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とある女の子の話…嫉妬
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*********
沼地
サンが不貞腐れ、一人になる場所。
サンが居なくなってからは俺だけの場所になった。
ランタンに灯りで見つめてぼーっとしているとサンが来た。
俺は少し緊張する。
A いつも通り、ズケズケ言いたい事を言って怒る。
B そっと抱きしめてくれる。
今までなら、AかBのいずれかを俺達は取ってきた。
そして、それがきっかけになり、仲直りをする。
ところがここでも俺たちの平常運転は発動しなかった。
「シイ、これ読んで」
いきなり本を渡される。
俺は黙ったまま、差し出される本を見た。
『宇宙図鑑』
大人になった頃に、この事を思い出す。
そして毎回、本のタイトルを思い出し、「ベタなタイトル」と含み笑いする。
だけど、閉鎖的環境で暮らす、当時の俺は知らない事が一杯だった。
表紙のイラストである丸い物を見て、頭の中が???だらけになった。
何よりも、サンの意図がわからない。
「何、これ」
「宇宙。この空のずーっと彼方に惑星が幾つもあるんだよ」
指で、表紙の丸い物を指し、星空を見上げてサンが言った。
丸い物の正体は判明した。
けど、相変わらず、サンの意図がわからず俺は困惑して言葉が出ない。
「紙飛行機の事覚えて居る?」
サンが視線を星空から俺に移す。
「父さんの手紙で作ったやつ飛ばしてさ…」
『紙飛行機、落ちた所が境界線ね』
その話を思い出した途端、俺はサンとの距離が昔と同じになった錯覚に陥る。
村社会に嫌気が指し、世界を広げたがってたいたサン。
「サンの飛ばしたやつ…きっと遠くまで飛んだんだよ」
「…」
「…少なくとも、今の学校の所までね」
「…それじゃ、まだまだ不満だよ」
サンがさらりと否定した。
「俺は、宇宙までみたい…もっともっと広い所まで行きたい」
サンはそういうと本を俺の胸に押し込む様にして続けた。
「紙飛行機の話…俺、東にも話した。そしたら、その本くれた。」
「東?」
「…会っただろ?いや、違う。…見ただけか」
「?」
「公開試合の時、シイ、俺に手をふったでしょ?」
モヤモヤが不意に蘇る。
モーゼの十戒部分から…俺の脳内でそのシーンが再生される。
「俺の隣に座っていたやつ」
やっぱり。
モヤモヤが勢いを増す。
「…そしたら、東が言ったんだ。…俺も一緒に紙飛行機探しに行くよって」
サンが目を輝かせて言った。
ふと、その輝きが癪に障る。
俺は唐突にモヤモヤした感情の名前を発見した。
『嫉妬』
「東はいい奴だから、シイも気にいるよ。三人で行けたら面白くない?」
俺の嫉妬が思いもよらぬ行動を取らせる。
俺は両手でシイの顔を覆う。
宇宙大全が乱暴に床に落ちる。
沼地の泥で本が汚れた。
何でそんな事したのか。
思い返せば、きっとあの頃の心境はこうだったのだろう。
癪に障る事を言う口を、黙らせたい。
嫉妬で醜い顔した俺を、見ないで欲しい。
当時は明確にそんな二点は意識して無かったけど。
ただ、不思議な事にサンは顔を覆う俺の手にそのままに…身を任せていた。
…だけど暫く俺がそうしたせいで、段々と苦しくなったんだろう。
サンが乱暴に俺の手を払い除ける。
少しパニックったサンの顔が俺の目に映る。
苦しそうに、ハアハアと息をする。
俺は払い除けられた手で、サンの頬を覆う。
苦しそうな口を自分の口で塞いだ。
今でも覚えている。
あの時のサンの大きく見開いた目。
赤と黄色の虹彩の面積が狭くなりなり、瞳孔が大きく開いていた。
俺は乱暴にサンの肩を掴み、自分から引き離した。
「俺は、行かない」
自分でも驚くほど、冷静な声だった。
サンは相変わらず、びっくりした顔で俺を凝視していた。
クルリと俺は踵を返し、沼地を後にする。
最後に俺が目にしたのは、沼地の泥に半分浸かる、宇宙大全の姿だった。
沼地
サンが不貞腐れ、一人になる場所。
サンが居なくなってからは俺だけの場所になった。
ランタンに灯りで見つめてぼーっとしているとサンが来た。
俺は少し緊張する。
A いつも通り、ズケズケ言いたい事を言って怒る。
B そっと抱きしめてくれる。
今までなら、AかBのいずれかを俺達は取ってきた。
そして、それがきっかけになり、仲直りをする。
ところがここでも俺たちの平常運転は発動しなかった。
「シイ、これ読んで」
いきなり本を渡される。
俺は黙ったまま、差し出される本を見た。
『宇宙図鑑』
大人になった頃に、この事を思い出す。
そして毎回、本のタイトルを思い出し、「ベタなタイトル」と含み笑いする。
だけど、閉鎖的環境で暮らす、当時の俺は知らない事が一杯だった。
表紙のイラストである丸い物を見て、頭の中が???だらけになった。
何よりも、サンの意図がわからない。
「何、これ」
「宇宙。この空のずーっと彼方に惑星が幾つもあるんだよ」
指で、表紙の丸い物を指し、星空を見上げてサンが言った。
丸い物の正体は判明した。
けど、相変わらず、サンの意図がわからず俺は困惑して言葉が出ない。
「紙飛行機の事覚えて居る?」
サンが視線を星空から俺に移す。
「父さんの手紙で作ったやつ飛ばしてさ…」
『紙飛行機、落ちた所が境界線ね』
その話を思い出した途端、俺はサンとの距離が昔と同じになった錯覚に陥る。
村社会に嫌気が指し、世界を広げたがってたいたサン。
「サンの飛ばしたやつ…きっと遠くまで飛んだんだよ」
「…」
「…少なくとも、今の学校の所までね」
「…それじゃ、まだまだ不満だよ」
サンがさらりと否定した。
「俺は、宇宙までみたい…もっともっと広い所まで行きたい」
サンはそういうと本を俺の胸に押し込む様にして続けた。
「紙飛行機の話…俺、東にも話した。そしたら、その本くれた。」
「東?」
「…会っただろ?いや、違う。…見ただけか」
「?」
「公開試合の時、シイ、俺に手をふったでしょ?」
モヤモヤが不意に蘇る。
モーゼの十戒部分から…俺の脳内でそのシーンが再生される。
「俺の隣に座っていたやつ」
やっぱり。
モヤモヤが勢いを増す。
「…そしたら、東が言ったんだ。…俺も一緒に紙飛行機探しに行くよって」
サンが目を輝かせて言った。
ふと、その輝きが癪に障る。
俺は唐突にモヤモヤした感情の名前を発見した。
『嫉妬』
「東はいい奴だから、シイも気にいるよ。三人で行けたら面白くない?」
俺の嫉妬が思いもよらぬ行動を取らせる。
俺は両手でシイの顔を覆う。
宇宙大全が乱暴に床に落ちる。
沼地の泥で本が汚れた。
何でそんな事したのか。
思い返せば、きっとあの頃の心境はこうだったのだろう。
癪に障る事を言う口を、黙らせたい。
嫉妬で醜い顔した俺を、見ないで欲しい。
当時は明確にそんな二点は意識して無かったけど。
ただ、不思議な事にサンは顔を覆う俺の手にそのままに…身を任せていた。
…だけど暫く俺がそうしたせいで、段々と苦しくなったんだろう。
サンが乱暴に俺の手を払い除ける。
少しパニックったサンの顔が俺の目に映る。
苦しそうに、ハアハアと息をする。
俺は払い除けられた手で、サンの頬を覆う。
苦しそうな口を自分の口で塞いだ。
今でも覚えている。
あの時のサンの大きく見開いた目。
赤と黄色の虹彩の面積が狭くなりなり、瞳孔が大きく開いていた。
俺は乱暴にサンの肩を掴み、自分から引き離した。
「俺は、行かない」
自分でも驚くほど、冷静な声だった。
サンは相変わらず、びっくりした顔で俺を凝視していた。
クルリと俺は踵を返し、沼地を後にする。
最後に俺が目にしたのは、沼地の泥に半分浸かる、宇宙大全の姿だった。
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