トリッパーズ!

有喜多亜里

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第一話 召喚・勇者・そしてチート

12 一人だけだった

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 砦から玄関の前に視線を戻すと、ちょっと狭めのグラウンドみたいな広場が広がっていた。その外側には砦と同じように石造りの城壁がそびえ立っている。
 城壁にはやっぱり両開きの大きな扉があって、その両脇には兵隊らしいのが何人か立っていたが、他には誰もいなかった。

 ――まさか、ここから森まで徒歩移動?

 いくら何でもそりゃないだろとあせったとき、馬の足音と車輪が回る音みたいなのが聞こえた。
 反射的に右手の暗がりに目を向ける。と、茶色っぽい馬が二頭現れ、俺たちに左側を向けるようにして、静かに歩みを止めた。
 馬は四輪の黒い箱みたいな客車を引いていた。明らかに馬車だ。だが、色と言い形と言い、俺にはまるで霊柩車みたいに見えた。
 御者台には男が一人座っていた。俺たちのそばに立っていた兵隊たちが駆け寄り、その男から手綱を預かる。男は身軽に御者台から飛び下りると、俺たちに向かって歩いてきて、二メートルくらい手前で立ち止まった。
 玄関のすぐそばに松明があったから、それくらい離れていても男の顔はしっかり見えた。そして思った。勇者、もういるじゃねえか。
 身長は確実に一九〇は超えている。炎を反射して光っている金髪は長めだが、不潔感は与えない。イケメン効果か。
 たぶん二十代半ばくらい。でも、大半の外国人は老けて見えるから、もしかしたらもっと若いのかもしれない。あの王様も俳優顔をしていたが、この男はもう主役級だ。本当に、俺たちよりよっぽど勇者らしい。服装も兵隊たちとはかなり違っていて、色はあの馬車に合わせたように黒かった。
 男はまずじいさんを見て軽く頭を垂れた。整った顔には表情らしい表情は浮かんでいない。次にじいさんの右横に立っている皆本を飛ばして俺を見て、目が合ったと思った瞬間、胸元に手をやって片膝をついた。今は見えない男の目は、よく晴れた空のように青かった。

「お初にお目にかかります。私はアルガスと申します。これから私があの馬車で、勇者様方を魔王城の近くまでお送りいたします」

 男は低くてよく通る声をしていた。畜生。声までイケメンか。
 だが、ここに来て、初めて勇者らしい扱いをされたような気がする。皆本をスルーしたところがちょっと引っかかるが、〝勇者様方〟って言ってるから、皆本も勇者だと認めてはいるんだろう。たぶん。
 しかし、そのとき皆本が言った。

「まさかとは思いますが、僕たちと一緒に来るの、あなた一人だけですか?」
「え?」

 まったく考えもしていなかった。思わず皆本に目をやれば、皆本は腕組みをして、男――アルガスを見下ろしている。
 アルガスは顔を上げ、ようやくまともに皆本を見た。と思ったら、まるで別人のようににっこり笑った。

「はい。そのとおりです。ご一緒できるのも途中まで。私の仕事はあくまでも、魔王城の近くまでお送りすることですので。申し訳ございません、勇者様」

 イケメン。爆発しろ。
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