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しおりを挟む愛想笑い、得意じゃないから不自然がられないといいな。
「はい、お誘い光栄でございます」
返事をした時、大きめな風が吹いてフードが脱げてしまった。
ここ数年で伸びてしまった髪を耳にかける。
前髪は切ってたけど後ろ髪は切りにくくて、小さく纏められるぐらいには長い。
男性がほうと感嘆の溜め息を吐き、顎に生えている短い髭を撫でながら言った。
「黒髪にオッドアイか。初めて見る組み合わせだが、美しいな」
……は?
え、ちょっと待って。黒髪? オッドアイ?
もしかして…慌てすぎて染めるとこ間違えた感じ?
終わった。完全に顔覚えられたな…
後日使者を派遣するということで話が終わり、5人組は帰っていった。
ドアを閉めると俺は、ドアに背中をつけてズルズルと崩れた。
ドアの近くにあった鏡を見る。するとそこには、黒髪に黄色と青の瞳をした俺が写った。
パチンと指を鳴らして魔法を解くと、棚に手をつきながらゆっくりと立ち上がる。
はああぁぁ~~~。
思わず、大きな溜め息が出た。
最悪だ~。というか茶色の髪に青の目に染めようとしたのになんでこう染まるんだよ。
いつもなら絶対こんなことないのに…
『みゃーのって、焦るとすんごい天然になるよな』
滉樹の言葉が思い出される。
あの時はすぐに否定したが、今になっては何も言い返せない。うぅ…
久しぶりに前のこと思い出したな。
…もう会うことはないんだから、考えないようにしよう。
「はぁ、荷物まとめよ」
そう決めるとゆっくりと歩き出した。
***
この世界には存在しないらしい、収納魔法を使い、大きな荷物のほとんどはここに仕舞った。
この魔法は滉樹が「異世界に行かなくてもこの世界で欲しい魔法」と言っていたのを思い出し、俺が作った魔法だ。
重量制限はないため、無限に入れることが出来るように作った。
持ち物なしは怪しいから、フェイクとしてバックは持つけど。
俺がこの短期間で魔法が作れるのは、イルさんの記憶とあっちの世界の便利グッズを知っているからこそである。
一応魔法は作れるものらしいけど、イルさんの記憶では最近のシーフェンのことが曖昧になっている。
とれだけの間引きこもってたんだよこの人… 呆れて溜め息を吐く。
荷物を纏めながら、机の上に散らばった何枚もの紙を手に取った。
俺がこの世界に来るきっかけとなった召喚魔法について書かれた研究用紙だ。
俺を喚んだ時に使われた召喚魔法はイルさんが作った魔法だったということが最近分かった。
じゃあ言い方を変えれば、イルさんが作った召喚魔法は一方通行だったということになる。
…まだ俺が元の世界、地球に帰ることが出来る可能性がある。
イルさんが長い間研究してきた証である大量の紙類を纏め、インベントリにしまい込んだ。
イルさんの遺書も…
数日後、予定通りに使者が迎えに来た。
この家の近くまで馬車は入ってこれないから近くに停めて、呼びに来たみたいだけど、ね。
もう染め間違えたことは割りきっているから、髪はそのままにして目を青と黄のオッドアイにする。やらかしたからしょうがないよね、うん。
これからのことを考えると憂鬱過ぎて溜め息が溢れる。今更どうにもならないけどさぁ…
外に出ると家と向かい合う形で立った。
もう二度と帰れない訳じゃないと考えて、研究材料など以外(置き物とか)は状態保存の魔法キーピングをかけて、インベントリには入れなかった。
インベントリはまだ余裕あったというか入る量は無限だけど、全部持っていくのは此処での全部思い出が消えてしまうみたいで怖かったからさ。
まあ、そのせいでまだ家から物が溢れてるんだけどね…
ここは、俺が召喚されて今日まで住んでいた場所。
嫌な思い出があってもそれと比例するように楽しかった思い出とかもある。愛着は生まれるようだ。
「お早く」と声がかけられた方へ振り向き、そのまま振り返らずに馬車へと案内された。
▪▫▪▫▪▫▪▫▪▫▪▫▪▫▪▫▪
本当は魔法を使うのに、詠唱が必要です。
無詠唱とか、短縮詠唱とかは何年間も修行してやっと出来ることですが、シルバーの魔法から教わった主人公は普通だと思っています。
主人公がヤバくて霞むけど、シルバーもちゃんと凄いんです!
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