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第一話 召喚・勇者・そしてチート
15 魔王城というよりシンデレラ城
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霊柩車みたいな馬車には、透明なガラスが嵌めこまれた窓が三つあった。
まず、俺たちが使った左側の扉に一つ。その反対側にあった右側の扉にも一つ。残りの一つは正面にあって、アルガスのいる御者台と接していた。
城壁の扉がゆっくりと開かれ、その窓からアルガスの頭以外のものが見えたとき、思わず口から心の声がこぼれ出た。
「魔王城って、あれか?」
独り言みたいなもんだったから、皆本の答えは期待していなかったが、皆本は俺の右隣からそっけなく返してきた。
「あれだろうね。方角的に」
「何つーか……魔王城っていうより、シンデレラ城みてえだよな」
「あまり同意はしたくないけど、一言で言うとそれだね」
城壁のすぐ外にあったのは、湖のようにも見える広大な草原と、その草原を左右に区切っている幅広の白っぽい道――たぶん、例の〝勇者の道〟だった。
その道は、地平線を覆っている黒い固まり――ドームよりランドで換算したほうがよさそうな森に向かって一直線に伸びていて、その延長線上に、皆本も認めたシンデレラ城もどきがあった。
何というか、ミニチュアの富士山の山頂を縦に思いきり長くして、その上にやっぱりミニチュアのシンデレラ城をくっつけたみたいだ。ここからどれくらい離れているかわからないから、山の高さも城の大きさも俺にはわからないが、あのでかい月のせいで、まるで影絵みたいに見える。
と、馬車が動き出し、〝勇者の道〟の上を静かに走りはじめた。
道は平らな石と漆喰か何かで舗装してあるようだ。城壁の中にいるときより、乗り心地は格段によくなった。ひとまずそのことにほっとした俺は、改めて魔王城を見た。
「あの山……どうやって登ればいいんだ?」
いや、そもそもあんなところにあんな城をどうやって建てたのか。
ついついそんなことを考えていると、皆本が呆れたように「君が悩むの、そこなんだ」と言った。
「え? だって、ロープウェイもケーブルカーもなさそうだろ?」
「まあ、ないだろうね。たぶん、登山道も」
正面の窓の両脇には、コミコスじいさんの素通し提灯みたいなのが一個ずつぶら下げられている。車内をくまなく照らし出せるほど明るくはないが、皆本が哀れむような眼差しを俺に向けているのははっきりとわかった。
「でも、それ以前に、どうして僕らがそんなことを悩まなくちゃならないのかって疑問に思わない?」
「そりゃそうだけど、魔王倒さないと、帰してもらえないんだろ?」
「そう、そこも僕には疑問だよ」
そう言って、今は俺の膝の上にある〝勇者の剣〟に目を移す。武器庫から持ち出すとき、何となくまた元のように布でぐるぐる巻きにした。
「君、その剣で魔王を倒せるって本気で思ってるの? っていうか、君は魔王が怖くはないの?」
「怖い……」
そういえばそうだな。呟いてみて、初めて気がついた。
まず、俺たちが使った左側の扉に一つ。その反対側にあった右側の扉にも一つ。残りの一つは正面にあって、アルガスのいる御者台と接していた。
城壁の扉がゆっくりと開かれ、その窓からアルガスの頭以外のものが見えたとき、思わず口から心の声がこぼれ出た。
「魔王城って、あれか?」
独り言みたいなもんだったから、皆本の答えは期待していなかったが、皆本は俺の右隣からそっけなく返してきた。
「あれだろうね。方角的に」
「何つーか……魔王城っていうより、シンデレラ城みてえだよな」
「あまり同意はしたくないけど、一言で言うとそれだね」
城壁のすぐ外にあったのは、湖のようにも見える広大な草原と、その草原を左右に区切っている幅広の白っぽい道――たぶん、例の〝勇者の道〟だった。
その道は、地平線を覆っている黒い固まり――ドームよりランドで換算したほうがよさそうな森に向かって一直線に伸びていて、その延長線上に、皆本も認めたシンデレラ城もどきがあった。
何というか、ミニチュアの富士山の山頂を縦に思いきり長くして、その上にやっぱりミニチュアのシンデレラ城をくっつけたみたいだ。ここからどれくらい離れているかわからないから、山の高さも城の大きさも俺にはわからないが、あのでかい月のせいで、まるで影絵みたいに見える。
と、馬車が動き出し、〝勇者の道〟の上を静かに走りはじめた。
道は平らな石と漆喰か何かで舗装してあるようだ。城壁の中にいるときより、乗り心地は格段によくなった。ひとまずそのことにほっとした俺は、改めて魔王城を見た。
「あの山……どうやって登ればいいんだ?」
いや、そもそもあんなところにあんな城をどうやって建てたのか。
ついついそんなことを考えていると、皆本が呆れたように「君が悩むの、そこなんだ」と言った。
「え? だって、ロープウェイもケーブルカーもなさそうだろ?」
「まあ、ないだろうね。たぶん、登山道も」
正面の窓の両脇には、コミコスじいさんの素通し提灯みたいなのが一個ずつぶら下げられている。車内をくまなく照らし出せるほど明るくはないが、皆本が哀れむような眼差しを俺に向けているのははっきりとわかった。
「でも、それ以前に、どうして僕らがそんなことを悩まなくちゃならないのかって疑問に思わない?」
「そりゃそうだけど、魔王倒さないと、帰してもらえないんだろ?」
「そう、そこも僕には疑問だよ」
そう言って、今は俺の膝の上にある〝勇者の剣〟に目を移す。武器庫から持ち出すとき、何となくまた元のように布でぐるぐる巻きにした。
「君、その剣で魔王を倒せるって本気で思ってるの? っていうか、君は魔王が怖くはないの?」
「怖い……」
そういえばそうだな。呟いてみて、初めて気がついた。
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