とある女の子の話…幼馴染み

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とある女の子の話…ただいま

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「ただいま」
少し大人びた声でサンが挨拶をする。
一族の人間殆ど皆、サンの顔を見に来ているようだ。
家の入り口には人集りができていた。
毎日同じ日常が展開される俺たち一族にとってチョットした事がイベントだ。
やれ、
物資の買い付けの旅から戻ってきた、
誰が、隣の近所の集まりに行った、、等等。
サンの帰省も例外じゃない。

俺は人集りを掻き分け頑張ってサンの側に行こうと試みる。

「おかえりサン…爺様に挨拶した?」
おばさんがサンに先に声をかけた
「まだ。何処にいるの?」
「さっきまで父さんといたよ」
「あ、、父さん!」
父親の姿を見つけ、サンが歩み寄ってきた。
「…ただいま。…俺、爺様に挨拶した方が…」
「…俺ではなく、私、と言いなさい」
父親に諭される。
サンがムッとした表情を見せた。
「…南だって、俺って言ってるし!」
「南さん!…さんをつけなさい。お世話になってる方だ。…彼はフォーマルとインフォーマルをちゃんと使い分けているよ。…君は意識しないとその点曖昧になりがちだ。」
サンがより険しい表情を見せた。
「だから常にフォーマルである練習を…」
サンがプイっと顔を背けて出て行った。
おじさんがタメ息を吐く。

「…御もっともね。あなたな立派よ。。だけも今このタイミングで言う必要ある?」
おばさんは、諭すようにおじさんに言うと、俺を呼んだ。
「シイ、サンをお願いできる?」
俺はコクリと頷き、サンが姿を消した方向へ歩を進める。



と、ここで、
俺がサンに追いつくまでの間に新しい登場人物について説明しよう。

「南さん」は、北氏に雇われてる身分の男性。
俺たち一族の諸々の事をお世話してくれている。
彼は、北氏同様に俺たち一族を気に入っており、俺たちの独特の文化も研究している。
そしてもう一人の新人物「爺様」。。
俺たち一族の守りの部分…一族を国で例えると国防を担う家系の当主みたいな人。
別に王様とかではない。
とは言え、少し前までは一族の中でも一目置かれた存在だ。
今の俺たち一族は、開かれた未来として他との交流を主眼に置いている。
爺様が絶対的なゴットファーザーであった時代は閉鎖的で保守的な一族だった、らしい。
全部、おばさん談だけど。

因みに、爺様は俺にとっては血の繋がりの本当の祖父だ。


背丈よりも高い草を掻き分けてサンがズンズン歩いて行くのが見える。
サンは不貞腐れて一人になりたい時はよく沼の辺りに行く。
沼地の前に密集する高い草へ、飛び込む様に分け入る。
高い草を傲慢に押し分けてるのはサンの方だ。
だのに、後ろから追う俺は、草がサンを飲み込んでしまう錯覚を起こす。
俺の歩みが速くなる。

「ついてくんな」

振り向きもせず抑揚の無い声で、拒否される。
トゲが喋った様な、痛い声色だ。
俺は、後ろから腕を回してサンをギュッとホールドした。
サンが崩れる様に座り込む。
つられて俺も一緒に座り込む。
その俺たちの上を、背の高い草達が覆い尽くす。
このままこうしていたい。
皆、俺たちを放って置いてくれればいいのに、と我ながら独り善がりな事を思った時、

「埋もれる気?」
サンが抑揚ない声で、サンがたずねる。
同じ抑揚無い声でも、トゲがすっぽり抜けた声だった。
「うん、気の済むまでね。。喋りたくないならこれでいいと思う。」
「…」
「…おばさんはいい顔しないね。」
「…ふふふ」
「…でさ、後で爺様の所行こう。」
サンがコクリと頷く。
「俺も明日、父との面会日だから、挨拶しなきゃ、だし」
サンが振り向いて少し赤くなった目で俺を見つめた。
「折角、帰省して一緒に入れると思ったんだけど」
俺はつぶやき、父を思い出す。

幼少期はあんなに願っていた父との再会。
今では失望と億劫さで一杯だ。
そしてその面会事件がきっかけで、俺ら一族の運命は大きく変わる。
漏れなく、俺とサンもそも運命に飲み込まれる事になる。
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