老冒険者、娘兼弟子を育てる

流柳

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第三話[ファンと寒気]

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 うむ、中も俺が見て来た孤児院の中で一番綺麗だな。娘を家族に迎えて家に戻ったら、あいつらに孤児院の整備関係の事を相談してみるか?

 俺が案内されたのは玄関から入って一番奥の部屋。ぱっとみ、少し高そうな調度品も置かれてるし応接間ってところか?

「どうぞ、お掛けください」
「ああ」

 む? この椅子、下手したら男爵が使っている椅子より座り心地がいいな? 年季の入った見た目と派手すぎない装飾がいい。うーむ、この椅子のせいで余計に謎が深まったぞ? 孤児院にしては上等な椅子といい、老朽化はしている様だが修繕された後の見える建物。ここの領主は孤児院に相当力を入れているのか? それとも……。

「座り心地がいいな。この椅子」
「そうでしょう? 領主様がもう使わなくなってしまった椅子だからって譲ってくれたんです」
「ほう。ここの領主はいい奴のようだな」

 ふむふむ、どうやら俺の悪い予想は外れみたいだな。良かった。もし俺の予想が当たってたら、あいつらに相談しなきゃいけなくなってたからな。

「さて、早速だが俺の用事を話させてもらうがいいかい?」
「構いませんが、先に貴方様が誰なのか教えていただきたいのですが……」
「あれ? 俺、自己紹介してなかったか?」
「ええ、していませんよ」
「それはすまねぇ。うっかり自己紹介してる気になってたわ。俺も歳かねぇ?」

 あぶねぇあぶねぇ。何で自己紹介してる気になってたんだ。俺。ってか、自己紹介してないからただの怪しいやつじゃね? シスターさん、よく俺をここに連れてこれたな? もしもの場合があったかもしれねぇのに。まあいいや、人の思考なんかあいつなら兎も角俺は読めねぇからな。

「じゃ、簡単にだが自己紹介をするかけどいいか?」
「ええ、構いません」
「ありがとな。あー、俺の名前はフェシオン・フォルツァ。職業は冒険者。年齢はー……あー、確か198だったと思う。よろしくな」
「フェシオン・フォルツァ……? 冒険者、198歳……。あの、フォルツァ様はもしかして、英雄フェシオン様……なんですか?」
「おう。英雄なんていう大層なモンじゃねぇけどな」
「こ、これはとんだ失礼を……」

 あー、やっぱりこうなるかー。うん、これで改めて分かった。やっぱジレンは変わってることがな! ……しっかし、俺が英雄って呼ばれる理由は分かるし納得もしてるんだが……、やっぱ恥ずかしいな。皆、もっとこう、フランク? に話してくんねぇかなぁ。肩が凝っちまうぜ。

「失礼なんてないから安心してくれ。敬語も敬称も、なんなら呼び捨てで構わねぇからよ」
「い、いえ。英雄ともあろう御方にそんな失礼な真似はできません!」
「そんなにかしこまる必要があるのかねぇ?」
「あるに決まっています! 私のようなフェシオン様のファンならだれでも! いえ、ファンでなくとも!」
「わ、わかったわかった。……ん? ファン?」
「あっ」
「ほー、シスターさんは俺のファンなのかー。ほうほう」
「あ、いえ! そ、その、そういう訳では!」
「え、じゃあ俺のサインいらない?」
「いります! ……あっ」

 まー、なかなかからかいがいのあるシスターさんだこと。顔真っ赤にして頭抱えちゃってまぁ。それにしても、若い女の子が俺のファンとはねぇ。今まで会って来たファンだって言う奴らはいい歳した男か女だったし、ガキで俺のファンだって言うのもいたが男だったからなぁ。若い女の子に俺のファンだって言われたのは初めてか? いや、あいつを含め、なくていいわ。見た目は兎も角あいつは俺より年上のバbッ!?
 
 ……なんだ、今の寒気は。まさか、あいつが俺の思考に気付いたとか……、か? いやまさか、目の前にいる時なら俺の思考くらい読めるだろうが、あいつは今俺の家で留守番をしているハズだ。俺の思考に気付ける訳がない……、とも言い切れなくなってきたぞ。あのばbッ!? また寒気が……。

 やっぱ化け物じゃねぇか。あのばっ、……師匠。超遠距離で思考を読めるとかどうすりゃ出来んだよ。ホント。あれか? 女の勘ってやつか? でもなぁ……。あのばっ、師匠、俺と同じで性別無いようなもんだしな。女と言っていいのか? ……あっ、この考えだと俺が男じゃねぇって言ってるようなもんだわ。うん。あれだ。精神が男なら男、女なら女って考えよう。……やっぱ怖いわ、あいつ。絶対勝てる気がしねぇ……。


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