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本編
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しおりを挟むあれから、1ヶ月半が経った。
コンビニ事業はギルド、主にラッドの紹介により順調に進み、店舗を改装している最中だ。街に降りては、お昼はギルドの隣にあるお店に行くようになった。ちなみに店名は『まんぷく』で、おばさん店主はノーラだと後から知った。
そこで、お店の経営のことについて聞いたりと色々とお世話になったりもしていた。
やることが増えたおかげか、ノヴァはリヒトとの関係について悩む時間が少なくなり助かっていた。が、当然会わないわけではない。
「おはよう、いい天気だね」
「おはようございます…」
今日は朝食会の日、早く目が覚めたノヴァ。
たまには早く行くのもいいかと思い、食堂に向かう廊下を歩いていたら角を曲がったところでリヒトと会った。
前と変わらない笑顔を向けるリヒトだったが、その笑顔にノヴァは思わず目を逸らした。
「食堂まで一緒に行っていいかな」
「はい」
リヒトの提案を断る理由はない。そもそも、以前の兄ならこんなこと聞かなかったはず。
「「…」」
何も話すことなく隣を歩いた。何か言おうかと考えては「やっぱりやめよう」と悩んで結局ノヴァは何も言わず、兄からも何も言わない。
あの日から、朝食会で会った日は「おはよう」「また来週」それだけの会話だけになった。
ノヴァは始めは戸惑っていた。
もしかしたら、いつもみたいに『この後時間ある?』そう聞かれるかもしれない、と淡い期待を抱いていた。
「また来週」
しかし、リヒトはそんなことはなく、あっさりとノヴァに背を向けて廊下を歩いて行ってしまった。
ああ、あれは現実だったんだ。
あの時は、それを思い知らされて気が落ち込んだ。
ひたすら廊下を歩く音だけが聞こえる。
何考えてるんだろう。
謝まりたいけど、謝れば前のようには戻れずにさらに溝が深まる可能性が高い。
伝えるのが得意じゃないから絶対不快にさせるし。
どうせ誕生日より前にいなくなるのなら、このままでいいのでは?
歩きながら考えるのは隣を歩く兄のこと。否定はできなかったリヒトの言葉が、ノヴァの勇気と言葉を飲み込む。
「おはようございます、父上」
「お、はようございます」
頭上からのリヒトの声にノヴァの思考はそこで止まった。いつのまにか食堂につき扉が開かれていた。考えに没頭していて、それに気づかずリヒトに続いて慌てて皇帝へ挨拶をする。
「おぉ、おはよう。珍しいな、2人で来るなんて!兄弟仲良くて嬉しいぞ」
窓から外を見ていたらしい皇帝は、ニコニコとした顔をこちらに向けていた。
イケおじって感じだよな。
どちらかというと気難しそうな圧のある顔だが、笑顔になればそんなこともない。昔から剣が好きらしくガタイもいい。
幼少の頃の記憶の皇帝と今の皇帝、昔のシゼルと今のシゼルを比べれば、皇帝はしっかり年相応の顔をしている。
それでも美形だからか本来の年齢よりは若くは見えるが。
ふと、そんなことを思う。
食堂は家族団欒の場でもあるので、朝食会の日は使用人は料理を運ぶとき以外は立ち入ってはいけない。そして、他の皇族もまだきていない。つまり今は、皇帝、リヒト、ノヴァしかこの部屋にいなかった。
リヒトが皇帝の方へ歩み寄っていくので、つられてノヴァも付いて行く。
「リヒト、最近剣術にさらに精を出していると聞いた。頑張っているな」
「まだまだでございます。ぜひ、また手合わせを」
「はははっ!まだ息子には負けられんぞ!!」
そう言って皇帝はリヒトの頭を乱暴に撫でた。艶々のリヒトの髪がボサボサだ。
「もう大人なのですから子供扱いはやめてください」
リヒトはそう言いながらも耳が少し赤い気がする。それに、いつも優しく冷静なリヒトが声を荒げているのが珍しい。
兄様って、皇帝には照れるんだ。
意外な一面と珍しい場面を見てノヴァは内心少し驚く。この2人が手合わせすることも初知りだった。
皇帝は人の目が無ければ、いつもこんな感じの豪快さでとても家族思いの人だ。
2人の様子を少し後ろで見ていれば、皇帝がこちらを向いた。
少し驚くがなんともない風を装う。
貴族社会は人の目がある場所でやると色々面倒なことにもなるのだろう。
「最近は体調は崩していないか?」
「はい、大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
こちらへ近付いてきた皇帝にニコッとノヴァは笑みを作った。
皇帝は思い出したかのように軽くノヴァの肩を叩いた。
「そうだ誕生日プレゼントは決まったか?せっかくの15歳の誕生日だ、どんなものでも手に入れよう」
「…決まり次第連絡いたします」
「そうか、いつでも待っているからな。だが、早めの方が助かるな」
「はい」
「それとは別に必要なものがあればなんでも言ってくれ」
「…はい、わかりました」
少し言葉に迷ったノヴァだったが、ニコニコとした笑みでその場をやり過ごした。
なぜなら皇帝がこうことを言うときは、皇帝とノヴァの二人きりのときしか言わなかったからだ。
今まで兄様がいても、徹底して分けていたのに。
貴族社会は人の目がある場所でやると色々面倒なことにもなるのだろうから、大人の事情には踏み込まなかったけれど、兄様はいいのだろうか。
そんなことを思うノヴァだったが、皇帝は気遣うような優しい笑みを浮かべていた。
「おはようございます」
そこへ声が響いた。そこにはいつものように着飾った皇后がいて、挨拶を返すと第二夫人、第一皇女、第二皇女と順番に入ってきた。
そして、参加者が全員揃ったため朝食会が始まった。
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