26 / 29
第一話 召喚・勇者・そしてチート
26 報復はされていた
しおりを挟む
「とにかくまあ、僕らは勇者としての〝お役目〟は果たしてやった。あの砦には戻りたくないから、勇者として全力で報復もしないでおいてやるよ」
どこまでも上から目線で皆本は宣言した。
皆本の言う〝お役目〟を果たしたのは俺だけど、俺を口で守ってくれたのは皆本だから、その点についてはあえて触れないでおく。
「報復しないのか?」
皆本だったら倍返しどころか、百倍返しくらいしそうなもんだが。そう思って訊くと、皆本はニヤッと口角を上げた。
「あくまで全力ではしないだけで、ささやかにならもうとっくの昔にさせてもらったよ」
「え? いつ?」
「召喚されたあの部屋から出るとき。昼に飲みきれなかった牛乳パック、たまたま上着のポケットに入れてたから、君とじいさんが前を向いている隙に、魔法円の特にごちゃごちゃしているところを狙ってぶちまけてきた。木の床に零した牛乳掃除するの、けっこう大変だよね」
「せこいけど、厄介な嫌がらせだな……」
つーか、ポケットに飲みかけの牛乳パックなんか入れとくなよ。でも、他に入れとく場所ないか。下手にロッカーの中に入れたりしたら、入れたことうっかり忘れて、もっと厄介なことになりそうだしな。
「たぶん、あれであの魔法円は使えなくなっただろうから、強制召喚されることはないと思うけど、この国からは早急に脱出したほうがいいと思うよ。さすがにこの世界にこの国一国しかないってことはないと思うから……そうだよね、クズの末裔」
アルガスはびくっと肩を揺らすと、「ああ。他国もある」と小さな声で同意した。
殺されかけたのは俺だが、ここまで皆本にボロクソ言われているのを見ていると、何だか気の毒に思えてくる。こいつだって、好きで勇者殺しの家に生まれたわけじゃないだろうし。イケメンなのは腹立つけど。
「じゃあ、この鞘回収して、あの馬車もらっていこうか」
しかし、皆本はまったく気にしたふうもなく、アルガスの胸に刺さったままの鞘を目で指した。
「そういや、ずっと訊きそびれてたんだが……」
御者なんてできるかなと思いつつ、おそるおそる皆本に訊ねる。
「これ……おまえが刺した……のか?」
「まさか!」
とんでもないとでも言うように、皆本は笑って一蹴した。
「僕は非力な凡人だよ? こんなこと、できるわけないじゃないか。……君がこの男に切られそうになったとき、勝手に飛んでいって刺したんだ。さすが〝勇者の剣〟の鞘だね。本物の勇者を身を挺して守ったよ」
「凡人だとは思わないが……すごいな、〝勇者の剣〟の鞘」
「だから、この鞘を抜くのは君がやってよ。僕じゃあ無理だ」
「え? ……抜いたら血が噴き出して死んだりしないか?」
「抜こうが抜くまいが、そんなところを刺されたら、普通は即死してると思うけど」
「……それもそうだな」
近くで見てみても、アルガスの胸に血はまったく滲んでいない。動きは封じたかったけど、殺したくはなかったのか。器用だな、〝勇者の剣〟の鞘。見かけは薄汚くて地味な鞘なんだけどな。
とにかく、このまま放置するわけにもいかない。剣を左手に持ち替えて、右手で鞘を抜こうとしたが、「ああ、その前に」と皆本に止められた。
どこまでも上から目線で皆本は宣言した。
皆本の言う〝お役目〟を果たしたのは俺だけど、俺を口で守ってくれたのは皆本だから、その点についてはあえて触れないでおく。
「報復しないのか?」
皆本だったら倍返しどころか、百倍返しくらいしそうなもんだが。そう思って訊くと、皆本はニヤッと口角を上げた。
「あくまで全力ではしないだけで、ささやかにならもうとっくの昔にさせてもらったよ」
「え? いつ?」
「召喚されたあの部屋から出るとき。昼に飲みきれなかった牛乳パック、たまたま上着のポケットに入れてたから、君とじいさんが前を向いている隙に、魔法円の特にごちゃごちゃしているところを狙ってぶちまけてきた。木の床に零した牛乳掃除するの、けっこう大変だよね」
「せこいけど、厄介な嫌がらせだな……」
つーか、ポケットに飲みかけの牛乳パックなんか入れとくなよ。でも、他に入れとく場所ないか。下手にロッカーの中に入れたりしたら、入れたことうっかり忘れて、もっと厄介なことになりそうだしな。
「たぶん、あれであの魔法円は使えなくなっただろうから、強制召喚されることはないと思うけど、この国からは早急に脱出したほうがいいと思うよ。さすがにこの世界にこの国一国しかないってことはないと思うから……そうだよね、クズの末裔」
アルガスはびくっと肩を揺らすと、「ああ。他国もある」と小さな声で同意した。
殺されかけたのは俺だが、ここまで皆本にボロクソ言われているのを見ていると、何だか気の毒に思えてくる。こいつだって、好きで勇者殺しの家に生まれたわけじゃないだろうし。イケメンなのは腹立つけど。
「じゃあ、この鞘回収して、あの馬車もらっていこうか」
しかし、皆本はまったく気にしたふうもなく、アルガスの胸に刺さったままの鞘を目で指した。
「そういや、ずっと訊きそびれてたんだが……」
御者なんてできるかなと思いつつ、おそるおそる皆本に訊ねる。
「これ……おまえが刺した……のか?」
「まさか!」
とんでもないとでも言うように、皆本は笑って一蹴した。
「僕は非力な凡人だよ? こんなこと、できるわけないじゃないか。……君がこの男に切られそうになったとき、勝手に飛んでいって刺したんだ。さすが〝勇者の剣〟の鞘だね。本物の勇者を身を挺して守ったよ」
「凡人だとは思わないが……すごいな、〝勇者の剣〟の鞘」
「だから、この鞘を抜くのは君がやってよ。僕じゃあ無理だ」
「え? ……抜いたら血が噴き出して死んだりしないか?」
「抜こうが抜くまいが、そんなところを刺されたら、普通は即死してると思うけど」
「……それもそうだな」
近くで見てみても、アルガスの胸に血はまったく滲んでいない。動きは封じたかったけど、殺したくはなかったのか。器用だな、〝勇者の剣〟の鞘。見かけは薄汚くて地味な鞘なんだけどな。
とにかく、このまま放置するわけにもいかない。剣を左手に持ち替えて、右手で鞘を抜こうとしたが、「ああ、その前に」と皆本に止められた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです


平凡くんと【特別】だらけの王道学園
蜂蜜
BL
自分以外の家族全員が美形という家庭に生まれ育った平凡顔な主人公(ぼっち拗らせて表情筋死んでる)が【自分】を見てくれる人を求めて家族から逃げた先の男子校(全寮制)での話。
王道の転校生や生徒会、風紀委員、不良に振り回されながら愛されていきます。
※今のところは主人公総受予定。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる