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第一話 召喚・勇者・そしてチート
08 武器には見えなかった
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「義男」
「……漢字は?」
「君にわかるかどうか不安だけど、義理チョコの〝義〟に〝男〟だよ」
俺は奴にどんだけ馬鹿だと思われているんだろう。確かに、自分の名前の「慶」の字を今でも時々書き間違えたりしているが。他人にそれを指摘されたときには、何でよりにもよってこんなに画数の多い名前にしたのかと、心の中で親を呪ったりもしているが。
――皆本義男。
古くさい名前ではあるが、俺的にはそれほど悪くはないと思う。でも、本人が嫌だと言っているものを、無理に呼ぶ必要はないだろう。腹の立つこともあるにはあるが、今の俺が頼れる人間は皆本だけだ。わざわざ嫌がらせをして怒らせるつもりはない。
「わかった。じゃあ、皆本。この中から何か適当な武器選んでくれ」
うっかり忘れていた本題を口にすると、皆本は軽く目を見張ってから、呆れたように眉をひそめた。
「君が使う武器なんだから、君が自分で選びなよ。僕は武器商人じゃないんだから」
「そりゃそうだけど、俺だってわかんねえよ。そういや、おまえはもう決めたのか?」
これまたうっかり忘れていたが、皆本も俺と同じ勇者とやらだった。じいさんは俺だけでなく皆本にも好きなものを選べと言っていたに違いない。
だが、なぜか皆本はぽかんとしていた。こいつのこういう顔を見たのはこれが初めてかもしれない。物珍しくてまじまじと見ていたら、我に返ったように皆本があわてて答えた。
「僕? いや、僕はこの中から何も選ぶつもりはないけど」
「え? でも、何か選んどかないとまずいんじゃないのか?」
「まあ、君はまずいだろうけど、僕はねえ……そうだな、これにしとこうかな」
皆本は小物が陳列されている木製の棚の一つに歩み寄ると、何かを無造作につかんで戻ってきた。俺には目についたものをそのまま取ってきたようにしか見えなかったが、皆本のことだからそんなことはないだろう。
「何だ?」
そう訊きながら皆本の両手の中にあるものを覗きこんだ俺は、思わず問い返さずにはいられなかった。
「それ、武器か?」
「さあ。でも、選ぶのは自分の好きなものであって、武器限定ではなかったはずだよ」
しれっと皆本は答えると、それについていた埃を右手で撫でて落とした。
確かにそうだった。しかし、どうして皆本がそれを選んだのかがわからない。そもそも、ここは武器庫のはずだ。武器庫なら置いてあるのは武器だけのはずだろう。
皆本が選んだ〝自分の好きなもの〟。
それは俺にはかなり年季の入った茶色い革製の肩掛け鞄にしか見えなかった。
「……漢字は?」
「君にわかるかどうか不安だけど、義理チョコの〝義〟に〝男〟だよ」
俺は奴にどんだけ馬鹿だと思われているんだろう。確かに、自分の名前の「慶」の字を今でも時々書き間違えたりしているが。他人にそれを指摘されたときには、何でよりにもよってこんなに画数の多い名前にしたのかと、心の中で親を呪ったりもしているが。
――皆本義男。
古くさい名前ではあるが、俺的にはそれほど悪くはないと思う。でも、本人が嫌だと言っているものを、無理に呼ぶ必要はないだろう。腹の立つこともあるにはあるが、今の俺が頼れる人間は皆本だけだ。わざわざ嫌がらせをして怒らせるつもりはない。
「わかった。じゃあ、皆本。この中から何か適当な武器選んでくれ」
うっかり忘れていた本題を口にすると、皆本は軽く目を見張ってから、呆れたように眉をひそめた。
「君が使う武器なんだから、君が自分で選びなよ。僕は武器商人じゃないんだから」
「そりゃそうだけど、俺だってわかんねえよ。そういや、おまえはもう決めたのか?」
これまたうっかり忘れていたが、皆本も俺と同じ勇者とやらだった。じいさんは俺だけでなく皆本にも好きなものを選べと言っていたに違いない。
だが、なぜか皆本はぽかんとしていた。こいつのこういう顔を見たのはこれが初めてかもしれない。物珍しくてまじまじと見ていたら、我に返ったように皆本があわてて答えた。
「僕? いや、僕はこの中から何も選ぶつもりはないけど」
「え? でも、何か選んどかないとまずいんじゃないのか?」
「まあ、君はまずいだろうけど、僕はねえ……そうだな、これにしとこうかな」
皆本は小物が陳列されている木製の棚の一つに歩み寄ると、何かを無造作につかんで戻ってきた。俺には目についたものをそのまま取ってきたようにしか見えなかったが、皆本のことだからそんなことはないだろう。
「何だ?」
そう訊きながら皆本の両手の中にあるものを覗きこんだ俺は、思わず問い返さずにはいられなかった。
「それ、武器か?」
「さあ。でも、選ぶのは自分の好きなものであって、武器限定ではなかったはずだよ」
しれっと皆本は答えると、それについていた埃を右手で撫でて落とした。
確かにそうだった。しかし、どうして皆本がそれを選んだのかがわからない。そもそも、ここは武器庫のはずだ。武器庫なら置いてあるのは武器だけのはずだろう。
皆本が選んだ〝自分の好きなもの〟。
それは俺にはかなり年季の入った茶色い革製の肩掛け鞄にしか見えなかった。
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