17 / 29
第一話 召喚・勇者・そしてチート
17 懐中時計は知っていた
しおりを挟む
皆本に言われて初めてわかったが、俺たちの腕時計は死んでいた。
ついでに、皆本が持っていたスマホも死んでいて(俺はガラケー使いだったが、バッグに入れっぱなしにしていたから不携帯だった)、皆本はその原因を異世界に転移したせいじゃないかと推測した。
「へえ。人間は壊れないけど、機械は壊れるのか」
たぶん召喚されたときの時刻で止まっている腕時計を左手首に戻しながら呟くと、なぜか皆本は痛みをこらえているような複雑な笑みを浮かべた。
「そうだね。とりあえず、動いてはいるね」
だが、時間を計るものは欲しい。そう主張した皆本は、突然肩掛け鞄を膝の上に載せると、まるで願い事をするかのように「この国の時間がわかる時計が欲しい」と言ってから、正面についている薄汚れた金色の留め具に手をかけた。
そういえば、これまで皆本はこの鞄を一度も開けていなかった。俺だったら売り物の鞄でもすぐに中を確認するけどなと思って見ていると、鞄の中に右手を突っこんでいた皆本が、「あったあった」とにやにやした。
「何が……」
と、手元を覗きこもうとしたら、皆本はすばやく何かを取り出して、さっさと鞄を閉めてしまった。
中がどうなっているのか知りたかったんだが。でも、皆本の右手の中にあるものを見て、俺の興味はあっさりそちらに移った。
「それ……懐中時計か?」
皆本は驚いたように俺を見た。
「君、懐中時計は知ってたんだ」
「時計はわりと好きだから、何となく知ってるよ」
「何となくか……」
若干呆れられたが、皆本は自分の右手に目を戻すと、それを俺にも見えるように差し出してきた。
外観は、銀色の蓋つきのやっぱり懐中時計だった。とりたてて大きくもなく小さくもなく、銀色のチェーンもいたって普通。よく見ると、蓋には模様が彫りこまれていて、その模様はあのでかい月の中にいるごろ寝ウサギによく似ていた。
「開けるよ」
そう前置きして、皆本が懐中時計の出っ張っている部分を親指で押すと、蓋が右開きの扉みたいに開いた。中の文字盤は白地で、文字と針は黒。そこまでは俺が知っている懐中時計と同じだった。が。
「数字、少なくねえか?」
思ったままを口にすると、皆本は珍しく苦笑した。
「少ないか。まあ、間違ってはいないね。十一と十二がない」
皆本の言うとおりだった。
文字盤の数字は、時計でよく使われている棒みたいな数字だったが(正式名称は俺にはわからない)、いちばんてっぺんにあったのは十二ではなく十だった。
ということは、この世界の一日は、二十四時間じゃなく二十時間ってことか?
「なあ。これ、本当に時計か?」
秒針は動いていたが(午前か午後かは不明だが、時刻は八時十三分だった)、もしかしたらオモチャかもしれない。そう思って訊いたのだが、皆本は「時刻は合っていないかもしれないけどね」と答えた。
「でもまあ、砂時計みたいに経過時間が計れればそれでいいよ。ただ、この時計だと一分も六十秒ではなく五十秒かな。まあ、わかりやすいと言えばわかりやすいか」
確かにわかりやすい……か?
この時計で百秒は二分。実際には一分と四十秒。――もやもやする。
ついでに、皆本が持っていたスマホも死んでいて(俺はガラケー使いだったが、バッグに入れっぱなしにしていたから不携帯だった)、皆本はその原因を異世界に転移したせいじゃないかと推測した。
「へえ。人間は壊れないけど、機械は壊れるのか」
たぶん召喚されたときの時刻で止まっている腕時計を左手首に戻しながら呟くと、なぜか皆本は痛みをこらえているような複雑な笑みを浮かべた。
「そうだね。とりあえず、動いてはいるね」
だが、時間を計るものは欲しい。そう主張した皆本は、突然肩掛け鞄を膝の上に載せると、まるで願い事をするかのように「この国の時間がわかる時計が欲しい」と言ってから、正面についている薄汚れた金色の留め具に手をかけた。
そういえば、これまで皆本はこの鞄を一度も開けていなかった。俺だったら売り物の鞄でもすぐに中を確認するけどなと思って見ていると、鞄の中に右手を突っこんでいた皆本が、「あったあった」とにやにやした。
「何が……」
と、手元を覗きこもうとしたら、皆本はすばやく何かを取り出して、さっさと鞄を閉めてしまった。
中がどうなっているのか知りたかったんだが。でも、皆本の右手の中にあるものを見て、俺の興味はあっさりそちらに移った。
「それ……懐中時計か?」
皆本は驚いたように俺を見た。
「君、懐中時計は知ってたんだ」
「時計はわりと好きだから、何となく知ってるよ」
「何となくか……」
若干呆れられたが、皆本は自分の右手に目を戻すと、それを俺にも見えるように差し出してきた。
外観は、銀色の蓋つきのやっぱり懐中時計だった。とりたてて大きくもなく小さくもなく、銀色のチェーンもいたって普通。よく見ると、蓋には模様が彫りこまれていて、その模様はあのでかい月の中にいるごろ寝ウサギによく似ていた。
「開けるよ」
そう前置きして、皆本が懐中時計の出っ張っている部分を親指で押すと、蓋が右開きの扉みたいに開いた。中の文字盤は白地で、文字と針は黒。そこまでは俺が知っている懐中時計と同じだった。が。
「数字、少なくねえか?」
思ったままを口にすると、皆本は珍しく苦笑した。
「少ないか。まあ、間違ってはいないね。十一と十二がない」
皆本の言うとおりだった。
文字盤の数字は、時計でよく使われている棒みたいな数字だったが(正式名称は俺にはわからない)、いちばんてっぺんにあったのは十二ではなく十だった。
ということは、この世界の一日は、二十四時間じゃなく二十時間ってことか?
「なあ。これ、本当に時計か?」
秒針は動いていたが(午前か午後かは不明だが、時刻は八時十三分だった)、もしかしたらオモチャかもしれない。そう思って訊いたのだが、皆本は「時刻は合っていないかもしれないけどね」と答えた。
「でもまあ、砂時計みたいに経過時間が計れればそれでいいよ。ただ、この時計だと一分も六十秒ではなく五十秒かな。まあ、わかりやすいと言えばわかりやすいか」
確かにわかりやすい……か?
この時計で百秒は二分。実際には一分と四十秒。――もやもやする。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる