5 / 29
第一話 召喚・勇者・そしてチート
05 身も蓋もなかった
しおりを挟む
でかすぎる扉の向こうに広がっていたのは、だだっ広くて薄暗い空間だった。
扉の正面から部屋の突き当たりの前まで赤い絨毯がまっすぐに敷かれていて、その両脇には中世の貴族みたいな格好をした男たちが、壁際には兵隊たちが並んで立っている。やっぱりみんな西洋人顔だ。
周りより何段か高くなっている突き当たりの中央には、これまたでっかい金ぴかの椅子が一つだけ置かれている。そこにはわざわざ紹介されなくても、一目で正体のわかる男が座っていた。
松明の光を受けてキラキラ光る黄金の王冠。宝飾品のついた赤いマントの下にはゴテゴテした裾の長い服。どう考えたって、こいつが王様だろう。
じいさんは素通し提灯を兵隊の一人に預けてから、王様の前に進み出て、さっき俺たちにしてみせたような挨拶をした。
俺たちはじいさんの後について歩いてはいったが、立ち止まっても何もしなかった。というより、何をしたらいいのかわからなかった。少なくとも俺は。
王様っていうから、じいさんみたいなじいさんを勝手に想像していたが、褐色の髪にも顎髭にも白髪は交じっていなかった。俺たちの父親くらいの年代だろうか。
ファンタジー映画の俳優みたいに整った顔立ちをした王様は、俺たちを見て明らかに驚いた表情をしていた。たぶん、理由はじいさんと同じで、召喚されたのが二人だったからだろう。俺たちの周囲にいる男たちも、当惑したように互いの顔を見あわせている。
「召喚されるのは一人だけではなかったのか?」
じいさんが何か言いかけたのを遮って、案の定、王様はそう口に出した。
「はい。このようなことは前代未聞ですが、我が召喚に応じられた以上、どちらも勇者様ということになりますかと」
じいさんはさらに頭を下げた。が、さすがに土下座まではしなかった。
「勇者が二人……」
自分に言い聞かせるように王様は呟いたが、前代未聞なことを悩んでみても仕方がないと思ったのか、かすかに苦笑いした。
「まあよい。一人でも二人でも、勇者でさえあれば」
「は……」
そこで王様は初めてまともに俺たちを見た。俺と皆本を交互に見比べている。どうやら、どちらに声をかけようかと迷っているようだ。俺はあわてて顔をそむけた。
「勇者殿。ご挨拶が遅れて申し訳ない。私はこのプロドシアの王、エレホスと申す」
そう名乗った王様の目は、なぜか俺のほうを向いていた。
何でだよ! 話をするなら、さっきからあんたをガン見してる皆本にしろよ! 皆本だって勇者とかいうやつなんだろ!
「そっすか」
でも、小心者の俺には、そんな間抜けな返答しかできなかった。
「突然、このような異界に召喚されて、さぞかし驚かれたことだろうが……何のために召喚されたのかは、魔術師長のコミコスからお聞きになったかな?」
「え……」
確か、魔王が何とかかんとか言われたが……などと俺が考えていると、ついに(やっと)皆本が言葉を発した。
「ようするに、あんたらの代わりに魔王と戦わせるためですか?」
一瞬にして、その場の空気が凍りついた。ついでに、俺の心臓も。
おいおい。王様相手に〝あんたら〟は、いくら何でもまずいんじゃないのか?
扉の正面から部屋の突き当たりの前まで赤い絨毯がまっすぐに敷かれていて、その両脇には中世の貴族みたいな格好をした男たちが、壁際には兵隊たちが並んで立っている。やっぱりみんな西洋人顔だ。
周りより何段か高くなっている突き当たりの中央には、これまたでっかい金ぴかの椅子が一つだけ置かれている。そこにはわざわざ紹介されなくても、一目で正体のわかる男が座っていた。
松明の光を受けてキラキラ光る黄金の王冠。宝飾品のついた赤いマントの下にはゴテゴテした裾の長い服。どう考えたって、こいつが王様だろう。
じいさんは素通し提灯を兵隊の一人に預けてから、王様の前に進み出て、さっき俺たちにしてみせたような挨拶をした。
俺たちはじいさんの後について歩いてはいったが、立ち止まっても何もしなかった。というより、何をしたらいいのかわからなかった。少なくとも俺は。
王様っていうから、じいさんみたいなじいさんを勝手に想像していたが、褐色の髪にも顎髭にも白髪は交じっていなかった。俺たちの父親くらいの年代だろうか。
ファンタジー映画の俳優みたいに整った顔立ちをした王様は、俺たちを見て明らかに驚いた表情をしていた。たぶん、理由はじいさんと同じで、召喚されたのが二人だったからだろう。俺たちの周囲にいる男たちも、当惑したように互いの顔を見あわせている。
「召喚されるのは一人だけではなかったのか?」
じいさんが何か言いかけたのを遮って、案の定、王様はそう口に出した。
「はい。このようなことは前代未聞ですが、我が召喚に応じられた以上、どちらも勇者様ということになりますかと」
じいさんはさらに頭を下げた。が、さすがに土下座まではしなかった。
「勇者が二人……」
自分に言い聞かせるように王様は呟いたが、前代未聞なことを悩んでみても仕方がないと思ったのか、かすかに苦笑いした。
「まあよい。一人でも二人でも、勇者でさえあれば」
「は……」
そこで王様は初めてまともに俺たちを見た。俺と皆本を交互に見比べている。どうやら、どちらに声をかけようかと迷っているようだ。俺はあわてて顔をそむけた。
「勇者殿。ご挨拶が遅れて申し訳ない。私はこのプロドシアの王、エレホスと申す」
そう名乗った王様の目は、なぜか俺のほうを向いていた。
何でだよ! 話をするなら、さっきからあんたをガン見してる皆本にしろよ! 皆本だって勇者とかいうやつなんだろ!
「そっすか」
でも、小心者の俺には、そんな間抜けな返答しかできなかった。
「突然、このような異界に召喚されて、さぞかし驚かれたことだろうが……何のために召喚されたのかは、魔術師長のコミコスからお聞きになったかな?」
「え……」
確か、魔王が何とかかんとか言われたが……などと俺が考えていると、ついに(やっと)皆本が言葉を発した。
「ようするに、あんたらの代わりに魔王と戦わせるためですか?」
一瞬にして、その場の空気が凍りついた。ついでに、俺の心臓も。
おいおい。王様相手に〝あんたら〟は、いくら何でもまずいんじゃないのか?
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。
七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】
──────────
身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。
力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。
※シリアス
溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。
表紙:七賀

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる