8 / 8
08 ケイン視点
しおりを挟む
ケインの可愛い〝恋人〟は、わがままを言ってケインを困らせることはほとんどなかったが、一つだけ強く熱望していることがあった。
――一緒に寝て、一緒に起きたい。
恋人なら望んで当然のことかもしれなかったが、試験航海中の宇宙船の中で、しかも、表向き〝上司と(一応)部下〟という関係では、その実現は極めて難しかった。
現在、第三者に真の関係を悟られないよう、シフトをやりくりして逢瀬を重ねている自分たちは、眠るどころか、二時間以上二人きりでいたこともない。
しかし、半年間の予定の試験航海も、あと残り一ヶ月ほどになった。
せめて一度くらい恋人の願いを叶えてやりたくて、そして、そのとき以前から考えていたことを伝えたくて、ケインは計画的に偶然を装ってシフトを組み替え、自分と恋人の就寝時間が重なるようにした。
期待どおり、恋人は大変喜び、続けて三回も応じてくれた。正直、それだけでもシフト替えしてよかったと思ったが、疲れて眠りこまれる前に、絶対に言っておかなければならないことがあった。
「船を降りたら……俺と結婚してくれないか?」
すでに眠そうな顔をしていた恋人は、一気に眠気が覚めたようにケインを見上げた。
「結婚? ……本気?」
「もちろん本気だ。一目惚れしたって何度も言ってるだろ」
「それは聞いたけど……俺なんかと結婚したら、あんたの社内での立場が……」
「時代錯誤なことを言うな。好きあってる者同士が結婚して何が悪い? 法律だってとっくの昔にもう認めてる」
「……本当にいいの? 俺で……いいの?」
積極的だが卑屈なところもあるこの恋人には、ケインのプロポーズがどうしても信じられないらしい。
もっとも、ケイン自身、まさか自分が男にプロポーズすることになろうとは、この試験航海前には想像したことすらなかった。
「おまえがいいんだ。とりあえず結婚して、一緒に暮らそう。順番、逆になって悪いが、結婚指輪はその後で」
「そんなの、どうだっていいよ。船を降りても、あんたと一緒にいられるんなら」
恋人は感極まったようにケインの胸にしがみついた。
この恋人は顔はもちろんだが、特にこういうところが健気で可愛い。
「どうだってよくはないが、確かに一緒にいることのほうが何より重要だな。一緒にいなくちゃセックスもできない」
至近距離でにやりと笑うと、恋人は真っ赤になって、ケインの胸を力まかせに何度も殴った。
「バカバカバカ」
「照れるおまえも可愛いな。……痛いけど」
冗談ではなく本気で痛かったので、ケインはさりげなく恋人の両手を拘束した。こう見えて、この恋人は意外と腕力がある。
「今でも信じられない。これ、全部夢じゃないかな」
上気した顔で、恋人はほうと溜め息をついた。
「夢だとしたら、いったいどこから夢なんだ?」
「そうだな……あんたが俺に告白してくれたところからかな」
「そこから信じられないのか。……複雑だな」
「でも、夢でもいい。夢見てる間は、それが現実だから」
「夢でも現実でも、俺はおまえを愛してるよ。おまえだけを、ずっと」
「もし、そこに俺がいなかったら?」
「捜すよ。何年何十年かかっても、おまえを捜し出して〝愛してる〟って言うよ。だから、おまえも俺を捜せ」
だが、恋人は呆れたように苦笑いした。
「無茶言うなあ。だいたい、いないものをどうやって捜すの? 生まれ変わりとか信じてる?」
「今は信じてる。……もうこんな時間か。夢でも会いにいくから、もう寝ろ」
恋人はまだ全裸のままだ。しかし、あえて服は着させず、首までシーツを引き上げてやった。
「ほんとに? 待ってるからね、冗談抜きで」
「ああ、待ってろ。夢の中でも何度でも〝愛してる〟って言ってやる」
「一度で充分だよ。あとは夢から覚めるまで、ずっと抱きしめていて」
ケインは言葉を失い、頬を赤らめている恋人を、両腕で強く抱きしめた。
「本当に、おまえにはかなわない。……今から抱きしめていていいか?」
「もう抱きしめてるじゃない。……いいよ、おやすみ。愛してる」
「夢の中で言うつもりだったのに、今おまえに言われたら、言わないわけにはいかないな」
今度はケインが苦笑して、恋人の額に口づけた。
「愛してる。おやすみ、俺のハリー」
ケインはリモコンで部屋の照明の明度を最小まで落とすと、一ヶ月後には自分の伴侶となる恋人を、改めて抱きしめ直した。
――一緒に寝て、一緒に起きたい。
恋人なら望んで当然のことかもしれなかったが、試験航海中の宇宙船の中で、しかも、表向き〝上司と(一応)部下〟という関係では、その実現は極めて難しかった。
現在、第三者に真の関係を悟られないよう、シフトをやりくりして逢瀬を重ねている自分たちは、眠るどころか、二時間以上二人きりでいたこともない。
しかし、半年間の予定の試験航海も、あと残り一ヶ月ほどになった。
せめて一度くらい恋人の願いを叶えてやりたくて、そして、そのとき以前から考えていたことを伝えたくて、ケインは計画的に偶然を装ってシフトを組み替え、自分と恋人の就寝時間が重なるようにした。
期待どおり、恋人は大変喜び、続けて三回も応じてくれた。正直、それだけでもシフト替えしてよかったと思ったが、疲れて眠りこまれる前に、絶対に言っておかなければならないことがあった。
「船を降りたら……俺と結婚してくれないか?」
すでに眠そうな顔をしていた恋人は、一気に眠気が覚めたようにケインを見上げた。
「結婚? ……本気?」
「もちろん本気だ。一目惚れしたって何度も言ってるだろ」
「それは聞いたけど……俺なんかと結婚したら、あんたの社内での立場が……」
「時代錯誤なことを言うな。好きあってる者同士が結婚して何が悪い? 法律だってとっくの昔にもう認めてる」
「……本当にいいの? 俺で……いいの?」
積極的だが卑屈なところもあるこの恋人には、ケインのプロポーズがどうしても信じられないらしい。
もっとも、ケイン自身、まさか自分が男にプロポーズすることになろうとは、この試験航海前には想像したことすらなかった。
「おまえがいいんだ。とりあえず結婚して、一緒に暮らそう。順番、逆になって悪いが、結婚指輪はその後で」
「そんなの、どうだっていいよ。船を降りても、あんたと一緒にいられるんなら」
恋人は感極まったようにケインの胸にしがみついた。
この恋人は顔はもちろんだが、特にこういうところが健気で可愛い。
「どうだってよくはないが、確かに一緒にいることのほうが何より重要だな。一緒にいなくちゃセックスもできない」
至近距離でにやりと笑うと、恋人は真っ赤になって、ケインの胸を力まかせに何度も殴った。
「バカバカバカ」
「照れるおまえも可愛いな。……痛いけど」
冗談ではなく本気で痛かったので、ケインはさりげなく恋人の両手を拘束した。こう見えて、この恋人は意外と腕力がある。
「今でも信じられない。これ、全部夢じゃないかな」
上気した顔で、恋人はほうと溜め息をついた。
「夢だとしたら、いったいどこから夢なんだ?」
「そうだな……あんたが俺に告白してくれたところからかな」
「そこから信じられないのか。……複雑だな」
「でも、夢でもいい。夢見てる間は、それが現実だから」
「夢でも現実でも、俺はおまえを愛してるよ。おまえだけを、ずっと」
「もし、そこに俺がいなかったら?」
「捜すよ。何年何十年かかっても、おまえを捜し出して〝愛してる〟って言うよ。だから、おまえも俺を捜せ」
だが、恋人は呆れたように苦笑いした。
「無茶言うなあ。だいたい、いないものをどうやって捜すの? 生まれ変わりとか信じてる?」
「今は信じてる。……もうこんな時間か。夢でも会いにいくから、もう寝ろ」
恋人はまだ全裸のままだ。しかし、あえて服は着させず、首までシーツを引き上げてやった。
「ほんとに? 待ってるからね、冗談抜きで」
「ああ、待ってろ。夢の中でも何度でも〝愛してる〟って言ってやる」
「一度で充分だよ。あとは夢から覚めるまで、ずっと抱きしめていて」
ケインは言葉を失い、頬を赤らめている恋人を、両腕で強く抱きしめた。
「本当に、おまえにはかなわない。……今から抱きしめていていいか?」
「もう抱きしめてるじゃない。……いいよ、おやすみ。愛してる」
「夢の中で言うつもりだったのに、今おまえに言われたら、言わないわけにはいかないな」
今度はケインが苦笑して、恋人の額に口づけた。
「愛してる。おやすみ、俺のハリー」
ケインはリモコンで部屋の照明の明度を最小まで落とすと、一ヶ月後には自分の伴侶となる恋人を、改めて抱きしめ直した。
1
お気に入りに追加
12
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる