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第一話 召喚・勇者・そしてチート
01 イセカイとリップ?
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椅子があるつもりで後ろを見ないで座ったらなかった。ちょうどあんな感じだった。
「いってえッ!」
尾てい骨を思いきり打って、俺は思いきり叫んだ。が、前方に立っているものが視界に入った瞬間、その痛みを忘れた。
全身黒ずくめの、いかにも魔法使いって格好をしたサンタクロース顔のじいさん。俺以上に驚いた様子で青い目を見張っていた。
お互い、何か言いたくても言い出せない。そのとき、俺の右隣から醒めた声が降ってきた。
「君がM字開脚しても、あの人はきっと喜んでくれないと思うよ」
はっとして見上げれば、腕組みをした皆本が無表情に俺を見下ろしていた。
言いたいことはいくらでもあったが――おまえ、よりにもよって第一声がそれかよとか――その前にあわてて両足を引き寄せてあぐらをかいた。ちなみに、俺は皆本と同じく、制服のグレーのブレザーを着ている。当然、ズボンも穿いている。断じてマッパじゃない。
「おまえ、何でここに?」
改めてそう訊ねると、皆本は銀縁眼鏡を掛けた目をじいさんに向けた。
「それはあの人に訊いてよ。あの人が原因らしいから」
俺は皆本からじいさんに視線を戻した。
「そんな……勇者が二人……!?」
信じられないように呟くじいさんの言葉は、間違いなく日本語だった。
「どう見ても外人なのに、日本語うまいな」
じいさんには聞こえないように小声で言ったら、皆本が同じくらいの声量で囁き返してきた。
「たぶん、向こうは日本語しゃべってないよ。僕らのほうが向こうに合わせて会話できるようになったんだよ」
「何で!?」
驚いてまた皆本を見上げると、皆本は眼鏡の真ん中(正式名称はあるんだろうが俺は知らない)を右の人差指で持ち上げてから答えた。
「それはもう、異世界トリップのお約束だよ」
「イセカイトリップ?」
何じゃそりゃ? イセカイとリップ?
俺の表情で意味がわかっていないことがわかったのか、皆本は眼鏡の奥の細い目をさらに細めた。
「君、『トリップ』って言葉の意味、知ってる?」
「トリップ……ストリップとは関係ないよな?」
「それでよく高校入れたね」
「俺の学力は入学試験中がマックスだった」
「そのマックスは常人のミニマムだったんじゃないかと思うけど。……麻薬や覚醒剤の幻覚症状のこともそう言うけど、一般的には『旅行』とか『小旅行』っていう意味だよ」
「じゃあ、イセカイってのは?」
「〝異なる世界〟。つまり、何らかの原因で、今までいた世界とは違う世界に行ってしまうことを〝異世界トリップ〟って言うんだ」
俺は少し考えてから、また皆本に訊ねた。
「何らかの原因って?」
もう口で答えるのが面倒になったのか、皆本は人差指で床を指した。
その指先を追って木製の床に目を落とすと、見るからに怪しげな赤黒い模様が、俺たちを囲いこむように円形に描かれていた。
まるで魔法使いが描いた魔法円みたいな……って、もしかして、そうなのか?
「いってえッ!」
尾てい骨を思いきり打って、俺は思いきり叫んだ。が、前方に立っているものが視界に入った瞬間、その痛みを忘れた。
全身黒ずくめの、いかにも魔法使いって格好をしたサンタクロース顔のじいさん。俺以上に驚いた様子で青い目を見張っていた。
お互い、何か言いたくても言い出せない。そのとき、俺の右隣から醒めた声が降ってきた。
「君がM字開脚しても、あの人はきっと喜んでくれないと思うよ」
はっとして見上げれば、腕組みをした皆本が無表情に俺を見下ろしていた。
言いたいことはいくらでもあったが――おまえ、よりにもよって第一声がそれかよとか――その前にあわてて両足を引き寄せてあぐらをかいた。ちなみに、俺は皆本と同じく、制服のグレーのブレザーを着ている。当然、ズボンも穿いている。断じてマッパじゃない。
「おまえ、何でここに?」
改めてそう訊ねると、皆本は銀縁眼鏡を掛けた目をじいさんに向けた。
「それはあの人に訊いてよ。あの人が原因らしいから」
俺は皆本からじいさんに視線を戻した。
「そんな……勇者が二人……!?」
信じられないように呟くじいさんの言葉は、間違いなく日本語だった。
「どう見ても外人なのに、日本語うまいな」
じいさんには聞こえないように小声で言ったら、皆本が同じくらいの声量で囁き返してきた。
「たぶん、向こうは日本語しゃべってないよ。僕らのほうが向こうに合わせて会話できるようになったんだよ」
「何で!?」
驚いてまた皆本を見上げると、皆本は眼鏡の真ん中(正式名称はあるんだろうが俺は知らない)を右の人差指で持ち上げてから答えた。
「それはもう、異世界トリップのお約束だよ」
「イセカイトリップ?」
何じゃそりゃ? イセカイとリップ?
俺の表情で意味がわかっていないことがわかったのか、皆本は眼鏡の奥の細い目をさらに細めた。
「君、『トリップ』って言葉の意味、知ってる?」
「トリップ……ストリップとは関係ないよな?」
「それでよく高校入れたね」
「俺の学力は入学試験中がマックスだった」
「そのマックスは常人のミニマムだったんじゃないかと思うけど。……麻薬や覚醒剤の幻覚症状のこともそう言うけど、一般的には『旅行』とか『小旅行』っていう意味だよ」
「じゃあ、イセカイってのは?」
「〝異なる世界〟。つまり、何らかの原因で、今までいた世界とは違う世界に行ってしまうことを〝異世界トリップ〟って言うんだ」
俺は少し考えてから、また皆本に訊ねた。
「何らかの原因って?」
もう口で答えるのが面倒になったのか、皆本は人差指で床を指した。
その指先を追って木製の床に目を落とすと、見るからに怪しげな赤黒い模様が、俺たちを囲いこむように円形に描かれていた。
まるで魔法使いが描いた魔法円みたいな……って、もしかして、そうなのか?
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