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第十三話[キャラが濃すぎる領主君]
しおりを挟む「待たせちゃってごめんなさいね? 初めまして、ワタシが領主のエリス・スィレイエ・ウォールドよ。よろしくね? 闘神フォルツァ様」
「……お、おう」
正装なのであろう黒い服に悲鳴を上げさせる程盛り上がった筋肉。パーティーに参加すれば、貴族の令嬢達の視線を一手に浴びる事になるだろう事が分かる程に整った顔。歌えば聞いた女性を虜にするんじゃないかと思う程に低い声。その恰好からは創造もできない口調。
こんなにインパクトのある奴を目の前にして、俺の返答が遅れたのも不思議じゃないと思うんだが、そこら辺どうなんだろうか。……あっ。一回会ってるらしいエルセス以外は固まってるわ。……そういえば、ジレンとパルが固まっているのを見るのって地味に初めてだな? この機会にじっくり見とくか。どうやら、領主君もこの反応に慣れてるのかニヤニヤしてるし、待たせても構わんだろう。
ジレンの固まった時の顔はー……なんで真顔なんだよ! 目を見開くとか、口を開けるとかあるだろ! なんで真顔で驚いてんだよ! もっと表情筋動かせよ! あっ、クソ。正気に戻りやがった。ジレンのあんな姿は滅多に見られないだろうし、もうちょっと見てたかったんだがな。
じゃ、次はパルだな。……なんでパルも真顔なんだ……よ? あれ? 真顔っぽく見えるけど、何時もより目が開いてるな? 本当に少しなんだが……。ほー、固まった時にパルはこんな顔をするのか。……うむうむ。可愛いぞ。正直に言ったら機嫌が悪くなりそうだから言わんが。
「あらあら、そちらの可愛いお嬢さんはびっくりしすぎちゃってるみたいねぇ」
「ああ、そうだな。驚いているも可愛いだろう?」
「そうね。凄く可愛いわこんなに可愛い子が娘だなんて妬いちゃうわね」
「そうだろうそうだろ!」
「……さて、フォルツァ様のご息女がとっても可愛いのは分かったのだけれど、どうして私に会いに来たのかしら?」
「ああ、それはだな。領主君が冒険者の持っている技が好きで、それを見るために冒険者を集めているって聞いてな。娘のパルにいい所を見せるために、領主君がやろうとしている何かに参加しようと思って会いに来たんだよ」
「あら、そうなの。そういうことなら大歓迎よ。この世で二番目に強くて、素手の闘いに限って言えば、最強と謳われるフォルツァ様の技は、生きている間に一度は見たいと思っていたから、願ったりかなったりだわ」
「利害一致、だな」
よし、最初の目的は達成。後は、領主君に宿の事の相談と話してる間に今思い出した、話しといた方がいい事を話せば、領主君への要件は終わりっと。領主君との話が終わって、宿がなんとかなったら、馬鹿弟子との話だな。
「ええ、そうね。でも、それだけじゃないんでしょう?」
おお、察しが良いな。領主君。
意外と自分から話を切り出すのって面倒なんだよ。だから、領主君の方から聞いて来てくれて嬉しいわ。
「勿論。実はな、俺たちは今夜の宿がないんだ。だから、その宿の手配とある事で礼を言いたくてな」
「宿のことは分かったのだけれど……お礼?」
「おう。領主君、孤児院に相当気を使ってくれてるだろ?」
「ええ。子供はどんな物よりも価値がある宝の様な物だもの。それが孤児なら尚更、ね。それがどうしたのかしら?」
「簡単に言うとだな。領主君が孤児院に気を使ってくれていたおかげで、最高の愛娘であるパルに会えて、俺の娘に迎えれたからそのお礼を言いに来たのと、俺が出来る範囲で領主君の頼みを聞いてやろうと思ってな」
「あら、お嬢さんは孤児だったのね……。うん。私が孤児院に気を使っていた事で、孤児がフォルツァ様の様な最高の親に出会う事が出来たのなら、孤児院に気を使った甲斐があるし、私も幸せだわ」
……領主君、俺の想像以上にいい人じゃねぇか! 人は見かけによらないって言葉が遠い島国にあると聞いた事があるが、領主君のためにあるような言葉だな。
「で、頼み事とかなんかないのか? なんでもいいぞー? まあ、俺が出来る事に限るけどな」
「うーん、そうねぇ……。じゃあ、二つ頼みごとをしてもいいかしら?」
「お、いいぞー。内容は?」
「一つ目の頼み事は、身寄りのない子供がいたら私の所まで送って欲しいの。勿論、フォルツァ様が直接送っても、他の人が送ってくるのでもいいわ」
「そんなことでいいのか?」
「ええ、構わないわ。私にとってはとても大事な事だもの」
「了解。じゃ、二つ目の頼みを聞かせてくれ」
「二つ目の頼み事は、フォルツァ様の師匠であり、最初のSランク冒険者で最強の冒険者でもある。ヘクセリア・シュテルフォールに会わせてもらえないかしら」
「……マジか」
「ダメ、なのかしら? 無理にお願いする気はないから、ダメなら別の頼みをするわ」
「いや、ダメじゃないし会わせることは出来るんだが……」
「だが?」
「師匠、事あるごとに俺と結婚しようと迫ってくるんだよ……。俺にその気はないのによ……。それで、ちょっと、苦手意識が、な……?」
「それは初耳ね。……あら? どうしてシュテルフォール様と結婚しないの? シュテルフォール様、大変可愛らしい容姿をしていらっしゃるのに……」
いやまあ、容姿は凄い可愛いんだけどよ? 俺と師匠の見た目に差がありすぎて、師匠の事を知らないやつが見ると、完全に犯罪者になっちまうんだよな……。それに……。
「見た目は可愛い少女でも、中身が遥かに俺より年上のババアだしなぁ……」
「……ほほう? フェン。お前、私の事をそう思っておったのか」
「!?」
少女の声だが、どこか落ち着きのある安心するこの声は、まさか……!
首の骨を痛めるくらいの速度で振り返って目に入ったのは、パルより一回りくらい大きい少女の身体に病的な印象を受けない程度の白い肌。身体の大きさの割に少し大きい胸。膝裏辺りまである新雪の様に真っ白な髪に、闇より黒い漆黒の瞳。そして、パルよりも整った顔に浮かべる表情は、可愛いけど寒気を覚える満面の笑み。
「し、師匠? どうして、ここ、に……?」
「なに、フェンが旅立ってから暫く立ったから、一度様子を見ておこうと思ってな? お前のマナを頼りに転移して来たのだ」
「そ、そうか。それは、嬉しい、な。ほ、ほら、見ての通り、俺は元気だか、ら……」
「ああ、元気なのは今分かったし、私の旦那になる予定の男に変な虫がついていないようで安心したぞ」
「あ、師匠が安心してくれたみたいで嬉しい、な?」
「そうか。フェンが嬉しいと私も嬉しいぞ。……ところで、私の事をババア、と言っていたが、どういうことだ?」
「あ、いや、そ、その……」
領主君助け……あっ。固まってる。パルもジレンも固まってる……。終わった……。
「許してやる代わりに私の願いを聞いてもらえないか?」
「あ、え、お、おう。何でもや、やるぞ?」
「そうか。私の頼みは……」
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