老冒険者、娘兼弟子を育てる

流柳

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第十一話[大賢者エルセス]

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「……よろしく?」
「なんで疑問形なのか気になる所だけど、予想は付くから聞かないでおくよ」
「……ん」

 思い出すなぁ。俺とエルセスで上位竜を十体同時に戦って生還して、Sランク冒険者になって賢者の二つ名をギルドから与えられたんだよなぁ……ん? 大賢者? あれ? エルセスの二つ名って賢者だよな? 聞き間違いか?

「エルセス。お前の二つ名って賢者じゃなかったか?」
「昨日冒険者ギルドに行ったらね。二つ名を賢者から大賢者に変えるって本部から連絡が来た。ってギルマスに言われたんだ。まあ、そういう訳で昨日から僕の二つ名は大賢者になったよ」
「……ってこたぁ。俺らに近付いたって訳か! やったな!」
「うん。漸くフェシオン達の実力に僕も近付けたらしい」

 漸く、ねぇ? ……まあ、こいつの戦闘スタイルだと仕方ねぇか。エルセスの戦闘スタイルは、二百種類以上の魔法や魔術を使い、どんな状況にも臨機応変に対応して味方をサポートして隙あらば、数種類の魔法や魔術を組み合わせることで発動できる合成魔術での攻撃等々。器用貧乏になってしまいそうな程、手数の多い戦闘スタイルだが、エルセスはそれを完璧に扱うんだぜ。凄いだろ?

 まあ、他の魔術師と比べると、二百種類以上の魔術に手を出しているせいで、一つの魔術にかける時間が少なくなっちまう都合上、どうしても威力が低くなっちまうし、回復系の魔術も専門の奴に比べれば数段劣るんだが……。だがまあ、エルセスの戦闘スタイルの本領は味方のサポートと敵の行動妨害だ。エルセスの手数の多さは脅威なんだが、さっき言った通り、専門の奴と比べると劣っちまう。そのせいで、二つ名の階級が上がらなかったんだけどな?

「……二つ名って冒険者ギルドが決めるの?」
「ん? そうだぞー。お、ちょうどいいから領主君の所に行きながら説明するか。エルセスもそれでいいか?」
「いいよ。っていうか、なんで領主の所に行こうとしてたの?」
「パルにいい所を見せたいから」
「なるほど?」

 いやー、やっぱりエルセスと話すの楽でいいわー。俺の性格を分かってるからたいして説明しなくても理解してくれるし納得してくれるからな。……諦められてる訳じゃないと思いたい。大丈夫。そんなことはない……よな?

「シオン。説明」
「お、おお。すまねぇ。今から説明するぜ」
「ん」
「それじゃ、あー。まずは二つ名がなんなのかを説明するぞ。二つ名ってのは、Sランク冒険者に冒険者ギルドが与える称号……、みたいなもんだ。で、二つ名は与える人物の特徴で決められる。例えば、俺は戦闘狂で基本は素手で戦うけど大抵の武器は扱える上に、冒険者の中で三番目に強いから、闘神の二つ名を貰った。エルセスは、二百種類以上の魔術を扱えて強かったから賢者だったんだが、更に強くなったから大賢者の二つ名に変更されたってわけだ」

 エルセスのやつ、どうやって強くなったのやら。新しく魔術は覚えずに、使える魔術の練度と威力を上げたのか。それとも、新しく魔術を覚えて手数を増やしたのか。それともその両方か……。いやー、わくわくすんなぁ。次一緒に戦うのが楽しみで仕方ねぇ。

「……ん。次、なんで強くなったら二つ名が変わる?」
「んー、それはな。Sランク冒険者の強さの格付けみたいなもんだ」
「格付け?」
「おう。格付けだ。あー、ちと昔の話なんだが、初めてSランク冒険者になった上に,
今でもSランク最強の冒険者として君臨してるヘクセって女がいるんだ。んで、ヘクセの次にイディオって奴がSランクになったんだが、調子に乗ってヘクセに喧嘩を売ったんだ。『俺の妻になれ。お前みたいな非力な女では直ぐに殺されるだけだ』ってな」
「……プロポーズ?」
「イディオはそのつもりだったんだろうな。でも、調子に乗ってたイディオは悪い噂しか無かったのもあって、それをヘクセは挑発と受け取ってな。ブチキレてその場でイディオを半殺しにしちまったんだよ」
「……ん」
「そんで、イディオは冒険者ギルドからの除名処分となったらしい。んで、冒険者ギルドがまた同じような事を起こさない様に。って作ったのが二つ名による格付けだ。Sランクになると二つ名を与えられ、実績と評判を加味して二つ名が変わっていく仕組みだ。ちなみに、現在のSランク冒険者は九人で、二つ名の階級が最大になっているのが四人だな」
「ん。シオンの説明は分かりやすいし、また賢くなった」
「まーた嬉しい事言ってくれるな。撫でてやる!」
「……ん」

 しっかし、領主君の家はまだか? 結構説明してたに時間かかってたと思うんだがなぁ……。ジレンが先導してくれてるから道を気にする必要はないし、大通りをまっすぐ行くだけだけだから、そんなに時間がかからないと思ってたんだが。まあ、俺が説明に集中して時間感覚がおかしいだけだとは思うけどな!

「あ、シオンさん。もう直ぐ着きますよ」
「お、そうか」

 さてさて、俺のギルカ見せれば領主君になんと会えると思ってたんだが、ちゃんと会えるかねぇ? 領主君に会わないと俺の計画が破綻する……ん、だが……。

「……ねぇ。なんか、衛兵が出てきていないかい?」
「……そうだな」
「……ん」
「……ですねぇ」
「なんでだと思う?」
「「さぁ?」」
「……ん」
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