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第一話 召喚・勇者・そしてチート
21 ちょっとではなかった
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「皆本……」
ようやく目が慣れてきたので、そろそろと皆本に歩み寄る。
あの鞘を刺したのが皆本だとはとても思えないが、黙って背後に立ったら何かされそうだ。
「ああ、お疲れ様。やっぱりチートだったね」
布を持ったまま腕を組んでいた皆本は、顔だけ振り返ってにやりと笑った。
「ちーと? 〝ちょっと〟ってことか? 何が?」
まったく意味がわからなくて訊ねたら、これもわからないのかと言わんばかりに眉間に皺を寄せられた。
「でも、そうか……異世界トリップを知らなかったんだから、チートも知らなくて当然か……」
独り言のように呟くと、皆本は溜め息をついてから、もう何回目かもわからなくなった、俺にもわかる解説を始めた。
「チートは日本語じゃなくて英語だよ。一般的には『騙す』とか『いかさま』とか『詐欺師』とかいう意味だけど、異世界でチートと言えば、十中八九、常人にはできないことができる能力、もしくはそんな能力を持った人間のことを指す。……コンピュータゲームのチートのことは、君にはきっと一生不要な知識だと思うから、今はあえて言わないでおくよ。気が向いたら自分で調べて」
「……とりあえず、チートは英語で『いかさま』なんだな」
「よかった。『いかさま』は知っていたんだね。言ってから、もしかしたらこれも知らないんじゃないかって不安になったよ」
「それくらいは知ってるよ。『ズル』とか『いんちき』とかいう意味だろ? でも、何がその〝異世界でチート〟だったんだ?」
「そうか。君にはそこから説明しないとわからないか。さすが、無自覚チート」
皆本はまた溜め息を吐いて、右の人差指で真上を指した。
「一ヶ月近くも続いてたっていう夜が明けたのは、さっき君が魔王城を切ったからだよ、武村くん」
「ええ?」
あわてて空を見上げる。ここは駐車場だから、視界を遮る緑もない。
青い空と白い雲。あの馬鹿でかい月は消えていて、そのかわりに、俺が知っている太陽みたいな太陽が、月とは違う熱のある光を地上に降り注いでいた。
しばらく呆然と空を見ていた。が、はっと我に返って、魔王城があった方角に目を向けた。
城どころか、あの山頂を引き伸ばした富士山みたいな山も消えていた。あの山も含めて魔王城だったんだろうか。
「いや、でも、俺は素振り一回しただけだぞ? 素振りしただけであんな城、切れるわけないだろうが」
俺は馬鹿だが、一般常識はあるんじゃないかと思っている(ヨサブソンは一般常識と言われたらそれまでだが)。苦笑いして皆本に言うと、皆本も困ったように苦笑した。
「ところが、君は切れるんだよ。だからこの国に召喚されて、魔王城が消滅した直後に、今度はこの男に殺されそうになった」
皆本は俺からアルガスに視線を戻した。つられて俺もアルガスを見る。
今になって気づいたが、アルガスの右手は剣を握りしめていた。心なしか、俺がいま右手に提げている〝勇者の剣〟と形が似ているような気がする。でも、その剣を振り回す力はもう残っていないようで、左手と一緒にだらんと下へ垂らしていた。
ようやく目が慣れてきたので、そろそろと皆本に歩み寄る。
あの鞘を刺したのが皆本だとはとても思えないが、黙って背後に立ったら何かされそうだ。
「ああ、お疲れ様。やっぱりチートだったね」
布を持ったまま腕を組んでいた皆本は、顔だけ振り返ってにやりと笑った。
「ちーと? 〝ちょっと〟ってことか? 何が?」
まったく意味がわからなくて訊ねたら、これもわからないのかと言わんばかりに眉間に皺を寄せられた。
「でも、そうか……異世界トリップを知らなかったんだから、チートも知らなくて当然か……」
独り言のように呟くと、皆本は溜め息をついてから、もう何回目かもわからなくなった、俺にもわかる解説を始めた。
「チートは日本語じゃなくて英語だよ。一般的には『騙す』とか『いかさま』とか『詐欺師』とかいう意味だけど、異世界でチートと言えば、十中八九、常人にはできないことができる能力、もしくはそんな能力を持った人間のことを指す。……コンピュータゲームのチートのことは、君にはきっと一生不要な知識だと思うから、今はあえて言わないでおくよ。気が向いたら自分で調べて」
「……とりあえず、チートは英語で『いかさま』なんだな」
「よかった。『いかさま』は知っていたんだね。言ってから、もしかしたらこれも知らないんじゃないかって不安になったよ」
「それくらいは知ってるよ。『ズル』とか『いんちき』とかいう意味だろ? でも、何がその〝異世界でチート〟だったんだ?」
「そうか。君にはそこから説明しないとわからないか。さすが、無自覚チート」
皆本はまた溜め息を吐いて、右の人差指で真上を指した。
「一ヶ月近くも続いてたっていう夜が明けたのは、さっき君が魔王城を切ったからだよ、武村くん」
「ええ?」
あわてて空を見上げる。ここは駐車場だから、視界を遮る緑もない。
青い空と白い雲。あの馬鹿でかい月は消えていて、そのかわりに、俺が知っている太陽みたいな太陽が、月とは違う熱のある光を地上に降り注いでいた。
しばらく呆然と空を見ていた。が、はっと我に返って、魔王城があった方角に目を向けた。
城どころか、あの山頂を引き伸ばした富士山みたいな山も消えていた。あの山も含めて魔王城だったんだろうか。
「いや、でも、俺は素振り一回しただけだぞ? 素振りしただけであんな城、切れるわけないだろうが」
俺は馬鹿だが、一般常識はあるんじゃないかと思っている(ヨサブソンは一般常識と言われたらそれまでだが)。苦笑いして皆本に言うと、皆本も困ったように苦笑した。
「ところが、君は切れるんだよ。だからこの国に召喚されて、魔王城が消滅した直後に、今度はこの男に殺されそうになった」
皆本は俺からアルガスに視線を戻した。つられて俺もアルガスを見る。
今になって気づいたが、アルガスの右手は剣を握りしめていた。心なしか、俺がいま右手に提げている〝勇者の剣〟と形が似ているような気がする。でも、その剣を振り回す力はもう残っていないようで、左手と一緒にだらんと下へ垂らしていた。
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