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本編
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しおりを挟む…そういえば食欲ないんだった。
朝からリヒトとばったり会い、皇帝と話していて忘れていたが料理運ばれてきたところで自分のお腹の具合を思い出した。ノヴァは、魔法薬の副作用で食欲がなかった。
副作用で食欲があると聞いたとき、てっきり食欲が上がる方なのかと思っていたら下がる方だった。
そのことを報告すれば、シゼル曰く食欲が下がる副作用は出ることもあるが、これまた珍しい症例らしい。
なんか、俺の体質が悪い可能性ないか?
そんなことを薄々と感じてきていたが、自分自身は専門家ではないので気にしないことにしている。
一週間前に報告し今新しい薬を作ってもらっているので、そろそろ新しい改良薬ができるはずだけれど、それまではあるものを使うしかないので副作用が抜けずここ一、二週間続いていた。
「…」
胃が受け付けねぇ、、、。
自分の離宮ならば、執事に頼めばメニューを変えられていたが朝食会はそうはいかない。
症状としては、消化不良のような胃もたれがある。ちなみに、その関連なのかあの不快感で寝つきが悪くなり、睡眠の質まで悪くなっているのでしばらく寝不足だ。
今日もそれで早く目が覚めたのだし。
他の人と同じメニューが出されるので、ノヴァは柔らかくふわふわのパンを小さくちぎっては、少しずつ食べていた。
スープもどちらかといえば濃厚でこってりした味なのであまり食べようと思えないが、食べているふりはしていた。
なぜ無言で食べるふりをするのかって?
俺は会話に入れないからね!
「ほほほ、そうですの。」
「あら、謙遜なんてしなくていいのですよ。」
「ふふふ」
「ほほほ」
女性陣の牽制を聴きながらの食事なので、追加症状で胃痛も。
会話に入れないのは、話が振られることがほとんどないからで、そもそもノヴァが空気のように扱われているからだ。
皇帝は何してるか?先ほどの笑顔が嘘のように無表情で静かに食事をしているよ。たまに話題を出すこともあるが、基本無言だ。
マジで闇だよな、いろいろと。
ノヴァは時が早く過ぎるのを願いながら、女性陣の声を右から左で聞き流しながら過ごした。
「では、お先に失礼致します」
食事が終わり解散の空気が流れていたので、ノヴァはその輪から1番最初に抜けてきた。いつも通りだ。
…なんとか終わった。
食事を残していることに何か言われるかと思ったけど、さっさと下げてくれたおかげで何も言われずに済んだ。
残したのは申し訳ないが、食べたら吐く自信しかないから仕方ない。
ノヴァは小さくため息を吐いた。
「ノヴァ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「…!」
食堂を出て気を緩めたところで、後ろから声をかけられた。少しびくりと体が動いたが、その耳に届いたのは聴き馴染みのある声だったため後ろを振り返った。
そこにはリヒトがいた。
ノヴァが部屋を出るときに、いつもは「また来週」と声をかけてくれるリヒトが今日は何も言わなかったので、ノヴァはとうとうそれすらもなくなったのかと思っていた。
けれど、また前のように後を追って声をかけてくれたことに、ノヴァはドギマギと変な緊張をしていた。
「どうかしましたか、兄様」
平静を装ってニコリと笑顔を向ければリヒトはすぐに口を開いた。
「今日の朝食好みじゃなかった?」
「そんなことは、ないですけど」
いきなり食事のことを触れられて思わず目を見開いた。
え?見てた?
「父上には体調いいって言ってたけど、本当は体調悪いの?」
「いえ、いつも通りです…」
「じゃあ、あの子達にまたなんか言われた?」
「今日は、話してないです」
リヒトからの質問攻めにノヴァは少したじたじになった。リヒトの言う、あの子達とは第一皇女と第二皇女のことである。朝食会で会っては、わざと近づいてきてノヴァに悪口、罵倒をしてくる奴らだ。もう慣れた。
リヒトは何かを言いたそうだった。それを察して無意識にノヴァの眉間には少し皺がよった。
「…」
「…」
無言の時間が続いて、ノヴァはリヒトの行動に怒りのような感情が溢れてきた。
兄様は何が言いたいんだ。
自分で関わらないって言ったくせに、急に話しかけてきて、遠回しな質問ばかりして。
「僕が気にすることではないけど、ノヴァが元気ないと心配する人もいる、から」
初めは戸惑っていたノヴァだったけれど、そのリヒトの言葉でノヴァはカッと頭に血が上った。
…ッ!
ノヴァは拳を強く握りしめていた。そんな様子のノヴァにリヒトは近づいて右手をノヴァに伸ばした。
「ねぇ、ちゃんとご飯食べてないよね。前より痩せてるよ。それに、眠れてないみたいだけど、前みたいにクマが…」
そこでパシッ、と音が鳴った。
「関係ないなら、俺のこと気にしなくていいでしょ」
ノヴァはリヒトの手を振り払っていた。
今は完全に頭に血が昇ってしまっていた。
寝不足のせいか、栄養不足なのか。体調が万全でなければ心の余裕も思考も狭く低くなるというけれど。
そのときのノヴァは、理解できないまま湧き上がる感情に飲み込まれていた。
「放っておいてください。どうせ俺は弟なんかじゃない」
リヒトは固まっていた。ノヴァの行動に驚いて、目を見開いて動きを止めていた。
あ、やばい。
そこでノヴァは自分が正気ではなかったと一瞬にして我に帰った。けれど、もう取り返しのつかないことをしたと直感で理解して、咄嗟に逃げることを選んでしまった。
「…」
「…では」
ノヴァはリヒトの顔も見ず、振り返ることもせずそのままその場を去った。遠ざかっていくノヴァの背中にリヒトはただ放心していた。
「なんで、知って…」
そして、ノヴァがいなくなった静かな廊下でリヒトはポツリと呟いた。その声は酷く乾いていて、口元が少し震えていた。
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