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第22話 嘘と動機の因果関係
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悠希は苛立ちをできるだけ抑えながら、なおも舞台上で悠々と喋り続けている大雅を見つめていた。
それにしても、よくこんな作り話を他人に信じ込ませるために作ったな、と。危うく信じてしまうところだった。
悠希は心の中でひっそりと安堵のため息をついた。
「それでその時に____」
大雅はまだ話し続けている。
悠希は今になってやっと自分の本来の目的を思い出した。こんなところで作り話を聞くために、自分は体育館までついてきたのではない。大雅の爆発を止めさせるために来たのだ、と。
「なぁ、陰陽寺」
「……ん? 何?」
すっかり自分の世界に入っていたのか、大雅の反応が遅れる。
それでも構わず、悠希はいきなり核心をついた。
「お前、嘘ついてるだろ」
「嘘? なんで僕が嘘なんか……」
大雅は鼻でフンと笑うような仕草を見せた。まだ本当のことを白状する気はないらしい。
当然だ。一度嘘を見抜かれただけで白状しているような人間が学校を爆破しようだなんて考えるはずがない。
大雅が一筋縄ではいかないことは、悠希だって充分承知の上だ。
「お前の母親が亡くなったのは三年前……お前が中一の時だ。確かに、そこからは色々と苦しい思いもしたと思う。でも、だからってこの学校を爆発させて良い理由にはならないだろ」
早絵を刺して茜を一晩監禁したような男だ。茜の言うように、やはり大雅が爆発を引き起こしたに違いない。
大雅は顔色一つ変えずに、何事もないような涼しい表情をしている。
やはり、簡単に口を割らない。
悠希は、この時点で大雅を説得するのは諦めようと決意した。
そして一呼吸置いてまた続ける。
「大体、辻褄が合わないんだよ。何が気に入らないのかは分からないけど、いきなり早絵を刺したり茜を一晩監禁したり。挙げ句の果てには学校の爆破まで」
貧乏な家庭はそれなりに苦労している。それ故に、互いに助け合おうとする精神が自然と芽生えるものだ。
だからこそ家族に迷惑をかけるような行為はしないし、ましてや他人を巻き込むような大事などもっての他である。
大雅の行動はそれと大きくかけ離れていた。
貧乏で毎日の生活がやっとなら、叔父や叔母に苦労をかけないように気を配ったりするはずだ。
にも関わらず、大雅は悠希達の学校に転校してきてから問題しか起こしていない。
幸か不幸か、早絵を刺したのが大雅だということも、茜が監禁されたことも、その犯人が大雅だということもl悠希を含めた一部の人間しか知らない。
生徒思いの優しい月影にさえ、このことはまだ告げていないのだ。
だから、これは悠希にしか推測し得ないことだった。
「つまり、お前の叔父さんが退職して年金生活になって、お前がここに転校してきたことと、今こうして学校を爆破させたことは全く関係ない」
「何が言いたいんだよ」
大雅は苛立ったように髪の毛を乱暴に掻きむしり、いかにも不機嫌そうな表情を浮かべる。
悠希はそれでもひるまず、大雅をまっすぐ見据えて言った。
「だから、お前が嘘をついてるって言ってるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、大雅の顔色が変わった。
舞台に立つ大雅と悠希との距離はあまり近くないため、大雅の鮮明な顔色の変化は分からない。
だが、確かに今までの涼しい表情が消えたのは感じ取れた。大雅は目を見開いて呆然と立ち尽くしている。
ついに白状する……!
悠希がそう思ったのもつかの間だった。
大雅は不意に口角を上げて白い歯を見せた。大きく見開かれていた目もいつのまにか元の大きさに戻っている。
_____何でだ……?
悠希には理解できなかった。なぜ自分が嘘をついていることを見抜かれたのに、大雅はまだ笑っていられるのか。
____まさか、この事態になることも想定していたのか? いや、これもあいつの計画の一部……?
「そうだよ。お前の言う通りだ。叔父さんが退職したことと僕の爆破は何の関係もない」
大雅は笑顔で言った。まるで悠希の言葉を、嘘をついていると言及されることを待っていたかのようだった。
今度は悠希の方が呆然となってしまう。分からなかった。
舞台上にいる男が何を考えているのか、どんなことを企んでいるのか、何を望んでいるのか。
「でも、僕がここに転校してきた理由は真実だ。嘘なんてこれっぽっちもないよ」
そう言うと、大雅は軽やかに舞台から地面に飛び降りた。両足が地面に着く音がドン! と体育館中に響き渡る。
「さっきも言っただろ? 僕がここを爆破させようって決めたきっかけだって」
大雅は一歩ずつゆっくりと悠希の方へ歩いてくる。
悠希は少しだけ身構えた。人を刺したことのある人間だ。何をしてくるか分からない。
「そんなに怖がらなくてもいいのに」
大雅はそんな悠希を見て笑った。
「さて、単刀直入に言う。僕がここを爆破したいって思ったきっかけはお前だ。早乙女悠希」
大雅に指を差された悠希は、まるで彼の指で心臓ごと突き破られたかのような奇妙な感覚を覚えた。
「もともと僕だって、学校を爆破させようとか思ってる人間じゃなかった。普通の小学生みたいに運動場で元気に走り回ってさ。いっぱいこけて、いっぱい笑って、いっぱい泣いて。普通だったんだよ。僕だって」
その場に立ちすくんでいる悠希をあざ笑うかのような笑顔を浮かべながら、大雅は過去の思い出話を聞かせているかのように体育館中を歩き回っている。
その姿は、まるで推理をしている探偵のようだった。
「でもマッチに出会ってさ、僕の人生は変わったんだ。マッチって綺麗だよね。赤とかオレンジとか黄色とかいろんな色の炎が出てくるんだもん。今もそうだけど、小さい頃なんてもっと興味が湧いてたから、そのマッチの炎を付けまくってたんだ」
大雅は目を輝かせながら話し始める。もはや悠希のことなど眼中にないようだ。
「その時のなんとも言えない爽快感と言ったらなかったよ。火をつけるまでそこにあった建物が、火が消える頃には綺麗さっぱりなくなってるんだもん。家の大掃除をしてる感覚で何だか気持ちよかったんだ」
それにしても、よくこんな作り話を他人に信じ込ませるために作ったな、と。危うく信じてしまうところだった。
悠希は心の中でひっそりと安堵のため息をついた。
「それでその時に____」
大雅はまだ話し続けている。
悠希は今になってやっと自分の本来の目的を思い出した。こんなところで作り話を聞くために、自分は体育館までついてきたのではない。大雅の爆発を止めさせるために来たのだ、と。
「なぁ、陰陽寺」
「……ん? 何?」
すっかり自分の世界に入っていたのか、大雅の反応が遅れる。
それでも構わず、悠希はいきなり核心をついた。
「お前、嘘ついてるだろ」
「嘘? なんで僕が嘘なんか……」
大雅は鼻でフンと笑うような仕草を見せた。まだ本当のことを白状する気はないらしい。
当然だ。一度嘘を見抜かれただけで白状しているような人間が学校を爆破しようだなんて考えるはずがない。
大雅が一筋縄ではいかないことは、悠希だって充分承知の上だ。
「お前の母親が亡くなったのは三年前……お前が中一の時だ。確かに、そこからは色々と苦しい思いもしたと思う。でも、だからってこの学校を爆発させて良い理由にはならないだろ」
早絵を刺して茜を一晩監禁したような男だ。茜の言うように、やはり大雅が爆発を引き起こしたに違いない。
大雅は顔色一つ変えずに、何事もないような涼しい表情をしている。
やはり、簡単に口を割らない。
悠希は、この時点で大雅を説得するのは諦めようと決意した。
そして一呼吸置いてまた続ける。
「大体、辻褄が合わないんだよ。何が気に入らないのかは分からないけど、いきなり早絵を刺したり茜を一晩監禁したり。挙げ句の果てには学校の爆破まで」
貧乏な家庭はそれなりに苦労している。それ故に、互いに助け合おうとする精神が自然と芽生えるものだ。
だからこそ家族に迷惑をかけるような行為はしないし、ましてや他人を巻き込むような大事などもっての他である。
大雅の行動はそれと大きくかけ離れていた。
貧乏で毎日の生活がやっとなら、叔父や叔母に苦労をかけないように気を配ったりするはずだ。
にも関わらず、大雅は悠希達の学校に転校してきてから問題しか起こしていない。
幸か不幸か、早絵を刺したのが大雅だということも、茜が監禁されたことも、その犯人が大雅だということもl悠希を含めた一部の人間しか知らない。
生徒思いの優しい月影にさえ、このことはまだ告げていないのだ。
だから、これは悠希にしか推測し得ないことだった。
「つまり、お前の叔父さんが退職して年金生活になって、お前がここに転校してきたことと、今こうして学校を爆破させたことは全く関係ない」
「何が言いたいんだよ」
大雅は苛立ったように髪の毛を乱暴に掻きむしり、いかにも不機嫌そうな表情を浮かべる。
悠希はそれでもひるまず、大雅をまっすぐ見据えて言った。
「だから、お前が嘘をついてるって言ってるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、大雅の顔色が変わった。
舞台に立つ大雅と悠希との距離はあまり近くないため、大雅の鮮明な顔色の変化は分からない。
だが、確かに今までの涼しい表情が消えたのは感じ取れた。大雅は目を見開いて呆然と立ち尽くしている。
ついに白状する……!
悠希がそう思ったのもつかの間だった。
大雅は不意に口角を上げて白い歯を見せた。大きく見開かれていた目もいつのまにか元の大きさに戻っている。
_____何でだ……?
悠希には理解できなかった。なぜ自分が嘘をついていることを見抜かれたのに、大雅はまだ笑っていられるのか。
____まさか、この事態になることも想定していたのか? いや、これもあいつの計画の一部……?
「そうだよ。お前の言う通りだ。叔父さんが退職したことと僕の爆破は何の関係もない」
大雅は笑顔で言った。まるで悠希の言葉を、嘘をついていると言及されることを待っていたかのようだった。
今度は悠希の方が呆然となってしまう。分からなかった。
舞台上にいる男が何を考えているのか、どんなことを企んでいるのか、何を望んでいるのか。
「でも、僕がここに転校してきた理由は真実だ。嘘なんてこれっぽっちもないよ」
そう言うと、大雅は軽やかに舞台から地面に飛び降りた。両足が地面に着く音がドン! と体育館中に響き渡る。
「さっきも言っただろ? 僕がここを爆破させようって決めたきっかけだって」
大雅は一歩ずつゆっくりと悠希の方へ歩いてくる。
悠希は少しだけ身構えた。人を刺したことのある人間だ。何をしてくるか分からない。
「そんなに怖がらなくてもいいのに」
大雅はそんな悠希を見て笑った。
「さて、単刀直入に言う。僕がここを爆破したいって思ったきっかけはお前だ。早乙女悠希」
大雅に指を差された悠希は、まるで彼の指で心臓ごと突き破られたかのような奇妙な感覚を覚えた。
「もともと僕だって、学校を爆破させようとか思ってる人間じゃなかった。普通の小学生みたいに運動場で元気に走り回ってさ。いっぱいこけて、いっぱい笑って、いっぱい泣いて。普通だったんだよ。僕だって」
その場に立ちすくんでいる悠希をあざ笑うかのような笑顔を浮かべながら、大雅は過去の思い出話を聞かせているかのように体育館中を歩き回っている。
その姿は、まるで推理をしている探偵のようだった。
「でもマッチに出会ってさ、僕の人生は変わったんだ。マッチって綺麗だよね。赤とかオレンジとか黄色とかいろんな色の炎が出てくるんだもん。今もそうだけど、小さい頃なんてもっと興味が湧いてたから、そのマッチの炎を付けまくってたんだ」
大雅は目を輝かせながら話し始める。もはや悠希のことなど眼中にないようだ。
「その時のなんとも言えない爽快感と言ったらなかったよ。火をつけるまでそこにあった建物が、火が消える頃には綺麗さっぱりなくなってるんだもん。家の大掃除をしてる感覚で何だか気持ちよかったんだ」
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