14 / 29
第一話 召喚・勇者・そしてチート
14 魔法使いは土下座した
しおりを挟む
俺の返事を聞いた皆本は、やっぱり呆れたような顔をしていた。が、これ以上この話題を続けても時間の無駄だと見切ってくれたのか、軽く溜め息をついてから、馬車に向かって歩き出した。それを見てアルガスが立ち上がり、道を譲るように体を斜めにする。
俺も皆本を追って歩きかけたが、ふとじいさんのことが気になって振り返った。皆本に言われたことがよっぽど応えたんだろう。じいさんは素通し提灯を持った手をだらりと提げて、杖にすがりつくようにして立っていた。
皆本が言ったことには俺もだいたい同意だし、今だって俺たちにお願いしますとか何とか言えよと思っているが(俺たちの見送りがこのじいさんと兵隊数人しかいないことにはもう突っこむ気も起こらない)、じいさんはきっとあの王様の命令で俺たちを召喚しただけなんだろう。あの王様に逆らったら、命の危険もありそうだ。
何となく気の毒になり、でも、気にするなとまでは言えなくて、俺は困ったあげく、じいさんにこう声をかけた。
「じゃ、またな」
元の世界に帰るには、またあの魔法円を使わなくちゃいけないんだろう。何の根拠もなく、俺はそう思いこんでいた。
だが、じいさんはまるで雷に打たれたみたいに目を見開くと、杖と提灯を石の床の上に置いて座りこみ、床に額を擦りつけた。
二度目の土下座。でも、じいさんが頭を下げている相手は皆本じゃなくて、明らかに俺だ。
「いや、じいさん、土下座までしなくても……」
ぎょっとして止めようとしたが、じいさんは微動だにしない。俺だけでなく、じいさんの周囲にいた兵隊たちも、信じられないものを見たかのように固まっている。
「武村くん」
呼ばれて振り返ると、皆本が腕組みをしたまま俺を見ていた。〝くん〟はどうしても外せないらしい。
「いま行く」
そう答えて、アルガスが開いた馬車の扉から、皆本に続いて乗りこんだ。
馬車の窓から改めてじいさんを見たが、じいさんは黒い蛙みたいにずっと這いつくばっていて、最後まで顔を上げなかった。
俺も皆本を追って歩きかけたが、ふとじいさんのことが気になって振り返った。皆本に言われたことがよっぽど応えたんだろう。じいさんは素通し提灯を持った手をだらりと提げて、杖にすがりつくようにして立っていた。
皆本が言ったことには俺もだいたい同意だし、今だって俺たちにお願いしますとか何とか言えよと思っているが(俺たちの見送りがこのじいさんと兵隊数人しかいないことにはもう突っこむ気も起こらない)、じいさんはきっとあの王様の命令で俺たちを召喚しただけなんだろう。あの王様に逆らったら、命の危険もありそうだ。
何となく気の毒になり、でも、気にするなとまでは言えなくて、俺は困ったあげく、じいさんにこう声をかけた。
「じゃ、またな」
元の世界に帰るには、またあの魔法円を使わなくちゃいけないんだろう。何の根拠もなく、俺はそう思いこんでいた。
だが、じいさんはまるで雷に打たれたみたいに目を見開くと、杖と提灯を石の床の上に置いて座りこみ、床に額を擦りつけた。
二度目の土下座。でも、じいさんが頭を下げている相手は皆本じゃなくて、明らかに俺だ。
「いや、じいさん、土下座までしなくても……」
ぎょっとして止めようとしたが、じいさんは微動だにしない。俺だけでなく、じいさんの周囲にいた兵隊たちも、信じられないものを見たかのように固まっている。
「武村くん」
呼ばれて振り返ると、皆本が腕組みをしたまま俺を見ていた。〝くん〟はどうしても外せないらしい。
「いま行く」
そう答えて、アルガスが開いた馬車の扉から、皆本に続いて乗りこんだ。
馬車の窓から改めてじいさんを見たが、じいさんは黒い蛙みたいにずっと這いつくばっていて、最後まで顔を上げなかった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる