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第一話 召喚・勇者・そしてチート
02 魔法使いも土下座した
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「何はともあれ、我が召喚に応じてくださり、ありがとうございます」
やっと冷静さを取り戻したのか、じいさんはいかにも魔法使いが持っていそうな木の杖を立てたまま、床に片膝をついて胸元に手をやった。
雰囲気的に挨拶しているらしい。さて、これにどう答えたらいいものか。俺が唸って悩んでいると、皆本が冷ややかに問い返した。
「本当は、一人だけが召喚されるはずだったんじゃないんですか?」
じいさんは大きく肩を震わせてから、面目なさそうに顔を伏せた。
「はい……あなた様のおっしゃるとおり、そのはずでした……しかし、こうなった以上、お二方共に勇者様ということに……」
「勇者?」
そういやじいさん、さっきそんなこと言ってたっけな。
「はい。我が王国では古より、魔王降臨の際には、異界から勇者様を召喚するならわしになっております。さっそくで申し訳ございませんが、これから我が王にお会いいただけませんでしょうか? 事態は一刻を争うのです」
――嫌な予感がする。とっても。
だが、いつまでもここに座っているわけにもいかない。俺はようやく立ち上がった。
立ち上がると、皆本の頭の高さは俺の鼻下あたりになる。まあ、これは単に俺が身長だけは無駄にあるせいだが、どうしてこいつは俺みたいに尻餅をつかずに済んだんだろう。もしかして、俺より頭だけでなく運動神経もいいのか? なお、意地が悪いのはもう充分すぎるほどわかっている。
「勝手に呼びつけといて、お茶の一杯も出さずに会ってくれですか。あんたら、何様ですか?」
うわっ、今度はじいさんに毒吐き出した! 実は俺もそう思ってたけど!
小心者の俺はあせりまくったが、皆本は涼しい顔をしているし、じいさんは恐縮しきって、いよいよ頭を下げている。
「勇者様には、まことに申し訳なく……」
「じゃあ、用が済んだら、即刻元の世界に帰してくれますよね?」
皆本はまた両腕を組んでふんぞり返っている。
皆本。おまえ、どうしてそんなに強気なんだ。相手は(たぶん)魔法使いのじいさんだぞ? 何されるかわかんないぞ?
「は、はい、それはもう……!」
しかし、ついにじいさんは土下座した。
――土下座。異世界とやらでもするんだ。俺は妙な感心をした。
「約束ですよ? ちゃんと守ってくださいよ? 帰る段になって、実はできないなんてほざきやがったら、勇者として全力で報復しますよ?」
ひい! 表情も声も穏やかなのに、言ってることは穏やかじゃない! こいつ、こんな奴だったのか!
「は、はいっ! 心得ましてございますっ!」
恰幅のいいじいさんが、悪代官を前にした農民のように縮こまって震えている。
勇者だからとか何とか関係なく、誰に対してもこいつはそうさせるだろう。
隣でニヤニヤしている皆本を見て、俺は心強いというより心寒くなった。
やっと冷静さを取り戻したのか、じいさんはいかにも魔法使いが持っていそうな木の杖を立てたまま、床に片膝をついて胸元に手をやった。
雰囲気的に挨拶しているらしい。さて、これにどう答えたらいいものか。俺が唸って悩んでいると、皆本が冷ややかに問い返した。
「本当は、一人だけが召喚されるはずだったんじゃないんですか?」
じいさんは大きく肩を震わせてから、面目なさそうに顔を伏せた。
「はい……あなた様のおっしゃるとおり、そのはずでした……しかし、こうなった以上、お二方共に勇者様ということに……」
「勇者?」
そういやじいさん、さっきそんなこと言ってたっけな。
「はい。我が王国では古より、魔王降臨の際には、異界から勇者様を召喚するならわしになっております。さっそくで申し訳ございませんが、これから我が王にお会いいただけませんでしょうか? 事態は一刻を争うのです」
――嫌な予感がする。とっても。
だが、いつまでもここに座っているわけにもいかない。俺はようやく立ち上がった。
立ち上がると、皆本の頭の高さは俺の鼻下あたりになる。まあ、これは単に俺が身長だけは無駄にあるせいだが、どうしてこいつは俺みたいに尻餅をつかずに済んだんだろう。もしかして、俺より頭だけでなく運動神経もいいのか? なお、意地が悪いのはもう充分すぎるほどわかっている。
「勝手に呼びつけといて、お茶の一杯も出さずに会ってくれですか。あんたら、何様ですか?」
うわっ、今度はじいさんに毒吐き出した! 実は俺もそう思ってたけど!
小心者の俺はあせりまくったが、皆本は涼しい顔をしているし、じいさんは恐縮しきって、いよいよ頭を下げている。
「勇者様には、まことに申し訳なく……」
「じゃあ、用が済んだら、即刻元の世界に帰してくれますよね?」
皆本はまた両腕を組んでふんぞり返っている。
皆本。おまえ、どうしてそんなに強気なんだ。相手は(たぶん)魔法使いのじいさんだぞ? 何されるかわかんないぞ?
「は、はい、それはもう……!」
しかし、ついにじいさんは土下座した。
――土下座。異世界とやらでもするんだ。俺は妙な感心をした。
「約束ですよ? ちゃんと守ってくださいよ? 帰る段になって、実はできないなんてほざきやがったら、勇者として全力で報復しますよ?」
ひい! 表情も声も穏やかなのに、言ってることは穏やかじゃない! こいつ、こんな奴だったのか!
「は、はいっ! 心得ましてございますっ!」
恰幅のいいじいさんが、悪代官を前にした農民のように縮こまって震えている。
勇者だからとか何とか関係なく、誰に対してもこいつはそうさせるだろう。
隣でニヤニヤしている皆本を見て、俺は心強いというより心寒くなった。
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