29 / 29
第二話 森・騎士・そしてフラグ
01 それだけはわかった
しおりを挟む
「僕、思うんだけど」
銀縁眼鏡の真ん中を人差指で押し上げて、皆本が唐突に切り出した。
「異世界トリップって、現実ではモブでしかない凡人の願望充足ジャンルだよね」
「モブ? 何だそれ?」
異世界トリップは知っているが――というか、皆本に教えてもらったが、モブは知らなかった。
知らないことには同意できない。だからすぐに訊いたのに、皆本は呆れたような眼差しを俺に向けてきた。
畜生! おまえが知ってることは誰でも知ってると思うなよ!
「英語だよ。もともとの意味は『暴徒』とか『犯罪集団』とか、よくない意味での『群衆』だけど、日本じゃ『その他大勢』みたいな意味で使われてる。主役どころか、脇役ですらない。ちなみに、英語でいうなら『エキストラ』だね」
「なるほど。『その他大勢』か。それだけはわかった。ありがとう」
ちゃんと礼を言ったのに、不満げな顔をしている。「エキストラ」の意味もわかったと付け足すか。そう思った瞬間、皆本が諦めたように溜め息をついた。
「それだけわかってもらえれば充分だよ。ようするに、現実ではどこにでもいそうな人間が、ある日突然異世界にトリップして、そこで唯一無二の選ばれた存在だってちやほやされる。――異世界トリップの典型的パターンの一つだよ。現実ではいくら努力したってそうなれない。でも、このパターンではそんなのはなしだ。まあ、ある程度の努力が必要とされる場合もあるけど、その前提にはすでに選ばれた存在っていうのがある。努力は決して無駄にはならないんだ」
典型的パターンと言われても、俺は小説も漫画もほとんど読んでいなかったからピンと来ない。だがまあ、奴の主張したいことは何となくわかった。
「おまえ、その選ばれた存在ってやつになりたいと思ってたか?」
「いや、まったく」
皆本はきっぱり否定した。
「僕はモブがよくてモブでいたんだ。誰にも注目されず、ただ存在しているだけのモブキャラ。最高じゃないか」
「そうだな。俺も『その他大勢』でよかったな」
「さっそく使いこなしてるね。教えた甲斐があったよ」
今は昼。俺たちは大平原のど真ん中に立っている。
そして、俺たちの視界のはるか前方には、刻々と近づいてくる黒いモヤ。
例によって、魔物の大群だ。本当に、魔物がいる世界にしか召喚されないな、俺ら。
そろそろ、無駄話タイムは終了だ。俺はいつものように皆本より前に出て、鞘から〝勇者の剣〟を引き抜いた。
銀縁眼鏡の真ん中を人差指で押し上げて、皆本が唐突に切り出した。
「異世界トリップって、現実ではモブでしかない凡人の願望充足ジャンルだよね」
「モブ? 何だそれ?」
異世界トリップは知っているが――というか、皆本に教えてもらったが、モブは知らなかった。
知らないことには同意できない。だからすぐに訊いたのに、皆本は呆れたような眼差しを俺に向けてきた。
畜生! おまえが知ってることは誰でも知ってると思うなよ!
「英語だよ。もともとの意味は『暴徒』とか『犯罪集団』とか、よくない意味での『群衆』だけど、日本じゃ『その他大勢』みたいな意味で使われてる。主役どころか、脇役ですらない。ちなみに、英語でいうなら『エキストラ』だね」
「なるほど。『その他大勢』か。それだけはわかった。ありがとう」
ちゃんと礼を言ったのに、不満げな顔をしている。「エキストラ」の意味もわかったと付け足すか。そう思った瞬間、皆本が諦めたように溜め息をついた。
「それだけわかってもらえれば充分だよ。ようするに、現実ではどこにでもいそうな人間が、ある日突然異世界にトリップして、そこで唯一無二の選ばれた存在だってちやほやされる。――異世界トリップの典型的パターンの一つだよ。現実ではいくら努力したってそうなれない。でも、このパターンではそんなのはなしだ。まあ、ある程度の努力が必要とされる場合もあるけど、その前提にはすでに選ばれた存在っていうのがある。努力は決して無駄にはならないんだ」
典型的パターンと言われても、俺は小説も漫画もほとんど読んでいなかったからピンと来ない。だがまあ、奴の主張したいことは何となくわかった。
「おまえ、その選ばれた存在ってやつになりたいと思ってたか?」
「いや、まったく」
皆本はきっぱり否定した。
「僕はモブがよくてモブでいたんだ。誰にも注目されず、ただ存在しているだけのモブキャラ。最高じゃないか」
「そうだな。俺も『その他大勢』でよかったな」
「さっそく使いこなしてるね。教えた甲斐があったよ」
今は昼。俺たちは大平原のど真ん中に立っている。
そして、俺たちの視界のはるか前方には、刻々と近づいてくる黒いモヤ。
例によって、魔物の大群だ。本当に、魔物がいる世界にしか召喚されないな、俺ら。
そろそろ、無駄話タイムは終了だ。俺はいつものように皆本より前に出て、鞘から〝勇者の剣〟を引き抜いた。
0
お気に入りに追加
26
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。
七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】
──────────
身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。
力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。
※シリアス
溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。
表紙:七賀

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
いつ主人公×皆本が始まるんだろうとワクワクしながら見てたのに、いつの間にか陰謀推理が始まっててそっちをハラハラ見守ってる間に終わってしまった…
主人公はアホなのに皆本君の名前は覚えてたり、皆本君は皆本君でフルネーム覚えてたり殺されそうになったことに対して激おこだったので実は主人公ラブなのかなあとか両思いなのかなあとか思いつつ、なんで二人召喚になっちゃったのかとか謎がいっぱいでした。
面白かったです!続きも期待してます。
ご感想ありがとうございます。
実は全三話予定(は未定)で、最後には謎が明らかになります!(たぶん)
続きはいつ書けるかまったくわかりませんが、せめてこれで終わりではないことがわかるようにしておこうと思います。
ご感想ありがとうございました。
#BLとは?
BL展開が無さすぎてBLと言うのを忘れてしまう(((
けど、異世界トリップという括りにするとこれがまた面白いなって思うから、今後に期待!!
すごく楽しませてもらってます❤
頑張ってください
ご感想ありがとうございます。
何と言うか、裏設定ではBLなんですが、
そのまま、BLということを忘れていただいたほうが有難いような。←
いずれにしろ、すみません(汗)。
ご感想ありがとうございました。