もう一人の人格

浅葱 絢瑪

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僕のちょっとした話

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白衣を着た人が言った。

一番仲の良いお兄ちゃんとばいばいしないといけない、って。

お兄ちゃんは悲しそうな顔をしていたし、僕も離れたくなかった。でも、本当にそうしなければならないみたいで。

名残惜しい気持ちがありながらも、その時はきちんとお別れできたのだ。



その後の生活は、お兄ちゃんと出会う前に逆戻り。

お母さんもお父さんも、僕を見てくれない。
基本的な会話もない。
テストを満点取っても「それぐらい当然じゃないのか」と。

そうか、もっと頑張らないと僕のことを見てくれないのだ。

勉強も家事も全部完璧にこなして、明るく振る舞うことにした。
睡眠時間を削ってまで色んな勉強をした。先生には少し褒めてもらったけど、認めてほしいのはお母さんとお父さん。

それでも未だにお母さんとお父さんに見てもらうこともできず、これでもまだ足りないのだと更に僕を追い詰めるように身を粉にして頑張り続けた。
でも、無理し続けたつけが回ってきて、道で倒れてしまった。



目を覚ましたのは見知らぬベッドの上だった。ここが病室だと気づいたのは、白衣を着た人が僕の近くまで来て過労で倒れたのだと伝えられたとき。

このときは、お母さんとお父さんは僕のことを心配してくれるだろう、とか、怒るのだろうか、とか、そういうのを想像していた。
でも、入院してるとき、全く以て僕の見舞いに来てくれることはなくて。

自分にとって相当無理をしていても気にもされないことが悔しくて、惨めで。
俯き、唇を噛んで涙を堪えていると、ふわりと僕の頭を撫でられる感触がした。

顔を上げて周囲を見渡すと、そこにはかつて離れ離れになったお兄ちゃんがいて。

お兄ちゃん、と紡ごうとすると、柔らかな表情で、静かにとでも言うように人指し指をお兄ちゃんの唇の前に持ってくる。
またお医者さんに知られたら離れ離れになるから、って。
でも、それ以上にまた会えたことが嬉しくてお兄ちゃんに思う存分抱きつけば、抱き返してくれるし、何なら優しく頭を撫でてくれるのだ。

そしたら、今まで頑張ったね、って。
もう無理はしなくてもいいんだよ、って。

本当にまたお兄ちゃんと離れてからというもの辛くて苦しかったから、躊躇いもなくその言葉に頷いていた。



また別の日、二人の警察の人と一緒の部屋にいる。

そしたら、どうしてあんなことをしたの、と子どもに対する優しめの口調で話しかけられていて。

あんなことって何、と頭の中で疑問に持つ一方、無意識の内に口は別のことを紡いでいた。

「この子を守るため、ですよ?危害を加える人は排除しないと、またこの子が傷付くじゃないですか」

その言葉から、どうやら精神異常によるものと判断されたらしく。
牢屋ではなく、精神病院に入れられることになったらしい。

でも、僕はまだお兄ちゃんと離れ離れになりたくないよ。そう言えば、大丈夫だよ、お兄ちゃんが何とかする、と言ってくれた。そう言ってくれた嬉しくて、ニコニコが止まらない。

そして、精神病棟に入れられても、今日も気味悪く笑顔を浮かべていた。
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