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第一話 召喚・勇者・そしてチート
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鞘の汚さが嘘のように、剣は驚くほどきれいだった。松明の光を反射して、まるで新品の包丁みたいに光っている。
俺には武器類の知識もないから、この剣がどういう種類なのかもさっぱりだが、片刃ではなく両刃だということだけはわかる。何というか――日本刀を二本、背中合わせにして熔接したみたいな。
ただ、真剣は重いとどこかで聞いたことがある。木刀より軽いこれは、時代劇で使われている日本刀みたいな偽物なのかもしれない。
そんなものを武器庫に置くなよと言いたいが、置かれていたからには俺が選んでもいいだろう。俺は剣を鞘に収めると、布とは別に手に持って、皆本のそばに戻った。
皆本はまた腕組みをして立っていた。俺が剣を持っていることにはすぐに気づいたようだが、意外なことに何も言わなかった。
そのかわり、今まで蝋人形みたいに壁際に突っ立っていたじいさんが歩み寄ってきて、俺たちを窺うように声をかけてきた。
「お決まりになられましたかな」
「え? まあ、決まったっていうか……これで」
ちょっと動揺したが、持ってきた剣をじいさんによく見えるようにして差し出すと、じいさんは大きく目を見開いた。
「これは……」
「え? まずかった?」
でも、この中から好きなの一つだけ選べって言ったの、じいさんだよな? よく考えたら一つだけって、ケチくせえなって思うけど。
「いえいえ、そんなことはございません。むしろ、この中からそれを選び出すとは、やはりあなた様は勇者様に相違ありません」
じいさんはそう言うと、胸元を押さえて腰を屈めた。
「それは、代々の勇者様がお使いになられた〝勇者の剣〟でございます」
「え?」
俺はあっけにとられて、木刀よりも軽い剣と、それを覆っていた小汚い布とを交互に見た。
「何でそんな凄いもんが、あんな隅っこで、こんな汚い布にくるまれて」
「試したんですよね」
ずっと黙っていた皆本がいきなり口を開いた。じいさんだけでなく俺もびっくりして、コントみたいにのけぞった。
「一人だけだったらすぐにそれを渡すつもりだったけど、今回は二人いたから、わざわざこんな茶番をしたんでしょう?」
俺は無言でじいさんに目を戻した。じいさんは皆本から顔をそむけて両手で杖を握りしめている。俺より皆本のほうが怖いようだ。俺も怖いけど。
「でも、召喚されたからには、僕も勇者ですから。僕を偽物と言うなら、その偽物を一緒に召喚してしまったあんたは無能としか言いようがないですよね、コミコスさん」
皆本が眼鏡を光らせてせせら笑う。
――俺一人じゃなくてよかった。皆本がいてよかった。
そう思いつつも、俺は〝勇者の剣〟を抱きしめながら、じいさんと一緒に震えていた。
俺には武器類の知識もないから、この剣がどういう種類なのかもさっぱりだが、片刃ではなく両刃だということだけはわかる。何というか――日本刀を二本、背中合わせにして熔接したみたいな。
ただ、真剣は重いとどこかで聞いたことがある。木刀より軽いこれは、時代劇で使われている日本刀みたいな偽物なのかもしれない。
そんなものを武器庫に置くなよと言いたいが、置かれていたからには俺が選んでもいいだろう。俺は剣を鞘に収めると、布とは別に手に持って、皆本のそばに戻った。
皆本はまた腕組みをして立っていた。俺が剣を持っていることにはすぐに気づいたようだが、意外なことに何も言わなかった。
そのかわり、今まで蝋人形みたいに壁際に突っ立っていたじいさんが歩み寄ってきて、俺たちを窺うように声をかけてきた。
「お決まりになられましたかな」
「え? まあ、決まったっていうか……これで」
ちょっと動揺したが、持ってきた剣をじいさんによく見えるようにして差し出すと、じいさんは大きく目を見開いた。
「これは……」
「え? まずかった?」
でも、この中から好きなの一つだけ選べって言ったの、じいさんだよな? よく考えたら一つだけって、ケチくせえなって思うけど。
「いえいえ、そんなことはございません。むしろ、この中からそれを選び出すとは、やはりあなた様は勇者様に相違ありません」
じいさんはそう言うと、胸元を押さえて腰を屈めた。
「それは、代々の勇者様がお使いになられた〝勇者の剣〟でございます」
「え?」
俺はあっけにとられて、木刀よりも軽い剣と、それを覆っていた小汚い布とを交互に見た。
「何でそんな凄いもんが、あんな隅っこで、こんな汚い布にくるまれて」
「試したんですよね」
ずっと黙っていた皆本がいきなり口を開いた。じいさんだけでなく俺もびっくりして、コントみたいにのけぞった。
「一人だけだったらすぐにそれを渡すつもりだったけど、今回は二人いたから、わざわざこんな茶番をしたんでしょう?」
俺は無言でじいさんに目を戻した。じいさんは皆本から顔をそむけて両手で杖を握りしめている。俺より皆本のほうが怖いようだ。俺も怖いけど。
「でも、召喚されたからには、僕も勇者ですから。僕を偽物と言うなら、その偽物を一緒に召喚してしまったあんたは無能としか言いようがないですよね、コミコスさん」
皆本が眼鏡を光らせてせせら笑う。
――俺一人じゃなくてよかった。皆本がいてよかった。
そう思いつつも、俺は〝勇者の剣〟を抱きしめながら、じいさんと一緒に震えていた。
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