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第一話 召喚・勇者・そしてチート
05 身も蓋もなかった
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でかすぎる扉の向こうに広がっていたのは、だだっ広くて薄暗い空間だった。
扉の正面から部屋の突き当たりの前まで赤い絨毯がまっすぐに敷かれていて、その両脇には中世の貴族みたいな格好をした男たちが、壁際には兵隊たちが並んで立っている。やっぱりみんな西洋人顔だ。
周りより何段か高くなっている突き当たりの中央には、これまたでっかい金ぴかの椅子が一つだけ置かれている。そこにはわざわざ紹介されなくても、一目で正体のわかる男が座っていた。
松明の光を受けてキラキラ光る黄金の王冠。宝飾品のついた赤いマントの下にはゴテゴテした裾の長い服。どう考えたって、こいつが王様だろう。
じいさんは素通し提灯を兵隊の一人に預けてから、王様の前に進み出て、さっき俺たちにしてみせたような挨拶をした。
俺たちはじいさんの後について歩いてはいったが、立ち止まっても何もしなかった。というより、何をしたらいいのかわからなかった。少なくとも俺は。
王様っていうから、じいさんみたいなじいさんを勝手に想像していたが、褐色の髪にも顎髭にも白髪は交じっていなかった。俺たちの父親くらいの年代だろうか。
ファンタジー映画の俳優みたいに整った顔立ちをした王様は、俺たちを見て明らかに驚いた表情をしていた。たぶん、理由はじいさんと同じで、召喚されたのが二人だったからだろう。俺たちの周囲にいる男たちも、当惑したように互いの顔を見あわせている。
「召喚されるのは一人だけではなかったのか?」
じいさんが何か言いかけたのを遮って、案の定、王様はそう口に出した。
「はい。このようなことは前代未聞ですが、我が召喚に応じられた以上、どちらも勇者様ということになりますかと」
じいさんはさらに頭を下げた。が、さすがに土下座まではしなかった。
「勇者が二人……」
自分に言い聞かせるように王様は呟いたが、前代未聞なことを悩んでみても仕方がないと思ったのか、かすかに苦笑いした。
「まあよい。一人でも二人でも、勇者でさえあれば」
「は……」
そこで王様は初めてまともに俺たちを見た。俺と皆本を交互に見比べている。どうやら、どちらに声をかけようかと迷っているようだ。俺はあわてて顔をそむけた。
「勇者殿。ご挨拶が遅れて申し訳ない。私はこのプロドシアの王、エレホスと申す」
そう名乗った王様の目は、なぜか俺のほうを向いていた。
何でだよ! 話をするなら、さっきからあんたをガン見してる皆本にしろよ! 皆本だって勇者とかいうやつなんだろ!
「そっすか」
でも、小心者の俺には、そんな間抜けな返答しかできなかった。
「突然、このような異界に召喚されて、さぞかし驚かれたことだろうが……何のために召喚されたのかは、魔術師長のコミコスからお聞きになったかな?」
「え……」
確か、魔王が何とかかんとか言われたが……などと俺が考えていると、ついに(やっと)皆本が言葉を発した。
「ようするに、あんたらの代わりに魔王と戦わせるためですか?」
一瞬にして、その場の空気が凍りついた。ついでに、俺の心臓も。
おいおい。王様相手に〝あんたら〟は、いくら何でもまずいんじゃないのか?
扉の正面から部屋の突き当たりの前まで赤い絨毯がまっすぐに敷かれていて、その両脇には中世の貴族みたいな格好をした男たちが、壁際には兵隊たちが並んで立っている。やっぱりみんな西洋人顔だ。
周りより何段か高くなっている突き当たりの中央には、これまたでっかい金ぴかの椅子が一つだけ置かれている。そこにはわざわざ紹介されなくても、一目で正体のわかる男が座っていた。
松明の光を受けてキラキラ光る黄金の王冠。宝飾品のついた赤いマントの下にはゴテゴテした裾の長い服。どう考えたって、こいつが王様だろう。
じいさんは素通し提灯を兵隊の一人に預けてから、王様の前に進み出て、さっき俺たちにしてみせたような挨拶をした。
俺たちはじいさんの後について歩いてはいったが、立ち止まっても何もしなかった。というより、何をしたらいいのかわからなかった。少なくとも俺は。
王様っていうから、じいさんみたいなじいさんを勝手に想像していたが、褐色の髪にも顎髭にも白髪は交じっていなかった。俺たちの父親くらいの年代だろうか。
ファンタジー映画の俳優みたいに整った顔立ちをした王様は、俺たちを見て明らかに驚いた表情をしていた。たぶん、理由はじいさんと同じで、召喚されたのが二人だったからだろう。俺たちの周囲にいる男たちも、当惑したように互いの顔を見あわせている。
「召喚されるのは一人だけではなかったのか?」
じいさんが何か言いかけたのを遮って、案の定、王様はそう口に出した。
「はい。このようなことは前代未聞ですが、我が召喚に応じられた以上、どちらも勇者様ということになりますかと」
じいさんはさらに頭を下げた。が、さすがに土下座まではしなかった。
「勇者が二人……」
自分に言い聞かせるように王様は呟いたが、前代未聞なことを悩んでみても仕方がないと思ったのか、かすかに苦笑いした。
「まあよい。一人でも二人でも、勇者でさえあれば」
「は……」
そこで王様は初めてまともに俺たちを見た。俺と皆本を交互に見比べている。どうやら、どちらに声をかけようかと迷っているようだ。俺はあわてて顔をそむけた。
「勇者殿。ご挨拶が遅れて申し訳ない。私はこのプロドシアの王、エレホスと申す」
そう名乗った王様の目は、なぜか俺のほうを向いていた。
何でだよ! 話をするなら、さっきからあんたをガン見してる皆本にしろよ! 皆本だって勇者とかいうやつなんだろ!
「そっすか」
でも、小心者の俺には、そんな間抜けな返答しかできなかった。
「突然、このような異界に召喚されて、さぞかし驚かれたことだろうが……何のために召喚されたのかは、魔術師長のコミコスからお聞きになったかな?」
「え……」
確か、魔王が何とかかんとか言われたが……などと俺が考えていると、ついに(やっと)皆本が言葉を発した。
「ようするに、あんたらの代わりに魔王と戦わせるためですか?」
一瞬にして、その場の空気が凍りついた。ついでに、俺の心臓も。
おいおい。王様相手に〝あんたら〟は、いくら何でもまずいんじゃないのか?
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