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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

60【異動編09】パラディン大佐は心配性

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【パラディン大佐隊・執務室】

モルトヴァン
「大佐……まだ悩んでいらっしゃるんですか?」

パラディン
「だって、あんなに十一班に執着していたエリゴール中佐が、いきなり一班に異動したいなんて……新しい環境で一から始めたくなったからなんて言ってたが、その原因はやっぱり十一班で何かあったからじゃないだろうか?」

モルトヴァン
「それは何もなかったことはないでしょうし、実際本人の知らないところでいろいろありましたが、特に問題はなかったと思いますよ。むしろ、問題がなくなったから一班に異動を希望したのでは?」

パラディン
「そういえば……モルトヴァン。おまえはほとんど驚いていなかったな。事前に知っていたのか?」

モルトヴァン
「まさか。ただ、副長と話していたんです。エリゴール中佐は、今度は元ウェーバー大佐隊を〝指導〟するかもしれないと」

パラディン
「指導?」

モルトヴァン
「はい。エリゴール中佐は、元マクスウェル大佐隊員たちを〝指揮〟するというより〝指導〟しているように私には見えました。昨日の訓練で、彼らがもう自分なしでもやっていけると判断して、大佐の言う〝凡人〟な元ウェーバー大佐隊の〝指導〟についに乗り出したんじゃないかと思ったんです」

パラディン
「そんな……私のせい!?」

モルトヴァン
「いや、十一班と十二班に比べたら、元ウェーバー大佐隊がいまいちなのは、誰の目にも明らかでしたし……」

パラディン
「そう言われてみれば、エリゴール中佐の言葉の端々はしばしに、それを臭わせるものがあったような……まったく気づかなかった! 不覚!」

モルトヴァン
「大佐はエリゴール中佐がそばにいるだけで、躁状態に陥りますからね……でも、これまでどおり護衛は続けてくれるそうですから、所属が一班に変わっても、大佐に不都合はないでしょう。エリゴール中佐も言っていましたが、一班の第一号待機室なら、呼べばすぐに駆けつけてきてくれますよ。十一班の第一号待機室と比べたら、それこそ目と鼻の先です」

パラディン
「それはそうだが……もし万が一、元ウェーバー大佐隊がものすごーく強くなってしまったら、エリゴール中佐が十一班に戻りづらくなってしまうじゃないか!」

モルトヴァン
「あれだけ元ウェーバー大佐隊に発破かけといてよく言いますね……」

パラディン
「まさか、エリゴール中佐が、元ウェーバー大佐隊に異動を希望するとは夢にも思わなかったから……大丈夫かな? 元ウェーバー大佐隊でいじめられたりしないかな?」

モルトヴァン
「私は逆に一班長のほうが心配ですが」

パラディン
「なぜ?」

モルトヴァン
「……エリゴール中佐が身近にいたら、いよいよ自信をなくしてしまいそうで」

パラディン
「そうしたら、エリゴール中佐が一班長になればいいじゃないか……」

モルトヴァン
「ひどっ! 今まで一生懸命、元ウェーバー大佐隊を支えつづけてきた班長なのに!」

パラディン
「うん。だから、〝今までよく頑張ってきたね、もう頑張らなくていいんだよ、お疲れ様〟という意味で、班長交替」

モルトヴァン
「一見優しく聞こえますが、エリゴール中佐を一班長にしてしまえば、そう簡単に退役はできなくなるだろうというさもしい魂胆が見え見えです」

パラディン
「……私が一方的に命じたら絶対断るだろうけど、一班長本人や周囲からやってくれと頼まれれば、エリゴール中佐なら断りきれずに引き受けちゃうんじゃないかと思うんだよね……」

モルトヴァン
「それはありえそうですけど……頼まれますかね?」

パラディン
「それくらいの人間でなくちゃ、元ウェーバー大佐隊の〝指導〟なんて、できないんじゃないのかい?」

モルトヴァン
「たまに正気に返りますね」

パラディン
「ああ、心配だな。十一班と十二班は、エリゴール中佐のことを裏切り者だと誤解したりしないかな。でも、したらそれなりのお仕置きはさせてもらうけどね。ふふふ……」

モルトヴァン
「あ、またおかしくなった」
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