悪魔の誕生【R18】

有喜多亜里

文字の大きさ
8 / 8

08 ケイン視点

しおりを挟む
 ケインの可愛い〝恋人〟は、わがままを言ってケインを困らせることはほとんどなかったが、一つだけ強く熱望していることがあった。

 ――一緒に寝て、一緒に起きたい。

 恋人なら望んで当然のことかもしれなかったが、試験航海中の宇宙船の中で、しかも、表向き〝上司と(一応)部下〟という関係では、その実現は極めて難しかった。
 現在、第三者に真の関係を悟られないよう、シフトをやりくりして逢瀬を重ねている自分たちは、眠るどころか、二時間以上二人きりでいたこともない。
 しかし、半年間の予定の試験航海も、あと残り一ヶ月ほどになった。
 せめて一度くらい恋人の願いを叶えてやりたくて、そして、そのとき以前から考えていたことを伝えたくて、ケインは計画的に偶然を装ってシフトを組み替え、自分と恋人の就寝時間が重なるようにした。
 期待どおり、恋人は大変喜び、続けて三回も応じてくれた。正直、それだけでもシフト替えしてよかったと思ったが、疲れて眠りこまれる前に、絶対に言っておかなければならないことがあった。

「船を降りたら……俺と結婚してくれないか?」

 すでに眠そうな顔をしていた恋人は、一気に眠気が覚めたようにケインを見上げた。

「結婚? ……本気?」
「もちろん本気だ。一目惚れしたって何度も言ってるだろ」
「それは聞いたけど……俺なんかと結婚したら、あんたの社内での立場が……」
「時代錯誤なことを言うな。好きあってる者同士が結婚して何が悪い? 法律だってとっくの昔にもう認めてる」
「……本当にいいの? 俺で……いいの?」

 積極的だが卑屈なところもあるこの恋人には、ケインのプロポーズがどうしても信じられないらしい。
 もっとも、ケイン自身、まさか自分が男にプロポーズすることになろうとは、この試験航海前には想像したことすらなかった。

「おまえがいいんだ。とりあえず結婚して、一緒に暮らそう。順番、逆になって悪いが、結婚指輪はその後で」
「そんなの、どうだっていいよ。船を降りても、あんたと一緒にいられるんなら」

 恋人は感極まったようにケインの胸にしがみついた。
 この恋人は顔はもちろんだが、特にこういうところが健気で可愛い。

「どうだってよくはないが、確かに一緒にいることのほうが何より重要だな。一緒にいなくちゃセックスもできない」

 至近距離でにやりと笑うと、恋人は真っ赤になって、ケインの胸を力まかせに何度も殴った。

「バカバカバカ」
「照れるおまえも可愛いな。……痛いけど」

 冗談ではなく本気で痛かったので、ケインはさりげなく恋人の両手を拘束した。こう見えて、この恋人は意外と腕力がある。

「今でも信じられない。これ、全部夢じゃないかな」

 上気した顔で、恋人はほうと溜め息をついた。

「夢だとしたら、いったいどこから夢なんだ?」
「そうだな……あんたが俺に告白してくれたところからかな」
「そこから信じられないのか。……複雑だな」
「でも、夢でもいい。夢見てる間は、それが現実だから」
「夢でも現実でも、俺はおまえを愛してるよ。おまえだけを、ずっと」
「もし、そこに俺がいなかったら?」
「捜すよ。何年何十年かかっても、おまえを捜し出して〝愛してる〟って言うよ。だから、おまえも俺を捜せ」

 だが、恋人は呆れたように苦笑いした。

「無茶言うなあ。だいたい、いないものをどうやって捜すの? 生まれ変わりとか信じてる?」
「今は信じてる。……もうこんな時間か。夢でも会いにいくから、もう寝ろ」

 恋人はまだ全裸のままだ。しかし、あえて服は着させず、首までシーツを引き上げてやった。

「ほんとに? 待ってるからね、冗談抜きで」
「ああ、待ってろ。夢の中でも何度でも〝愛してる〟って言ってやる」
「一度で充分だよ。あとは夢から覚めるまで、ずっと抱きしめていて」

 ケインは言葉を失い、頬を赤らめている恋人を、両腕で強く抱きしめた。

「本当に、おまえにはかなわない。……今から抱きしめていていいか?」
「もう抱きしめてるじゃない。……いいよ、おやすみ。愛してる」
「夢の中で言うつもりだったのに、今おまえに言われたら、言わないわけにはいかないな」

 今度はケインが苦笑して、恋人の額に口づけた。

「愛してる。おやすみ、俺のハリー」

 ケインはリモコンで部屋の照明の明度を最小まで落とすと、一ヶ月後には自分の伴侶となる恋人を、改めて抱きしめ直した。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...