます?」
ロノウェ
「……〝本〟」
レラージュ
「相変わらず、超ストレートなネーミングですね」
ロノウェ
「〝檻〟のおまえよりはましだろ」
レラージュ
「今、俺たちが見てるのは〝裏〟なんですよね」
ロノウェ
「裏?」
レラージュ
「正面にいる大佐には〝表〟はどう見えてるんでしょう。やっぱり〝本〟を広げてるように見えるんでしょうか」
ロノウェ
「……なあ、レラージュ。俺らも元ウェーバー大佐隊も、一応同じ〝パラディン大佐隊〟なんだぜ?」
レラージュ
「班長に言われなくても、それくらいは俺も知ってますけど」
ロノウェ
「……エリゴールは俺らを見捨てたわけじゃねえ。同じ隊として、元ウェーバー大佐隊と俺らが動けるようにしにいったんだ。……そう思っとけ」
レラージュ
「やっぱり班長、脳の入れ替え手術したでしょ」
ロノウェ
「だから、誰の脳とだよ」
ゲアプ
(今日もネタてんこ盛りだが、緊張の連続で、覚えていられる自信がない……)
***
【パラディン大佐隊・第十二班第一号ブリッジ】
ザボエス
「エリゴールとレラージュ、どっちが隊形のストック多いのかね……」
ヴァッサゴ
「俺はレラージュだと思うが……ただ、実戦向きじゃないのが多い気が」
ザボエス
「ああ……そのへんが年の差だな」
ヴァッサゴ
「……あの外見だけは維持しつづけてほしい……」
ザボエス
「それは十一班と十二班、共通の願いだな」
***
【パラディン大佐隊・第六班第一号ブリッジ】
ラムレイ
「今日の撮影は裏からしかできなかったな」
クルーA
「でも、これはやっぱり、〝移動しながら横から縦〟ですよね」
ラムレイ
「そうだよな。やっぱ〝移動しながら〟だよな」
クルーB
「〝最初から縦〟は言語道断ですよ」
***
【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】
フィリップス
「やっぱり、高速航行しながらのほうが横から縦になりやすいんだよな。ついでに中央への移動も」
エリゴール
「俺としては最初から縦で、中央への移動も済ませておきたい」
フィリップス
「えー、それじゃつまんないだろ」
エリゴール
「つまんないより時間短縮だ」
パラディン
『一班、お疲れ様。タイムは一分〇三秒八七。……今度は一分切ってね。期待してるよ』
フィリップス
「え……」
ハワード
「ということは……」
フィリップス
「〝蛇〟やった三班よりも早くできてしまった……!」
ハワード
「くそう、ワースト一位は免れたのに、なぜこんなにも敗北感が……!」
フィリップス
「とにかく〝一位〟になれなかったからじゃないのか?」
エリゴール
「まあ……とりあえず、大佐は気に入ってくれたらしい。〝期待してる〟そうだ」
ハワード
「〝今度は〟って……今度いつやるんだ?」
エリゴール
「さあな。ただし、今度は一分切らないと……」
フィリップス
「切らないと……何だ?」
エリゴール
「……わからん。だが、俺はやってくれて嬉しかった。……ありがとう」
フィリップス
「元四班長……」
クルーA
「三十代でも、元四班長なら許容範囲……」
フィリップス、クルーAの頭をはたく。
フィリップス
「この変態がっ!」
クルーA
「ぐはっ!」
ハワード
「五十八秒二〇……六班が……十一班を越えたっ!」
フィリップス
「おおっ、やっぱり合体マニアは強いな!」
エリゴール
「……そういう問題か?」
フィリップス
「六班、おまえたちの勇姿は俺たちが撮っておいた! 編集はあえてしない! 自分たちでしろ!」
ハワード
「次は……三班……」
フィリップス
「……せめて、一分は越えないでほしいな」
ハワード
「ああ。せめてな」
フィリップス
「えーと、これで七班終わったな。これまでで十一班越えしたのが、六班、九班、十班の三班。……七班中三班。半分以下か。もうちょっと行けるかと思ったが……〝五十八秒三二〟の壁は意外と高いな」
ハワード
「三班には一分の壁も高かったな」
フィリップス
「まあ、それでも〝蝶〟やってたときに比べたら驚異的に短くなった。次は……その三班の師匠になる予定だった十二班か。……元四班長。ここは十一班並みに〝蝶〟ができるのか?」
エリゴール
「いや、できない」
フィリップス
「わ、即答だ」
エリゴール
「ただし、この〝できない〟は技術的にというより心理的にだ。下手に十一班を越えてしまったら、奴らは十一班長の副長にこれまで以上に敵視される」
ハワード
「……同じ元マクスウェル大佐隊だよな?」
エリゴール
「あの副長はそういう副長なんだ。俺にもなぜそこまで十二班をライバル視するのかわからん」
ハワード
「十二班は十二班で、その副長を恐れてるのか?」
エリゴール
「正確には十二班長たちがな。あの副長を怒らせると、十一班の第一号待機室に出入りできなくなる」
フィリップス
「その気持ち、すっごくよくわかる……」
ハワード
「こんな訓練で出入りできなくなるのは嫌だよな」
エリゴール
「こんな訓練って……」
フィリップス
「ごめんな、元四班長。うちの隊、ウェーバー、アルスターってジジイが続いたから、〝若くて美形〟にものすごく弱いんだ……」
エリゴール
「それは〝大佐〟のせいっていうより、あんたたちの隊にたまたま〝若くて美形〟がいなかったせいじゃないのか?」
クルーA
「うあああ! 元四班長が本当のこと、ズバッと言ったぁ!」
クルーB
「十一班から来た元四班長に、俺たちの気持ちなんかわかるもんかぁ!」
エリゴール
「……あんたら、意外と〝凡人集団〟じゃないな」
フィリップス
「元四班長。もうはっきり言ってくれていいぜ。〝変態集団〟って」
***
【パラディン大佐隊・第十二班第一号ブリッジ】
ヴァッサゴ
「元ウェーバー大佐隊は……というか、エリゴールは思いきった手を打ってきたな……」
ザボエス
「まあ、まともにやったら十一班には勝てねえからな。ああするしかねえだろ」
ヴァッサゴ
「三班は……エリゴールのあれでやっても、今んとこビリだな……」
ザボエス
「たぶん、三班はこのままワーストトップの座を守りきる」
ヴァッサゴ
「やっぱり、身につまされる……!」
ザボエス
「うちもエリゴールのあれをやったら、もしかしたら十一班に勝てるかもしれねえが……プライド云々以前に勝つわけにはいかねえ。下位四班に入らないように、十一班よりちびっとだけ悪いタイムを出すぞ」
ヴァッサゴ
「出すぞと言って出せるのか?」
ザボエス
「真剣にやって、やばいと思ったらこの軍艦揺らせばいい」
ヴァッサゴ
「何てずるがしこい……」
ザボエス
「仕方ねえだろ。まかり間違って十一班に勝ってみろ。その時点で俺たちに明日はねえ」
ヴァッサゴ
「俺たちは……どうしてこうもあの手の〝悪魔〟に弱いんだ……」
ザボエス
「元マクスウェル大佐隊だからだろ」
ヴァッサゴ
「……そうだったな。なら、しょうがないか」
***
【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】
ハワード
「十二班は十一班と同じく〝蝶〟で来た」
フィリップス
「三班、見てるか? あれがおまえらの師匠になるはずだった十二班だぞ」
ハワード
「……やっぱり速いな」
フィリップス
「三班を弟子にしなくて済んでよかったな、十二班」
パラディン
『十二班、お疲れ様。タイムは五十八秒四四。あとコンマ一三だった。惜しかったね』
フィリップス
「……このタイム、もし狙って出したんだとしたら、ある意味、十一班よりすごいな」
ハワード
「ああ、すごい。どうしても出禁にされたくないという執念を感じる」
フィリップス
「敵ながらあっぱれ」
エリゴール
「……そんなに〝若くて美形〟が欲しいのか? レラージュ副長より多少落ちるが、親衛隊から何人か適当なの見つくろって、こっちに異動させてきてやろうか?」
フィリップス
「元四班長……真顔で何てこと言い出すんだ。あいつらの目の色が変わった……!」
ハワード
「四班は何とか十一班越えしてくれた……」
エリゴール
「……まだ〝元四班長〟なんて呼ばれてるせいか、〝四班〟って言われると、無関係なのにギクッとする」
フィリップス
「俺はあんたのさっきの発言にギクッとした」
エリゴール
「……親衛隊はわりと若いの多いぞ。馬鹿も多いけどな」
クルーA
「ば、馬鹿でもいい!」
クルーB
「むしろ、そのほうが萌……」
フィリップス
「いいかげんにしろ! この変態どもが!」
エリゴール
「さすが副長。少なくともこの軍艦はあんたで持ってる。でも、進行方向が〝蛇〟じゃないな」
フィリップス
「……班長」
ハワード
「ああ。……実は昨日、あんたが帰ってから一班の会議室に艦長全員集めて、六班が撮ったあの映像を改めて見た。ちなみに、六班に撮影依頼してたのはうちの副班長だったが、それはともかく、そのとき全員一致で決めた。……今日、うちは十一班に負けてもいいから〝横縦ぐるり〟をやる」
エリゴール
「どうして……この班なら〝蝶〟でも十一班に勝てるかもしれないんだぞ? 何でここでまだ不完全なあれをやる?」
フィリップス
「まあ……一言で言うなら〝つまんないから〟」
エリゴール
「つまんない?」
ハワード
「大佐ももう〝蛇〟は見飽きただろう。このへんで、親衛隊とは違う〝蝶〟をお見せしようじゃないか」
エリゴール
「……馬鹿だな、あんたら」
ハワード
「凡人や変態よりいいさ」
エリゴール
「俺はあんたらを馬鹿に変えるために異動してきたわけじゃないんだが。でもまあ、これは訓練で実戦じゃない。馬鹿をやるなら今しかないな。……三班抜いて、ワースト一位に躍り出るぞ」
フィリップス
「よかったな、班長。これで念願の〝一番〟だ」
ハワード
「ほんとは親衛隊に勝ちたかったはずなのにな。……〝横縦ぐるり〟、始めるぞ!」
クルー全員
「了解!」
***
【パラディン大佐隊・旗艦〈オートクレール〉ブリッジ】
モルトヴァン
「お待ちかね、ようやく一班のご登場ですよ。さすがに一班は、十一班・十二班と同じ方法で護衛隊形を作るつもりらしいですね」
パラディン
「うん……だが、彼らとは向きが逆……え?」
モルトヴァン
「移動隊形が……立った!?」
パラディン
「立ったというか横倒しになったというか……そうか、少しでも早く砲撃を始めるためか」
モルトヴァン
「は?」
パラディン
「きっと……あれを考えたのもエリゴール中佐なんだろうね……もともと考えていたのか、それとも一班組のために新たに考え出したのかまではわからないけれど……」
モルトヴァン
「まるで……蝶が羽を広げているみたいですね……不謹慎かもしれませんが、美しい……」
パラディン
「もし今が実戦なら、あの片羽は砲撃を始めている」
モルトヴァン
「え?」
パラディン
「エリゴール中佐は本当によくわかっているね。早く砲撃を始めれば、その分早く戦闘も終わる。……彼は今、どこまで先を考えているのかな……」
モルトヴァン
「大佐……」
***
【パラディン大佐隊・第十一班第一号ブリッジ】
ロノウェ
「何だ、あの隊形……」
レラージュ
「護衛隊形です」
ロノウェ
「そりゃそうだが……今まで元ウェーバー大佐隊がやってきたのとは全然違うだろ」
レラージュ
「俺たちがやってきたのとも全然違いますけどね。……元四班長は自分がやりたかったことを元ウェーバー大佐隊で試してるみたいです」
ロノウェ
「まさか、あれもおまえ、知ってたのか?」
レラージュ
「アイデアは聞いたことあります。最後じゃなくて最初に起き上がったほうが、早く〝ファイアー・ウォール〟状態で砲撃始められるだろって」
ロノウェ
「おまえら……俺の知らない間に小難しい話してたんだな……」
レラージュ
「でも、元四班長は、俺には簡単な隊形しか具体的に話しませんでした。……自分が考えた隊形は、うちではなく、元ウェーバー大佐隊に残していくことにしたようです」
ロノウェ
「レラージュ……」
レラージュ
「正しい判断だと思います。元ウェーバー大佐隊なら十班そろってる。その気になれば一〇〇隻で〝ファイアー・ウォール〟もできるんです。……できても自慢にはならないと思いますけど」
ロノウェ
「……こっちから見てると、まるで閉じてた本を開いてるみてえだな」
レラージュ
「大佐はきっとまた名前を知りたがるでしょうけど、元四班長のことだから、名前なんかつけてないと思いますよ」
ロノウェ
「そういうとこもおまえと似てるよな」
レラージュ
「班長だったらあれ、何て名前つけます?」
ロノウェ
「……〝本〟」
レラージュ
「相変わらず、超ストレートなネーミングですね」
ロノウェ
「〝檻〟のおまえよりはましだろ」
レラージュ
「今、俺たちが見てるのは〝裏〟なんですよね」
ロノウェ
「裏?」
レラージュ
「正面にいる大佐には〝表〟はどう見えてるんでしょう。やっぱり〝本〟を広げてるように見えるんでしょうか」
ロノウェ
「……なあ、レラージュ。俺らも元ウェーバー大佐隊も、一応同じ〝パラディン大佐隊〟なんだぜ?」
レラージュ
「班長に言われなくても、それくらいは俺も知ってますけど」
ロノウェ
「……エリゴールは俺らを見捨てたわけじゃねえ。同じ隊として、元ウェーバー大佐隊と俺らが動けるようにしにいったんだ。……そう思っとけ」
レラージュ
「やっぱり班長、脳の入れ替え手術したでしょ」
ロノウェ
「だから、誰の脳とだよ」
ゲアプ
(今日もネタてんこ盛りだが、緊張の連続で、覚えていられる自信がない……)
***
【パラディン大佐隊・第十二班第一号ブリッジ】
ザボエス
「エリゴールとレラージュ、どっちが隊形のストック多いのかね……」
ヴァッサゴ
「俺はレラージュだと思うが……ただ、実戦向きじゃないのが多い気が」
ザボエス
「ああ……そのへんが年の差だな」
ヴァッサゴ
「……あの外見だけは維持しつづけてほしい……」
ザボエス
「それは十一班と十二班、共通の願いだな」
***
【パラディン大佐隊・第六班第一号ブリッジ】
ラムレイ
「今日の撮影は裏からしかできなかったな」
クルーA
「でも、これはやっぱり、〝移動しながら横から縦〟ですよね」
ラムレイ
「そうだよな。やっぱ〝移動しながら〟だよな」
クルーB
「〝最初から縦〟は言語道断ですよ」
***
【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】
フィリップス
「やっぱり、高速航行しながらのほうが横から縦になりやすいんだよな。ついでに中央への移動も」
エリゴール
「俺としては最初から縦で、中央への移動も済ませておきたい」
フィリップス
「えー、それじゃつまんないだろ」
エリゴール
「つまんないより時間短縮だ」
パラディン
『一班、お疲れ様。タイムは一分〇三秒八七。……今度は一分切ってね。期待してるよ』
フィリップス
「え……」
ハワード
「ということは……」
フィリップス
「〝蛇〟やった三班よりも早くできてしまった……!」
ハワード
「くそう、ワースト一位は免れたのに、なぜこんなにも敗北感が……!」
フィリップス
「とにかく〝一位〟になれなかったからじゃないのか?」
エリゴール
「まあ……とりあえず、大佐は気に入ってくれたらしい。〝期待してる〟そうだ」
ハワード
「〝今度は〟って……今度いつやるんだ?」
エリゴール
「さあな。ただし、今度は一分切らないと……」
フィリップス
「切らないと……何だ?」
エリゴール
「……わからん。だが、俺はやってくれて嬉しかった。……ありがとう」
フィリップス
「元四班長……」
クルーA
「三十代でも、元四班長なら許容範囲……」
フィリップス、クルーAの頭をはたく。
フィリップス
「この変態がっ!」
クルーA
「ぐはっ!」
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下校中におじいさんを助けたことをきっかけに、その孫でエリート高校生の大和と出会う。
蓮に負けず劣らず無表情で無愛想な大和とはもう関わることはないと思っていたが、一度認識してしまうと下校中に妙に目に入ってくるようになってしまう。
少しずつ接する内に、大和も蓮と同じく意図的に他人と距離をとっているんだと気づいていく。
ひょんなことから大和の服を着る羽目になったり、一緒にバイトすることになったり、大和の部屋で寝ることになったり。
一進一退を繰り返して、二人が少しずつ落ち着く距離を模索していく。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
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