寂しいからそばにいて(仮)【『無冠の皇帝』スピンオフ】

有喜多亜里

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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

58【異動編07】防火壁造成講座

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【パラディン大佐隊・第一班第一号待機室】

ハワード
「元四班長っ! 〝ファイアー・ウォール〟の作り方を教えてくれっ!」

エリゴール
「戻ってきて開口一番それか。だから、それは明日の訓練でやるって言っただろうが」

ハワード
「明日まで待ちきれないんだ!」

フィリップス
「申し訳ない、元四班長。年寄りは気が短いんだ」

ハワード
「フィリップス。今の俺が年寄りなら、三ヶ月後にはおまえも年寄りだ」

エリゴール
「それならしょうがないか。じゃあ、まだ年寄りじゃないフィリップス副長。鉛筆と三色のペン、それとあったら方眼紙、用意してもらえるか?」

フィリップス
「方眼紙?」

エリゴール
「なかったら、縦一センチ・横五ミリ幅で、それに似た用紙を作ってくれ」

フィリップス
「……その一センチっていうのは絶対じゃないな?」

エリゴール
「ああ。とにかく縦が横の二倍ならいい」

フィリップス
「了解。いま作るから、ちょっと待っててくれ」

エリゴール
「……一班長。あんた、いい〝息子〟を持ったな」

ハワード
「元四班長……あんたまで……」

エリゴール
「〝息子〟まで一緒に落ちこんでたら、あんたを支えられないだろ」

ハワード
「元四班長……」

フィリップス
「元四班長、こんなもんでどうかな?」

エリゴール
「ああ、これでいい。意外と事務仕事もできるんだな」

フィリップス
「〝意外と〟って何だよ、〝意外と〟って」

エリゴール
「とりあえず、これを使ってざっと説明する。……まず〝ファイアー・ウォール〟ってのは、交互に積み重ねられたレンガの壁みたいな構造をしてるってのは、あんたたちも知ってるよな? 鉛筆で書くと……こんな感じだ。この小さな丸の一つ一つが軍艦ふね

ハワード
「ああ、それくらいはな。だから、無人艦の専売特許だった」

エリゴール
「そのとおり。無人艦は……というか〈フラガラック〉は、たとえば無人艦七〇〇隻で壁を簡単に作れる上、その状態のまま高速で移動させることもできる。
 一方、有人艦では、常に一定の間隔を保ちつづけること自体がすでに難しいし、班単位で行動してるから、それを分解して並べるのもまた難しい。さらに言うなら、無人艦のような移動はたぶん無理だ。
 つまり、無人艦の〝ファイアー・ウォール〟は〝動ける壁〟だが、有人艦のそれは基本的に〝動けない壁〟だ。まあ、壁ってのは本来そういうもんだが」

フィリップス
「親衛隊でも動けないか?」

エリゴール
「前後左右、簡単な動きならできる。でも、やっぱり無人艦みたいにはいかないな。有人艦の〝ファイアー・ウォール〟は、移動できない砲撃隊形と割りきったほうがいい」

フィリップス
「なるほど。たとえ〝ファイアー・ウォール〟ができたとしても、最後はいつもの砲撃隊形をとるしかないわけだ」

エリゴール
「まあ、そういうことだ。で、お待ちかねの有人艦で〝ファイアー・ウォール〟を作る方法だが……はっきり言って〝パズル〟だ」

ハワード
「パズル?」

エリゴール
「だから、他にもっとうまい〝解き方〟があるのかもしれないが……とりあえず、うちはこうした」

ハワード
「……最初に護衛隊形?」

エリゴール
「やっぱり、これがいちばん作りやすくてわかりやすいだろ。仮にこれをパターンAとする」

フィリップス
「ふむふむ」

エリゴール
「次に、ペンを変えて、さっきと同じように〝軍艦ふね〟をなぞり、その間を鉛筆でつないでいく」

ハワード
「……何だ、これは?」

フィリップス
「この隊形、どうやって作るんだ?」

エリゴール
「それは後でゆっくり悩んでくれ。とにかく、これがパターンB。さらにまたペンを変えて、同じことを繰り返す」

フィリップス
「……またけったいな隊形に……」

エリゴール
「これがパターンC。ここでその隣の鉛筆書きを見ると……もうパターンAにしかなりようがないだろ?」

フィリップス
「あ、ほんとだ!」

エリゴール
「だから、再びパターンA。……ほら見ろ。ちょうど四十隻で、左右対称になってる」

フィリップス
「おおっ! ……何で?」

エリゴール
「それは数学者に訊いてくれ。俺らはひたすら点と点を結んでただけだ」

ハワード
「いったいどうしたらこんな隊形作れるんだ?」

エリゴール
「努力」

フィリップス
「そんなあっさり」

エリゴール
「まあ、とにかくこんなふうに、班をバラバラにしないように〝ファイアー・ウォール〟を作ろうとすると、このA・B・Cの三種類の隊形を必ずとらないといけなくなる。並び順は常にA・B・C。仮に、六十隻で〝ファイアー・ウォール〟をすると……最後の班はパターンC。左右対称にならないから、個人的には好きじゃないな。五十隻ならパターンBから始めれば、ちょうど左右対称になる。
 が、実際問題、有人艦でBとCは難しいから、実戦ではAのみの〝一見ファイアー・ウォール〟にしておくのが無難だな。以前、親衛隊が演習のときにした〝ファイアー・ウォール〟も、Aを横に二つ並べただけだった。それでも、〝ファイアー・ウォール〟には見えただろ?」

ハワード
「確かに見えたが……これは本当に〝パズル〟だな。そういや、縦には重ねないのか?」

エリゴール
「有人艦でそこまでできると思うか? 一応言っとくと、パターンAの上はパターンBになる。その隣からは、C・A・B・C……やっぱりA・B・Cの繰り返しだ」

ハワード
「仮に有人艦一〇〇隻で〝ファイアー・ウォール〟をするとしたらどうしたらいい?」

エリゴール
「有人艦で一〇〇隻ねえ……一段一〇〇隻じゃ駄目なんだろ?」

ハワード
「それはちょっと長すぎる」

フィリップス
「ちょっとどころじゃないよ、おとっつぁん」

エリゴール
「実現可能かどうかは別にして、実は俺も何度か有人艦一〇〇隻で考えてみたことがある。が、一〇〇隻だとどうもうまくいかない。俺はどうしても左右対称にしたいから、二段で九十九隻にしたい」

ハワード
「九十九隻?」

エリゴール
「まず一段目はパターンAから始めて五十隻。二段目はパターンBから始めて五十隻。最後に一段目の最後の班から飛び出てる一隻を省く」

ハワード
「……なるほど。気持ちはわかる」

フィリップス
「その一隻には留守番してもらうか」

エリゴール
「いや、その前に有人艦一〇〇隻で〝ファイアー・ウォール〟をしようとしなければいい」

ハワード
「……夢なんだ」

エリゴール
「まあ、夢見るのは自由か……」

フィリップス
「元四班長、おとっつぁんを見捨てないで」

エリゴール
「……そうだな。訓練のときに元ウェーバー大佐隊だけでやって、最後にあんたの軍艦ふねが抜け出て、外からその〝ファイアー・ウォール〟を眺めるっていうのではどうだ?」

ハワード
「そうか、自分まで壁になったら、確かに見られないな」

フィリップス
「でも、たとえ訓練でも他の班はやってくれなそうだぞ?」

エリゴール
「その前に、できるかどうかだ」

フィリップス
「はい、元四班長。すみませんでした」
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