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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

93【合流編12】護衛隊的里帰りの前

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【パラディン大佐隊・第一班第一号ブリッジ】

エリゴール
「〝おとっつぁん〟。基地に帰ったら、今日もミーティング室で反省会するのか?」

ハワード
「元四班長に〝おとっつぁん〟と呼ばれると、自分が父親役を演じている役者になったような錯覚を覚えるな。……そうだな。今日は反省会をしなくてもいいんじゃないかと言うか、しないほうがいいんじゃないかと言うか」

フィリップス
「ぶっちゃけ、反省が必要そうなのは、俺たちに〝全艦殲滅〟された三班くらいだしな。十二班がいなかったら、今日の演習の最大の目的である、大佐の鬱憤晴らしが達成できずに終わるところだった」

ハワード
「おまえ……鬱憤晴らしって……一応、大佐も実戦を想定した訓練をしたいからという建前があっただろう」

フィリップス
「建前って言ってる時点で、俺と大して変わんないだろ、おとっつぁん」

エリゴール
「結論として、今日の反省会はなしか?」

ハワード
「そうだな。今日はなしにしておくか。三班も十二班も、軍艦ふねの修理しなくちゃならないしな」

フィリップス
「自分たちのドックには、何とか自力で帰れそうでよかったね」

ハワード
「他人事みたいに言うなあ。十二班はともかく、三班をああしたのは俺たちだろう」

フィリップス
「だって、そういう演習だったし。それに、元四班長の命令には逆らえないし」

ハワード
「それもそうだな」

エリゴール
「最終的に、二人とも俺のせいにするのか」

フィリップス
「とりあえず、今日は反省会しないで、明日の朝、ミーティングするよ。……今さらだけど、これからは〝護衛隊〟もうちのミーティングや反省会に参加するのか?」

エリゴール
「それはあいつらに直接訊いてくれと言いたいところだが、あいつらに参加させるのは、大佐に無茶振りされて作戦立てるときくらいでいい。それ以外では邪魔だろ、あいつら」

フィリップス
「元四班長……〝護衛隊〟を追い出された設定、実は設定じゃない?」

エリゴール
「それはノーコメントにさせてもらうが、それじゃあ、俺も今日は大佐の執務室行って直帰する。ところで、あんたたちの言うミーティングと班長会議の違いって何だ?」

ハワード
「違い……」

フィリップス
「そうだなあ……定時にやってるのがミーティングで、招集してやってるのが班長会議かなあ。したがって、毎朝やってるのはミーティング。それ以外は班長会議。反省会も班長会議のうちに入るかな。今日みたいにやらないこともあるから」

エリゴール
「なるほど。でも、反省会がなかった日は、翌朝のミーティングが反省会になってるよな」

フィリップス
「まー、結局のところ、ミーティングも班長会議も、参加メンバーは同じだしな。それに、毎朝ミーティングするようになったのは、ウェーバーが〝栄転〟してからだ。それ以前は派閥があって、かなりギスギスしてた」

エリゴール
「派閥?」

フィリップス
「一言で言うと、ウェーバー派か反ウェーバー派か。うちのおとっつぁんはもちろん反ウェーバー派だったけど、一班長っていう立場上、それを表に出すわけにもいかなくて、表向きは中立寄りのウェーバー派してたんだ。そのせいですっかり胃が悪くなった。今は劇的に好転したけど」

エリゴール
「ああ、それはマクスウェル大佐隊も同じだったな。ただ、うちのトップは七班長で、一班長はいちばん年食ってただけだった」

ハワード
「うっ!」

フィリップス
「おとっつぁん。あくまでマクスウェル大佐隊での話だよ。……でも、大佐隊の班長筆頭って、年齢にかかわらず、だいたい一班長じゃないか?」

エリゴール
「だいたいそうだな。七班長は――ヴァラクは、面倒事が大嫌いで『七』が大好きだったから、あえて一班長にはならなかったんだよ」

フィリップス
「……そんな理由で?」

エリゴール
「そんな理由で」

フィリップス
「しかし、その七班長も、いまや〝大佐〟殿か……」

エリゴール
「まあ、なるべくしてなった感じだな。でも、アルスター大佐がああならなきゃ、このタイミングで〝大佐〟にはなれなかっただろうな」

フィリップス
「……あんたは七班長を恨んでいるのか?」

エリゴール
「恨んでいるように見えるか?」

フィリップス
「いや、まったく見えない。だから不思議に思う」

エリゴール
「そうだな。そう言われると俺も不思議だ。訓練生時代、あいつに声をかけられたから、マクスウェル大佐隊を希望したのに」

フィリップス
「え! そうだったの!?」

ハワード
「それは何と言うか……ひどいな」

エリゴール
「そうだな。ひどいな。ひどいが、俺もあんたたちには言えないようなひどいことを山ほどしてきてる。ヴァラクのことは言えない」

フィリップス
「……俺は七班長のことはほとんど知らないけど、十一班長と十二班長は〝反七班長派〟だったんだよな?」

エリゴール
「……そう言われてみればそうだな」

フィリップス
「でも、元四班長には戻ってきてくれって言ってただろ? ……あの二人には〝七班長〟は必要なかったけど、〝元四班長〟は必要なんだよ」

エリゴール
「……結局、利用されているだけのような気がする……」

フィリップス
「あんたも利用してるだろ。うちのおとっつぁんも含めて」

ハワード
「フィリップス!?」

エリゴール
「いや。利用してるのはあんただ」

ハワード
「元四班長!?」

エリゴール
「でも、あいつらが〝反七班長派〟っていうのは、今の今まで考えたこともなかったな。てっきり、もう砲撃はやりたくないから護衛に行ったんだとばかり思ってた。実際、ロノウェはそう言ってたしな」

フィリップス
「ああ、十一班長」

ハワード
「あの班長なら、いかにも言いそうだ」

フィリップス
「でも、それならこっちに来ないで、コールタン大佐隊に残っただろ?」

エリゴール
「いや、同じ護衛でも、コールタン大佐は嫌だからこっちに来たのかと」

フィリップス
「……元四班長たちに動画配布して、二日後には護衛隊形できるようにしろと言ったというサドな〝大佐〟だね?」

ハワード
「俺も嫌だ」

フィリップス
「うーん……元四班長には自分が慕われてる自覚がまるでないんだな……」

エリゴール
「慕われてる? 誰に?」

フィリップス
「この場合は〝護衛隊〟」

エリゴール
「それはないだろ……」

フィリップス
「うわ……本当に嫌そうな顔……!」

ハワード
「むしろ、慕われたくないのか……」

エリゴール
「俺は〝人切り班長〟だったからな。あっちの隊員のほとんどは、いまだに俺を敬遠してるよ」

フィリップス
「それは……仕方ないと言えば仕方ないか……」

ハワード
「うちは元四班長が男前すぎて、遠巻きにしてるだけだからな……」

エリゴール
「遠巻き? 話しかけたら普通に会話してくれるぞ?」

フィリップス
「そうか……あっちじゃ普通に会話もしてもらえないのか……」

ハワード
「……元四班長が大佐に言ってたうちへの異動理由。実は本音かもしれないな」

フィリップス
「何て言ってた?」

ハワード
「〝新しい環境で一から始めたくなったから〟」

フィリップス
「それ、ガチだ」
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