悪魔の誕生【R18】

有喜多亜里

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06 ケイン視点

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「……嘘」

 決死の告白を新人に一蹴されて、ケインはとうとう顔を上げた。

「頭から否定か」
「だって、そんなそぶりなんか全然……それも初対面からなら、もうちょっと何かこう……」

 新人は驚きのあまり、表情をなくしていた。
 無理もない。そう思ってケインは嘆息した。

「保身と現実逃避って言っただろ。期間限定でも今のおまえは俺の部下だ。でも、それ以上に、自分が男に一目惚れしたという事実を認めたくなかった」
「ということは、船長は自分はゲイじゃないと思っていたんですね」

 淡々とした新人の言葉に、ケインは一瞬反論しようとしたが、あきらめてうなずいた。

「そのとおりだ……」
「俺もゲイじゃなかったですけど……船長が俺のこと好きだって言ってくれるんなら、もうゲイでいいです。何でもいいです」

 一転して、新人は開き直ったように力強く宣言した。
 ケインは耳を疑って、新人を凝視した。

「何?」
「俺も船長のこと好きです。だから今、すっごく嬉しいです。船長は俺のこと、嫌ってるとばかり思ってたから」

 新人は恥ずかしそうに笑うとソファから立ち上がり、何の断りもなくケインのすぐ隣に座り直した。

「な、何だ?」
「〝出向部下〟はあくまで〝出向部下〟で、船長の部下ではないと思います」

 緑の目をした悪魔は、無邪気にケインに囁いた。

「もうそう割りきることにしましょう。時間がもったいないです」
「時間?」
「そうです。もう二ヶ月近くもくうしました。それとも……船長はやっぱり男は嫌ですか?」

 返事のかわりに、ケインは新人の体を抱き寄せ、少々強引にキスをした。
 新人は驚いたようだったが、すぐにそれに応じて、ケインの背中に腕を回した。
 新人の言うとおり、もう部下でもゲイでも何でもいいと思った。
 こんなにも愛しくて――こんなにも興奮する。

「……船長……」

 新人が乱れた吐息でケインを呼んだ。
 ケインは苦笑いして、新人の柔らかな褐色の髪を撫でた。

「今みたいに、二人きりのときはそう呼ぶな。敬語もなしだ。……今はまだ一応部下だってことを、嫌でも思い出しちまうから」
「じゃあ、何て呼べば……?」
「名前で呼べ。〝アル〟でいい」
「そんな……恐れ多い……」
「俺はただの平民だよ」
「でも……あんたは社長の……」
「おまえにゃ悪いが、俺はあのじいさんには嫌われてる。入社できたのは叔父貴が口利きしてくれたからだ」
「別にそんなつもりは……俺は純粋にあんたが好き。かっこいいから」

 潤んだ瞳で見つめられて、ケインは思わず赤面した。

「そ、そうか……」
「だから仕事以外の話、たくさんしたかったのに、あんたが逃げるから……」
「悪かった。もう逃げない」

 と言うより、逃げられない。
 無言のうちにせがまれて、ケインは再び舌で新人と会話した。
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