トリッパーズ!

有喜多亜里

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第一話 召喚・勇者・そしてチート

14 魔法使いは土下座した

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 俺の返事を聞いた皆本は、やっぱり呆れたような顔をしていた。が、これ以上この話題を続けても時間の無駄だと見切ってくれたのか、軽く溜め息をついてから、馬車に向かって歩き出した。それを見てアルガスが立ち上がり、道を譲るように体を斜めにする。
 俺も皆本を追って歩きかけたが、ふとじいさんのことが気になって振り返った。皆本に言われたことがよっぽど応えたんだろう。じいさんは素通し提灯を持った手をだらりと提げて、杖にすがりつくようにして立っていた。
 皆本が言ったことには俺もだいたい同意だし、今だって俺たちにお願いしますとか何とか言えよと思っているが(俺たちの見送りがこのじいさんと兵隊数人しかいないことにはもう突っこむ気も起こらない)、じいさんはきっとあの王様の命令で俺たちを召喚しただけなんだろう。あの王様に逆らったら、命の危険もありそうだ。
 何となく気の毒になり、でも、気にするなとまでは言えなくて、俺は困ったあげく、じいさんにこう声をかけた。

「じゃ、またな」

 元の世界に帰るには、またあの魔法円を使わなくちゃいけないんだろう。何の根拠もなく、俺はそう思いこんでいた。
 だが、じいさんはまるで雷に打たれたみたいに目を見開くと、杖と提灯を石の床の上に置いて座りこみ、床に額を擦りつけた。
 二度目の土下座。でも、じいさんが頭を下げている相手は皆本じゃなくて、明らかに俺だ。

「いや、じいさん、土下座までしなくても……」

 ぎょっとして止めようとしたが、じいさんは微動だにしない。俺だけでなく、じいさんの周囲にいた兵隊たちも、信じられないものを見たかのように固まっている。

「武村くん」

 呼ばれて振り返ると、皆本が腕組みをしたまま俺を見ていた。〝くん〟はどうしても外せないらしい。

「いま行く」

 そう答えて、アルガスが開いた馬車の扉から、皆本に続いて乗りこんだ。
 馬車の窓から改めてじいさんを見たが、じいさんは黒い蛙みたいにずっと這いつくばっていて、最後まで顔を上げなかった。
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