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コーヒーはミルクだけで
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「さっきのとどっちが似合う?」
今日は新宿の三越に来た。ユニクロのワンピースだけでは不服のようだ。服に無頓着な自分も今日ばかりは鏡の前に何度も立った。結局シワがついたままの襟シャツと黒のパンツでドアを開けるのだが。
人目につくのはどうかと思うが、こんなに綺麗な彼女と手を繋いで歩いて見たいという憧れもあった。誰に見せたいという訳でも無いが全員に自慢しながら歩いた。道ゆく人から不思議そうな目を向けられた気もするが、きっと彼女が美しすぎるからだろう。僕は重たい身体に鞭を打ちロボットみたいにシャキシャキと歩いた。
「今着てる方が可愛いんじゃない?」
余裕ありげに彼女に言う。
「じゃあこっちにする」
彼女はくるっと回り、丈の短い紺色のスカートをなびかせる。太ももの裏にちらっと黒い何かが描いてあるのが見えた。製品番号か何かか?ふとこの子が人でない事を思い出す。
「ねぇここ入ろうよ」
店を何軒か周った後喫茶店に入った。今時珍しい喫煙可の店だ。しばらく飲んだ覚えがないしコーヒーは丁度いい。彼女は洒落た店内に目を輝かせている。
アイスコーヒーを2つ注文する。
「ミルクと砂糖は?」無愛想なマスターが問う。
「ブラックで」と僕。
「ミルクはありで砂糖はなしで」と彼女
「てっきりクリームソーダを頼むかと思った」
「私ってばそんなに子供じゃないの知ってるでしょ?」
彼女と話していると大昔から知り合いだったかのような安心感がある。
「ハイどーぞぉ」ガチャンと思ったより大きなグラスが置かれる。水滴が垂れている。
氷の音をカラカラと立てズズっとすする。
そういえば彼女と同じコーヒーの飲み方をする人がいた。大昔に仲がよかった女性だ。髪が長く、後ろに結んでいた。なぜ知り合ったのかは覚えていないが、ただ何かの研究をしてるとかいっていつも忙しそうにしていた。そしていつも片手にはコーヒーがあった。
「僕にもコーヒーくれよ」といっても
「私のだからダメ~」なんて意地悪をいうようなお茶目な人だった。
その人が目を擦りながらも懸命に作業する姿を見るのが好きだった。口下手な僕はただ隣で微笑んでいた。今思えばあれは恋だったのだろう。ある日、床に寝ていた彼女の肩を叩いた。いつもなら「なぁ~にぃ~?」と言葉になるかならないかの呻き声をあげノソッと起きるのだが、その日は返事が返ってこなかった。どれだけゆすっても返事がない。
返事が、ない。
返事が、、、ない、、、。
そして一生返事が帰ってくる事はなかった。
後で過労だったと知った。僕には彼女の限界が見えていなかった。わからなかった。頑張る姿を美しいと思ってしまったから。
それ以降は無気力な人生を送ってきた。自分自身の事すらもうわからない気がしていた。
レイチェルに会うまでは。
「ねぇ聞いてる?」
「あ、ごめんごめん」彼女の声で我に帰る。
「周りの煙草のせいかなぁ、、なんか頭がいたくなってきた。そろそろ帰らない?」
自分もかなり疲れていたし、この子にとって何がどんな風に影響を及ぼすかわからない。
周りの人がおやつを食べ始めるような時間にそそくさと帰宅した。
今日は新宿の三越に来た。ユニクロのワンピースだけでは不服のようだ。服に無頓着な自分も今日ばかりは鏡の前に何度も立った。結局シワがついたままの襟シャツと黒のパンツでドアを開けるのだが。
人目につくのはどうかと思うが、こんなに綺麗な彼女と手を繋いで歩いて見たいという憧れもあった。誰に見せたいという訳でも無いが全員に自慢しながら歩いた。道ゆく人から不思議そうな目を向けられた気もするが、きっと彼女が美しすぎるからだろう。僕は重たい身体に鞭を打ちロボットみたいにシャキシャキと歩いた。
「今着てる方が可愛いんじゃない?」
余裕ありげに彼女に言う。
「じゃあこっちにする」
彼女はくるっと回り、丈の短い紺色のスカートをなびかせる。太ももの裏にちらっと黒い何かが描いてあるのが見えた。製品番号か何かか?ふとこの子が人でない事を思い出す。
「ねぇここ入ろうよ」
店を何軒か周った後喫茶店に入った。今時珍しい喫煙可の店だ。しばらく飲んだ覚えがないしコーヒーは丁度いい。彼女は洒落た店内に目を輝かせている。
アイスコーヒーを2つ注文する。
「ミルクと砂糖は?」無愛想なマスターが問う。
「ブラックで」と僕。
「ミルクはありで砂糖はなしで」と彼女
「てっきりクリームソーダを頼むかと思った」
「私ってばそんなに子供じゃないの知ってるでしょ?」
彼女と話していると大昔から知り合いだったかのような安心感がある。
「ハイどーぞぉ」ガチャンと思ったより大きなグラスが置かれる。水滴が垂れている。
氷の音をカラカラと立てズズっとすする。
そういえば彼女と同じコーヒーの飲み方をする人がいた。大昔に仲がよかった女性だ。髪が長く、後ろに結んでいた。なぜ知り合ったのかは覚えていないが、ただ何かの研究をしてるとかいっていつも忙しそうにしていた。そしていつも片手にはコーヒーがあった。
「僕にもコーヒーくれよ」といっても
「私のだからダメ~」なんて意地悪をいうようなお茶目な人だった。
その人が目を擦りながらも懸命に作業する姿を見るのが好きだった。口下手な僕はただ隣で微笑んでいた。今思えばあれは恋だったのだろう。ある日、床に寝ていた彼女の肩を叩いた。いつもなら「なぁ~にぃ~?」と言葉になるかならないかの呻き声をあげノソッと起きるのだが、その日は返事が返ってこなかった。どれだけゆすっても返事がない。
返事が、ない。
返事が、、、ない、、、。
そして一生返事が帰ってくる事はなかった。
後で過労だったと知った。僕には彼女の限界が見えていなかった。わからなかった。頑張る姿を美しいと思ってしまったから。
それ以降は無気力な人生を送ってきた。自分自身の事すらもうわからない気がしていた。
レイチェルに会うまでは。
「ねぇ聞いてる?」
「あ、ごめんごめん」彼女の声で我に帰る。
「周りの煙草のせいかなぁ、、なんか頭がいたくなってきた。そろそろ帰らない?」
自分もかなり疲れていたし、この子にとって何がどんな風に影響を及ぼすかわからない。
周りの人がおやつを食べ始めるような時間にそそくさと帰宅した。
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