上 下
29 / 42
第二章 魔物討伐

 13(レオナード視点)

しおりを挟む


 リオをマリーに預け、再び森に入る。

 騎士団が到着し、戦いに参戦したことで悪化していた戦況が良好になりつつある。
 もう日も暮れて、夜が来ることを知らせてきた。

 夜は魔物が有利になる。
 一度、撤退命令を出して、町に戻った。

 交代制で門へ襲ってくる魔物に対処しながら、朝日が昇るのを待った。



 ***



 戦いの始めと比べて、魔物の勢いが減っている。
 このままいけば、長期戦に持ち込まれずに勝つことが出来るだろう。

 日が上り、そろそろ昼を迎える頃、それはやって来た。


グウォォォォォォォ!!!


 空気を切り裂くような雄叫びが鼓膜を揺らす。

「っ! なんだ!!」

 あまり近くない位置にいるにも関わらず感じる圧倒的存在感威圧感
 日の光を反射させる大きな黒塗りの鱗に覆われた巨体。ギョロリと辺りを見回す縦長の赤い瞳孔。長く、少し動く度に揺れて地面を這う尾。

 龍の中でも強者と呼ばれる五指ごしの一体、黒龍こくりゅうが佇んでいた。

 五指――それはこの世界の龍を表している。
 炎と熱を司る、赤龍せきりゅう
 水と氷雪を司る青龍せいりゅう
 雷と天候を司る黄龍きりゅう
 植物と精神を司る緑龍りょくりゅう
 そしてチュアルに顕現した、地と重力を司る黒龍こくりゅう

 五指である龍は、神の御遣いという存在として扱われている。戦うなど考えるだけでも頭がおかしいと言われるぐらい超絶な存在。
 人前に出てくることは、ほぼないに近いはずだ。それこそ御伽噺の中のような存在なのだから。


 そんなことを考えながら、黒龍が顕現した場所へ向かう。他の奴らから見たら滑稽だろう。五指の一体に挑むなど自殺行為どころの話ではない。
 思わず自嘲する。そんなこと百も承知だ。

 近づくに連れ、威圧感で関節の動きが鈍くなる。まるでそこだけ重力が変わっているかのように。
 今まで戦ってきた魔物とは比べものにならないくらいの威圧感。いや、まあいい。

 顕現してから、ほとんど動かなかった黒龍がチュアルを見つめると歩き出した。
 鋭く長い尾で何本もの木々を薙ぎ倒しながら、ゆっくりとした足取りで歩き始める。一歩進む事に地面が大きく揺れて、それが一層どれだけ大きな図体なのかを教えてくるようだった。

 黒龍の周辺にいた冒険者は既に避難しており、黒龍による被害者はまだ・・いないと考えられる。


 止まり、ギョロリと辺りを見回していた目と一瞬視線が交わった。
 たったそれだけで、背中に冷たいものが走る感覚があり、額から汗が滲み出す。

 場所がバレたことに焦りながら身構えるが、一向に襲ってくる気配はない。
 チュアルに顔を向けると、瞳をギョロギョロと動かし、何かを探している・・・・・・・・ような雰囲気があった。

 どういうことだ? 一体何を――

『月の精霊か』

 頭に直接響き渡った声。すぐに黒龍の声だと悟る。

 龍の固有スキル、[テレパシー]だ。
 龍が神の御遣いと呼ばれる理由の一つに固有スキル持ちというものが含まれている。固有スキルは種族スキルとも言う。
 固有スキルと普通のスキルは違うもので、どちらも持っていることもある。

 日と月の精霊もテレパシーのように話すが、全く関係はない。精霊は存在そのものが魔力。
 龍のようにスキルを持つことはないからだ。


 思考を切り替え、黒龍が言った言葉について考える。
 月の精霊…まさか、リオ――

『ほう?』

 その声と共に重力が増し、身動きがとれなくなる。無理に抗おうとし、ピキッと骨から音が聞こえ激痛に襲われた。
 チッ。あばらにヒビが入ったか…!

『これは興味深い。加護・・と祝福持ちか』

 オレを見つめ、黒龍が呟く。
 加護と祝福? 全く心当たりがない。

 フッと軽くなった重力に顔を上げ、黒龍を見上げる。
 黒龍はもう一度チュアルを見つめると、もう用はないばかりに翼を大きく広げ飛び去っていった。






▪▫▪▫▪▫▪▫▪▫▪▫▪▫▪▫▪

黒龍は近くに人を来るのを防ぐために重力を周囲にかけていました。
近くまで進んで骨折で済むのはレオナードが強いからですね。本人は近づいただけで傷を負ったことに対して、ショックを受けているようですが…

更新が今まで以上に遅れてしまい、すみません。m(_ _)m
ゆっくりですが、更新していきます!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されて失明したけど幸せです。

るて
BL
僕はシノ。 なんでか異世界に召喚されたみたいです! でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう あ、失明したらしいっす うん。まー、別にいーや。 なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい! あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘) 目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)

地味で冴えない俺の最高なポディション。

どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。 オマケに丸い伊達メガネ。 高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。 そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。 あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。 俺のポディションは片隅に限るな。

【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。改稿完了している話は時間経過のマークが✿✿✿から***になっております。 2024/11/12 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)

悪役に好かれていますがどうやって逃げれますか!?

菟圃(うさぎはたけ)
BL
「ネヴィ、どうして私から逃げるのですか?」 冷ややかながらも、熱がこもった瞳で僕を見つめる物語最大の悪役。 それに詰められる子悪党令息の僕。 なんでこんなことになったの!? ーーーーーーーーーーー 前世で読んでいた恋愛小説【貴女の手を取るのは?】に登場していた子悪党令息ネヴィレント・ツェーリアに転生した僕。 子悪党令息なのに断罪は家での軟禁程度から死刑まで幅広い罰を受けるキャラに転生してしまった。 平凡な人生を生きるために奮闘した結果、あり得ない展開になっていき…

処理中です...