トリッパーズ!

有喜多亜里

文字の大きさ
上 下
10 / 29
第一話 召喚・勇者・そしてチート

10 試されていた

しおりを挟む
 鞘の汚さが嘘のように、剣は驚くほどきれいだった。松明の光を反射して、まるで新品の包丁みたいに光っている。
 俺には武器類の知識もないから、この剣がどういう種類なのかもさっぱりだが、片刃ではなく両刃だということだけはわかる。何というか――日本刀を二本、背中合わせにして熔接したみたいな。
 ただ、真剣は重いとどこかで聞いたことがある。木刀より軽いこれは、時代劇で使われている日本刀みたいな偽物なのかもしれない。
 そんなものを武器庫に置くなよと言いたいが、置かれていたからには俺が選んでもいいだろう。俺は剣を鞘に収めると、布とは別に手に持って、皆本のそばに戻った。
 皆本はまた腕組みをして立っていた。俺が剣を持っていることにはすぐに気づいたようだが、意外なことに何も言わなかった。
 そのかわり、今まで蝋人形みたいに壁際に突っ立っていたじいさんが歩み寄ってきて、俺たちを窺うように声をかけてきた。

「お決まりになられましたかな」
「え? まあ、決まったっていうか……これで」

 ちょっと動揺したが、持ってきた剣をじいさんによく見えるようにして差し出すと、じいさんは大きく目を見開いた。

「これは……」
「え? まずかった?」

 でも、この中から好きなの一つだけ選べって言ったの、じいさんだよな? よく考えたら一つだけって、ケチくせえなって思うけど。

「いえいえ、そんなことはございません。むしろ、この中からそれを選び出すとは、やはりあなた様は勇者様に相違ありません」

 じいさんはそう言うと、胸元を押さえて腰を屈めた。

「それは、代々の勇者様がお使いになられた〝勇者の剣〟でございます」
「え?」

 俺はあっけにとられて、木刀よりも軽い剣と、それを覆っていた小汚い布とを交互に見た。

「何でそんな凄いもんが、あんな隅っこで、こんな汚い布にくるまれて」
「試したんですよね」

 ずっと黙っていた皆本がいきなり口を開いた。じいさんだけでなく俺もびっくりして、コントみたいにのけぞった。

「一人だけだったらすぐにそれを渡すつもりだったけど、今回は二人いたから、わざわざこんな茶番をしたんでしょう?」

 俺は無言でじいさんに目を戻した。じいさんは皆本から顔をそむけて両手で杖を握りしめている。俺より皆本のほうが怖いようだ。俺も怖いけど。

「でも、召喚されたからには、僕も勇者ですから。僕を偽物と言うなら、その偽物を一緒に召喚してしまったあんたは無能としか言いようがないですよね、コミコスさん」

 皆本が眼鏡を光らせてせせら笑う。

 ――俺一人じゃなくてよかった。皆本がいてよかった。

 そう思いつつも、俺は〝勇者の剣〟を抱きしめながら、じいさんと一緒に震えていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

【本編完結】小石の恋

キザキ ケイ
BL
やや無口な平凡な男子高校生の律紀は、ひょんなことから学校一の有名人、天道 至先輩と知り合う。 助けてもらったお礼を言って、それで終わりのはずだったのに。 なぜか先輩は律紀にしつこく絡んできて、連れ回されて、平凡な日常がどんどん侵食されていく。 果たして律紀は逃げ切ることができるのか。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

ガテンの処理事情

BL
高校中退で鳶の道に進まざるを得なかった近藤翔は先輩に揉まれながらものしあがり部下を5人抱える親方になった。 ある日までは部下からも信頼される家族から頼られる男だと信じていた。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

さむいよ、さみしいよ、

moka
BL
僕は誰にも愛されない、、、 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 人を信じることをやめた奏が学園で色々な人と出会い信じること、愛を知る物語です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...