2 / 29
第一話 召喚・勇者・そしてチート
02 魔法使いも土下座した
しおりを挟む
「何はともあれ、我が召喚に応じてくださり、ありがとうございます」
やっと冷静さを取り戻したのか、じいさんはいかにも魔法使いが持っていそうな木の杖を立てたまま、床に片膝をついて胸元に手をやった。
雰囲気的に挨拶しているらしい。さて、これにどう答えたらいいものか。俺が唸って悩んでいると、皆本が冷ややかに問い返した。
「本当は、一人だけが召喚されるはずだったんじゃないんですか?」
じいさんは大きく肩を震わせてから、面目なさそうに顔を伏せた。
「はい……あなた様のおっしゃるとおり、そのはずでした……しかし、こうなった以上、お二方共に勇者様ということに……」
「勇者?」
そういやじいさん、さっきそんなこと言ってたっけな。
「はい。我が王国では古より、魔王降臨の際には、異界から勇者様を召喚するならわしになっております。さっそくで申し訳ございませんが、これから我が王にお会いいただけませんでしょうか? 事態は一刻を争うのです」
――嫌な予感がする。とっても。
だが、いつまでもここに座っているわけにもいかない。俺はようやく立ち上がった。
立ち上がると、皆本の頭の高さは俺の鼻下あたりになる。まあ、これは単に俺が身長だけは無駄にあるせいだが、どうしてこいつは俺みたいに尻餅をつかずに済んだんだろう。もしかして、俺より頭だけでなく運動神経もいいのか? なお、意地が悪いのはもう充分すぎるほどわかっている。
「勝手に呼びつけといて、お茶の一杯も出さずに会ってくれですか。あんたら、何様ですか?」
うわっ、今度はじいさんに毒吐き出した! 実は俺もそう思ってたけど!
小心者の俺はあせりまくったが、皆本は涼しい顔をしているし、じいさんは恐縮しきって、いよいよ頭を下げている。
「勇者様には、まことに申し訳なく……」
「じゃあ、用が済んだら、即刻元の世界に帰してくれますよね?」
皆本はまた両腕を組んでふんぞり返っている。
皆本。おまえ、どうしてそんなに強気なんだ。相手は(たぶん)魔法使いのじいさんだぞ? 何されるかわかんないぞ?
「は、はい、それはもう……!」
しかし、ついにじいさんは土下座した。
――土下座。異世界とやらでもするんだ。俺は妙な感心をした。
「約束ですよ? ちゃんと守ってくださいよ? 帰る段になって、実はできないなんてほざきやがったら、勇者として全力で報復しますよ?」
ひい! 表情も声も穏やかなのに、言ってることは穏やかじゃない! こいつ、こんな奴だったのか!
「は、はいっ! 心得ましてございますっ!」
恰幅のいいじいさんが、悪代官を前にした農民のように縮こまって震えている。
勇者だからとか何とか関係なく、誰に対してもこいつはそうさせるだろう。
隣でニヤニヤしている皆本を見て、俺は心強いというより心寒くなった。
やっと冷静さを取り戻したのか、じいさんはいかにも魔法使いが持っていそうな木の杖を立てたまま、床に片膝をついて胸元に手をやった。
雰囲気的に挨拶しているらしい。さて、これにどう答えたらいいものか。俺が唸って悩んでいると、皆本が冷ややかに問い返した。
「本当は、一人だけが召喚されるはずだったんじゃないんですか?」
じいさんは大きく肩を震わせてから、面目なさそうに顔を伏せた。
「はい……あなた様のおっしゃるとおり、そのはずでした……しかし、こうなった以上、お二方共に勇者様ということに……」
「勇者?」
そういやじいさん、さっきそんなこと言ってたっけな。
「はい。我が王国では古より、魔王降臨の際には、異界から勇者様を召喚するならわしになっております。さっそくで申し訳ございませんが、これから我が王にお会いいただけませんでしょうか? 事態は一刻を争うのです」
――嫌な予感がする。とっても。
だが、いつまでもここに座っているわけにもいかない。俺はようやく立ち上がった。
立ち上がると、皆本の頭の高さは俺の鼻下あたりになる。まあ、これは単に俺が身長だけは無駄にあるせいだが、どうしてこいつは俺みたいに尻餅をつかずに済んだんだろう。もしかして、俺より頭だけでなく運動神経もいいのか? なお、意地が悪いのはもう充分すぎるほどわかっている。
「勝手に呼びつけといて、お茶の一杯も出さずに会ってくれですか。あんたら、何様ですか?」
うわっ、今度はじいさんに毒吐き出した! 実は俺もそう思ってたけど!
小心者の俺はあせりまくったが、皆本は涼しい顔をしているし、じいさんは恐縮しきって、いよいよ頭を下げている。
「勇者様には、まことに申し訳なく……」
「じゃあ、用が済んだら、即刻元の世界に帰してくれますよね?」
皆本はまた両腕を組んでふんぞり返っている。
皆本。おまえ、どうしてそんなに強気なんだ。相手は(たぶん)魔法使いのじいさんだぞ? 何されるかわかんないぞ?
「は、はい、それはもう……!」
しかし、ついにじいさんは土下座した。
――土下座。異世界とやらでもするんだ。俺は妙な感心をした。
「約束ですよ? ちゃんと守ってくださいよ? 帰る段になって、実はできないなんてほざきやがったら、勇者として全力で報復しますよ?」
ひい! 表情も声も穏やかなのに、言ってることは穏やかじゃない! こいつ、こんな奴だったのか!
「は、はいっ! 心得ましてございますっ!」
恰幅のいいじいさんが、悪代官を前にした農民のように縮こまって震えている。
勇者だからとか何とか関係なく、誰に対してもこいつはそうさせるだろう。
隣でニヤニヤしている皆本を見て、俺は心強いというより心寒くなった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。
七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】
──────────
身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。
力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。
※シリアス
溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。
表紙:七賀

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる