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しおりを挟むイルさんがこの世を去って、もう1年が経とうとしていた。
当時は膨大な記憶に対処するのが難しく、戸惑っていたが今は随分と安定している。
どんな感じかというと、気になるワードを頭に思い浮かべることで知りたい内容が分かる…つまり、○ーグル先生とか辞書だと思うと分かりやすいと思う。
もちろん、イルさんが知っていること限定だけど。
イルさんが知らないことはほとんどなかったが、記憶継承で知ることが出来るのはあくまでも知識のみ。
イルさんの会話などの記憶までは継承されない。
まあ、当たり前だよね。この世界にプライバシーって言葉はないかもしれないけど、そこまで分かったら悪用されるに決まってる。
だから禁忌魔法って呼ばれてるんだと思う…
俺が住んでいるこの家は家の中から外に溢れるくらい無数の物がある。
イルさんが俺を慰めるために集めたシーフェンの物。そして…俺の記憶を元にイルさんと作った地球の物だ。
使い道もないはずなのに捨てられず、ずっとこのままになっている。
日本だったらゴミ屋敷って言われそうだな…
今日はちょうど、イルさんの命日。
家から約5分のところにある泉の近くイルさんは眠っている。
何も感情は浮かばない。
憎しみも…悲しみも…何も…
早朝からお墓参りを済ませ、いつも通り森へ狩りに行こうと準備していた。
ここは森の中。だから滉樹が言っていたような魔物も存在する。
イルさんの知識からわかったことだが、魔物と動物の違いは人を襲い、食べるかどうからしい。
魔物は人を食べることで、体内に食べた人間の魔力が集まり、魔石が出来る。
魔石は魔物しか作れないため、重宝されているけれど、この事実を知っている人はいない。イルさんが召喚魔法を製作する過程で偶然見つけたようだ。
魔物の肉も食べれるらしいけど、一回食べた時に癖が強くて諦めた。
動物の方が慣れ親しんでる日本人にとっては正直きついと思う。ちゃんと調理すれば美味しいと言われたけど、俺にはそんなこと出来ないので知らない。
近くに魔物がいないか探そうと探知魔法を起動させた時、探知魔法に何人かの人が引っ掛かった。
ひと…?
町では会うが、この森の…しかも奥深くまで入ってきたのは初めてだった。
「あ…れ? ここに向かってる…?」
ずんずんと一直線に向かってくる。
ドアノブに掛けていた手を慌てて離し、見える距離まで来た人達を小窓からこっそり眺めた。
イルさん本人から教えて貰ったことだが、黒髪黒目の人種はシーフェンに存在しないらしい。
どちらかが黒の人はいるが、黒髪黒目はいない。
その事実を思い出した俺は、髪と目の色を変え、ローブを着用して顔まで隠した。
…この時、鏡で確認すればよかったんだって今になって後悔してるんだよね。
コンコン
「誰かいるか?」
「………」
ドアをノックして、声をかけられた。流石にノックするという認識はあるみたい。
コンコンッ
さっきよりも強めにノックされた。流石に誤魔化せないか…
諦めて、話そう。
「…どなたですか?」
俺は少しだけドアを開け、覗き込むように外を見た。
そこには一際豪華な服を着ている男性と、その男性を守るように四人の騎士?兵士?が立っていた。
警戒しながら、外に出る。
この人達から見ると、俺はすごく怪しいんだろうな~。
ノックしてドアから出てきたのは、フードを深く被って顔を隠している男って、俺だったら絶対引いてる。
いやそもそも、家に凸らないな。
その男性は俺が出てきたことに満足したのか、横柄な態度で話しかけてきた。
「ここに優秀な魔法使いがいるという情報が入った。お前のことだろう? 我が国は国の発展、そして国民のために優秀な魔法使いを必要としている。ぜひとも王宮に招きたい。
働きによっては、悪くない話だぞ。どうだ? 来てみないか?」
…来てみないか?、か。
一見俺に拒否権があるように聞こえるが、あるわけがない。
何でかって? そりゃもちろん、このおっさんを守るように囲んでいる奴らが拒否したらどう動くか。
簡単だ。無理矢理連れていくか、殺すかの2択。
答えは決まってるんだ。
▫▪▫▪▫▪▫▪▫▪▫▪▫▪▫▪▫
短くなりそうな気がしたので、短編にしました。
もしかしたら、長編に戻すかもしれません。
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