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第一話 召喚・勇者・そしてチート
26 報復はされていた
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「とにかくまあ、僕らは勇者としての〝お役目〟は果たしてやった。あの砦には戻りたくないから、勇者として全力で報復もしないでおいてやるよ」
どこまでも上から目線で皆本は宣言した。
皆本の言う〝お役目〟を果たしたのは俺だけど、俺を口で守ってくれたのは皆本だから、その点についてはあえて触れないでおく。
「報復しないのか?」
皆本だったら倍返しどころか、百倍返しくらいしそうなもんだが。そう思って訊くと、皆本はニヤッと口角を上げた。
「あくまで全力ではしないだけで、ささやかにならもうとっくの昔にさせてもらったよ」
「え? いつ?」
「召喚されたあの部屋から出るとき。昼に飲みきれなかった牛乳パック、たまたま上着のポケットに入れてたから、君とじいさんが前を向いている隙に、魔法円の特にごちゃごちゃしているところを狙ってぶちまけてきた。木の床に零した牛乳掃除するの、けっこう大変だよね」
「せこいけど、厄介な嫌がらせだな……」
つーか、ポケットに飲みかけの牛乳パックなんか入れとくなよ。でも、他に入れとく場所ないか。下手にロッカーの中に入れたりしたら、入れたことうっかり忘れて、もっと厄介なことになりそうだしな。
「たぶん、あれであの魔法円は使えなくなっただろうから、強制召喚されることはないと思うけど、この国からは早急に脱出したほうがいいと思うよ。さすがにこの世界にこの国一国しかないってことはないと思うから……そうだよね、クズの末裔」
アルガスはびくっと肩を揺らすと、「ああ。他国もある」と小さな声で同意した。
殺されかけたのは俺だが、ここまで皆本にボロクソ言われているのを見ていると、何だか気の毒に思えてくる。こいつだって、好きで勇者殺しの家に生まれたわけじゃないだろうし。イケメンなのは腹立つけど。
「じゃあ、この鞘回収して、あの馬車もらっていこうか」
しかし、皆本はまったく気にしたふうもなく、アルガスの胸に刺さったままの鞘を目で指した。
「そういや、ずっと訊きそびれてたんだが……」
御者なんてできるかなと思いつつ、おそるおそる皆本に訊ねる。
「これ……おまえが刺した……のか?」
「まさか!」
とんでもないとでも言うように、皆本は笑って一蹴した。
「僕は非力な凡人だよ? こんなこと、できるわけないじゃないか。……君がこの男に切られそうになったとき、勝手に飛んでいって刺したんだ。さすが〝勇者の剣〟の鞘だね。本物の勇者を身を挺して守ったよ」
「凡人だとは思わないが……すごいな、〝勇者の剣〟の鞘」
「だから、この鞘を抜くのは君がやってよ。僕じゃあ無理だ」
「え? ……抜いたら血が噴き出して死んだりしないか?」
「抜こうが抜くまいが、そんなところを刺されたら、普通は即死してると思うけど」
「……それもそうだな」
近くで見てみても、アルガスの胸に血はまったく滲んでいない。動きは封じたかったけど、殺したくはなかったのか。器用だな、〝勇者の剣〟の鞘。見かけは薄汚くて地味な鞘なんだけどな。
とにかく、このまま放置するわけにもいかない。剣を左手に持ち替えて、右手で鞘を抜こうとしたが、「ああ、その前に」と皆本に止められた。
どこまでも上から目線で皆本は宣言した。
皆本の言う〝お役目〟を果たしたのは俺だけど、俺を口で守ってくれたのは皆本だから、その点についてはあえて触れないでおく。
「報復しないのか?」
皆本だったら倍返しどころか、百倍返しくらいしそうなもんだが。そう思って訊くと、皆本はニヤッと口角を上げた。
「あくまで全力ではしないだけで、ささやかにならもうとっくの昔にさせてもらったよ」
「え? いつ?」
「召喚されたあの部屋から出るとき。昼に飲みきれなかった牛乳パック、たまたま上着のポケットに入れてたから、君とじいさんが前を向いている隙に、魔法円の特にごちゃごちゃしているところを狙ってぶちまけてきた。木の床に零した牛乳掃除するの、けっこう大変だよね」
「せこいけど、厄介な嫌がらせだな……」
つーか、ポケットに飲みかけの牛乳パックなんか入れとくなよ。でも、他に入れとく場所ないか。下手にロッカーの中に入れたりしたら、入れたことうっかり忘れて、もっと厄介なことになりそうだしな。
「たぶん、あれであの魔法円は使えなくなっただろうから、強制召喚されることはないと思うけど、この国からは早急に脱出したほうがいいと思うよ。さすがにこの世界にこの国一国しかないってことはないと思うから……そうだよね、クズの末裔」
アルガスはびくっと肩を揺らすと、「ああ。他国もある」と小さな声で同意した。
殺されかけたのは俺だが、ここまで皆本にボロクソ言われているのを見ていると、何だか気の毒に思えてくる。こいつだって、好きで勇者殺しの家に生まれたわけじゃないだろうし。イケメンなのは腹立つけど。
「じゃあ、この鞘回収して、あの馬車もらっていこうか」
しかし、皆本はまったく気にしたふうもなく、アルガスの胸に刺さったままの鞘を目で指した。
「そういや、ずっと訊きそびれてたんだが……」
御者なんてできるかなと思いつつ、おそるおそる皆本に訊ねる。
「これ……おまえが刺した……のか?」
「まさか!」
とんでもないとでも言うように、皆本は笑って一蹴した。
「僕は非力な凡人だよ? こんなこと、できるわけないじゃないか。……君がこの男に切られそうになったとき、勝手に飛んでいって刺したんだ。さすが〝勇者の剣〟の鞘だね。本物の勇者を身を挺して守ったよ」
「凡人だとは思わないが……すごいな、〝勇者の剣〟の鞘」
「だから、この鞘を抜くのは君がやってよ。僕じゃあ無理だ」
「え? ……抜いたら血が噴き出して死んだりしないか?」
「抜こうが抜くまいが、そんなところを刺されたら、普通は即死してると思うけど」
「……それもそうだな」
近くで見てみても、アルガスの胸に血はまったく滲んでいない。動きは封じたかったけど、殺したくはなかったのか。器用だな、〝勇者の剣〟の鞘。見かけは薄汚くて地味な鞘なんだけどな。
とにかく、このまま放置するわけにもいかない。剣を左手に持ち替えて、右手で鞘を抜こうとしたが、「ああ、その前に」と皆本に止められた。
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