老冒険者、娘兼弟子を育てる

流柳

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第七話[冒険者登録する娘を見て楽しむおじいちゃん]

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「到着しましたよ」
「お、着いたか。ほら、パル起きろ。冒険者になれるぞー」
「……ん」

 うむうむ。パルの寝ぼけた顔は何度見ても可愛いなぁ……。しっかし……、この街は冒険者が多いな? パルがいた孤児院のある街は全くいなかったんだが、なんでだ? ……あ、そうか。わからないなら聞けばいいじゃないか。

「ということで、ジレン君。パルのいた街に冒険者がいなかった理由とこの街は冒険者が多い理由をしらんかね?」
「何がという事でなのかわからないんですが……。そうですね。ここの領主は冒険者が好きなんですよ」
「冒険者が好き?」
「はい。まあ、細かく言うと冒険者が持つ戦いの技術が好きなんです。生死を賭けて行われる戦いで磨き抜かれた、生きるための技術が」
「なるほどなぁ」
「……? よくわからない。説明」
「はいはい。えーっとですね? ここのりょ」
「待った! 俺に説明させてくれ。師匠として、何よりも父として説明させろ!」
「はぁ……。わかりました。どうぞ、説明してください」
「ありがとな。んで、領主が冒険者の持つ技術が好きだとなんで冒険者がこの街に多いかって理由だが、簡単に言うと領主が冒険者を集めてるからだな」
「……集めてる? ……見るために?」
「何を見るために?」
「……冒険者の技術を?」

 おお、もう少しヒントを出すつもりだったんだが理解が早いな! 流石俺の娘だ! ……む? 領主が冒険者の技術を見るために冒険者を集めてるんだろ? それを利用すればパルにかっこいい所を見せられるんじゃないか……? いい案じゃないか? これ。よし、そうと決まれば、パルの冒険者登録をしたら領主の所に突撃するか! ……あれ? 元からその予定だったような……。まあいいか!

「お、正解。流石俺の娘だ!」
「……む。もう少し優しく撫でる」
「んー、こんくらいか?」
「……ん」
「仲がいいのは何よりですが、このまま冒険者ギルドに行きますか?」
「おう。頼む」
「はいはい。では行きますよー」






「じゃあ、私は馬車を止めてくるので登録とか済ませといてくださいね」
「りょーかい。じゃ、行こうか。パル」
「……ん」

 俺が二人並んだとしても少し余裕がある両開きの扉。俺の身長が常人の二倍くらいだから……、でかいな? 全体的な大きさは、パルに会うまでの四年と百数日の間に見た他の街の冒険者ギルドと比べると二倍以上ってとこか? しかも三階建てときた。窓も模様入りのガラスだしよぉ……。領主が冒険者を好きだとここまで変わるもんなんだなぁ。家に帰ったらあいつに冒険者ギルドの改築をしないか聞いてみるか。

「ん……! シオン、大きい……!」
「そうだな。今まで見て来たどの冒険者ギルドと比べても、こんなに大きい冒険者ギルドは初めてだぜ。っと、さっさと入って登録を済ませちまうか」
「ん」

 ちょうど人の出入りが少なくなったし、ここは盛大に両開きの扉を……バーン! っとね。

 おー、視線がすげーな。何だこいつみたいな視線とうっせーなこの野郎って感情がよく伝わってくる視線だぜ……。受付嬢達の視線は……、いてぇ! 超いてぇ! よくも面倒なことをしてくれたなって視線がすげぇ……。やらなきゃよかったぜ……。

「……シオン、視線が痛い」
「すまん……」

 パルの視線が一番いてぇ……。視線で傷ついたの初めてかもしれん……。あー、どうやってパルの機嫌取るかねぇ……、あ? わお、すっげぇ目が輝いてる。これ、機嫌取る必要なくないか? 冒険者登録して他にも色々説明してやれば、無かったことにできるかもしれねぇ! よし、思い立ったが何とやらだ。早速高度に移すぞ!

「おーい、パルー?」
「……ん?」
「冒険者登録したら色々教えてやろうか? 俺くらいの冒険者じゃないと知らないようなこととか」
「ん! さっきのこと無かったことにするから教える……!」
「お、おう。任せろ。これでも最高位冒険者で英雄だからな」
「ん、期待してる」

 さてさて、俺の正体に気付いた奴らの視線と、あいつ子供に嘘ついてるって視線の二つに分かれた所でさっさと冒険者登録を済ませるか。ちゃんとやってくれそうな受付嬢はー・……。

「あっ」
「……チッ」

 おいおい、おいおいおい。久しぶりに見つけて目が合ったかと思えば舌打ちかァ? いい度胸じゃねぇかクソッたれがよォ……」

「おいおい……。今まで何処をちんたら歩いてるのかと思えば、こんなところで受付嬢なんかやりやがってよォ……。手紙の一つくらい送ってきたらどうなんだァ? あ“ぁ”?」
「うるせぇよクソジジイ」
「んだとゴラァ! 誰がクソジジイだとこのクソガキ!」
「お前だよクソジジイ!」
「クソジジイじゃねェ! じい様だろうがクソガキ!」
「クソガキクソガキうっせーんだよ! 私の名前をちゃんと呼べクソジジイ!」
「言葉遣いのなってねェガキにゃ、クソガキで十分なんだよ!」
「んだと!?」
「やんのかァ!?」

「……うるさい」
「あ、ああ、すまねぇ。うるさかったよな? すまねぇな……」

 おおう……。せっかく機嫌を取れたと思ったのに……、これも全てあのクソガキのせいだな。ったく、何時まで経っても生意気なクソガキだ……。

「シオン。あのうるさい女はだれ?」
「えーっとな? あいつh「んだとクソガキ!」」
「「黙って(黙ってろ)」」
「……チッ」

 パル向かってクソガキだと……? 死にてぇようだなァ……?

「で、シオン。アレは誰?」
「お、おう。あいつはー……、不出来で生意気な俺の元弟子。……つまり、パルの姉弟子だ」
「姉弟子? ……アレが?」
「……おい」
「……おう。アレが、なんだよ。だけど、アレの事を敬わなくても別にいいぞ?」
「……いいの? 元からする気はなかったけど」
「おい」
「あ、そうなのか。まあ、アレの中身はパルより年下のクソガキと思っていい。見た目こそ大人だが、中身の方は子供の頃からなんっちゃあ歳を取ってねぇからな」
「……そう。可愛そう」
「くくっ、そ、そうだろう?」
「おい! さっきからなんなんだ! 私の事を馬鹿にしてんのか!?」
「「おう(うん)」」
「このッ……!」

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