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第一話 召喚・勇者・そしてチート
04 皆本は実はこうだった
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気の毒なくらい怯えきった様子のじいさんの後を追い、空き教室ほどの広さの部屋から出ると、腰に剣を吊した男たちが二人、扉の両脇に一人ずつ立っていた。
たぶん兵隊だろう。じいさん同様、やっぱり西洋系の外国人顔をしていた。奴らも俺たちを見て、多少驚いたような表情はしたが、何も言わずに俺たちの背後に立った。護衛というより、監視のような気がした。
それから、素通しの四角い提灯みたいなのをぶらさげたじいさんに先導されて、俺たちは暗い廊下を黙々と歩いた。
皆本は俺の右横を歩いていた。奴には訊きたいことがたくさんあったが――あの教室の中で、どうして俺とこいつだけがここに来るはめになったのかとか、あれだけしゃべれるくせに、どうして今までほとんど周囲と会話しなかったのかとか――今のこの状況では、とてもできそうになかった。きっとそのうち、二人きりになる機会もあるだろう。それまでは我慢だ……なんて考えていたら、その皆本が突然口を開いた。
「あとどんだけ歩けばいいんですか?」
うんざりしきった声だった。じいさんは両肩を震わせて、おそるおそる皆本を振り返った。気持ちはわからないでもないが、いくら何でも怖がりすぎだろう。でも、俺がじいさんだったら、まったく同じ反応をしてそうだ。
「も、もう少しです、勇者様!」
「もう少しってねえ。そっちの都合で召喚したんだから、こっちに疲れさすことさせないでくださいよ。いっそ王様のいる前で召喚したほうがよかったんじゃないんですか? あ、それじゃ失敗したとき赤っ恥かいちゃうか。下手したらクビ?」
――容赦ねえ。言ってることは同感だが、俺にはとても言えそうにねえ。
俺たちの後ろを歩いている兵隊たちは無言のままだったが、無礼者めとか何とか叫んで殴りかかってきそうで怖かった。が、実際そうなったら、また皆本が何か言うだろう。俺はこの世界の人間と直接話すことはすでに放棄した。
「申し訳ありません」
じいさんは消え入りそうな声でそう答えた。もうそれしか言える言葉がなかったんだろう。同情はしないが、共感はする。
王様がいるってことは、ここは王様の城の中なんだろうが、間隔をおいて松明が壁に灯されてはいるものの、滑らかな石が敷きつめられた廊下は暗くて陰気で、俺たち以外に人気はまったくなかった。窓も全然ないから、今が昼なのか夜なのかもわからない。
王様の城だったら、もっと明るくて華やかなんじゃないか。俺がそう思ったとき、ようやくじいさんが足を止めた。
じいさんの前には、何もこんなにでっかくしなくてもいいだろうっていうくらい大きな両開きの白い扉があって、その両脇には、俺たちの背後にいる兵隊たちと同じ格好をした男たちがやっぱり一人ずつ立っていた。
奴らはまずじいさんを見て深々と頭を下げ(皆本に対する態度を見てると、とてもそうは思えないが、ここではこのじいさんは相当えらい奴らしい)、次にそのうちの一人が扉に向かって声を張り上げた。
「陛下! コミコス殿が勇者殿をお連れになりました!」
へえ、じいさん、コミコスって名前なのか。
あれ? そういやお互い、まだ自己紹介してなかったな。
そんなことを考えたとき、扉の向こうから重々しい男の声が返ってきた。
「やっと来たか。……入れ」
「はっ!」
扉が閉まってるんだからどうせ中には見えやしないのに、その兵隊は律義に頭を垂れてから扉の反対側にいる相棒と目を合わせ、掛け声なしに同時に扉を内側へと押し開いた。
たぶん兵隊だろう。じいさん同様、やっぱり西洋系の外国人顔をしていた。奴らも俺たちを見て、多少驚いたような表情はしたが、何も言わずに俺たちの背後に立った。護衛というより、監視のような気がした。
それから、素通しの四角い提灯みたいなのをぶらさげたじいさんに先導されて、俺たちは暗い廊下を黙々と歩いた。
皆本は俺の右横を歩いていた。奴には訊きたいことがたくさんあったが――あの教室の中で、どうして俺とこいつだけがここに来るはめになったのかとか、あれだけしゃべれるくせに、どうして今までほとんど周囲と会話しなかったのかとか――今のこの状況では、とてもできそうになかった。きっとそのうち、二人きりになる機会もあるだろう。それまでは我慢だ……なんて考えていたら、その皆本が突然口を開いた。
「あとどんだけ歩けばいいんですか?」
うんざりしきった声だった。じいさんは両肩を震わせて、おそるおそる皆本を振り返った。気持ちはわからないでもないが、いくら何でも怖がりすぎだろう。でも、俺がじいさんだったら、まったく同じ反応をしてそうだ。
「も、もう少しです、勇者様!」
「もう少しってねえ。そっちの都合で召喚したんだから、こっちに疲れさすことさせないでくださいよ。いっそ王様のいる前で召喚したほうがよかったんじゃないんですか? あ、それじゃ失敗したとき赤っ恥かいちゃうか。下手したらクビ?」
――容赦ねえ。言ってることは同感だが、俺にはとても言えそうにねえ。
俺たちの後ろを歩いている兵隊たちは無言のままだったが、無礼者めとか何とか叫んで殴りかかってきそうで怖かった。が、実際そうなったら、また皆本が何か言うだろう。俺はこの世界の人間と直接話すことはすでに放棄した。
「申し訳ありません」
じいさんは消え入りそうな声でそう答えた。もうそれしか言える言葉がなかったんだろう。同情はしないが、共感はする。
王様がいるってことは、ここは王様の城の中なんだろうが、間隔をおいて松明が壁に灯されてはいるものの、滑らかな石が敷きつめられた廊下は暗くて陰気で、俺たち以外に人気はまったくなかった。窓も全然ないから、今が昼なのか夜なのかもわからない。
王様の城だったら、もっと明るくて華やかなんじゃないか。俺がそう思ったとき、ようやくじいさんが足を止めた。
じいさんの前には、何もこんなにでっかくしなくてもいいだろうっていうくらい大きな両開きの白い扉があって、その両脇には、俺たちの背後にいる兵隊たちと同じ格好をした男たちがやっぱり一人ずつ立っていた。
奴らはまずじいさんを見て深々と頭を下げ(皆本に対する態度を見てると、とてもそうは思えないが、ここではこのじいさんは相当えらい奴らしい)、次にそのうちの一人が扉に向かって声を張り上げた。
「陛下! コミコス殿が勇者殿をお連れになりました!」
へえ、じいさん、コミコスって名前なのか。
あれ? そういやお互い、まだ自己紹介してなかったな。
そんなことを考えたとき、扉の向こうから重々しい男の声が返ってきた。
「やっと来たか。……入れ」
「はっ!」
扉が閉まってるんだからどうせ中には見えやしないのに、その兵隊は律義に頭を垂れてから扉の反対側にいる相棒と目を合わせ、掛け声なしに同時に扉を内側へと押し開いた。
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