トリッパーズ!

有喜多亜里

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第一話 召喚・勇者・そしてチート

11 俺は黙って聞いていた

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 外は完全に夜だった。
 でも、マンガみたいにでっかい満月が空に浮かんでいたから、屋内にいたときよりもかえって明るく感じた。
 やっぱりここは異世界だ。あの月を見てやっと実感した。大きさだけでなく模様も違う。俺が知ってる月の中ではウサギが餅をついていたが、こっちでは肘をついてごろ寝をしていた。可愛くねえ。
 俺たちがいた世界では、紅葉のことがニュースになるくらいもう秋だった。だが、こっちはまだ九月の終わりくらいな感じだ。夜風もほとんどなく、ブレザーがちょっと暑苦しい。
 魔王がいる魔王城は、この国の中央にある広大な森林地帯(東○ドーム何個分かはわからない)の真ん中に、約百年ごとに出現するそうだ。
 そう。出現する。ある日突然、筍みたいに。
 勇者が魔王を倒せば、自動的に魔王城も消滅するが、約百年経ったら、また同じ場所に魔王城が現れて、今みたいな明けない夜状態になる。
 魔王がいない間の魔物たちは、その大部分が森の中で暮らしていて、人間がちょっかいを出さなければ、まず襲ってくることはないそうだ。
 でも、魔王城が現れると、人……じゃなくて魔物が変わったみたいに凶暴になり、森の外に住んでいる人間たちを殺しまくり、土地を荒らしまくる。
 俺が王様の城だと思っていたところは、実はその森の近くに造られた、勇者召喚専用の砦なんだそうだ。
 砦と言われても、俺にはまったくピンと来なかったが、両開きの玄関扉から外に出て振り返ってみたら、窓のない石造りの校舎みたいな外観をしていた。百年に一度しか使わないから、手抜き工事したんだろうか。
 なお、勇者を召喚すると、魔物は一日だけ活動を停止するそうだ。理屈はいまだにわからないが、その間に国民は安全な場所に避難して、王様は勇者を魔王城へと向かわせる。そのために、この砦は危険な森の近くに建てられて、そこから森の中央へ直行できるように、〝勇者の道〟なんていう立派な道まで造られた。
 ――というような話をコミコスじいさんから訊き出したのは皆本で、俺はそれを黙って聞いていた。
 皆本が一緒で本当によかった。もしも俺だけここに召喚されていたら、絶対ろくな質問もできずに丸めこまれていた。
 何でかじいさんは皆本に異常に怯えているからまだ低姿勢だが、王様をはじめとするこの国の人間たちは、俺たちのことを勇者とか何とか言っておきながら、対応は常に上から目線だ。
 ようするに、こっちの人間の手には負えないから、異世界の人間を勝手に召喚して、そいつに魔王を倒してきてもらってるわけだろ? なのに、何でそれが当たり前みたいな顔してやがるんだ? こっちにはそんなことしてやる義務も義理もないってのに。
 召喚早々、茶の一杯も飲ませずに俺たちを魔王城に行かせようとするのは、魔物の活動停止期間がたった一日しかないからなんだろう。それだって、皆本がじいさんを脅し……いや、問いつめたから間接的にわかったようなもので、下手したら何の説明もされないまま、ここから送り出されていたかもしれない。
 せめて、魔王を倒したら何かくれるとか言ってくれてれば、こっちもまだやる気になったのに。あの王様もじいさんも自分たちの要求ばかりで、見返りの話はいっさいしなかった。
 それは皆本もわかっているはずだが、今のところ、用が済んだら元の世界に帰してくれとしか言っていない。それ以上のことは期待しても無駄だって、最初からわかっていたみたいだ。
 今なら、皆本が毒を吐きまくるのも当然だと思える。俺は小心者だから無理だけど。
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