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01 ケイン視点
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完全に一目惚れだった。
透き通った緑色の瞳に見つめられた瞬間、アルフレッド・ケインの心臓は確実に一瞬止まった。
「あの……試験航海はこれが初めてなので……ご迷惑をかけると思いますが、よろしくお願いします……」
昨年、入社したばかりだという新人は、船長であるケインに緊張した面持ちで挨拶をした。
「あ、ああ……」
その新人よりも緊張していたケインは、そう答えるのが精一杯だった。
否。ケインの場合は緊張ではなく、動揺だったかもしれない。
新人の性別は、男だった。
*
ケインらが所属しているトリニティ社は、宇宙船専門の造船会社である。
業界ではトップクラスで、民間用の小型宇宙艇から宇宙軍の戦艦まで、節操がないと揶揄されるほど手広く扱っている。
諸事情により地球連合の宇宙軍を退役したケインは、トリニティ社の人工知能開発研究所所長だった叔父――エドマンド・ナイトリーに再就職相談した結果、同社に入社する運びとなった。
つまり、コネ入社だったわけだが、いまやそのことに触れる社員は一人もいない。
新型の宇宙船の試験航海を職務とする「開発部第三課」に配属されたケインは、新型にはつきものの予期せぬトラブルにも完璧に対処することができた。トリニティ社は実力主義である。すぐに課長に抜擢された。社内ではもっぱら〝船長〟と呼ばれているのも、彼の実力に対する敬意の表れの一つだろう。
しかし、その〝船長〟は今、航法コンピュータ技師である新人との対応に苦慮していた。
「あ、船長!」
管制室で船員たちに囲まれていた新人は、入室してきたケインに気がつくと、露骨にほっとしたような顔をして駆け寄ってきた。
「あの、確認したいことがあるんですが……」
ケインが無言で船員たちを見やると、彼らはあわてて両手を振り、自分たちは何もしていませんとジェスチャーで弁明した。新人いじめをしていると思われたくなかったのだろう。
ケインもそれは疑っていなかった。この新人は仕事は正確でなおかつ早いのだが、人づきあいが苦手なのである。
だが、ケインのことは〝上司〟であって〝人〟ではないと認識しているのか、今のように他の船員たちと一緒にいるときに居合わせると、助かったとばかりに話しかけてくるのだった。
(まあ……嫌われるよりはいいが……)
それでも、大学生どころかまだ高校生でも通りそうなほど若く見える可愛い顔で、まったく無防備に微笑まれてしまうと、おまえは俺の理性を試しているのかと思わず叫びたくなる。
この新人は、正確に言うなら、期間限定の部下である。
トリニティ社では、試験航海の際、その宇宙船の開発に携わった技術者を必ず乗船させていた。便宜上、その間だけは彼らの直属の上司は〝船長〟であるケインということになる。
今回の試験航海の予定期間は半年。短くもないが長くもないといったところだ。
(耐えろ、俺。懐かれてるからって調子に乗ったら、取り返しのつかないことになるぞ。ここで人生棒に振ってたまるか)
ケインの苦悩を知らない新人は、なかなかケインを解放してくれなかった。
透き通った緑色の瞳に見つめられた瞬間、アルフレッド・ケインの心臓は確実に一瞬止まった。
「あの……試験航海はこれが初めてなので……ご迷惑をかけると思いますが、よろしくお願いします……」
昨年、入社したばかりだという新人は、船長であるケインに緊張した面持ちで挨拶をした。
「あ、ああ……」
その新人よりも緊張していたケインは、そう答えるのが精一杯だった。
否。ケインの場合は緊張ではなく、動揺だったかもしれない。
新人の性別は、男だった。
*
ケインらが所属しているトリニティ社は、宇宙船専門の造船会社である。
業界ではトップクラスで、民間用の小型宇宙艇から宇宙軍の戦艦まで、節操がないと揶揄されるほど手広く扱っている。
諸事情により地球連合の宇宙軍を退役したケインは、トリニティ社の人工知能開発研究所所長だった叔父――エドマンド・ナイトリーに再就職相談した結果、同社に入社する運びとなった。
つまり、コネ入社だったわけだが、いまやそのことに触れる社員は一人もいない。
新型の宇宙船の試験航海を職務とする「開発部第三課」に配属されたケインは、新型にはつきものの予期せぬトラブルにも完璧に対処することができた。トリニティ社は実力主義である。すぐに課長に抜擢された。社内ではもっぱら〝船長〟と呼ばれているのも、彼の実力に対する敬意の表れの一つだろう。
しかし、その〝船長〟は今、航法コンピュータ技師である新人との対応に苦慮していた。
「あ、船長!」
管制室で船員たちに囲まれていた新人は、入室してきたケインに気がつくと、露骨にほっとしたような顔をして駆け寄ってきた。
「あの、確認したいことがあるんですが……」
ケインが無言で船員たちを見やると、彼らはあわてて両手を振り、自分たちは何もしていませんとジェスチャーで弁明した。新人いじめをしていると思われたくなかったのだろう。
ケインもそれは疑っていなかった。この新人は仕事は正確でなおかつ早いのだが、人づきあいが苦手なのである。
だが、ケインのことは〝上司〟であって〝人〟ではないと認識しているのか、今のように他の船員たちと一緒にいるときに居合わせると、助かったとばかりに話しかけてくるのだった。
(まあ……嫌われるよりはいいが……)
それでも、大学生どころかまだ高校生でも通りそうなほど若く見える可愛い顔で、まったく無防備に微笑まれてしまうと、おまえは俺の理性を試しているのかと思わず叫びたくなる。
この新人は、正確に言うなら、期間限定の部下である。
トリニティ社では、試験航海の際、その宇宙船の開発に携わった技術者を必ず乗船させていた。便宜上、その間だけは彼らの直属の上司は〝船長〟であるケインということになる。
今回の試験航海の予定期間は半年。短くもないが長くもないといったところだ。
(耐えろ、俺。懐かれてるからって調子に乗ったら、取り返しのつかないことになるぞ。ここで人生棒に振ってたまるか)
ケインの苦悩を知らない新人は、なかなかケインを解放してくれなかった。
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