老冒険者、娘兼弟子を育てる

流柳

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第九話[説明が楽しい老冒険者と色々しれて嬉しい娘]

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 んー、恥ずかしい。恥ずかしいから説明の続きをして話をそらそう。そうしよう。……つっても、何を説明すっかなぁ。新人冒険者の注意点は教えたし……。お、大事な事説明してなかったわ。

「よーし、パル。冒険者ランクについて説明するぞー」
「……ん、楽しみ」
「まあ、これも本当は受付嬢が説明しなきゃなんねぇんだけどな。だが! 俺がパルに説明したいからするぞ! さて、最初は冒険者ランクについてだ」
「ん」
「冒険者ランクは、F、E、D、Ⅽ、B、A、Sの七つだ。一番低いランクはFで、冒険者になりたての新人冒険者がこのランクになる。一番高いのはSランクだな。おっと、冒険者ランクの事を、何々級って呼ぶこともあるぞ」
「シオン。新人冒険者がいきなりE以上のランクになる方法、ない?」
「んー、あるにはあるぞ。高ランク冒険者からの推薦だったり、冒険者ギルドの出す試験をクリア出来たらE以上になれる。ちなみにだが、パルは俺が推薦するからいきなりEかDで登録することになる」
「……いいの?」
「おう。いいぞ。実際、実力はもうDランクの中でもまあまあ高い方だと思うしな」
「……ありがとう。お、おとう……さん」

 お、おとうさん……だとッ!? 初めて、初めてお父さんって呼ばれたぞ! なにこれ超絶嬉しいんだが!? 母性なのか……? でも俺女じゃねぇしなぁ。……これが父性ってやつか? ふむ。もっと甘やかすか。……あ、説明の途中だったわ。再開再開。

「さて、パルには二人きりの時にいっぱいお父さんと呼んでもらうとして、説明を再開するぞ」
「……別にいい」
「よし! ……さてさて、ランクを上げると何があるのか。それについて説明するぞ」
「ん」
「ランクを上げて一番得をするのが、信用されるってことだな」
「信用?」
「おう。信用だ。冒険者ランクってのはな、強けりゃ上がる訳じゃねぇんだ。強さと同時に、性格や素行も見られる。例えば、強さはBランク相当のCランク冒険者だが、性格や素行が悪いと冒険者ランクは上がらねぇ。ただ、性格が多少悪い程度で素行が良ければランクは上げられるぜ」
「……それって、誰が判断してるの?」
「冒険者ギルドの受付嬢達と、冒険者ギルドマスター。後はー……、俺みたいな高ランク冒険者に頼んで、冒険者ランクを上げても大丈夫かどうかを確認する場合もあるな。まあ、最後のはAランクからSランクへの昇格の時によく取られる方法だな」
「……ん。賢くなった」
「おー、パルが賢くなったなら説明した甲斐があるってもんだ」
「ん……」

 思い出すなぁ。かなり短い期間でAランクまで上り詰めた少年を。その少年、Aランクになって約一ヵ月でSランク昇格の段階まで来たんだよ。んで、少年をSランクに上げても大丈夫かどうかの依頼をされたのが俺でよ。その少年、短期間でランクを上げまくったせいでかなり天狗になってて、性格は悪くないし素行も悪くない。でも、この天狗状態のまま昇格させるのは少年の命を危険に晒しちまうだろうし、どうすっかなって考えてたんだよ。

 でよ、ずっと考えてたらめんどくさくなっちまって、少年と模擬戦をして伸びた鼻っ柱を折る事にしちゃったんだよなー。ホントなんでなんだろうな? んで、模擬戦で鼻っ柱を折に折りまくったら凄い謙虚になっちまってよ。今じゃ性格も素行も良いって評判のSランク冒険者になってるんだよ。しかも、少年に凄い尊敬されてるし……なんでだ?

「シオン、続き」
「ほいほい。んで、信用されるとなんで得をするのかってだが、簡単に言えば貴族や商会の会長とかからの指名依頼が増えるからだ。さて、ここで指名依頼の説明だ。指名依頼が冒険者ギルドで受ける普通の依頼と何が違うのか。まずはこれから説明するぞ」
「ん」
「普通の依頼と指名依頼だが、簡単に言うと二つの違いがある。一つは説明するまでもないが、指名依頼の名の通り冒険者個人かパーティーで指名される依頼だ。そして二つ目、これが一番冒険者にとって大事だな」
「大事?」
「おう。指名依頼は、貴族や商会の会長からの依頼が多く、そして難度もそれなりに高い。それほど難しくもない指名依頼もあるが、それはまあ、珍しい部類に入るな。んで、依頼ってのは、難しければ難しいほど報酬が高くなる。それが指名依頼で、依頼主が貴族や商会の会長ならなおさらな」
「……ん。分かりやすい」
「お、ありがとな」

 おー、分かりやすかったならよかったぜ。説明するの得意じゃねぇからなぁ……。ホント、上手く説明できてよかった……。あ、説明するのに集中して冒険者登録の紙に書くの止まってるじゃねぇか! さっさとやらねぇとこの後に計画していたパルとの街散歩と領主君に突撃する時間が遅れちまう! よし、書くぞ。

「パル、冒険者登録さっさと済ませちまうぞ。早くしねぇと街の散歩と領主君に突撃するのが遅くなっちまう!」
「ん! 早く終わらせる」
「パーティー登録は俺と組むとして、パーティー名をどうするか」
「ん……、闘神と弟子」
「闘神って、俺の昔の二つ名よく知ってるな。……闘神と弟子、いいな。それにしよう」
「ん、ありがと」
「俺も気に入ったから気にすんな。んー、次は……。あ、無いのか。パル、これで終わりだ」
「ん。早く渡す」
「おう。おい馬鹿弟子! 書けたぞ!」
「馬鹿弟子言うなボケェ! ったく……ほら、よこせ」
「ほいほい」

 んー、懐かしいなぁ。なんかこればっかり言ってる気がするが、気にしない気にしない。

「……ほい。冒険者登録完了。ランクはどうせジジイが推薦するだろうか、Eランクにしといたぞ。あとこれ」
「……? なにこれ」
「それは冒険者ギルドカード。通称冒険者カード、ギルカって呼ばれてるな。それにはてめぇのランクと名前が書いてある。冒険者ランクが上がると色が変わるが、まあ、それはお楽しみにとっとけ」
「ん、ありがとう。姉弟子」
「姉弟子じゃねぇ。サーシャ・シュラクだ」
「……ん。ありがと、サーシャ」
「いきなり呼び捨てかよ。……いいけどよ」
「あー、仲良くなったところ悪いんだが……、馬鹿弟子。後で話がある」
「……ッチ。分かったよ」
「……?」
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