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第一話 召喚・勇者・そしてチート
06 単純というより直球
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「貴様!」
俺の心配どおり、王様のいちばん近くにいた痩せぎすの中年男が、血相を変えて皆本を怒鳴りつけた。
「いくら勇者といえども、陛下に対してその口の利き方は……!」
「よい。黙っておれ」
別段、強い口調で言ったわけでもなかったが、その中年男は即座に口をつぐんだ。さすが王様。だてに高いところに座ってないな。
「左様。勇者殿のおっしゃるとおりだ」
王様は薄く笑い、皆本に視線を集中させた。いいぞ。そのまま皆本とだけ話しつづけてくれ。
「この国には、およそ百年周期で魔王が降臨する。魔王が降臨すると、昼がなくなり、夜が続く。それに乗じて、魔王の眷族である魔物どもが、人を襲い、土地を荒らす。この魔王を唯一滅ぼすことができるのは、この世界の人間ではなく、異界より召喚された人間――つまり、勇者殿だけなのだ。我々はもう一月近く日の光を浴びていない」
王様の説明は馬鹿な俺にも非常にわかりやすかったが、それで〝はい、わかりました〟と素直に従えるかといったら、まったく別問題である。しかし、それならいったい何を言えばいいのか。俺が残念な脳みそをフル回転させていると、皆本がまた眼鏡の真ん中を人差指で持ち上げた。
「本当に、この世界の人間には滅ぼせないんですか?」
いかにも不審そうな声。俺の心の声でもある。皆本はいつも俺の言いたいことを的確に言ってくれる。それは言わないほうがいいだろうってことも言ってくれるが。
「我が国の歴史書にはそう書いてある」
だが、王様は悠然とそう答えた。
「我が国の全兵力をもってしても倒せなかった魔王を、異界から召喚された勇者はたった一太刀で滅ぼすことができたとな」
一太刀……ってことは、剣か刀かで魔王と戦ったってことか? すげえな、勇者。もしかして、どこかの大剣豪だったとか?
「歴史ねえ。……伝説ではなく?」
「本当に勇者が一太刀で滅ぼすことができたかどうかはともかく、現在この国に魔王が降臨しており、これまで伝えられてきた儀式によって、そなたたちを召喚することができたことは、まぎれもない事実だ」
「なるほど」
珍しく納得したようにうなずいてから、今度はこんなことを訊ねる。
「で、その魔王とやらは今どこに?」
「行ってくれるか?」
王様は露骨に嬉しそうな顔をしたが、それを嘲笑うように皆本は口元を歪めた。
「行ってくれるかって、行きたくなくったって、無理やり行かせるつもりなんでしょ? 僕らがそれを拒否したら、あんたらはこの世界に僕らが存在することを許さない」
俺は思わず皆本をガン見した。皆本はやっぱり笑っていたが、それはあまりにも激しく怒ったときになぜかこみあげてくる、あの謎の笑いのように俺には思えた。
一転して王様の表情が険しくなる。俺は内心冷や汗をかいていたが、幸い、王様はすぐに元の余裕を取り戻した。
「歴史書に記載はなかったが、勇者とは一筋縄ではいかないお方のようだ」
「いえいえ。僕は本当に単純ですよ」
しかし、皆本は笑みを崩さないまま、さらに俺の冷や汗を倍増させることを言った。
「早く〝お役目〟を果たして、元の世界に帰してもらいたいだけです。……ここでいくらゴネてみたって、得するどころか、損するばかりでしょ?」
俺の心配どおり、王様のいちばん近くにいた痩せぎすの中年男が、血相を変えて皆本を怒鳴りつけた。
「いくら勇者といえども、陛下に対してその口の利き方は……!」
「よい。黙っておれ」
別段、強い口調で言ったわけでもなかったが、その中年男は即座に口をつぐんだ。さすが王様。だてに高いところに座ってないな。
「左様。勇者殿のおっしゃるとおりだ」
王様は薄く笑い、皆本に視線を集中させた。いいぞ。そのまま皆本とだけ話しつづけてくれ。
「この国には、およそ百年周期で魔王が降臨する。魔王が降臨すると、昼がなくなり、夜が続く。それに乗じて、魔王の眷族である魔物どもが、人を襲い、土地を荒らす。この魔王を唯一滅ぼすことができるのは、この世界の人間ではなく、異界より召喚された人間――つまり、勇者殿だけなのだ。我々はもう一月近く日の光を浴びていない」
王様の説明は馬鹿な俺にも非常にわかりやすかったが、それで〝はい、わかりました〟と素直に従えるかといったら、まったく別問題である。しかし、それならいったい何を言えばいいのか。俺が残念な脳みそをフル回転させていると、皆本がまた眼鏡の真ん中を人差指で持ち上げた。
「本当に、この世界の人間には滅ぼせないんですか?」
いかにも不審そうな声。俺の心の声でもある。皆本はいつも俺の言いたいことを的確に言ってくれる。それは言わないほうがいいだろうってことも言ってくれるが。
「我が国の歴史書にはそう書いてある」
だが、王様は悠然とそう答えた。
「我が国の全兵力をもってしても倒せなかった魔王を、異界から召喚された勇者はたった一太刀で滅ぼすことができたとな」
一太刀……ってことは、剣か刀かで魔王と戦ったってことか? すげえな、勇者。もしかして、どこかの大剣豪だったとか?
「歴史ねえ。……伝説ではなく?」
「本当に勇者が一太刀で滅ぼすことができたかどうかはともかく、現在この国に魔王が降臨しており、これまで伝えられてきた儀式によって、そなたたちを召喚することができたことは、まぎれもない事実だ」
「なるほど」
珍しく納得したようにうなずいてから、今度はこんなことを訊ねる。
「で、その魔王とやらは今どこに?」
「行ってくれるか?」
王様は露骨に嬉しそうな顔をしたが、それを嘲笑うように皆本は口元を歪めた。
「行ってくれるかって、行きたくなくったって、無理やり行かせるつもりなんでしょ? 僕らがそれを拒否したら、あんたらはこの世界に僕らが存在することを許さない」
俺は思わず皆本をガン見した。皆本はやっぱり笑っていたが、それはあまりにも激しく怒ったときになぜかこみあげてくる、あの謎の笑いのように俺には思えた。
一転して王様の表情が険しくなる。俺は内心冷や汗をかいていたが、幸い、王様はすぐに元の余裕を取り戻した。
「歴史書に記載はなかったが、勇者とは一筋縄ではいかないお方のようだ」
「いえいえ。僕は本当に単純ですよ」
しかし、皆本は笑みを崩さないまま、さらに俺の冷や汗を倍増させることを言った。
「早く〝お役目〟を果たして、元の世界に帰してもらいたいだけです。……ここでいくらゴネてみたって、得するどころか、損するばかりでしょ?」
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