トリッパーズ!

有喜多亜里

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第一話 召喚・勇者・そしてチート

28 気合いだった

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 右膝に激痛が走った。こけて石の床にニードロップしてしまった。そんな感じ。

「いってえッ!」

 俺は思いきり叫んだ。が、両膝をついて祈るように両手を組んでいるものが視界に入った瞬間、その痛みを忘れた。
 白っぽい金髪を腰まで伸ばした西洋人顔の美女。着ている服は水色で、ギリシア神話の女神様風。若葉のような緑色の瞳を大きく見張っていた。
 その女と俺との間には、魔法円の一部らしき赤黒い紋様。
 あ。何を言われるか、だいたいわかったぞ。
 俺は覚悟を決めて、左手の中の〝勇者の剣〟を握りしめた。

「そんな……勇者様が二人……!?」

 やっぱり勇者かよ! って……二人?

「モテ期だね、武村くん」

 あの醒めた声が降ってきて、俺は右隣を振り仰いだ。
 肩掛け鞄を掛けた皆本が、小汚い布を持ったまま腕組みをしていた。

「皆本……!」

 皆本には悪いが、心の底からほっとした。思わず涙ぐんでしまう。
 どう見てもここは元の世界じゃない。たぶん、さっきまでいた異世界とはまた別の異世界だ。俺一人では絶対生きて帰れない。異世界、怖すぎる。

「おまえもまた召喚されたのか……」
「状況的にそうらしいね」

 ああ、皆本の安定の冷静さが心強い。そんな安心感に浸っていると、皆本が手に持っていた布を俺に差し出してきた。反射的に受け取りながら、ふと思い浮かんだ疑問をぶつけてみる。

「皆本」
「何?」
「どうしたら、おまえみたいに立ったままでいられるんだ?」

 一瞬、眉をひそめてから、皆本は眼鏡の真ん中を人差指で持ち上げた。

「それはもう……気合いだよ」
「……気合い」
「気合い」

 そうか。気合いか。そういや、皆本は俺みたいに目の前真っ白になって失神――はしていないんだろうな。きっと、気合いで。

「今度は茶が出たらいいな」

 まだ混乱しているらしい女を眺めながら皆本に囁く。
 ここはあの木の床の部屋よりも多少広いようだ。床も壁も正方形の白い石に覆われていて、窓どころか出入口すらないが、天井全体が白く光っているので物はよく見える。女の格好は古代っぽいのに、部屋は妙に未来っぽい。

「茶よりも、僕らを元の世界に帰せるかどうかだよ」

 皆本はまた両腕を組んでそっけなく答えた。

「嘘をついたら……口の中に〝勇者の剣〟を突っこんでやろうか」

 最初に異世界トリップしたときの俺だったら、皆本こええ! と思っていただろう。
 だが、今の俺は真顔でこう返す。

「ああ。鞘も一緒にな」

  ―『第一話 召喚・勇者・そしてチート』了―

 ※『第二話 森・騎士・そしてフラグ』に続く予定は未定(2021/03/25)。
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