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08 ケイン視点
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ケインの可愛い〝恋人〟は、わがままを言ってケインを困らせることはほとんどなかったが、一つだけ強く熱望していることがあった。
――一緒に寝て、一緒に起きたい。
恋人なら望んで当然のことかもしれなかったが、試験航海中の宇宙船の中で、しかも、表向き〝上司と(一応)部下〟という関係では、その実現は極めて難しかった。
現在、第三者に真の関係を悟られないよう、シフトをやりくりして逢瀬を重ねている自分たちは、眠るどころか、二時間以上二人きりでいたこともない。
しかし、半年間の予定の試験航海も、あと残り一ヶ月ほどになった。
せめて一度くらい恋人の願いを叶えてやりたくて、そして、そのとき以前から考えていたことを伝えたくて、ケインは計画的に偶然を装ってシフトを組み替え、自分と恋人の就寝時間が重なるようにした。
期待どおり、恋人は大変喜び、続けて三回も応じてくれた。正直、それだけでもシフト替えしてよかったと思ったが、疲れて眠りこまれる前に、絶対に言っておかなければならないことがあった。
「船を降りたら……俺と結婚してくれないか?」
すでに眠そうな顔をしていた恋人は、一気に眠気が覚めたようにケインを見上げた。
「結婚? ……本気?」
「もちろん本気だ。一目惚れしたって何度も言ってるだろ」
「それは聞いたけど……俺なんかと結婚したら、あんたの社内での立場が……」
「時代錯誤なことを言うな。好きあってる者同士が結婚して何が悪い? 法律だってとっくの昔にもう認めてる」
「……本当にいいの? 俺で……いいの?」
積極的だが卑屈なところもあるこの恋人には、ケインのプロポーズがどうしても信じられないらしい。
もっとも、ケイン自身、まさか自分が男にプロポーズすることになろうとは、この試験航海前には想像したことすらなかった。
「おまえがいいんだ。とりあえず結婚して、一緒に暮らそう。順番、逆になって悪いが、結婚指輪はその後で」
「そんなの、どうだっていいよ。船を降りても、あんたと一緒にいられるんなら」
恋人は感極まったようにケインの胸にしがみついた。
この恋人は顔はもちろんだが、特にこういうところが健気で可愛い。
「どうだってよくはないが、確かに一緒にいることのほうが何より重要だな。一緒にいなくちゃセックスもできない」
至近距離でにやりと笑うと、恋人は真っ赤になって、ケインの胸を力まかせに何度も殴った。
「バカバカバカ」
「照れるおまえも可愛いな。……痛いけど」
冗談ではなく本気で痛かったので、ケインはさりげなく恋人の両手を拘束した。こう見えて、この恋人は意外と腕力がある。
「今でも信じられない。これ、全部夢じゃないかな」
上気した顔で、恋人はほうと溜め息をついた。
「夢だとしたら、いったいどこから夢なんだ?」
「そうだな……あんたが俺に告白してくれたところからかな」
「そこから信じられないのか。……複雑だな」
「でも、夢でもいい。夢見てる間は、それが現実だから」
「夢でも現実でも、俺はおまえを愛してるよ。おまえだけを、ずっと」
「もし、そこに俺がいなかったら?」
「捜すよ。何年何十年かかっても、おまえを捜し出して〝愛してる〟って言うよ。だから、おまえも俺を捜せ」
だが、恋人は呆れたように苦笑いした。
「無茶言うなあ。だいたい、いないものをどうやって捜すの? 生まれ変わりとか信じてる?」
「今は信じてる。……もうこんな時間か。夢でも会いにいくから、もう寝ろ」
恋人はまだ全裸のままだ。しかし、あえて服は着させず、首までシーツを引き上げてやった。
「ほんとに? 待ってるからね、冗談抜きで」
「ああ、待ってろ。夢の中でも何度でも〝愛してる〟って言ってやる」
「一度で充分だよ。あとは夢から覚めるまで、ずっと抱きしめていて」
ケインは言葉を失い、頬を赤らめている恋人を、両腕で強く抱きしめた。
「本当に、おまえにはかなわない。……今から抱きしめていていいか?」
「もう抱きしめてるじゃない。……いいよ、おやすみ。愛してる」
「夢の中で言うつもりだったのに、今おまえに言われたら、言わないわけにはいかないな」
今度はケインが苦笑して、恋人の額に口づけた。
「愛してる。おやすみ、俺のハリー」
ケインはリモコンで部屋の照明の明度を最小まで落とすと、一ヶ月後には自分の伴侶となる恋人を、改めて抱きしめ直した。
――一緒に寝て、一緒に起きたい。
恋人なら望んで当然のことかもしれなかったが、試験航海中の宇宙船の中で、しかも、表向き〝上司と(一応)部下〟という関係では、その実現は極めて難しかった。
現在、第三者に真の関係を悟られないよう、シフトをやりくりして逢瀬を重ねている自分たちは、眠るどころか、二時間以上二人きりでいたこともない。
しかし、半年間の予定の試験航海も、あと残り一ヶ月ほどになった。
せめて一度くらい恋人の願いを叶えてやりたくて、そして、そのとき以前から考えていたことを伝えたくて、ケインは計画的に偶然を装ってシフトを組み替え、自分と恋人の就寝時間が重なるようにした。
期待どおり、恋人は大変喜び、続けて三回も応じてくれた。正直、それだけでもシフト替えしてよかったと思ったが、疲れて眠りこまれる前に、絶対に言っておかなければならないことがあった。
「船を降りたら……俺と結婚してくれないか?」
すでに眠そうな顔をしていた恋人は、一気に眠気が覚めたようにケインを見上げた。
「結婚? ……本気?」
「もちろん本気だ。一目惚れしたって何度も言ってるだろ」
「それは聞いたけど……俺なんかと結婚したら、あんたの社内での立場が……」
「時代錯誤なことを言うな。好きあってる者同士が結婚して何が悪い? 法律だってとっくの昔にもう認めてる」
「……本当にいいの? 俺で……いいの?」
積極的だが卑屈なところもあるこの恋人には、ケインのプロポーズがどうしても信じられないらしい。
もっとも、ケイン自身、まさか自分が男にプロポーズすることになろうとは、この試験航海前には想像したことすらなかった。
「おまえがいいんだ。とりあえず結婚して、一緒に暮らそう。順番、逆になって悪いが、結婚指輪はその後で」
「そんなの、どうだっていいよ。船を降りても、あんたと一緒にいられるんなら」
恋人は感極まったようにケインの胸にしがみついた。
この恋人は顔はもちろんだが、特にこういうところが健気で可愛い。
「どうだってよくはないが、確かに一緒にいることのほうが何より重要だな。一緒にいなくちゃセックスもできない」
至近距離でにやりと笑うと、恋人は真っ赤になって、ケインの胸を力まかせに何度も殴った。
「バカバカバカ」
「照れるおまえも可愛いな。……痛いけど」
冗談ではなく本気で痛かったので、ケインはさりげなく恋人の両手を拘束した。こう見えて、この恋人は意外と腕力がある。
「今でも信じられない。これ、全部夢じゃないかな」
上気した顔で、恋人はほうと溜め息をついた。
「夢だとしたら、いったいどこから夢なんだ?」
「そうだな……あんたが俺に告白してくれたところからかな」
「そこから信じられないのか。……複雑だな」
「でも、夢でもいい。夢見てる間は、それが現実だから」
「夢でも現実でも、俺はおまえを愛してるよ。おまえだけを、ずっと」
「もし、そこに俺がいなかったら?」
「捜すよ。何年何十年かかっても、おまえを捜し出して〝愛してる〟って言うよ。だから、おまえも俺を捜せ」
だが、恋人は呆れたように苦笑いした。
「無茶言うなあ。だいたい、いないものをどうやって捜すの? 生まれ変わりとか信じてる?」
「今は信じてる。……もうこんな時間か。夢でも会いにいくから、もう寝ろ」
恋人はまだ全裸のままだ。しかし、あえて服は着させず、首までシーツを引き上げてやった。
「ほんとに? 待ってるからね、冗談抜きで」
「ああ、待ってろ。夢の中でも何度でも〝愛してる〟って言ってやる」
「一度で充分だよ。あとは夢から覚めるまで、ずっと抱きしめていて」
ケインは言葉を失い、頬を赤らめている恋人を、両腕で強く抱きしめた。
「本当に、おまえにはかなわない。……今から抱きしめていていいか?」
「もう抱きしめてるじゃない。……いいよ、おやすみ。愛してる」
「夢の中で言うつもりだったのに、今おまえに言われたら、言わないわけにはいかないな」
今度はケインが苦笑して、恋人の額に口づけた。
「愛してる。おやすみ、俺のハリー」
ケインはリモコンで部屋の照明の明度を最小まで落とすと、一ヶ月後には自分の伴侶となる恋人を、改めて抱きしめ直した。
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