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第一話 召喚・勇者・そしてチート
17 懐中時計は知っていた
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皆本に言われて初めてわかったが、俺たちの腕時計は死んでいた。
ついでに、皆本が持っていたスマホも死んでいて(俺はガラケー使いだったが、バッグに入れっぱなしにしていたから不携帯だった)、皆本はその原因を異世界に転移したせいじゃないかと推測した。
「へえ。人間は壊れないけど、機械は壊れるのか」
たぶん召喚されたときの時刻で止まっている腕時計を左手首に戻しながら呟くと、なぜか皆本は痛みをこらえているような複雑な笑みを浮かべた。
「そうだね。とりあえず、動いてはいるね」
だが、時間を計るものは欲しい。そう主張した皆本は、突然肩掛け鞄を膝の上に載せると、まるで願い事をするかのように「この国の時間がわかる時計が欲しい」と言ってから、正面についている薄汚れた金色の留め具に手をかけた。
そういえば、これまで皆本はこの鞄を一度も開けていなかった。俺だったら売り物の鞄でもすぐに中を確認するけどなと思って見ていると、鞄の中に右手を突っこんでいた皆本が、「あったあった」とにやにやした。
「何が……」
と、手元を覗きこもうとしたら、皆本はすばやく何かを取り出して、さっさと鞄を閉めてしまった。
中がどうなっているのか知りたかったんだが。でも、皆本の右手の中にあるものを見て、俺の興味はあっさりそちらに移った。
「それ……懐中時計か?」
皆本は驚いたように俺を見た。
「君、懐中時計は知ってたんだ」
「時計はわりと好きだから、何となく知ってるよ」
「何となくか……」
若干呆れられたが、皆本は自分の右手に目を戻すと、それを俺にも見えるように差し出してきた。
外観は、銀色の蓋つきのやっぱり懐中時計だった。とりたてて大きくもなく小さくもなく、銀色のチェーンもいたって普通。よく見ると、蓋には模様が彫りこまれていて、その模様はあのでかい月の中にいるごろ寝ウサギによく似ていた。
「開けるよ」
そう前置きして、皆本が懐中時計の出っ張っている部分を親指で押すと、蓋が右開きの扉みたいに開いた。中の文字盤は白地で、文字と針は黒。そこまでは俺が知っている懐中時計と同じだった。が。
「数字、少なくねえか?」
思ったままを口にすると、皆本は珍しく苦笑した。
「少ないか。まあ、間違ってはいないね。十一と十二がない」
皆本の言うとおりだった。
文字盤の数字は、時計でよく使われている棒みたいな数字だったが(正式名称は俺にはわからない)、いちばんてっぺんにあったのは十二ではなく十だった。
ということは、この世界の一日は、二十四時間じゃなく二十時間ってことか?
「なあ。これ、本当に時計か?」
秒針は動いていたが(午前か午後かは不明だが、時刻は八時十三分だった)、もしかしたらオモチャかもしれない。そう思って訊いたのだが、皆本は「時刻は合っていないかもしれないけどね」と答えた。
「でもまあ、砂時計みたいに経過時間が計れればそれでいいよ。ただ、この時計だと一分も六十秒ではなく五十秒かな。まあ、わかりやすいと言えばわかりやすいか」
確かにわかりやすい……か?
この時計で百秒は二分。実際には一分と四十秒。――もやもやする。
ついでに、皆本が持っていたスマホも死んでいて(俺はガラケー使いだったが、バッグに入れっぱなしにしていたから不携帯だった)、皆本はその原因を異世界に転移したせいじゃないかと推測した。
「へえ。人間は壊れないけど、機械は壊れるのか」
たぶん召喚されたときの時刻で止まっている腕時計を左手首に戻しながら呟くと、なぜか皆本は痛みをこらえているような複雑な笑みを浮かべた。
「そうだね。とりあえず、動いてはいるね」
だが、時間を計るものは欲しい。そう主張した皆本は、突然肩掛け鞄を膝の上に載せると、まるで願い事をするかのように「この国の時間がわかる時計が欲しい」と言ってから、正面についている薄汚れた金色の留め具に手をかけた。
そういえば、これまで皆本はこの鞄を一度も開けていなかった。俺だったら売り物の鞄でもすぐに中を確認するけどなと思って見ていると、鞄の中に右手を突っこんでいた皆本が、「あったあった」とにやにやした。
「何が……」
と、手元を覗きこもうとしたら、皆本はすばやく何かを取り出して、さっさと鞄を閉めてしまった。
中がどうなっているのか知りたかったんだが。でも、皆本の右手の中にあるものを見て、俺の興味はあっさりそちらに移った。
「それ……懐中時計か?」
皆本は驚いたように俺を見た。
「君、懐中時計は知ってたんだ」
「時計はわりと好きだから、何となく知ってるよ」
「何となくか……」
若干呆れられたが、皆本は自分の右手に目を戻すと、それを俺にも見えるように差し出してきた。
外観は、銀色の蓋つきのやっぱり懐中時計だった。とりたてて大きくもなく小さくもなく、銀色のチェーンもいたって普通。よく見ると、蓋には模様が彫りこまれていて、その模様はあのでかい月の中にいるごろ寝ウサギによく似ていた。
「開けるよ」
そう前置きして、皆本が懐中時計の出っ張っている部分を親指で押すと、蓋が右開きの扉みたいに開いた。中の文字盤は白地で、文字と針は黒。そこまでは俺が知っている懐中時計と同じだった。が。
「数字、少なくねえか?」
思ったままを口にすると、皆本は珍しく苦笑した。
「少ないか。まあ、間違ってはいないね。十一と十二がない」
皆本の言うとおりだった。
文字盤の数字は、時計でよく使われている棒みたいな数字だったが(正式名称は俺にはわからない)、いちばんてっぺんにあったのは十二ではなく十だった。
ということは、この世界の一日は、二十四時間じゃなく二十時間ってことか?
「なあ。これ、本当に時計か?」
秒針は動いていたが(午前か午後かは不明だが、時刻は八時十三分だった)、もしかしたらオモチャかもしれない。そう思って訊いたのだが、皆本は「時刻は合っていないかもしれないけどね」と答えた。
「でもまあ、砂時計みたいに経過時間が計れればそれでいいよ。ただ、この時計だと一分も六十秒ではなく五十秒かな。まあ、わかりやすいと言えばわかりやすいか」
確かにわかりやすい……か?
この時計で百秒は二分。実際には一分と四十秒。――もやもやする。
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