無冠の皇帝

有喜多亜里

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【01】連合から来た男

プロローグ

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「ああ……また全滅だな」

 スクリーンを一目見て、エドガー・ドレイク大佐はそう言った。口調は軽かったが、彼が今、苦い思いを噛みしめていることを、副官であるバーリーは知っていた。
 ──乱れた黒髪と無精髭。左目の下の古い傷跡。
 とても軍人とは思えないが、「連合」の宇宙軍艦〈ワイバーン〉のれっきとした艦長である。
 現在の彼に与えられる任務は、もっぱら〝残存戦力〟の回収だ。気を取り直したように部下たちに命じる。

「生命反応、絶対に見落とすな! 万が一ってこともある!」
「イエッサー!」

 おそらく、生存者は一人もいないだろうと、命じた側も命じられた側もわかっていた。
 ──全艦殲滅ぜんかんせんめつ
 それがあの艦隊の鉄則だ。

「なかなか会えねえんだよなあ……」

 宇宙空間を漂う艦艇のスクラップの群れを眺めながら、ドレイクは独りごちた。誰に会えないのかは、もう言わずもがなだった。

「会いたいと思うほうがおかしいですよ。もし会えていたら、私たちもこうなっているんですよ?」

 蜂蜜色の髪をしたバーリーは、水色の目で冷ややかにドレイクを見やる。

「会ってみなくちゃわかんねえだろ」

 うっとうしいほど長い前髪の下で、黒い瞳が笑っていた。

「戦う気なんか最初っからねえよ。会って逃げる! できたらその前にアピールする! 目的はそれだけ!」
「また馬鹿なことを……いくら若くて美形だろうが、相手は〝死の艦隊〟の司令官なんですよ?」
「だって、好みなんだもーん」
「大佐の好みはどうでもいいですが、部下を道連れにはしないでくださいよ」
「はいはい。それだけは絶対いたしませんよ」

 ドレイクはおどけて両手を挙げてみせる。

「部下は必ず生きて帰す。それが上官の最低限の務めだ」
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