トリッパーズ!

有喜多亜里

文字の大きさ
上 下
4 / 29
第一話 召喚・勇者・そしてチート

04 皆本は実はこうだった

しおりを挟む
 気の毒なくらい怯えきった様子のじいさんの後を追い、空き教室ほどの広さの部屋から出ると、腰に剣を吊した男たちが二人、扉の両脇に一人ずつ立っていた。
 たぶん兵隊だろう。じいさん同様、やっぱり西洋系の外国人顔をしていた。奴らも俺たちを見て、多少驚いたような表情はしたが、何も言わずに俺たちの背後に立った。護衛というより、監視のような気がした。
 それから、素通しの四角い提灯みたいなのをぶらさげたじいさんに先導されて、俺たちは暗い廊下を黙々と歩いた。
 皆本は俺の右横を歩いていた。奴には訊きたいことがたくさんあったが――あの教室の中で、どうして俺とこいつだけがここに来るはめになったのかとか、あれだけしゃべれるくせに、どうして今までほとんど周囲と会話しなかったのかとか――今のこの状況では、とてもできそうになかった。きっとそのうち、二人きりになる機会もあるだろう。それまでは我慢だ……なんて考えていたら、その皆本が突然口を開いた。

「あとどんだけ歩けばいいんですか?」

 うんざりしきった声だった。じいさんは両肩を震わせて、おそるおそる皆本を振り返った。気持ちはわからないでもないが、いくら何でも怖がりすぎだろう。でも、俺がじいさんだったら、まったく同じ反応をしてそうだ。

「も、もう少しです、勇者様!」
「もう少しってねえ。そっちの都合で召喚したんだから、こっちに疲れさすことさせないでくださいよ。いっそ王様のいる前で召喚したほうがよかったんじゃないんですか? あ、それじゃ失敗したとき赤っ恥かいちゃうか。下手したらクビ?」

 ――容赦ねえ。言ってることは同感だが、俺にはとても言えそうにねえ。
 俺たちの後ろを歩いている兵隊たちは無言のままだったが、無礼者めとか何とか叫んで殴りかかってきそうで怖かった。が、実際そうなったら、また皆本が何か言うだろう。俺はこの世界の人間と直接話すことはすでに放棄した。

「申し訳ありません」

 じいさんは消え入りそうな声でそう答えた。もうそれしか言える言葉がなかったんだろう。同情はしないが、共感はする。
 王様がいるってことは、ここは王様の城の中なんだろうが、間隔をおいて松明たいまつが壁に灯されてはいるものの、滑らかな石が敷きつめられた廊下は暗くて陰気で、俺たち以外に人気はまったくなかった。窓も全然ないから、今が昼なのか夜なのかもわからない。
 王様の城だったら、もっと明るくて華やかなんじゃないか。俺がそう思ったとき、ようやくじいさんが足を止めた。
 じいさんの前には、何もこんなにでっかくしなくてもいいだろうっていうくらい大きな両開きの白い扉があって、その両脇には、俺たちの背後にいる兵隊たちと同じ格好をした男たちがやっぱり一人ずつ立っていた。
 奴らはまずじいさんを見て深々と頭を下げ(皆本に対する態度を見てると、とてもそうは思えないが、ここではこのじいさんは相当えらい奴らしい)、次にそのうちの一人が扉に向かって声を張り上げた。

「陛下! コミコス殿が勇者殿をお連れになりました!」

 へえ、じいさん、コミコスって名前なのか。
 あれ? そういやお互い、まだ自己紹介してなかったな。
 そんなことを考えたとき、扉の向こうから重々しい男の声が返ってきた。

「やっと来たか。……入れ」
「はっ!」

 扉が閉まってるんだからどうせ中には見えやしないのに、その兵隊は律義に頭を垂れてから扉の反対側にいる相棒と目を合わせ、掛け声なしに同時に扉を内側へと押し開いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
【陽気な庶民✕引っ込み思案の御曹司】 これまで何人の女性を相手にしてきたか数えてもいない生田雅紀(いくたまさき)は、整った容姿と人好きのする性格から、男女問わず常に誰かしらに囲まれて、暇をつぶす相手に困らない生活を送っていた。 それゆえ過去に囚われることもなく、未来のことも考えず、だからこそ生きている実感もないままに、ただただ楽しむだけの享楽的な日々を過ごしていた。 そんな日々が彼に出会って一変する。 自分をも凌ぐ美貌を持つだけでなく、スラリとした長身とスタイルの良さも傘にせず、御曹司であることも口重く言うほどの淑やかさを持ちながら、伏し目がちにおどおどとして、自信もなく気弱な男、久世透。 自分のような人間を相手にするレベルの人ではない。 そのはずが、なにやら友情以上の何かを感じてならない。 というか、自分の中にこれまで他人に抱いたことのない感情が見え隠れし始めている。 ↓この作品は下記作品の改稿版です↓ 【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994 主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻に関する部分です。 その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...